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喫茶探偵物語  作者: ゆきんこ
6/27

初めてのコウカク


ー喫茶探偵物語6ー  


初めてのコウカク



安田弘人視点


安田弘人巡査28歳。6年間の交番勤務を経て昇進試験に合格。三鷹警察署捜査第1課に配属される。

配属初日、目の前の女性探偵に衝撃を受ける。



1話の冒頭。


容疑者男女4人を前に推理劇を繰り広げている女性。


なにこの娘、凄い名探偵なの?


「被害者の心情は大きく変貌を遂げます。嫌悪から憎悪、そして殺意へと・・」


女性探偵の足元にはシェパード犬。


しかし何で犬がいるんだろう?




泣き崩れる加害者のメイド。先輩刑事が手錠を掛ける。


女性探偵が犬を引き連れて隣の警部の元へやってくる。


「終了しました」


「・・ごくろう」


女性探偵はしばらく黙り込み、困惑した表情で犬を見て警部を見上げる。


「・・あ、あの、礼は、それだけか。お前の感謝の気持ちは、そんなもの、か。・・ケツの、穴が・・ゴニョゴニョ・・・」


なに言ってんのこの娘!警部に向かって!


犬を一瞥して、


「と、おっしゃっております・・」


「?」


警部は引きつった表情で、


「協力した君には感謝しているから」


警部は顎を上げたドヤ顔の犬に向かって、


「とっとと帰れ!」


「すみませんでした」


女性探偵は申し訳なさそうに一礼して、犬の後を追いを部屋を去る。


「・・あの、警部?」


「最初に言ったはずだ。探偵の事は何も聞くな、極秘だ。-撤退の準備しろ」


「・・・・・」




昼。駅前のカフェ内。


非番で私服の安田弘人刑事。

テーブルにはタブレット、地図表が置かれている。


1か月前の事件を思い出す。


犯人を追い詰める威風堂々とした推理。警部に言った不自然な会話。名探偵と呼ばれる人は変人が多いのだろうか?


あれから彼女の事が頭から離れなかった。我ながらキモイと思う。けどそれほどインパクトがあり、そして美人だった。できることならもう一度会ってみたい。


極秘な人物。多分雲の上の存在なんだろうな、彼女は・・・。


タブレットに目を移すと、帽子を被った若い女性が向かいに座る。女性は申し訳なさそうな小さい声で、


「デートの待ち合わせとかですか?」


「・・・・・」


「それとも1人ですか?」


「・・1人ですが」


「すみません、少しだけ座らせてもらってもいいでしょうか?宗教とか販売の勧誘じゃないので・・」


その顔に見覚えがあった。雲の上の人物。1か月前の女探偵が目の前に現れる。


「はい・・どうぞ」


「私、探偵社の者で、訳あって斜め横の男女を張ってます。ご協力お願いします」


「・・シェパードを連れた女探偵さん?」


彼女は目を丸くして驚く。


「自分はあの時、警部の隣にいた者です」


見つめられる。記憶にないような表情。


「いや、自分影薄くて・・」


「すみません。記憶は定かではありませんが、あの時の刑事さ・・・・・」


何かを思い出したかのようにか顔を真っ赤にさせ手で顔を覆う。


「あれは・・あの時の・・言葉は、私の意思では・・」


警部に言った「礼はないのか、ケツの穴が」の言葉を思い出す。


「いや、気にしてないから。・・逆に印象深かったのは、名推理で犯人を追い詰めたところ。あれには驚いたよ」


「・・・・・」


「コウカクですよね。協力しますよ」


覆った手を顔から離し赤面状態のまま、


「・・有難うございます。満席だし、ちょっと近づき過ぎて怪しまれたかもしれなくて」


「カップルのフリですね。暇してたので問題ないですよ」


「感謝します」



彼女の注文したコーヒーが運ばれてくる。


通信装置を手に小声で、


「所員さんが盗聴GPSを仕込み、引き継ぎました。・・・盗聴も位置も確認できない?・・・・はい、こちらからは話しは聴こえますが、・・・・大丈夫です、問題ありません」


