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喫茶探偵物語  作者: ゆきんこ
4/27

ボスの娘


ー喫茶探偵物語4ー  


ボスの娘



私立中学校。

3年A組教室。


教壇の前に立つスーツ姿のチヨ。

生徒から注目を浴びている。


なんで私はここに立ってるんだろう・・。



回想


喫茶店。事務所内。


「明日から潜入捜査をしてもらいます」


「・・・?」


フジシマがからタブレットの画面を見せられる。

画像には荒らされた更衣室らしき場所。


「隣りの区の中学校で女子の制服の盗難がありました。相川さんには教育実習生として教員や生徒の監視及び調査をしてもらいます」


「・・・?」


「潜入捜査です」


「・・学校の?潜入?それはいくらなんでも・・無謀な」


後ずさり。


ボスがキーボードのエンターを押す。


<これは最重要任務だ>


「・・・・・」



「最重要って、服の盗難とか何かスケール小さくないですか?」


<お前は事件に小さい大きいを決めつけるのか>


「すみません、間違ってました!」



「けど、先生って私には無理のような・・」


<お前の頭のデキは知ってる>


「・・・・・」


<生徒から質問されたらどうする?>


「困ります」


即答。


<心配ご無用。優秀なサポートがここいる>


ボスはフジシマを見る。


通信機でフジシマさん待機。完璧過ぎるアシスト。だけど・・。


「相川さんは特別実習生として授業を見学させてもらう形なので問題ありませんよ。担任と校長は私たちと面識があり事情を知ってる協力者です」


「・・・・・」


<お前の行く学級にオレの娘がいる>


「・・・?」


「実の子です」


ボスと目を合わせ身体の隅々を見る。どうやって・・。


<何を想像してるこのバカ>


「娘の名は桧山沙希。中学3年生。盗難された被害者の一人です。犯行は特定の人物を狙っているのか?内部犯行なのか?相川さんが出来る範囲でいいので調査をお願いします」


ボスの娘さんの学級に・・。


「沙希さんは現在ボスの弟さん夫婦で同居。ここの諸事情、犬の事も知りませんので内密に」


これはもう決定事項・・断る選択肢は、私にはない。


「それとこれ、ボスからのプレゼントだそうです」


箱を渡される。


<頑張ってるからな、ご褒美だ>


嬉しいけど。・・なんでこのタイミング?


<お前のためだけのオーダーメイド品だ>


「嬉しいです。・・開けてもいいですか?」


ボス頷く。


受け取る。重さからいけば服?・・何だかんだ言ってボスもいいところあるな。


ワクワク


開ける。手に取ると厚みのあるブラジャー。


「・・・・・」


<バストアップブラだ>


<CからGまでの5種。永遠のAからの解放だ。よかったな。蒸れないから安心しろ>


このセクハラ犬・・。


<内部犯行説と仮定し男性教員をその胸で惹きつけろ。少女趣味があるならお前には興味がないということだ。これも相手の心理を見抜き、観察力洞察力を養う勉強と思え>


何の勉強だよ・・。私の役目ってこんなのばかりなの?


回想終わり




3年A組。


ボリュームアップの胸を張り、


「相川千仍です。短い間ですが実習生として参りました。よろしくお願いします」


クラス全生徒からの注目。舞台より緊張する・・。


「相川先生は皆さんと一緒に授業に参加してもらいます」


担任はコイズミ女性教員50歳。ボスの事情を知る人物。


「後ろの空いてる席へ。教科書は隣の桧山さんに見せてもらってください」


「はい」


ボスの娘・・隣の席か。ロングの美少女が私を見ている。


可愛いな!美少女だよ!


着席。


「よろしくね」


沙希は照れた表情で、


「はい」


これは心配する。ボスでなくても私が心配する。


カメラ内蔵ペンを沙希に向ける。

できるだけ娘を撮れと指令(?)を受けたけど、事件と全然関係ないな。最重要任務ってこれのこと?撮る事?



授業中。


全然記憶にない・・理科ってこんなに難しかったっけ?


授業を真剣な表情で聞きノートをとる沙希。


ボスが人間だった時の娘。

沙希ちゃんに事情を説明してないのは犬になったからか?

父親は亡くなったという設定なんだろうか?

母方の方は?家族構成も過去も経緯も全くの謎。

誰も教えてくれないし、いいかげん説明してくれないと・・。


元の身体はどうなっているのか?もう無いのか?

