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喫茶探偵物語  作者: ゆきんこ
21/27

マセ子


ー喫茶探偵物語21ー  


マセ子



探偵19 A組の子たち ラストからの続き  


マセ子視点



喫茶店。


「さすが探偵助手、バレてたか・・。まあ切っ掛けはそれもあるけど、目標はやっぱり剣菱彩ね。彩様、あの人に憧れない少女は存在しません」


剣菱彩って言ったら相川先生の顔が曇った。先生は秘密ばかり抱え込んでいる・・。


鈴鳴る。


「会いに来たよー」


振り返るとそこには満面笑みの剣菱彩の姿。


は?剣菱彩?え?ウソ、えーーー!?



剣菱彩は犬に菓子を与える沙希を見て睨みつける。


「チヨっち、これはどういうことですか?」


動揺する先生。


「ア、アヤ、・・ボ、所長の娘さんの、沙希ちゃんよ。知ってる?よね?」


チヨっち?アヤ?先生と剣菱彩は友達?えぇーーー!?


「そうでしたか、眼帯の子は?」


「・・ミヤコさんの、養子、中国からの」


「なるほど。その話しは聞いてました。・・で、大丈夫なんですね?」


「その件に関しては、そういう感情は一切なし。排除する対象者が現れたら、真っ先に連絡します。とりあえず事務所に行きましょう」


アヤは沙希の元へと、


「沙希、初めまして」


「・・はい」


「あなたは私の家族よ」


抱きしめる。


「!!!」


固まる沙希。


沙希から離れ、これ以上ない笑顔で犬に抱きつき、


「私たちー」


「ちょっと待ったー!」


先生は慌てて剣菱彩の元へと。


「そっか、ごめんごめん、チヨっち」


先生は犬とアヤを隣の事務所へ押し込む。


「ちょっと待っててね、みんな」


ドアが閉まる。



混乱中の沙希。


高畑は驚きながら、


「剣菱彩だよな」


「・・うん」


「家族って何?」



「沙希、今のなに?」


「・・わかんないよ」


「心当たりは?」


首を横に振る。


興奮する高畑。


「やべー剣菱彩だ。なあサイン貰えるかな?」


私も欲しいけど、今はそこじゃないし。空気読め高畑。



「私、昔一度会ってるんだよね。剣菱彩さんと」


「どこで?」


「お父さんの事故で、手術中の時病院で。多分私の事覚えてないと思う」


「剣菱彩がお父さんと知り合い?」


「・・多分、ストーカー事件の」


「ああ、あれか」


沙希のお父さんが関わっていたのか。


それで剣菱彩がここに?誰と会いに?昏睡状態の父親は何年も病院なはず。隣りの部屋に誰か居るのか?



事務所のドアが開きアヤの顔が現れる。


「ごめーん。ドラマのセリフでしたー。驚いた?ご免ね沙希、みんな。それじゃ、じゃあーねぇー」


消える。


3人 「・・・・・」


演技とはとても思えないくらい心がこもっていた。これが一流の女優?しかしここでセリフの練習はないだろう・・。


先生がドアから出てきて苦笑いしながら、


「まったくもうアヤ、お茶目なんだから」


「隣りに誰か居たの?」


「ん?・・誰も居ないけど」


「・・・・・」



「先生、剣菱彩と知り合い?」


「ええ、お仕事関係でね。今事務所の方からある調査を依頼されてて、中間報告でよくここに訪れるの」


「チヨっち、アヤって友達のような間柄みたい」


「そう?・・アヤは、フレンドリーだから・・」


冷静そうに装ってるが動揺が顔に出ている。


「仕事上、依頼人の事は第三者には知られては行けないし、何も言えない。ここでアヤと会ったことは守秘義務ということで内密にしてちょうだい。3人とも」


「・・・・・」




1週間後。


俳優養成スクールを出て外の大通りの歩道へと。


同期の少女が、


「美緒(マセ子)さん、またね」


「うん、来週ね」


同期の子と反対方向へと歩く。


オーディションも近いのに集中できなかったし、今日は高畑来なかったな。卒業まで何日もないのに・・1パーセントの望みを掛けて・・・。


ため息。


沙希可愛いからな。まあ無理なら無理と諦めもつくし・・。



コンビニエンスストアに剣菱彩の飲料水の広告ポスター。


「・・・・・」


小学生の頃、剣菱彩の映画を観て感動した。

1年前、同級生だった高畑に好意を抱いた。子役のチョイ役でテレビに出ていて、演劇スクールに居ると知って即入会した。軽い気持ちで演劇を始めたが、徐々に演技の楽しさに目覚めてきた。


剣菱彩。私レベルでは一生共演も会うことさえない大スター。それが目の前に現れた。謎を残して。あれは一体何だったんだろうか?