通信を終え左耳で盗聴を聞いて様子を伺っている。


対象のカップルはお互い無言でスマホ操作。


こんな可愛い娘が探偵。探偵の事は極秘扱いとか言われてるが、どうみても今時の普通の娘にしか見えない。けどあの推理力、この業界では名のある人物なんだろうか?極秘と言われるだけの。



「あの」


「はい」


「コウカクって何ですか?」


「警察の専門用語です。尾行とか張り込みの事を言います」


女性探偵は感心したように、


「なるほど、勉強になります。私、コウカクとか初めてで、探偵もまだ見習いというか、助手なもので」


「見習いであの推理を?」


「え?ええ、まあ・・お恥ずかしい・・」


「映画かドラマのワンシーンを見てるみたいだった。年季が入ってないとできないんじゃない?」


困惑したような、照れたような笑みを浮かべる。


「いえ、そんなんこと・・」


可愛過ぎだろ!この娘!


「あと、あまりチラチラ見ない方がいいかな。その角度なら見失うこともないし」


「はい」


笑顔を向ける。


なんという破壊力。


「まあ、自分もまだ数えるくらいしか経験してないんだけどね」


「なかなか自然にできませんね」


「新人だからダメ出しばかりくらうよ。張り込みとかは睡眠時間も削られるし、トイレも我慢。食事もパン」


「張り込みの定番はアンパンと牛乳ですか?」


「クリームパン派なんだ」


笑う。


「お茶やコーヒーは厳禁ね」


「利尿作用ですね」


「そう」


素直そうな娘だ。これが彼女でデートの時の会話だったら・・。刑事ネタも受け入れてくれる理想の女性だ。


「これはこの街の地図ですか?」


テーブルの地図。


「最近この街に配属になって、少しでも早く地理を把握したくてね」


「・・凄いです。私も見習わなければ」


「刑事として初日の初仕事が君の推理した殺害事件だった。警部に連れられて」


「・・1か月くらい前ですね。この周辺ということは三鷹警察署ですか?」


「そう、何かあったら遠慮なく言って。と言っても新人で役に立つかどうか・・」


「私もこの街に来たばかりなんです。その時はよろしくお願いしますね」


こんな美人さん、お願いされたいです。



盗聴の会話に集中する。


名前くらい聞いてもいいよな?できれば連絡先・・彼氏の存在は?これだけの美人、確実にいるか・・。


「ここを出るみたいです」


「一緒に出よう。こちらもカップル装った方がいい」


「いいんですか?」


「迷惑じゃなければ。暇だしこちらも後学のため勉強になる」




アミューズメント施設。

対象カップルはゲーム。

通信機で会話をしている彼女。


「はい・・・はい・・・・・・協力者と続けます」


帽子を取った彼女に、


「相手はまったく無警戒だ」


「ご迷惑かけます」


「疑似とはいえこんな美人さんとデートは嬉しいよ」


顔を赤くして照れる彼女。


本当にデートしてー!



「彼女さんとかいないんですか?」


「いたら今頃デートかな?・・君は?」


自然に聞けた。


「私も、いません・・」


なんとフリー!これは!いやいや慌てるな。こういう場合はあまり焦らない方が・・。


「探偵の仕事ってこの前のような事件とか多いの?」


「あの手のものはあまりありませんね。私の所、喫茶店も経営してて何もない時はウェイトレスしてるんです。そっちがほとんど本業に近いといいうか」


「え?それって喫茶店探偵物語のこと?」


「知ってるんですか?」


「有名だよ。小説読んでる。物語シリーズの聖地と言われてて、ここに来た時に行ってみたかったけどネットの情報で無期限休業中らしくて」


「・・やっぱり、有名な所なんだ」


「店、再開したの?」


「再開というか、ちょっと分かりにくいというか」


この切っ掛けはチャンスでは!


「今度行ってもいいかな?」


「どうだろう?一見さんでも問題ないと思いますけど・・後でマスターに聞いてみますね」


「そんなに厳格な所なの?」


「全然、今まで常連さん以外来たことなくて。問題ないと思います」


繋がり持てたかも!



