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喫茶探偵物語  作者: ゆきんこ
3/27

千仍日記 その1

ー喫茶探偵物語3ー  


千仍日記 その1



喫茶店探偵物語2階。


チヨ、机の上のノートPCを開き、ワード画面に文字を打ち込む。


千仍日記 その1 


(今日から日記をつけます!)


(ここに来て3週間経ちました。私の働いている所は喫茶店ともう一つ別の顔がある。喫茶店内隣りの事務所は探偵事務所。名称は桧山探偵事務所)


(業界でも上位に位置する有名な探偵事務所ということだ。ここの事務所は全国に支店を構える頂点という位置づけらしい。そんなに名の知れた探偵事務所なのかと正直これには驚いた)


(この2階の部屋は元々ボスが人間だった頃に寝泊まりしていた所だ。今は私が住み込みで使わせてもらっている)


(部屋の置物には年代物のステレオ、ラジカセ、ラジオ、ウォークマン。模造刀、手裏剣、額の中の大判小判。壁には古い洋邦のポスター)


(私には馴染みのない者ばかり。昭和の時代とかよくわからないけど、その時代で時間が止まったような、ここはそんな空間だ)



事務所。


だらしなく横になってネットをしているボス。

犬専用マウスでカチカチしている。


「ボス、お早うございます。朝食です」


(ボスの食事作りも私の仕事だ。カロリー計算された詳細のレシピが有り、私でも料理は楽に作れる。自分の食事も並行で作るのでそれほど手間ではない)


(ボスとの会話は仕事以外あまりない。というかしてくれない。プライベートな事や映画の話しをしてみたいがキーボード操作が面倒らしい。仕事のない時はネットか寝てるか野球を観てるかだ)


(仕事でボスは週2で外出をする。支部の人が来て各探偵事務所を回っている。昨日は夜遅かったので今日はお休み、ダラダラモードだ)



喫茶店内。


「マスター、お早うございます」


「お早う、チヨ君」


(ものすごく優しい。が、別の一面もある。闇金が来た時の威圧感のある低い声。裏の世界の住人?顔が利く?会社を経営してるらしいが、その規模とか詳しいことは知らされていない。謎の人物。けど私に向けられる笑顔は私を安心させ元気にさせてくれる)


(3週間、事件もなくウェイトレスか事務所での簡単な雑用だけ。マスターは私が来たからかほとんど出掛ける事が多い。それでも暇なくらいだ。10時から仕込み、11時開店、16時閉店。それで終了)


(表玄関の休止の貼り紙の事を聞いてみたが、それがなくなれば休日は混雑するほど大変らしい。人気店?確かにマスターの煎れたコーヒーは美味い。あまりに混むならこのままでいいかな、うん)


(休日や仕事が終わっての夕方以降、正直暇を持て余している。マスターは役者の勉強をしてもいいと言ってくれる。けど、ここで仕事をしてる間はそれはやめておこうと決めている)

 

(ジムに入会した。まだ1度しか行ってないけど。探偵業に体力は必要ないかもしれないけど、体を鍛えて損はなし、健康な体を維持したい。まあダイエット目的でもあるけど)


(彼氏が居ればいいが元彼で懲りた。しばらく男はいい。けど欲しい。どっちだ私?少なくともナンパやすり寄ってくる男は論外だ)


(ここに来てそれなりに充実している。上京後はアパートで独り寂しく台本を読み込み、バイトして気まずい人間関係。何をするにも自信がなく意見もできず逃げてばかり)


(あの時のボスから受けた言葉が心に沁みた。意識改革しなければならないと思っている。とりあえず自信を持つこと。心を強く、自分の意見を言えることになること)


(理不尽な男を打ち負かすぐらい強くなる。卑劣な犯罪者には正義の鉄拳をくらわす・・・ムリムリ。それは一生できそうにない。まずは自信から。小さいけどこれを目標にして頑張ろうと思う)



(所員は皆いい人ばかりだ。私を助けて協力してくれた恩もあるが、それを抜きにしても優しい人たちばかり。ちょっと刺激が強すぎるけど・・)


