メイ&マセ子
ー喫茶探偵物語22-
メイ&マセ子
高校生活編スタート!
1
桂城高校 1年2組 教室
朝のホームルーム。
女性担任教師は黒板の前に立った少女を紹介する。
「交通事故で入学が遅れた五月メイさんです」
地元の高校に沙希と一緒に共学となり、メイが10日遅れで入学してきた。
高校生の制服に白髪眼帯少女にクラスメイトはざわめく。制服効果のその容姿はまるでアニメの世界から飛び出したかのような、無表情美少女キャラ降臨だ。
喫茶店探偵物語。そこでいろいろな秘密を知ってしまった私。
転移して犬になった沙希の父親。剣菱彩の事情。
そして無口で無感情、身体能力が優れた少女五月メイ。
その少女メイと友達になってくれないかと頼まれ、断る理由もなく新しい友達を歓迎した。秘密も事情も知らされない沙希も笑顔でメイを迎え入れてくれた。
入学までの期間、日本の日常や常識に不慣れな為に勉強やマナー、街でのショッピング、ゲームで遊んだりと過ごした。私が用がある時は沙希と一緒のお菓子作りもしたらしい。無口であまり語らないメイだったが一生懸命さは伝わり、それなりに楽しい日を過ごした。
入学前のメインは相川先生に頼んだ撮影所見学。憧れの剣菱彩と話しをして、人生最高の日だった。
そして入学式を直前にしてメイの入院の一報。見舞いに行ったところ、怪我の理由は交通事故とのこと。相川先生の顔色から察するに何か危険な事が絡んでいるのではないかと私は思っている。運動神経や動体視力の優れたメイが交通事故なんかに遭うはずはない。もちろんその事は空気を読んで口には出さなかったけど。
「五月メイです。中国出身。日本での生活も、言葉も、まだよく分りませんが、よろしくお願いします」
会話がかなり流暢になっているよ!
休み時間。
「メイ、怪我の方は大丈夫?」
「ほぼ、完治した」
「心配したよ」
「沙希、マセ子、お見舞いありがとう。嬉しかった。これから、よろしく頼む」
頷く。
「こちらこそよろしくね。メイ」
「少年は?」
「高畑?あいつは別のクラスになった」
「そうか」
犬の権力(?)なのか、娘に好意を抱いている男は同じクラスから排除したと思う。
正直一緒のクラスじゃなくほっとした。卒業式後に告白して撃沈。関係性は今までと同じ友達関係で何も変わっていない。中学の時のままだ。
「そうそう、沙希はクラスの委員長になったの」
「それはクラスの、顔役か?」
「なにその顔役って?そこは、主席と言って!」
「ちょっと、その言い方も・・」
「成績優秀な子は避けて通れない道」
「さすがだ。沙希」
「・・好きでなったんじゃないよ。いつもこういうの選ばれるんだよね」
「立候補はしないけど、生徒会とかなしずくしに推薦され、決められるタイプだからね、沙希は」
「やめて、ミオ。現実になりそうだから!」
同じ中学出身の4人の友達をメイに紹介する。感情を表に出さないと思っていたが、作り笑顔なのか笑顔で接するメイ。
「いろいろ、ふつつか者だが、よろしくお願いする」
美少女の微笑み。男子ばかりか女子も顔を赤らめている。これには異性も同性も見惚れるしかない。何度も会って耐性のある私でも惚れてしまいそうだ。
この圧倒的貫禄と整った顔立ち、数日過ごしたがとても同い年とは思えなかった。背は低く幼い顔立ち、中1でも通用しそうだが、精神年齢や何より思考がかなり発達している。
「マセ子、顔合わせの次は、趣味を聞くんだな?」
「時間もないし、今日はまあこれくらいで。徐々にね」
「そうか」
メイは教室を見回す。
「残りは、自己紹介しなくても、いいのか?」
「他の子たちは、別の中学でまだそんなに親しくないんだよね。いま紹介した子らは私らと同じ中学校同士。それぞれ仲のいい子同士いろいろなグループあるの」
「派閥か?それとも、カースト制度が、存在するのか?」
「そんな大げさなものじゃないから。別に嫌っても上下もないから。普通に話しはするよ。まだ親しくお話しをする間柄じゃないんだよね」
「これから歩み寄ってお話ししたり、切っ掛けとかあるよ。私も他の子も何人かとライン交換してるし」
「様子見か」
「・・まあ、そうなるかな?」
「わたしは、多分、友達関係とか、そういうのは不得意だ」