盗聴機に集中。


目の前のクレーンゲームにお金を入れてワームを動かす。小さなペンギンのぬいぐるみゲット。彼女に差し出し、


「なんか取れた。よかったら」


「いいんですか?」


「うん」


「私、女っ気ないって言われてて、こういう小物類嬉しいです!」


受け取り満面の笑み。



カップルは出入り口の方へ。後を尾行して外に出る。


ペンギンを眺めニコニコしている。そこまで喜んでもらえるなんて本望だよ。


喫茶店探偵物語で勤務。探偵でウエイトレス。小説に出てくるようなボスとかマスターの存在はどうなんだろう?


「探偵物語の小説読んだことは?」


「・・4巻まで読みました」


「所長はやっぱりボスと呼ばれてるの?」


「・・・・・」


「ファンの間では登場人物は実在か架空か、物語の事件はフィクションかノンフィクションか議論の的なんだ。結構当時の事件と類似してるものがあってね」


「・・ボスは、所長はいま現在不在です。小説と同じかは・・それは、ないとおもいます・・」


「マスターは鬼の健二郎?」


青ざめる。


「ど、どうかな?・・鬼じゃないです・・マスター優しいです・・」


動揺しちゃった。


彼女は慌てたようにスマホを手に、


「もし良かったら連絡先教えてもらってもいいですか?」


「え!?」


「私、この街の事よく知らないし、年の近い友達もいなくて。それに連絡が分かれば店に来られるか教えられるかなって」


「・・・・・」


「イヤならいいんです。ご免なさい、厚ましくて・・」


「こちらから聞こうかとずっと躊躇してた。ぜひお願いします」


スマホ出し赤外線通信。


「私、相川千仍と言います。チヨと呼んでください」


「安田弘人です」


「弘人さんですね」



カップル角を曲がる。

前方から犬の散歩の通行人とすれ違う。


「気になってたんだけど、あの連れてた犬ってなんだったの?」


困惑の表情。


困った!


「それは、ちょっとすみません・・」


テンションが下がる。


「いやなんか質問ばかりでご免。警部からも言われてた。探偵の事は極秘で公にしてないと」


頷くチヨ。


あまり深くはまずい。別の話題か・・。


「映画とか観る?」


「はい!大好きです!」


一気にテンション上がる。



対象カップルが男と接触し話しをしてる。

チヨはペンを取りだしカップルに向ける。


「これカメラなんです。事務所に送ります」


「探してるのはあの人?」


「ちょっとここからでは・・遠くて確認が」


「・・横を通ろう。こちらもカップルのように自然にね」


「はい」


対象者と男の横を通り過ぎる。


「違うと思います。確認します」


通信機。


「ヨシダさん、どうですか?・・・」


対象カップルが男と別れこちらに歩いてくる。


それを見て動揺するチヨ。


「スマホの待ち受け何?」


「え?」


「見せて」


スマホの画面に三船○郎。


「渋いね。七人の侍だね」


カップル横を通り過ぎる。


「は、はい。最近変えました」


ちいさい声で、


「どっちを追えばいいの?」


「接触した男性は違いました。引き続き2人の方です」


カップルの後を追う。



「少し焦ってしまって、さすが刑事さんです」


「こっちも緊張したよ。お互い新米同士だね」


笑顔のチヨ。


「映画詳しいんですね」


「古い映画好きなんだ」


思いきってこの流れで。


「あの、今度・・・・」


「何ですか?」


先走り過ぎか・・。


チヨ、笑顔で顔を覗き込んでる。


「・・よかったら今度、ご飯でもどうですか?」


「はい」


「いいの?」


「全然いいですよ」


笑顔。


一気に距離がちじまった。順調すぎて怖いくらいだ。


「非番、平日になるけど」


「探偵の仕事がなければ16時以降ならだいたい大丈夫です」


「じゃあ、ご飯食べる時にでも、映画でも。・・なんかデートになっちゃうけど」


「いいですね!どういう映画が好みですか?洋画、邦画?」


「どちらかというと邦画かな」


「日本映画、いまの公開は・・」


カップルの姿がある建物へと。周りはラブホテルがある歓楽街。


その内の1件に消えるカップル。


2人 「・・・・・」




ラブホテル室内。


ベットに座り緊張する2人。


この場所はもう最終目標だろう!