担任のコイズミ先生なら事情を知ってるらしいから分かるかも。


担任を見る。目が合う。


「おっ、答えたそうね。実習生」


え?ないない!


首を小刻みに横に振り担任に訴える。


「相川さんは○○大学、主席候補ですね」


・・何その設定?何ハードル上げてるの!


「この問題を解いてもらいましょう」


「・・・・・」


黒板の問いを見る。まるで分らない。


カメラを黒板に向ける。フジシマさん、ヘルプミー!


通信機からフジシマの声。


「「光合成によって作られた有機養分の通る管」


立ち上がり、


「光合成によって作られた有機・・・養分の通る管、です」


「正解です。さすがですね」


アドリブやめてやめて!心臓に悪いよ!


それとフジシマさん有難う。あなたは天才ですか?


椅子に座ると沙希が尊敬の眼差しで私を見てる。

そのキラキラしたお目目はなんか申し訳ないよ・・。



職員室。


コイズミ教員の元へ。


「高卒で主席とは縁遠い者なんですけど・・」


「知ってる。簡単なプロフィールは読んだからね」


コイズミはライン画面を見せる。


私の個人情報が載っている。

その下に、「巨乳(仮)」「主席候補生(嘘)」「授業中質問OK」と書かれている。


あの犬の仕業か・・。フジシマさん待機とはいえ勘弁してよね。



「それと、廊下で安藤先生から言い寄られました」


「やはりあいつは声掛けたか。安藤はとりあえず除外と。残りの独身教員、モーションかける?」


「私からはちょっと・・」


「さすが泰造の秘蔵っ子ね」


コイズミは感心したように顔と胸を見る。


「・・泰造?」


「ああ、あなたのボスの名ね。アレとは中高一緒だったの」


「ボスの同期!」


「ある意味腐れ縁かな。娘の桧山沙希が教え子になって10年ぶりの再会があの犬よ。一体何の冗談かと」


「分かります。私は犬が面接官でしたから」


「それは笑える」


「若い頃のボスってどんな感じでした?」


「尖ってたわね」


通信機からボスの声。


<よけいな話しはするな仕事しろ>


「ボスから、よけいな話しはしないで仕事しろと」


「ほーいいのかね?そんなこと言って、泰造」


<頼むからやめてくれ>


「頼むからと」


笑うコイズミ。


「色々やらかしてたけど、探偵所長として尊厳が崩れるか。まあ、こういうのは本人から聞いてやって」


いろいろ聞こうと思ってたけど・・残念だ。



「といっても独身組も妻帯者も私の見立てではいないのよね。犯行に及びそうなのは。-あの人見て」


斜め向かいの若い男性を指す。


「鈴本教員。半年前に女の子の保護者からクレームがきた。鈴本は男の子でも女の子でも密着度の高い熱血タイプみたいな感じ。その女の子が肩に触れられた事に過剰な反応を示して親が大事にした」


「一応要注意人物ですか?」


「前に借りてた教材を返してきて。その立派な胸を強調して」


「・・・・・」



「あの、コイズミ先生からこの本を・・」


胸を前面に押し出す。胸に見惚れる鈴本。


胸をこんなに見られるの初めてだ・・。今までなかった目線。嬉しいけど・・不快だな・・。


若い女性教員が怖い目で近づき耳元で囁く。


「人の彼氏に色目使わないでもらいます?」


「え?・・いや、べつに・・」


コイズミを見る。笑っている。


「あなたも何よ、そんなに大きいのがいいの?」


鈴本を責め、私を睨む。


「・・いや、なんか、もう、すみません・・手は出しませんので・・」


その場を後にする。




「彼女いるの知ってましたね」


笑うコイズミ。


「鈴本も除外と」


ボス関係みんなクセ強過ぎだ。


コイズミはライン画面を見て作戦の概要を見ている。


「しかしふざけたお色気作戦ね」


「・・ですよね」


「このワザとぶつかって、足を挫いて保健室までお姫様抱っこって、やるの?」


「やりません」


笑う。



「まあ、おふざけはこれぐらいにしましょう」


「コイズミ先生の考えでは教師たちにはいないということですね?」


「そう。一番に疑ったのは外部からの侵入者。けど監視映像には何も映っていなかった。なら、合法的に入れる外部の人間。出入り業者と疑ったけど業者は若い女性」


「業者は女性ですか」


「外部犯行じゃないとしたら、あまり考えたくないけど生徒ね。思春期特有の男子、もしくは恨みを持つ女子」


「犯行は複数の制服を持ち去ったんですよね」


「被害者の3人はイジメ、過去に嫌がらせやイタズラされたなどの事実はなし。泰造の心配は娘でしょ。その為にあなたが送り込ませたくらいだから。けど桧山沙希は稀に見る優等生でいい子。恨みを買う人間じゃないことは確か」