「いいのいいの無理しなくても。相手と向き合った時とかお話しして、気が合いそうなら趣味を聞いたりとかで」
「わかった。趣味は万人向けの、映画。抜かりはない」
大丈夫か?見舞いの時、病室で観てたギャング映画とか、女子高ライフでは縁のない映画だぞ・・。
「沙希、借りたの観たぞ」
「観た?」
「ダーティ・ハリーシリーズは、最高だ」
「そうでしょ!」
「原語もいいが、吹き替えの声が、渋いな」
会話が弾む2人。
沙希も顔に似合わずけっこう渋いオールド系なんだよな。父親が所持してたとかで。犬が・・・。
授業中。
3つ前の席はメイ。真剣に話しを聞きノートを写している。
後ろは沙希。窓際のこの席はなかなかのベストポジションだ。
ペン型カメラを見る。
フジシマさんからメイ絡みで問題が発生した時は撮れと言われている。犬からは問題がない時は沙希を撮ってくれと。
相川先生が教育実習に来た時も撮っていたらしい。娘の成長を見守りたいとはいえ、これって盗撮なんですけど・・。
昼休み。
昼食タイムが終わり、メイは椅子に座り腕を組み目を閉じている。眠っているのか精神統一してるのか?自分のペースを乱さない。
クラスのほとんどの子が注目しているが、メイからは近づきがたい雰囲気を醸し出している。私らと話ししてた時はほとんどが羨望の眼差しで見ていた。気持ちは分かる。これほどの中2病的美少女は存在しない。
同じ中学出身、他中の子たちから質問が集中する。
「ねえ、五月メイさんってどういう人?」
「交通事故で目に怪我したの?」
私もそれほど情報は持っている訳ではない。過激な部分は抑え、出会いや入学前に過ごした事を正直に打ち明ける。
撮影所での剣菱彩の事は学校では言わないと高畑を含み口止めをしている。嫉妬や炎上の元だ。本当は喋りたくてウズウズしているけど・・。
「えーーーー!」
女子の1人が大声を上げる。私と沙希をスマホと交互に見て、メイの方もチラチラと眺めている。
「・・・・・」
その女子がクラスでも目立つ綾波の元へと駆け寄り、スマホ画像を見せヒソヒソとしている。綾波がきつい目でこちらを睨む。
沙希が心配そうに、
「ミオ、あの画像じゃない?」
「・・高畑か!」
あれだけ人には晒すなと言ったのに!拡散までしてなに考えてる!
高畑からラインが来る。
<友達があの時の画像、勝手に見て、皆に転送して広めてしまった。ごめん。勢い凄くて、もしかしたらけっこう広まるかも>
もう広まってるよ!バカ!
あの写真は羨むか嫉妬の対象になる。綾波は怖い目で睨む。後の方だ・・。
綾波がゆっくりと歩いて来て、スマホを沙希の机に置く。
画像は撮影所で剣菱彩が沙希に後ろから笑顔で抱きつき、両端に私と高畑、端には無表情のメイと犬。
綾波は冷たい口調で、
「桧山委員長、・・・それと、あなた誰?」
「・・笹原よ」
この綾波という女子はこのクラスでもリーダー格に近い存在だった。剣菱彩の熱狂的ファンで髪形を真似て、何度もその話題で周囲と盛り上がっていた。
メイが口にしたクラスの頂点に立っているような女子。交友関係は上から目線でちょっときつく、明らかにプライドの高いお嬢様。
「超ヤバいんだけど、これ」
嫉妬心の目が突きささる。
「・・これは・・たまたま縁があってね」
「どんな縁よ」
「・・・知り合いのー」
メイが不穏を嗅ぎつけやって来る。
真っ直ぐな目で綾波を見据え黙らせる。
一目ぼれしたかのように徐々に顔が赤くなる綾波。
女子高生キラーだよ、メイ・・。
「・・こ、この眼帯の子は、あなたね?」
画像を見せる。
「そうだ」
メイは私を見て察したようだ。あの決まり事をしたのは病室で心配事は把握している。
「アヤは、わたしの友人だ。愛犬家繋がりの」
「愛犬家?彩様が?そんなこと聞いたことがないわ」
「この情報は、世に出ていない」
指先を綾波の唇に触れ、笑みを浮かべる。
「ここだけの、内密にしてくれ」
触れられた事で耳まで赤くなる綾波。
メイ、分かっててやってるだろう・・。
「マセ子も、高畑少年も、愛犬家繋がりと役者を目指す同志。機会があったから会わせた。沙希は、無理やり付き合わせた」
「・・・・・」
メイさん、他の人の前で「マセ子」はやめて!伝播するから!