相川先生の不可解な慌てぶり。剣菱彩は最初に間違いなく会いに来たと言った。仕事関係や事件とかじゃない。ごまかしていた。隣りの事務所に誰も居ないのなら、誰と会いに?


沙希ではない。少なくとも剣菱彩にとっては初対面だった。先生でもない。親しそうだけどそんな感じじゃなかった。


沙希の父さん?見舞いなら病院だ。


犬・・・?犬と会う理由?


何故か真っ先に沙希を睨んだ。娘と分かって抱きしめた。何故?


一番の謎が沙希に言った「あなたは私の家族よ」の言葉だ。とても演技とは思えない心のこもった自然のものだった。


この場合・・養子縁組とか?何で剣菱彩が沙希と?・・再婚?沙希の父親の再婚相手ということなのか?どれだけ歳の差離れてるって話しだ。剣菱彩が病院で昏睡状態の父親に?それだとするなら、会いに行くのは病院ではないか?


犬と接した時の笑顔。消去法なら、犬に会いに来たとしか思えない。


犬の名前がボス?ボスと言えば、小説の喫茶探偵物語の所長の呼び名がそうだ。事故前の探偵社では沙希の父親はボスと呼ばれていたのか?


犬が何らかのキーを握っている?


信号機の赤で止まる。


まったく、分かりません・・。



信号が青になる。


向こう側に相川先生と犬に跨ったメイの姿。


なんてタイムリーな・・。


2人と1匹は通行人から注目を集めている。


凄い目立ってる。あのメイって子の乗るのはもうお決まり?



横断歩道を渡って後方から近づく。


「キャーーー!」


2人と1匹の前方から中年女性の悲鳴。


自転車に乗った引ったくり犯らしき男が、セカンドバックを奪いこちらに向かってくる。


近づく自転車に慌てている先生。


メイは犬から降りて走行してくる男に立ち向かう。


ちょっとちょっと、危ないって!


迫りくる自転車を除け横から後輪を足蹴り。素早く転倒した男の顔面、脇腹に攻撃を仕掛ける。


先生はメイを手で静止させ、喚き倒れた男に恐れながらスマホを浴びせる。


ギャッ、と悲鳴が上がり男は気絶。


「・・・・・」



周りの群衆から拍手喝采。メイは結束バンドで手足を縛ってガードレールに結び付ける。


手際良すぎ・・。普通の子じゃない?何者よ!?


先生は犬と向かい合いヒソヒソして、歩道に落ちたセカンドバックを被害者に渡す。


「警察に連絡を。ここで待機してください。犯人はしばらく起きませんので」


真横の飲食店の店員に、


「申し訳ありませんが証言をお願いします。ちょっとこちら急いでますので」


その場をいそいそと去る2人と1匹。


立ち尽くした被害者女性を通り過ぎて後を追いかける。



声を掛けようとすると、先生は犬に向かって、


「後で事情聴取とかイヤですよ。ボスが帰りたいだけなんじゃないんですか?」


「?」


しばらく間が有り、


「警部に連絡を?」


歩きながらブツブツと言いながらスマホを取り出す。


「・・すみません、桧山警部お願いできますか?」


桧山?・・沙希の叔父さん、確か警部じゃなかったかな?



電話の最中にメイがこちらを振り向く。


無表情な目と合い、お互い無言。


・・私の事覚えてるよね?


右手を上げあいさつする。


右手を上げ、首をコクンとあいさつだけして再び前を見て歩きだす。


え、それだけ?ドライ過ぎない!



電話中の先生。


「ボス、現場に戻れと言ってます」


犬に向かって喋る先生。


「・・・そりゃ目立ちたくないですけど」


どう見ても犬と喋っているようにしか見えない。


犬が首を横に振る。


「・・すみません。どうしても仕事がと・・・・・・はい・・何なら後で私が、・・・忙しいとこ、失礼いたします」


電話が終了し犬に向かって、


「カンカンですよ」


まるで犬と会話している感じだ。通じ合っている?


「はあああ!余計なお世話です!このセクハラ犬!今日の献立は質素な野菜尽くしです!決定しました」


犬と先生の睨み合い。


「抗えないでしょう?玉ねぎも入れましょうか?」


勝ち誇る先生。


どう見ても危ない人だ・・。


メイって子は会話にまるで興味がないのか無関心を貫いている。


睨み合いの様子を観察してると、


「ほー、ヨシダさんと焼き鳥屋に?アヤに報告しますよ。いいんですか?」


アヤ?剣菱彩?


