報告
ー喫茶探偵物語23ー
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教室。休み時間。
机を挟んでメイとの話し。
「ーバスケット、ソフトボール、陸上、だ」
「運動部ほとんど勧誘?」
「私が居れば、トラブルの元になる」
「・・そんなの気にしなくても。メイの本心は?部活動したい?」
「本心は、興味はないだ。今度、隣町の空手道場に、見学に行く」
メイの放課後はジムと柔道に通っている。空手も加わるのか。
「マセ子、どうだ?」
「・・いや、私、肉体派じゃないし」
「できれば、沙希と一緒に、護身術を習得させたいが」
「沙希は文芸部だし、私も演劇の方に・・」
横で話しを聞いていた綾波が手を上げる。
「はい!ジムに行きたい!空手にも興味ある!」
細身の綾波を見る。
「今時のJkとは思えない発言だけど・・」
「人間、向上心は必要。人を見かけで判断しないことね」
「綾波、その心意気、歓迎する」
「護身術も、もしもの為の寝技も教えてくれる?」
興奮気味な綾波。
「・・お、おう」
ブレないな、綾波。
「マセ子も鍛えないと。役者目指してるなら外見も磨く。そんな一般的な体形だから光るものも、オーデションも通らないのよ」
「・・いいこと言うな。この言葉は心に刺さるよ」
メイを見る。
空手はともかく、ジムか。護身術も覚えていてもいいかも。
「マセ子、やる気でたか?」
「待って!メイの最初は私だからね!」
最初って何だよ・・・。
表情の優れない沙希が友人の夏帆と共にトイレから戻って来る。
夏帆が青ざめた沙希を椅子に座らせる。
「沙希、気分が悪いの?」
「・・大丈夫」
メイが夏帆に問いただす。
「夏帆、どうした?」
「バカな上級生がナンパしてきたの。断っても断っても強引で。それでも断ると、捨て台詞吐いて肩押して転ばせたの。あー、許せないあの男!」
沙希は力なく微笑み、
「平気、びっくりしただけ」
メイの目つきが変わっている。
「怪我はないか?」
「うん」
腕や背中を触り確認する。
「その男は誰だ?」
「可愛い子を見るとちょっかい出す有名な奴ね。2年の飯田とかいう奴」
「夏帆、案内しろ」
メイが歩き出し、沙希が引き止める。
「メイ、大丈夫だから!」
「心配するな。話しをしてくるだけだ」
沙希が心配そうに私を見る。
冷静だがこんなに怒りに満ちた目は見たことがない。
注意事項を思い出す。怒りや興奮で頬の傷が浮かび上がると。はっきりとそれが見えた。
教室を出るメイを沙希と綾波と追いかける。
2年教室。
上級生女子が男子グループの中の一人を指さす。
迷うことなくメイは男子に近づく。
「おー、噂の1年の、白銀の眼帯少女!マジ?超可愛い!」
「お前が、飯田か?」
「え?告白?」
「廊下で、沙希を転ばせた、飯田か?」
「・・さっきの?・・ちょっと触れただけ。それより、あの子より断然君の方が好みだよ!」
「かがめ」
「え?」
「顔を近づけろ」
「なになに、どうしたの?」
笑顔で飯田が顔を近づけるとメイは髪の毛を両手で掴み、膝で顔面を叩きのめす。
騒然とする教室。
仰向けに倒れた飯田に馬乗りに乗り、
「2度とするな」
「え、え、え?」
「沙希の事だ。次は、ない」
「・・・・・」
「承知したか?」
頷く。
メイは立ち上がり、飯田を起き上がらせる。唇が切れそれをハンカチで拭く。
「今の出来事に、何か問題は?」
「・・・・・」
「あるのか?」
「・・ない、です」
「すまなかった。血を流せて。ハンカチはやる」
メイは私たちの元へと。
「解決した」
「メイ、やり過ぎ」
「すまない。イラッときた」
「それでも暴力はダメ」
「・・善処する」
綾波が興奮した様子で、
「ねえねえ、もし私が同じことされたら助けてくれる?」
「当然だ」
喫茶店。
事務所。
「当然だ」
「綾波、何言ってるの!」
「だって彼氏が助けてくれたみたいでカッコいいじゃなーい」
動画が終わる。
フジシマが私を見て、
「一応これでも自重してるみたいです。顔面への衝撃も弱く抑えて問題はありませんね」
「・・あれで自重してたんですか?」
普段は全力?あの街での引ったくりとか?