「お前は、アヤが好きなのか?」
「・・彩様を嫌いな女子はいないわよ」
「そうか、もっと早くに、知り合ってれば、一緒に連れ出したんだがな」
「・・・・・」
「話しをしたいか?」
「・・したい」
「今日は、初対面の挨拶ということで、今回だけの特別」
スマホを取り出し操作。画面に事務所内でのアヤと犬が映る。
「アヤ、わたしに友達が、できるかできないかの、瀬戸際だ。ファンだそうだが、語ってくれるか?」
<いいよー>
クラス中を見回し、
「お前らと、わたしらは友達か?」
周囲も剣菱彩と聞きメイに注目している。
「友達になり得るか?」
大半が頷いている。
スマホを渡す。
綾波は画面の向こうに緊張し、
「彩様ですか?」
<おー、若々しくて可愛いじゃないか!メイの友達か、あの子なかなかの曲者だぞ>
笑う。
<私の髪形?いいねー>
クラスのほとんどが集まり剣菱彩の姿に興奮状態。黄色い悲鳴。
最高潮に盛り上がるクラスメイト。
「これで、飛び火は、今後、わたしに向けられる」
「そんな、メイが、そこまでしなくても」
「気にするな。友達も欲しかったしな」
「・・メイ、あんた漢前過ぎるよ」
「おとこ?わたしは女だが」
「いや、そう素直に受け取らないで・・。格好いいとか一種の褒め言葉みたいなもの」
「・・なるほど」
<映画の舞台挨拶予定してるから、クラス分チケット送るよ。良かったら来てねー>
歓声。
彩様もリップサービス、良すぎ。
5時間目の鐘が鳴り社会科の男性教師が入って来る。この騒ぎに注意を促しスマホを取り上げるも、画面を見て固まる。
<あれ?岩谷先生?>
「・・・剣菱君」
<わー、御無沙汰しております!今そこの高校に赴任ですか?>
綾波が割って入る。
「岩谷先生、彩様の教え子だったんですか?」
<そうそう、相変わらず威圧したような怖い顔で授業してる?>
「してます!全然笑いません!」
<堅物だけど、家に帰れば5匹の犬猫に囲まれて生活してるんですよねー>
「ウソー!!!」
盛り上がる教室。
メイは剣菱彩効果で一気にクラスの心掴んだ。一目置く存在。このクラスのカーストの頂点に立つんじゃない?
成り行きで、性格上それは望んでないと思うけど・・・。
2
体育の時間。
バスケットをするチーム戦。
見学の女子は駆けるメイを憧れの眼差しで追い、綾波は恋する乙女のような目で追っている。
「・・・・・」
こういうお約束的キャラも必要なのか?学校では・・。
バスケットボールは初めてらしいが皆から教わり、すぐにコツを掴みどこから投げてもボールはシュートする。
ほんとに何者だよ?
