二つ名 喫茶探偵ショート その1
ー喫茶探偵物語5ー
二つ名
事務所。
パソコンでデータを打ち込んでいるチヨ。
私が喫茶店でウェイトレスを給仕してる時、事務所では多くの案件を抱え、様々な事件を扱っている。ここ探偵事務所本部から支部へ、支部から本部、警視庁、警察庁へと大量の情報が行き交っている。
数日前に起こった新宿での連続殺傷事件。
神奈川での小学生女児行方不明事件。
北海道の資産家殺人事件。
どれもニュースやワイドショーで連日報道されている大きな事件。
数多くの事件に関わっているが、ここは決して表舞台に立つことはない探偵事務所。
頼まれたデータを各支部に転送する。
<浅田大輔 汚職>
データの中にこの前追い出した政治家の名前がある。
「フジシマさん、このデータはどこに?」
「それはそのままで。世間には公表しません」
「・・・・・」
「今回限りの義理です。マスターに借りを作った形ですが、いま逃れてもいずれ自滅するでしょう。その時は見限ると言ってました」
ここで仕事をすれば、世間の闇が見られます・・。
事務所での手伝いが終わり店内に戻る。
ミヤコとヨシダが雑談中。
「ーあの製薬会社か。あれは目論見が外れ大ダメージを喰らったな」
「2億だっけ?回収の総額が300万、大赤字。あの時のボスの顔は見物だったねー」
また物騒な話しをしてる。ここにも闇が渦巻いている・・。小説や事務所でのお仕事で耐性がついてるとはいえ、まだまだ私は入っていけない領域・・・ボスの顔?
「そういえば私、ボスの人間の時の顔知らないんですけど」
「おっ、じゃあ見せましょうかね」
「お願いします!」
ミヤコがスマホの画像を見せてくれる。
禿げた赤ら顔、体格のいいステテコ、腹巻きの男性。満面の笑顔。
「・・・・・」
「どう?」
「・・思ってたより・・個性的ですね」
イメージと真逆なんですが・・。
「想像と違った?」
「小説のキャラと全然ちが・・!」
「ミヤコさん、そのスマホいつ買いました?」
「半年前かな?」
「どうしてそのスマホ画像にボスが?」
「バレた」 てへ
「誰ですか、その人」
「チヨがまだ会ってない二つ名持ち」
「・・・・・」
「ワシのスマホの待ち受けはボスだ」
「お願いします。ヨシダさん!」
「ワシが惚れた唯一の漢」
待ち受け画像、石原裕○郎(太陽にほえろ時)
「これは別のボスですよ!」
「この人がボスよ!」
ゴットファーザー画像。
「その人ドン!マーロン・ブ○ンド!」
「チヨは打てば響くねー」
最近はツッコミ要員になっている私・・。
スマホ画像を指で移動させ、
「写真はボロボロで直接撮ったやつね」
指で拡大して、
「この美女、だーれだ?」
ポーズをとる茶髪ロングの女性(峰不○子風)
「ミヤコさん、峰不○子みたい」
「ありがとー私も年取ったわねー」
「今でも十分魅力的ですよ」
「そう?じゃあ今晩一緒にどうですか?」
写真を指し、
「隣がボスですね?」
「チヨがスルーを覚えた!」
黒いコートに煙草をくわえたボス(松田○作風)
「渋いですね」
「アウトロー気取ってんのよ」
ちょっとカッコいいかも・・。
左に移動。
ボスの隣のサングラス白髪ロングの男(内田○也風)
「・・このロックンローラーみたいな人は?」
ヨシダを指す。
「・・・・・」
「懐かしい写真だな」
この変わりようは衝撃だよ!
画像を通常に戻す。喫茶店内での集合写真。
パンチパーマでフンドシ姿。眼光鋭い日本刀所持の男(菅原○太風)
え?順番からいって、まさか・・いやウソと言って!
「・・この、パンチさんって・・」
「マスター」
これ以上ない最大級の衝撃だよ!温厚な優しさも面影もないよ!
「ちょうど、1巻、2巻辺りの頃ね。あの頃は皆若かった」
小説のイメージが完璧に掴めました。マスターは塑像以上でした・・。
「フジシマ君はまだいないわね」
写真の隅に、オバQの等身大の着ぐるみ。
「・・・・・」
着ぐるみだが人間の腕が出ていて気味悪さが際立つ。
リアルQちゃん?