(ミヤコさん

胸が大きくセクシーでいい女だ。年齢は教えてくれない。所員の間で秘密はなかったのではないのか?よく体をタッチしてくる。私の体を狙っている?冗談だと思うが、・・そう思いたい。いままで私の傍に居なかったタイプの人間)


(ヨシダさん

私の見立てでは、見たままだがハッカーだ。どんな情報でも瞬時に引き出しタブレットに表示させる。違法?どう見ても公式とは思えない・・。

とりあえずその辺に関しては見なかったこと、スルーしている。怖いし)


(フジシマさん  

30歳、既婚。父親の会社と探偵の掛け持ち。ボスの直属の部下で、スケジュールからボスの全ての業務を担っている。イケメンな青年だ。ボスとの仕事の打ち合わせで週3日は来る。優しく親切で誠実だ。私にも親切丁寧に仕事を教えてくれる)


(実は初日の事件の時に会っていた。私へのサポートだ。あの時は台本が出来ていたそうで、それをフジシマさんが口頭で送り私が読み上げるだけだった。これからは台本を全部記憶して、突発的な事態に対してはボスがモールスを送り直でやり取りをするらしい。そんな高度な技、モールスの時間差とか、できるのか私・・)


(頻繁に推理する事件があるのだろうか?)


(聞いてみた)


「初日のような推理劇はあまりないですよ。モールスは慣れです。毎日ボスと過ごしているうちに呼吸も合ってくるでしょう。相川さんならできます」


呼吸も何も、あまり話してくれないんですが・・。


「他にもいろいろお仕事とか振られるんでしょうか?」


「警察からの依頼や大きな事件は私たちの領分です。相川さんとは無縁ですからそこは心配しなくていいです」


「・・そうですか」


(情けないがその言葉に心底安心した。あまりに大事な仕事は私には無理だ。しかしボス有能っぽい。警察からの依頼とか、出来る男っぽい)




「有難うございました」


近所の老夫婦が店を出る。

いつもニコニコ仲の良い夫婦で見ていて癒される。


(それなりに喫茶店にお客は来る。常連さんだ。週に1度来て執筆をしている作家さん。終始台本を読んでいる若い女性。近所の主婦。老夫婦。みんなマスターのコーヒー目当てなら相当なプレッシャーだ)



(2階にテレビはなかったが、マスターから入社祝いとしてレコーダー付きテレビを購入してもらった。テレビなど東京に来てから余裕がなくほとんど観ることはなかった。落ち着いて映画が観られるのは嬉しい。一応趣味は映画観賞だ。父親の影響で古い映画、ドラマなどが好みだ)


(何気に番組欄を見ると、名探偵コナンが目につく。小学生のころ観た記憶がある。探偵助手としてこれは見逃せない。私のやってるのこれっぽいよね?)


(ボスが犬になったのはこのパターンか?高校生から子供になる、が人間から犬になる。謎の組織に注射を打たれて、薬だったか?これ以上説得力のある正解があるだろうか?)


(聞いてみた)


<漫画かよ>


(違った)




鈴が鳴り、ミヤコが入って来る。


「ミヤコさん!」


3日ぶりだ。


(3日前にミヤコさんが1冊の本を持ってきた)


「チヨは小説とか読む?」


「活字はあまり読みませんね」


「お勧め持ってきたんだけど」


「お勧めなら読みたいです。けっこう暇なんで」


「シリーズ物の1巻なんだけどね」


本を差し出す。


<喫茶探偵物語 1>


「・・・んっ?」


ミヤコにっこり。


その夜に読んでみた。


(犬じゃない人間のボスは狂犬と呼ばれる探偵所長)

(マスターは喫茶店経営者。もうひとつ別の顔がある。

裏の世界を牛耳る闇のフィクサー。フィクサーってなに?)