「・・それでは嫉妬の線は?」


「嫉妬となるとまた違う面が出てくるね。けど私の教え子、このクラスに関して陰険な子はいないと自信がある。他のクラスまでは及ばないけど」


「仮に沙希ちゃんに好意を抱いている男子がいる。制服が欲しいが1着だけでは怪しまれる。他の2着はフェイクで盗む。この考えは?」


「ない、と思う。ちょっと保留。桧山沙希は可愛いからね・・」


「それは同意します」



「他のクラスに犯人がいるなら、私なんか役に立ちませんね」


「昨日、探偵所の人が来ていろいろ調べてた。あそこは有能だから任せておけばいいのよ。泰造には私の考えは伝えてる。今後娘が巻き込まれる可能性は少ないし、目をかけておくと」



「あなたの潜入もこの機会にと、娘可愛さ、娘観たさの為でしょ」


胸のカメラ内蔵ペンを指す。


そんな感じしてたけど・・。


「凶悪な事件というわけでもないし気負わなくてもいいよ。せっかくだからこの機会に存分に撮ってやってちょうだい。娘と会えない泰造のために」


「・・・・・」




チャイムが鳴る。


2時間目終了。


フー、数学なら半分はついていけるな。半分か・・。


数学担当の男性教師が、


「相川先生は休み時間、生徒たちとコミュニケーションをとってくださいとのことです」


・・・さすがにここに居るのは浮きすぎだろう!


私を見てヒソヒソ話しの生徒一同。


この状況、質問されないだろうな?


モールス使用。


<<フジシマさん、いますよね?>>


通信機からボスの声。


<用あって出た>


話しが違う!



沙希を見るとこちらをチラチラと見ている。


沙希ちゃんと何かお話しでも・・何を?盗難された話しもさすがに聞けないし・・。


これは、トイレに行くフリをしてにげー


「相川先生」


「ひゃ、ひゃい!」 


ショートカットの女子生徒が話しかけてくる。


「先生、彼氏いるんですか?」


オマセな子来た!


「・・残念ながら、今現在はいないんですよ」


「先生、美人なのに」


「・・先生なんか、全然よ」


「過去にはいたんでしょ?」


「・・過去には、ね」


リアル話しは引きまくりますよ・・。


周りに数人女子集まってくる。

マセ子が胸を凝視。


「近くで見ると迫力ある!」


偽乳なんです、これ・・。


「元彼はその胸で射止めたんですか?」


ここで恋バナとかする気もないし、碌な思い出もないし、沙希ちゃんのいる前、ボスに怒られそうだ。


「ご免ね、元彼の事は今は忘れたいの・・」


これは事実。何か妥当な、共通する話題は・・。


恥ずかしそうに沙希が話しかけてくる。


「先生」


「ん、何?」


「先生は先生になるのが夢だったんですか?夢は叶ったんですか?」


マセ子が、


「沙希、当たり前でしょ。今ここに居るんだから、ね、先生」


「・・そ、そうね、先生になることは・・私のたくさんある夢の中のひとつ・・叶ったかな?」


小さい頃に憧れてた時期が。何故か今叶ってるけど・・。


「沙希ちゃんの夢はどんなのがあるの?」


いい質問だ。ボスも喜ぶだろう。


「私、女優!」


マセ子邪魔!


周りの女子らが、


「私、先生のような学校の先生に憧れてます。けど頭も良くないし難しいよね」


「看護師になりたいけど、悩んでます」


将来の夢の相談教室が始まる。


「自信つかないよね」


「勉強も資格とか凄そうだし、高校も大学も親うるさいし」


「女優って職業は現実味ないですか?」


「・・・・・」


教育者(?)として答えてやらなければならないの?こんなのやったことないよ。


発言を待っている子供たち。


これは、即興劇。私は教師・・できる教師役。


「なるほど、皆いろいろ考え、悩んでるわけね。私にもそんな時期があったわね」


溜め。


「悩むことは、いい事よ。・・人は考えて、努力して、・・成長する」


溜め(頭猛回転)


「自分の心に描いた夢は実現するの。求めれば求めるだけ、その夢は近づいてくるはず。自信がない、気が弱いなら、これから強くなればいい・・」


これ私自身への言葉だろう!ていうか私、語彙なさ過ぎ!