沙希が傍によって来る。
「ねえ、ミオ、あの身体どう思う?」
「・・あれか」
更衣室でメイは下着姿になると腕や足は傷だらけだった。私は相川先生から聞いていたが実際は想像以上の傷跡だった。沙希も驚き、クラスメイトもその光景に引いていた。
メイは意に返さず、
「気にするな。ただの古傷だ。受け入れられないなら、仕方がない」
その言葉にそこにいる誰もが受け止めた。逆に親密度が加速したようだ。
「過去に何があったのか知らないけど、メイはメイだ」
「うん」
「本人何も気にしてないようだし、嫌われるどころか、逆に好かれまくっているし」
「そうね。不思議な子ね。なんか愛おしく感じるよ」
沙希まで落ちたか、恐るべしメイ。
選手交代でメイがやって来る。
「メイ、凄いね!」
「どれだけ運動神経いいのよ?」
あの街中でひったくり犯とのやりとりとか思い出す。規格外にも程がある。
「あのメガネは誰だ?」
メイが指さす方向こうに、1人ぽつんと座ってる女子。
「・・沙希、分かる?」
「図書委員の伊藤さん。確か綾波さんと同じ中学だったかな?あまり話さない、おとなしい人だよ」
「着替えの時、腕に打撲や、火傷の跡があった。火傷は最近煙草を押し付けたもの、それと顔色も悪い」
「・・虐待の類?親とか?」
「ひどい」
「プライベートな問題は、どこまで追求できる?」
「・・とりあえず担任の先生に相談とかかな?」
「早期解決に、至るか?」
「・・早くには無理だと思う。家庭の問題はいろいろとあるから」
少女の顔色は青ざめ、思いつめたような表情。
「経験上、あれは、一線を越えそうだ」
メイは少女の元へ。
「おい」
ビクつく少女。
「学校、終わったら付き合え」
いやいや、それ怖いって・・・。
翌日、伊藤鏡花は入院したと担任からの報告があった。
メイから話しを聞く。
伊藤鏡花を連れて喫茶店探偵物語で事情を聞いたところ、
母親が再婚して1年後に交通事故で死去。
多額の保険金を受け取った義理の父親。
その後連れ子と一緒の虐待が始まり、
食事は昼食のパンひとつ与えられるだけだったという。
涙ながら語る伊藤鏡花の意思は義父との決別を望んでいた。
話しを終えると治療や栄養失調のため病院に連れて行ったらしい。
「フジシマに依頼した。不自然な、保険金受け取りや、事故の調査。鏡花にも保険金が、掛けらていたそうだ。ヨシダはクロと断定した」
判断力と行動力が並外れていた。教師や警察ではこれだけ早く動けないだろう。
相変わらずメイの休み時間は腕を組み瞑想している(?)。
周りの女子も綾波も話しかけられない。
結果、私の所に綾波が来る。
「知ってることは全部言ったから。話しかければ?別に嫌がらないと思うよ」
「邪魔はできない!」
「・・私、さっき休み時間、寝てるところ邪魔されたけど」
「マセ子は別に気にしないでしょう?」
そうですか・・格が違うんですね、わかります。
それとマセ子言うな・・別にいいけど・・・。
1週間後。
テレビで保険金目的の殺人罪のニュースが流れ、伊藤鏡花の義父は捕まった。
伊藤鏡花が登校して来る。
メイの元に駆け寄り、抱きしめ感謝の言葉を述べて泣きじゃくる。
頭を撫でるメイ。
綾波がそれを見て、
「つまりメイが鏡花の境遇に気付いて、助けたということ?」
「探偵所に依頼して、病院に連れて行って、義理の父親は逮捕という流れ」
「・・全然気付かなかった。付き合い長いんだけど無口でね。抱え込む性格で、・・もし、私とか指摘しても虐待されたことは喋らなかったと思う・・」
メイの強引さ、洞察力のおかげだ。もしかしたら保険金目当ての前に自殺とか最悪な事になっていたかもしれない。
慰めるメイの姿を羨ましがる綾波。恋する乙女のような目が怖い。
「次、私が抱きしめて貰ってもいいかな?」
「いやいやいや、ダメじゃん!変な方向にいくなよ・・」
「ちょっと。メイ、何で男の子じゃないのよ!付き合えないじゃない!」
「・・逆切れされても」
沙希が、
「綾波、伊藤さんにケアの方お願いできますか?もちろん私たちもメイも協力します」
「任せて。私が気付けなかったのが悔しいくらいよ」
伊藤鏡花が自分の席に戻ると、
「ねえ、行ってもいい?」
メイをチラチラ見る。
ケアはどうした?
「・・どうぞ」
この1週間お喋りをしていたが綾波はけっこう芯が通っていた。お高いお嬢様気質がたまに傷だが、リーダーシップが有り、なんだかんだと皆から頼られている。
メイに後ろから抱きしめる綾波。
驚き綾波を直視するメイ。
「鏡花を助けてくれて有難う」
「ん」
「私から感謝のキスしてもいい?」
「・・・ダメだ」
「女子高ルールで決まってるのよ。こういう時は」
メイの日常の疎さを逆手に取って何言い出す・・。
メイが後ろを振り向き私を見る。
首を横に振る。
「違うらしいぞ・・」
「違わない!」
「・・す、すまないが、離れてくれるか?」
動揺したメイを初めて見た。これはレアだ。
カメラで撮っておけばよかった。
22終わり