(姐さんと呼ばれる謎のマダム)

(競馬ギャンブル好きの凄腕の情報屋)


(他にも癖の強い人たち。喫茶店を舞台に物語は進む。皆との出会い。それぞれの確執。ハードボイルドでシリアス路線。ラストの銃撃戦)


(私がここで出会った3人と1匹。どれも裏の顔がこの小説の中に見受けられた)



ミヤコがカウンター席に座る。


「喫茶探偵物語、読みました」


「読んだ?どうよ、私、いっつも巻きまれるの。ひどくない?」


憤慨するミヤコ。


「・・フィクション、ですよね?」


「どう思う?」


怖くて聞けない?ラストなんてありえないし・・。


「まあ、ちょっとオーバーな描写があるくらいかな?」


フフフフフと笑うミヤコ。


(どこまで本当?読み進めて行けばここの歴史がわかるということ?

2巻以降読むのが怖くなる。・・けど怖いもの見たさで読んでみたい・・)


「今度2巻を持ってきて進ぜよう」


「・・有難うございます」


鈴が鳴る。


秘書らしき男を引き連れ恰幅のいい男性が、テーブルのメニュー表を取り、私の方に放り投げてきた。


慌てて受け止める。


横暴な態度で、


「依頼だ。所長を呼べ」


「・・・・・」


ミヤコの目つきが変わる。


「あんた、誰よ。名乗りもせず」


舌打ちをして名刺をカウンターに放る。


○○党 浅田大輔


ミヤコはそれを見て、


「ほう、これはこれは」


ニュースで見かけたことがある顔だ。大企業からリベートを受け取ったとか、国会で問題発言とかの政治家の人。


「勘違いしなさんな。ここはあんたなんかの小物が来るようなとこじゃないよ」


「・・私は赤坂先生の紹介できたんだ!」


「筋も通さずあの人も落ちたもんね。ここは駆け込み寺じゃないんだ」


「お前じゃ話しにならん!そこか!?」


事務所のドアに向かう。


「おい!」


「・・・・・」


「そのドアノブに手を掛けるということは、健三郎に手を掛けると同義だ。その覚悟はあるのか?」


「・・・・・」


「だから・・その健三郎に話しを通す為に・・」


「失せろ」


「・・お前は、誰だ?」


「そっちの秘書が知ってそうな顔だぞ」


秘書のミヤコの見る目が恐怖に引きつってる。


秘書が耳打ちをすると、


浅田は青ざめる。


「あ、あの・・五月様・・」


下手にでる浅田。


「私は寛容だけど、あんたにはそれができそうにない。今すぐ無言で帰るなら、今日の事忘れるくらいはできるけど」


五月様・・ミヤコさんは権力者が媚びるぐらいの地位を持ってるってこと?


無言で喫茶店を出る。


「私が居て良かった。チヨじゃ押し切られたわね。ボスの怒りは私の比じゃないから」


ミヤコさんの凄みは小説そのもの。もう謎のマダムとしか思えない・・。今の言いよう、ボスも狂犬としか・・。


「健三郎、さんって、ボスですか?」


「違う違う。もっと大物よ」


「・・誰でしょうか?」


何となくこの流れから想像がつく。


「聞く?2巻目、ネタバレなっちゃうよ」


それならしょうがない・・じゃないよ!確定したよ、誰なのか・・。


「せっかくチヨとのプライベートタイムを、ケチがついたね」


笑う。


いつものミヤコさんに戻る。


「・・でも、格好良かったです、ミヤコさん」


「惚れた?」


「惚れましたけど、怖さが上回りました」


「逆効果!失敗かよ・・。あの手の輩は甘くするとつけ上がるからね。

これぐらいしないと」


しばらくお話しをしてミヤコさんは帰っていく。



時計が16時を指す。


今日のお仕事は終わりかな?


事務所の黒電話鳴る。


初めて鳴った!


事務所に入って電話を取る。


初めて触ったよ、黒電話!