沙希にキラキラした目で見つめられる。

私なんかの薄い言葉にそのお目目は申し訳ないって・・。


マセ子が、


「心に描く夢は実現するか、いいこと聞いた!」


「私も実現させたい」


「私も!がんばりたいと思います」


アレ好評?マセ子もその取り巻き(?)も純粋でいい子だな・・。


輝いた顔の沙希が、


「先生のたくさんの夢ってなんですか?」


「・・・役者とか・・・探偵とか」


「先生も役者!仲間?いえ、ライバル?」


「・・・うん、がんばりましよう・・お互いに・・」




4時間目。


廊下を巡回中。


<モテモテだな>


「同性にモテてもしょうがないですよ」


<胸効果あるな、教員にも子供にも>



((フラッシュ))


部屋で偽乳ブラ装着。

鏡を前にポーズをとり歓喜する。その後落ち込む姿。


((フラッシュ終わり))


胸の膨らみに喜んだのが悲しかったんだよ・・。



「何かこう助言とかお願いしますよ。私の頭のデキでは無理です」


<お前の言葉で伝えんと意味ないだろう。まあ悪くはなかった>


「私みたいな女、将来のある生徒たちの前では申し訳ないです。語れる立場じゃありません」


<そう卑下するな。お前だから送ったんだ。並みの奴なら送らん>


それって少しは私を認めているということ?



「・・犯人は分かったんですか?」


「確定した」


「え?」


<現行犯で明日捕まえる>


「じゃあ、私はもう・・」


<お前が一番近い現場にいるんだ。現場で考える力を身につけろ。無駄になってもいい。その労力は決して無駄にはならん。探偵助手>


娘、撮りたいだけじゃ?


<もし正解できたらお前に二つ名を与えてやろう>


それはちょっといらないかな・・。


けど二つ名で呼ばれるということは認められる?・・ずっとお前呼ばわりだし。んー。


<ヒントは固定観念を捨てろだ>


「・・・・・」


固定観念?



「ボス、犯人わかりました」


<誰だ>


「搬送業者です」


<業者は女だぞ>


「コイズミ先生も他の教師たちも、業者が女性というだけで対象から外してました。「固定観念を捨てろ」これは女性ということですね」


<犯人は生徒かもしれん。スケベな男子や怨恨を持つ女子>


「コイズミ先生と話し合い私もその線で考えてました。ボス言ったでしょう。

「現行犯で明日捕まえる」と。生徒たちは含まれない。明日するかなんか分からないし」


「業者の予定表と時間割は調べていました。

明日の3年C組の4時間目に体育の授業があります。業者は11時に搬入予定。女性業者の性癖が何か知りませんけど、欲望に負けたら2度目の犯行を行う可能性がある。現行犯と特定するからにはその時に捕まえるということですね」


沈黙。


<オレの言葉とヒントから答えを導きだしたか>


<なかなかやるな。少しずつ成長してる>


ボスから褒められた!これは素直に嬉しい!


「ボスのおかげですよ」


<引き続き娘を頼む>


本当に娘を撮るために潜入させただけ?事件二の次じゃない?





昼休み。


校庭のベンチでサンドイッチを食んでいると、沙希に声を掛けられる。


「相川先生、いいですか?」


急いで口の中の物を飲み込み、カメラのスイッチを押す。


「はい、どうぞ」


隣りに沙希を座らせる。


「先生の夢の中に探偵ってありましたよね」


「・・うん」


「それ聞いて私嬉しくなったの」


「・・・・・」


「私の夢はその探偵になること」


「・・そうなの?」


「お父さんは探偵です。将来そのお手伝いがしたいんです」


「お手伝いということは、探偵の助手みたいな?」


「・・それが理想です」

「けど女性が探偵っておかしいですよね。それに自信もありません。多分叔父さんは反対すると思います。お父さんも・・。それを押し切ってまでの自信もないです。先生のさっきのお話し、せっかく勇気貰ったのにそれでもまだ一歩が踏み出せないです」


