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喫茶探偵物語  作者: ゆきんこ
23/27

報告


ー喫茶探偵物語23ー


報告




教室。休み時間。


机を挟んでメイとの話し。


「ーバスケット、ソフトボール、陸上、だ」


「運動部ほとんど勧誘?」


「私が居れば、トラブルの元になる」


「・・そんなの気にしなくても。メイの本心は?部活動したい?」


「本心は、興味はないだ。今度、隣町の空手道場に、見学に行く」


メイの放課後はジムと柔道に通っている。空手も加わるのか。


「マセ子、どうだ?」


「・・いや、私、肉体派じゃないし」


「できれば、沙希と一緒に、護身術を習得させたいが」


「沙希は文芸部だし、私も演劇の方に・・」


横で話しを聞いていた綾波が手を上げる。


「はい!ジムに行きたい!空手にも興味ある!」


細身の綾波を見る。


「今時のJkとは思えない発言だけど・・」


「人間、向上心は必要。人を見かけで判断しないことね」


「綾波、その心意気、歓迎する」


「護身術も、もしもの為の寝技も教えてくれる?」


興奮気味な綾波。


「・・お、おう」


ブレないな、綾波。


「マセ子も鍛えないと。役者目指してるなら外見も磨く。そんな一般的な体形だから光るものも、オーデションも通らないのよ」


「・・いいこと言うな。この言葉は心に刺さるよ」


メイを見る。


空手はともかく、ジムか。護身術も覚えていてもいいかも。


「マセ子、やる気でたか?」


「待って!メイの最初は私だからね!」


最初って何だよ・・・。



表情の優れない沙希が友人の夏帆と共にトイレから戻って来る。


夏帆が青ざめた沙希を椅子に座らせる。


「沙希、気分が悪いの?」


「・・大丈夫」


メイが夏帆に問いただす。


「夏帆、どうした?」


「バカな上級生がナンパしてきたの。断っても断っても強引で。それでも断ると、捨て台詞吐いて肩押して転ばせたの。あー、許せないあの男!」


沙希は力なく微笑み、


「平気、びっくりしただけ」


メイの目つきが変わっている。


「怪我はないか?」


「うん」


腕や背中を触り確認する。


「その男は誰だ?」


「可愛い子を見るとちょっかい出す有名な奴ね。2年の飯田とかいう奴」


「夏帆、案内しろ」


メイが歩き出し、沙希が引き止める。


「メイ、大丈夫だから!」


「心配するな。話しをしてくるだけだ」


沙希が心配そうに私を見る。


冷静だがこんなに怒りに満ちた目は見たことがない。

注意事項を思い出す。怒りや興奮で頬の傷が浮かび上がると。はっきりとそれが見えた。


教室を出るメイを沙希と綾波と追いかける。




2年教室。


上級生女子が男子グループの中の一人を指さす。


迷うことなくメイは男子に近づく。


「おー、噂の1年の、白銀の眼帯少女!マジ?超可愛い!」


「お前が、飯田か?」


「え?告白?」


「廊下で、沙希を転ばせた、飯田か?」


「・・さっきの?・・ちょっと触れただけ。それより、あの子より断然君の方が好みだよ!」


「かがめ」


「え?」


「顔を近づけろ」


「なになに、どうしたの?」


笑顔で飯田が顔を近づけるとメイは髪の毛を両手で掴み、膝で顔面を叩きのめす。


騒然とする教室。


仰向けに倒れた飯田に馬乗りに乗り、


「2度とするな」


「え、え、え?」


「沙希の事だ。次は、ない」


「・・・・・」


「承知したか?」


頷く。


メイは立ち上がり、飯田を起き上がらせる。唇が切れそれをハンカチで拭く。


「今の出来事に、何か問題は?」


「・・・・・」


「あるのか?」


「・・ない、です」


「すまなかった。血を流せて。ハンカチはやる」


メイは私たちの元へと。


「解決した」


「メイ、やり過ぎ」


「すまない。イラッときた」


「それでも暴力はダメ」


「・・善処する」


綾波が興奮した様子で、


「ねえねえ、もし私が同じことされたら助けてくれる?」


「当然だ」




喫茶店。


事務所。



「当然だ」


「綾波、何言ってるの!」


「だって彼氏が助けてくれたみたいでカッコいいじゃなーい」


動画が終わる。


フジシマが私を見て、


「一応これでも自重してるみたいです。顔面への衝撃も弱く抑えて問題はありませんね」


「・・あれで自重してたんですか?」


普段は全力?あの街での引ったくりとか?