「こんな所まですみません。送信側にGPSも盗聴も送られていないみたいで、距離を開けるなと・・」


「・・いや、ぜんぜん」


無言の2人。


冷蔵庫。


「ジュース飲みますか?」


「・・飲もうかな」


ジュースを飲む2人。


無言の状態が続く。


気まず過ぎだ。


上着を脱ぐチヨ。


「・・・・・」


「すみません、ここ暑くて」


「・・確かに暑いね」


上着脱ぐ。


無言状態。


チヨ、リモコンを取りテレビを付ける。AVが流れる。


2人 「・・・・・」


無言で消す。


「すみません・・」


「チヨさん、それはもうお約束ですよ」


俯いてるチヨ。


「・・チヨって呼んで」


「・・・・・」


「さん、いらない」


「・・う、うん。・・チヨ」


「・・はい・・弘人さん」


これはもう誘ってるとしかいいようが・・。


「うわっ!」


「なに?」


外した盗聴イヤホンから喘ぎ声。


2人 「・・・・・」


「ご免なさい・・」


「謝ることないよ・・」


盗聴器オフにする。


沈黙。


「どうせなら、仕事じゃない時に来たかったな・・なんてね」


目と目が合う。


これはもう理性の限界だろう・・。


恥ずかしそうに迫るチヨ。


「私なんかでも、いいですか?」


頷く。


「胸、全然ないけど・・」


頷く、何度も。


「こっちも、こんな、オレでもいいの?」


「・・だって、優しくて・・ペンギンくれたし」


さらに近づくチヨ。


もうこれOKサインだろう・・本当に限界だ・・。


通信機が鳴る。


驚き、2人離れる。


通信機オン。ハンズフリー状態で声が聞こえる。


「「「どうだ?」


「・・はい、2人は・・・お楽しみ中、です」


「「そうか」


通信切れる。


慌てるチヨ。


「ご免なさい、仕事中なのに何てことを、私。会って1時間もしない人に・・」


「いや、オレも同じ気持ち、・・もう押し倒す寸前」


「・・・・・」


「健康な若い男女がここで2人になったら・・そうなるよね」


「・・そうですよね」


2人笑う。


「次回、休み、デートして・・お願いできますか?」


「・・こちらこそ、お願いします」


通信機鳴る。


「はい」


「「任務終了だ。別班で目的の人物確保」


「捕まりましたか・・」


「「カフェの男と一緒か?」


「・・はい」


「「ミヤコやボスには言わん。2時間だけな」


「え、いや」


通信切れる。


「任務終了です」


「仕事、終わりなの?」


「・・終わりです」


「この後の2時間は空くということ?」


「・・空きました」


2人 「・・・・・」


「次回と言わず・・いまからでも、いい?」


「・・はい。あ、シャワー浴びてから」




シャワーを浴びバスタオルを巻いて恥ずかしそうに出てくる。


「・・じゃあ、自分もー


スマホが鳴る。着信 警部


「事件発生だ。至急現場に来い。場所はラインで送る」


2人 「・・・・・・」


「ごめん、事件、新人だから行かないと」


沈黙後、2人笑う。




チヨ視点


喫茶店。


「ただいま戻りました」


カウンターのヨシダが、


「早業過ぎるだろう。彼氏大丈夫か?」


「いやいや、何にもありませんって」


「よかったら調べてやるぞ、何が知りたい?」


「・・いえ・・これから知り合うので・・・心遣い、有難うございます」



「あの、通信、全部聞こえていたとか?」


「それは心配するな。通信はそちらからONにしなければ一切聞こえない。プライバシーは守る」


「道中、ONにしたままだったろう。嬢ちゃんの声の微妙な変化を読み取った。好意を持った男にはよそ行きの意識した声になる。ペンギンを貰い、三船○郎の時点でもう落ちてたな」


「・・・はい・・落ちました」


「相手は刑事か」


ヨシダはモニター画面を見て、


「安田弘人28歳、捜査第一課。この歳で優秀だな。いいのを捕まえたかもしれん」


「時間的にみて、オフィス街の事件で駆り出されたか。石鹸の香り。シャワーを浴びたところでおわずけか。心中察する」


「・・・・・」


「バレんようにな。油断するとミヤコには一発だぞ」


ここの人たちエスパー・・本当に鋭すぎなんですけど・・。



6終わり



7 小さな暗殺者メイシー




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