「・・・・・」


教室で何気に語った探偵の言葉。その言葉に共感して悩みを打ち明けてきた。

そんな真剣な沙希ちゃんに自分は何を語れるというのだろう?そんな資格はない・・。


「小さい頃から私ってこんな風なんですよね。一人で何も決められない」


ここで嘘の言葉は許されない。


ボスも許してくれないだろう。



「沙希ちゃん」


「・・はい」


「謝らなければならない事がある」


「・・・・・」


「将来の夢に探偵はないの、私」

「それともうひとつ教育実習生も、学校の盗難事件で潜入捜査を命じられただけ」


「・・刑事さん?」


「探偵なの」


「・・・・・」


「矛盾してるよね。詳しいお話しはできないけど、私は成り行きで探偵になった見習い探偵みたいなもの。本当にご免ね。ウソついて」


「・・いえ、いいんですけど、潜入捜査って人に言ってもいいんですか?」


「沙希ちゃんが将来の事を真剣に話してくれるのに、嘘は付けないと思った」


「・・・・・」


「正直、いま探偵している自分に戸惑っている」

「私もね、何をするにも自信がなかった。夢も半ば諦めてた時があった。けどある人が、自分を変えろ。逃げるな。諦めるな。そう言ってくれた。この言葉、嬉しかったの」


沙希ちゃんのお父さんだよ。


「今、その人の元に居て自信も少しついたかな?」

「探偵職なれるかなれないか、先の事は私にも沙希ちゃんにもまだ誰にも分からない。なるんだっていうその気持ちが大切なの。その気持ちが強ければ強いほど、努力すればするほど願いは叶うと思う」



「選択肢はいろいろある。これからいろいろな経験をして、見て、考えて、模索するの。その過程でどうしても探偵になりたい。夢を追いたい。お父さんと一緒に仕事がしたい。その時は堂々と、ガツンとお父さんに言ってやればいい、探偵になるって」


ガツンってなによ・・何よりも私の語彙・・。


「・・先生は探偵になって後悔してるんですか?」


「してない。これだけは言える」

「暗い私が周りの人たちに助けられ、少しずつ行動を示せるようになった。少しずつだけど自信がついて、成長してる自分を感じている。まだほんの少しだけどね」


「・・先生も頑張ってるんだ」


「沙希ちゃんの踏み出す一歩、私でよかったら応援させて」


「・・私の悩み、先生に言って良かった。また少し勇気を貰いました」


笑顔の沙希。笑顔で返す。


これでよかったのかな?私の精一杯の言葉。ボスの受け売りもある言葉。



その笑顔から陰りの表情。


「お父さんね、・・いま眠ってるの」


「・・眠ってる?」


「車の事故で、もうずっと昏睡状態なの」


昏睡?・・事故を起こして?・・じゃあ犬はどこからきた?


「けど絶対、いつか目を覚ますの、お父さんは」


「・・お父さんはいま病院?」


「はい。3年くらい延命処置を受けてます」


どういうこと?事故を起こして、犬に・・犬と入れ替わった?


俯いてる沙希。


入れ替わり、非現実的だが、これでボスの状況の説明はつく?


犬の経緯はともかく、沙希ちゃんは3年間昏睡状態の父親を見てきたんだ。寂しさや不安は相当のものだろう。


それで将来お父さんと一緒に探偵を?面影や願望ともいえる未来を求めるように・・。


沙希の肩に手を置く。


「沙希ちゃんがこんなに想っててくれるんだから、その想いも届くはず」


力を込めて頷く。


「意識がないとか昏睡状態とか、人間の生命力って凄いんだから。現代の医療技術も目覚ましい勢いで進んでるはず。目覚めないわけがない。必ず沙希ちゃんの元へお父さんは帰ってくる。私もお父さんの事祈るわ」


昼休み終了のチャイムが鳴る。


沙希は立ち上がり、


「ありがとう先生。先生とお話しできて良かった」


「うん、私も。・・それと潜入ー」


「大丈夫。守秘義務は守ります。2人だけの秘密!」


笑顔で駆け走り教室に戻る。


「・・・・・・・」




回想


3年前の夜。


郊外を走行する乗用車。


運転男性(人間時ボス)