犬を見ると満足そうに首をこくりと頷く。娘への復讐(?)にご満悦の表情だ。


キーボードを押す犬。


<ごうくろう。沙希成分が少ない。もっと映してくれ>


それどころじゃなかったよ!・・この犬もブレないな。


「貴重な映像です。今後ともよろしくお願いします」


何かもうここの基準が全然私の世界と違うんですけど。

メイの過去とか正体を知りたいけど恐いところもある。秘密と言われているので教えてはくれないだろうけど。日に日に暗殺者というイメージが私の中で出来上がっている・・。


フジシマが察したのか、


「ご免ね、言えなくて」


「・・いえ」


相川先生もここではこんな風なのかな?ここでは驚かされる毎日と言っていた。

喫茶店が臨時休業だったの思い出し、


「今日は相川先生居ませんけど、お休みですか?」


「・・・・・」


フジシマが真顔になり犬を見る。


犬はコクンと頷く。


「相川さんは病院で」


「どこか悪いんですか?」



<これを観ろ>


犬がモニターを指す。


<昨日の動画だ>


事務所内の映像に相川先生が入って来る。


「夕食です」


食器を置く。


「最近、小芝居ないですね?ボス」


<さすがにできんだろ>


「?」


<生理が遅れて何日だ>


「はあ!?」


<今日もない>


顔を赤くして、机の上の本を取り角で頭を引っぱたく。


ギャン!!


「なななななな、に・・」



<そこに包みがある。調べろ>


混乱しながら包みを取り、中身を見つめたまま固まる。


「・・・ここで?」


<アホ、トイレ行け>


慌てて画面から消える。




フジシマに、


「あの、もしかして・・」


「その、もしかです」


「・・・・・・」


犬が、


<動物虐待だろう、これ>


「セクハラです」


犬の嗅覚、怖えー。



相川先生が画面に現れる。


「ボス・・・陽性でした」


<明日は病院行け>


動画が終わる。



「・・・・・・」


「昼から産婦人科の方に」


「・・刑事の、彼氏さんの、ですよね?」


「はい」


「それは、その、計画的にとかじゃないですよね。慌てぶりから・・」


「すみません、高校生の娘さんにこれ以上は」


「大丈夫です。知識はありますし、マセ子と呼ばれてますから。当の本人から!」


「・・避妊用具がなかった時が何度かあったらしいです。ここ何日か遅れていて不安だったらしいですが、結果に驚きながらも実感が徐々に湧き、授かったことを受けとめて喜んでいるようでした」


「・・・・・」


「昨日、彼氏さんと今後の話し合いを行いました」


「相川先生、ここやめるんですか?」


「やめたくないとの希望で、もうしばらくはここで働き、産休後復帰の予定です」



「それと彼氏さんにはボスの正体を明かしました。元々桧山警部の部下で、仕事上絡むことがありますのでこの機会にと」


けっこうオープンだな。秘密。


犬やメイだけでも驚きの連続なのに、相川先生も身体を張って驚かせなくても・・・。




喫茶店の鈴が鳴る音。


「帰ってきたようですね」


ドアが開く。


「ただいま戻りまし・・・・」


私を見て驚く相川先生。


フジシマを見て、


「言いました?」


「はい、すみません。いずれですから」


「おめでとうございます!相川先生!」


「・・・ありがとう」


戸惑いながら、笑顔になる相川先生。




23終わり


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