「その人も二つ名持ち」
「・・Q太郎?」
「ハットリくんよ」
「え?何で!?」
「なかなか出現しないレアな人物。素顔は私たち古参しか知らない。変装名人、武術の達人。忍者の末裔だって」
そういえば1巻に忍者みたいな人居たな。
「他にもいるけどこれが主力メンバーね。他を知りたかったら、はい」
小説、喫茶探偵物語2を渡される。
「読むがいい」
「・・ありがとうございます」
真夜中。
一気読みした小説のページを閉じる。
ため息。死人がバンバン出てるよ・・。
産業廃棄物の土地の利権を巡って、探偵社と対立する悪徳業者との闘い。基本探偵側は悪に容赦はなく弱者を陥れない、狙わない、筋を通す義賊(?)みたいな存在。
後半の見どころはミヤ(ミヤコさん?)が捕まり人質となり、喫茶店マスターが日本刀で乗り込むシーン。背中には鬼の入れ墨。ヤクザも避け恐れる男。通り名、鬼夜叉の健二郎。
一文字違いで、そうきたか・・。
ミヤという人は政治家にパイプ持つ謎の女。現実とリンクしてる?新たなキャラは武器屋の順義さん。土地転がしの有田さん。どう見てもアウト過ぎる職業です、怖いです。
三日後。
カウンターにマスター。
コーヒーを運びヨシダとミヤコの前に置く。
「で、どうだった?」
「・・はい、なんかもう言葉がみつかりません」
マスターの背をチラッと見る。
「そっか、気になるわねー。マスター、2巻読んだよ」
「・・読んじゃったか」
笑顔のマスター。
どう見ても写真と同一人物とは・・。
「久しぶりにマスターのモンモン見たいねー」
「いや、若い娘さんに彫り物はさすがにね」
「チヨもここの一員よ。見せるべき!」
「んー、・・刀とフンドシも用意してないしな」
ん?マスター何言ってるの?
「セットじゃないんだから、日本刀はチヨもビビるって」
いや、フンドシの方がビビるんですが・・。
「じぁあ、背中だけね」
見せるの!?
服を脱ぐと背中全面に般若の入れ墨。
生で見る初めてのタトゥー。
「いやー眼福ですな。私がいま生きてるのもこの鬼のおかげ」
ヨシダは手を合わせブツブツと拝んでいる。
唱えるようなことが?
服を着る。
「いや、些末なものを・・」
笑顔。
「いえ・・貴重なもの、ありがとうございました」
これってもうみんな私に対して確信犯だよね・・。絶対打ち合わせして計算して見せてるよね?
スピーカーからボスの声。
<チヨの二つ名が決まった>
「おっ、ついに襲名披露か」
「・・・・・」
<決まりで一つ目は却下できるが二つ目はできんぞ>
二つ名、正直いらないんですけど・・。
「私の時は極妻だった。二つ目の姉御で妥協した」
なにその昭和の香り。
<お前の二つ名は若い女性ということで>
ゴクリ
<「姫」だ>
「却下!いい歳してこれはない。恥ずかし過ぎるよ!」
<いいのか、二つ目は訂正できんぞ>
「・・・・・」
プリンセスとか言わないでしょうね・・。
<二つ目は>
ゴクリ
<「チヨッペ」>
ガッカリだよ、このセンス・・。
「どうせボスしか使わないから。フジシマ君は「ハンサム」を断って「ナイスガイ」よ。姫の方がいいなら私も姫って呼びたいけど」
「チヨッペでいいです・・」
二つ名ってこれ意味合い違うでしょう・・。
<第三候補もあったが男の名になってしまった>
ぶっきらぼうに、
「なんですかそれ」
<キクチヨ>
キク・・姉とかぶる。調査して知られているのか?いや2階の映画のポスターの可能性も・・微妙だけど前のよりは・・。
「キクチヨがいいです。なんとかそれでお願いできませんでしょうか?」
<そうか、キクチヨにしよう>
「キクチヨってなんか元ネタあるの?」
「・・好きな映画の主人公の役名です」
「最後に死ぬがな」
ヨシダさん、フラグ作らないで!
5終わり
6 初めてのコウカク
補足
チヨの双子の姉の名前は季玖
父親が黒澤ファン、七人の侍、役名菊千代から。
父親は藤子不二雄、太陽にほえろ等DVD所持。
その影響でこれらの知識有り。
喫茶探偵ショート その1
ショート1
キッチンでコーヒーの特訓中のチヨ。
コーヒーを味あう。
「・・・うん、いいかも。この感覚を忘れないように」
コーヒーミルを片付けるとスピーカーからボスの声。
<来てくれ!大変だ!>
「!」
急ぎ事務所へと入る。
小型犬シェパードが5匹、事務所中を走り回っている。
ワンワン! キャンキャン!
「ん?ん?んー?」
スピーカーから、
<分裂してしまった!>
「???」
<早く捕まえて合体させろ>
「???」
<早く!>
意味も分からず1匹を捕まえる。
クーン
うわああ!めっちゃ癒されるんですけど!!
てか、合体ってボス分裂できるの!?これボスの一部?
<早くしろ!>
もう1匹を捕まえる。
合体?身体同士をくっつける。
嫌がる2匹。
「くっつきませんが・・どうすれば!?」
<耳と尻尾をくっつけろ>
耳?・・ほんとに?
「おとなしくして」
くっつけようとすると抵抗。1匹が逃げる。
「あっ」
逃げた方向の柱の陰にボスの姿をとらえる。
チヨ ボス「・・・・・・」
子犬見る。ボス見る。子犬見る。ボス見る。
ジーッとチヨを見てるボス。
「・・・・・」
ゥオン、と鳴き満足そうなボス。
何という手間掛けたドッキリ!
なに考えてんだこのイタズラセクハラ犬!
ショート2
チヨ、キッチンで料理。
ボスの昼食を届けに事務所へ入る。
「ボス昼食です」
机の後ろのボスの定位置に虎。
「ぎゃあああああ!」
動く素振りがなく、よく見ると等身大虎の剥製と分かる。
「・・・・・」
柱の陰に目をやると満足そうなボスの姿。
暇人め・・・。仕事しろ!
おわり