内容は隣町の公園にコートを羽織った全裸の露出狂が現れたという事件だった。


こんな小さな事件引き受けるわけないと思いつつボスに伝えると受けた。


1日事務所に籠っていたヨシダと一緒にネットで地図を表示し真剣に打ち合わせを始める。


コーヒーをヨシダに持っていくと、


「嬢ちゃん、身長は何センチだ?」


「・・165センチですけど」


ボスは私を見つめている。


「今日は残業だ」


何だろう・・イヤな予感がするんですけど・・。




女子高生の制服を着せられる私。


「・・・・・」


<あどけさがない。初らしさがない、さすがに苦しいだろう>


「じゃあさせないでください!もうすぐ私22歳ですよ!・・せめて、こうOLとかの制服にしてください」


<まあ、ギリ通用するな>


「恥ずかしいんですが・・」


<胸がな。残念だ>


「うむ」


ヨシダも頷く。


「それセクハラなんですけど」


<実はまな板が最大のネックで不採用手前だった>


「胸基準だったの!?」


て言うか、まな板って何よ!!



タブレットの地図に発生マップの印が5つ。


ヨシダはモニターを指し、


「8日間で6回。発生場所からみてこの町に近づいている。予測では変態男の次の出現場所はこの町の○○公園だ」


「初のオトリ捜査だな。頑張れ」


変態の、ーーーなんて見たくないけど、これも仕事か・・。しかし、何という羞恥心な格好だ・・。


<AVに出て来る女子高生にしか見えんな>


この犬は・・・・・。



夜。


辟易しながら公園を歩く。

胸に小型携帯映像カメラ。事務所と繋がっている。


帰りたい・・。安全は保障してくれると言ってるけど・・。


手には電気スタンガン。

こんなの怖くて使えないよ・・。


ヨシダから通信が来る。


「「援交されまくりだな」


「・・・・・」


また中年男が寄ってくる。


「お姉さん、・・・4、いや5本で」


無視。


「ちょっとこれは異常じゃないですか?」


「「ヒドイな、ここはそういう場所ということか?」


「ネットの、裏掲示板とか、そんなのですかね?」


「「これはこれで問題だ。データを撮る」


「・・趣旨変わってません?」



「「そこは通りから通りのショートカットできるところだ。重点的に歩け」


もう1時間も歩き続けている。エンコウ狙い5人に声を掛けられた。男どものいやらしい目つき、欲望にはうんざりだ。


「男性不信になりますよ」


通信機からボスの機械音の声。


<文句は垂れるな。しばらく男はいいんだろう>


「別に欲しくないわけでは・・」


<なんだ、欲求不満か>


「セクハラですって、それ」



前方に挙動不審の男が現れる。


コートを羽織って周辺を見回している。


絶対こいつだ!


コート男は私に近づき目の前へと。


緊張、警戒する。


男は胸を凝視。


フッと笑われ、そのままスルーされ後方へと。


「・・・・・」


<残念おっぱいか>


数々のセクハラ発言、男の対応に何かキレた。


後ろから蹴りを入れ、倒れ仰向けになる男。コートがはだけ全裸が目に映る。


「!」


怒りからか思わず股間を蹴る。


ぎゃああああ!気色悪い感触がああああ!


地面に転げまわる男。


<お前、そんなに見たかったのか?>


「うるさい!」


待機した探偵支部の男数人が茂みから現れる。


その一人が、


「ナイス金ケリです」


その言葉に赤面するしかない・・。


全裸男を抑え連れ去る男たち。


何するんだろう?ただの変質者だよね?・・まあ女の敵は許せないけど。




喫茶店。


トレーナーに着替え事務所に戻るとヨシダが、


「外見より中身だ。気にするな」


頷くボス。


「セクハラコンビ」


(散々な目に遭ったが、そんな言葉に少し笑ってしまう)


(劇団にいた時、小さな悪意や中傷が私に向けられていた。元彼といた時は常に不安定だった。この場所にはそんなものは存在しない。セクハラは論外だけど・・)


(まだまだ謎だらけだけど、どこか安心できる人たち。ここに居られるのは幸運な事なのかもしれない。感謝しよう)



(なんかキレてしまった!変質者に正義の蹴り(?)を入れてしまった!私ってそんな性格だった?私、変わったの?意識改革?いやいや、これは違う。これは感覚の麻痺だ。環境だ。過激な周りの人たちの、影響を受け・・・・・)


(内気で控えめな女性に戻ります。・・・戻れるかな?)



3終わり







4 「ボスの娘」


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