助手席にはプレゼントの箱とケーキ。


トラックの煽り運転が始まり、追い越しを繰り返し執拗に幅寄せしてくる。


何度も突き当り衝突してくるトラック。


ガードレールに挟まれ、弾みで乗用車横転。


「!」


横転しながら運転席側から電信柱に衝突。


車大破。


意識が遠のく。



暗転からの目覚め。

家の中のシェパード犬として目覚める。


犬 <!> 


窓ガラスの反射で自分が犬と認識。


<???>


人間から犬へとなった姿に、入れ替わりに戸惑う。


家主らしき男が、


「今の音、事故じゃないか?」


家主夫婦が外へと。意味が分からないまま直感で犬の姿で後を追う。


道路に出ると、見る影もない変形した車。


妻が、


「救急車!」と家へ引き返す。



潰れた車に近づき、車内に自分の姿を見る。頭部から流出する血。


家主が諦めたように、


「こりゃ酷い。助からんなこれ・・」


<・・・・・>



回想終わり




事務所。


<パニックだったさ。血まみれになったオレ自身を見てるんだから>


「・・・・・」


<救急車で搬送された後、飼い主から逃れこの喫茶店に戻ってきた>

<その後いろいろあるが割愛する>


<病院では意識不明の重体>

<当時から現在まで延命処置を受けているが、回復の見込みは絶望的らしい>


「・・・・・」


<そういうことだ>


「・・入れ替わりということですか」


<信じるか>


「目の前にいますから」


<仮に意識を取り戻したとする。その時オレは犬のままなのか。戻れるのか>

<死んだらこの意識ごと消え去るのか>

<意識が回復して人間に戻れたとしても身体の麻痺や言語障害、記憶障害の弊害の可能性がある>

<戻れても一生寝たきりか。それならいっそ犬のままがいいのか>


「・・・・・」


<悩んだところで、どう転ぶかオレ自身が選択できるわけではないがな>

<まあ現状はこれで満足してる。この成りでも娘の成長を見守ることができるからな>

<肉体が死んだと思えば、この状況でも儲けものと思うしかない>


沈黙。


娘を見守る・・小さい事件?・・そうか!公園の露出狂。援交のデータ。今回の服盗難。この町での出来事。沙希ちゃんの住む町。ボスにとって守るべき町イコール沙希ちゃんなんだ。どんな小さな事件でも出来事でも沙希ちゃんの周りの害を取り除く・・。


「沙希ちゃんもこんなに想ってくれて幸せ者ですよ。そして沙希ちゃんも同じ気持ち。素敵です。素敵な親子です」



「沙希ちゃんに正体を明かさないんですか?」


<それはさすがにできん>


ボスの傍へ座り背中を摩る。


「理解してくれると思いますよ。それでこうして背中を摩ってくれるはず」


<娘と会うのは人間に戻ってからと決めている>



<今日は有難うな。娘の夢が聞けてよかった>


「ほとんどボスの受け売りでしたが」


<お前が考えてくれた言葉だ。心に響いたはずだ>


私もボスの言葉響きまくりなんですよ。


<しかし探偵の助手か。複雑だ>


「沙希ちゃんが私のような仕事できますかね?」


<こんなお色気作戦はさせん>


「・・・・・」


響きまくり撤回・・。





翌日。学校。


警察に連行される若い女性業者。


2階の窓越しからそれを見つめる。


これでこことはお別れか。ちょっと寂しいかな。


コイズミ教員が、


「お手柄ね」


「初めからボス犯人分かってました。一応探偵助手の私の為に考える時間を与えててくれてたんです」


「部下の成長を促すための潜入、それと娘の映像。一石二鳥というわけね。更衣室にオトリの服30着用意したのは笑えるわ」


「・・コイズミ先生、短い間でしたがお世話になりました」


「うん、次は体育、最後に参加してもらうよ」


胸のカメラ内蔵ペンを取る。


「別角度から撮ってあげる。それぐらいはサービスしましょう」


「はい、お願いします」


コイズミはペンを見ながら、


「泰造も変わったね。結婚してからか、娘が居るからか・・」


「・・ボスも変わったんですか?」


「いろいろね。・・まあいい方向に進んでて何よりだ」


「・・・・・」




スマホ画像。

クラス集合画像。

バレーボール画像。

チヨ、沙希、マセ子3ショット画像。



4終わり




5 二つ名




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