犬を見ると満足そうに首をこくりと頷く。娘への復讐(?)にご満悦の表情だ。
キーボードを押す犬。
<ごうくろう。沙希成分が少ない。もっと映してくれ>
それどころじゃなかったよ!・・この犬もブレないな。
「貴重な映像です。今後ともよろしくお願いします」
何かもうここの基準が全然私の世界と違うんですけど。
メイの過去とか正体を知りたいけど恐いところもある。秘密と言われているので教えてはくれないだろうけど。日に日に暗殺者というイメージが私の中で出来上がっている・・。
フジシマが察したのか、
「ご免ね、言えなくて」
「・・いえ」
相川先生もここではこんな風なのかな?ここでは驚かされる毎日と言っていた。
喫茶店が臨時休業だったの思い出し、
「今日は相川先生居ませんけど、お休みですか?」
「・・・・・」
フジシマが真顔になり犬を見る。
犬はコクンと頷く。
「相川さんは病院で」
「どこか悪いんですか?」
<これを観ろ>
犬がモニターを指す。
<昨日の動画だ>
事務所内の映像に相川先生が入って来る。
「夕食です」
食器を置く。
「最近、小芝居ないですね?ボス」
<さすがにできんだろ>
「?」
<生理が遅れて何日だ>
「はあ!?」
<今日もない>
顔を赤くして、机の上の本を取り角で頭を引っぱたく。
ギャン!!
「なななななな、に・・」
<そこに包みがある。調べろ>
混乱しながら包みを取り、中身を見つめたまま固まる。
「・・・ここで?」
<アホ、トイレ行け>
慌てて画面から消える。
フジシマに、
「あの、もしかして・・」
「その、もしかです」
「・・・・・・」
犬が、
<動物虐待だろう、これ>
「セクハラです」
犬の嗅覚、怖えー。
相川先生が画面に現れる。
「ボス・・・陽性でした」
<明日は病院行け>
動画が終わる。
「・・・・・・」
「昼から産婦人科の方に」
「・・刑事の、彼氏さんの、ですよね?」
「はい」
「それは、その、計画的にとかじゃないですよね。慌てぶりから・・」
「すみません、高校生の娘さんにこれ以上は」
「大丈夫です。知識はありますし、マセ子と呼ばれてますから。当の本人から!」
「・・避妊用具がなかった時が何度かあったらしいです。ここ何日か遅れていて不安だったらしいですが、結果に驚きながらも実感が徐々に湧き、授かったことを受けとめて喜んでいるようでした」
「・・・・・」
「昨日、彼氏さんと今後の話し合いを行いました」
「相川先生、ここやめるんですか?」
「やめたくないとの希望で、もうしばらくはここで働き、産休後復帰の予定です」
「それと彼氏さんにはボスの正体を明かしました。元々桧山警部の部下で、仕事上絡むことがありますのでこの機会にと」
けっこうオープンだな。秘密。
犬やメイだけでも驚きの連続なのに、相川先生も身体を張って驚かせなくても・・・。
喫茶店の鈴が鳴る音。
「帰ってきたようですね」
ドアが開く。
「ただいま戻りまし・・・・」
私を見て驚く相川先生。
フジシマを見て、
「言いました?」
「はい、すみません。いずれですから」
「おめでとうございます!相川先生!」
「・・・ありがとう」
戸惑いながら、笑顔になる相川先生。
23終わり