「食事に関しては厳しく言われてるので。アヤに報・・・・・・」


会話の途中で私に気付き、先生と目が合う。犬もこちらに気付きメイを含みこちらを注目。


沈黙。


何この状況・・・。


犬がメイに向かって首をコクンと振る。素早くメイが馬乗りに乗り込むと前方へ疾走する。


「あ、待て」


角を曲がり姿が消える。



取り残された先生は青ざめた顔でこちらを向く。


沈黙。


「・・いつから居たのかな?」


「ひったくり犯から、犬と喋ってるところまで全部」


「・・・・・」


「先生って、犬と喋れるんですか?」


「・・・・・」


「犬の方からはどうやって?テレパシーみたいな感じで会話を?先生が能力者みたいな?」


動揺する先生。


核心突いたような。あり得ないけど・・。


「犬と会話ができる能力・・」



「さすがマセ子ね。感の鋭い子」


「・・・・・」


「私のバックにはとある組織の存在があるの。私のこの能力が一般市民に知れ渡ったら、ちょっとまずい事になる・・。秘匿で守秘義務に当たる、事案・・・」


不安そうに私の顔を伺う。


「何か、ウソくさいんですけど」


「え?」


沈黙。


「けど能力があるって認めるんですね」


「・・・・・」


「剣菱彩とか犬とか、秘密事多すぎません?私が子供で言えない事情とかあるかもしれないですけど、それを理由に先生は平気で嘘をつく人なんですか?喫茶店からけっこう話し反らされてますけど」


「・・・・・」


「別に責める気はないんだけど」


「ご免なさい。そんな能力はありませんでした。犬と話ししてた事は、意思疎通の訳は言えない。それは大人も子供も誰でも関係なくです・・・言えるものなら、言いたいんだけどね・・」


本心の言葉だ。ウソは付きたくないって顔。先生、顔に出過ぎだ。


知りたいが大人の事情があるなら仕方がない。それになんか怖いし・・関わっちゃいけないような・・。



「いいんですよ。この前言ってた、いつか話せる時にでもって。モヤモヤはするけど、固執はするつもりないから」


「マセ子、なんていい子なのー」


「ひとつだけ教えて。犬の名前はボスよね。事故前の沙希の父親はボスと呼ばれてたの?」


再び青ざめる。


「顔色がそうだと言ってますよ。分かりやすいです先生」


「・・・・・」


「先生、探偵向いてないよ」


「・・探偵じゃないから、助手だから。私はボスをサポートするだけ・・」


「ボスって、この場合、犬?人間のボスじゃなくて?」


先生は手で顔を覆いかぶせている。


本当に犬に仕えてる?さっきの様子では主従関係は犬が上っぽかったけど、まるで意味が分からない・・。



「分かった分かった、もういいよ。何も聞かない。どうせ意味分からないし。そのかわり剣菱彩のサインが欲しい。それでもう何も聞かない」


「・・それは、全力で任せてください」



2人で歩き出す。


「なんか、あの喫茶店ヤバくないですか?」


「・・それは否定しない。日々驚かされてるわね。いつの日かマセ子に暴露するのが楽しみかな?」


「・・じゃあその日を楽しみにしてるよ」



先生のスマホから着信音。


「彼氏から!?」


彼氏の事は知っても問題はないはず。この前はあれからお開きで聞けずじまいだったし。


覗く。


着信、五月メイ。


「メイちゃんから?初めての着信だ」


不思議そうにメール画面を開く。


<ささはらみおをこちらにひきこむ つれてこい ぼす>


メールの文章に驚く。


先生の顔が再び青ざめ私を見る。


「私を・・引込む?・・ボス。何これ!?連れて来いって?超怖いんだけど!」


先生は考え込み独り言のように、


「まあ・・マセ子はいいのか。問題は、さほど、ない・・」


「先生、怖いって!」


「マセ子」


「・・・・・」


「ようこそ、私たちの世界に。思いのほか早くに暴露する日がやってきました」


「こわいこわいこわい!やめてやめて!」


「楽しみにしてるんでしょう?」


「心の準備も、考えてみたら別にそんなに楽しみでもないし、ちょっと疑問に思ってるだけで、そこまで知りたくもないよ!」


「心の準備は私もなかったよ。あれよこれよと巻き込まれてしまって、私の人生は大きく変わった。マセ子はそこまで変わらないから安心して。秘密を抱えて胸の中にしまうだけ、うん、大丈夫。・・多分」


「多分ってなに?・・人生変わったってなに?」


「何かもう小さい私版を見てるようで、バラすのもちょっと面白いというか、同志が出来て秘密を共存するのが、嬉しいくらいかな?マセ子可愛いし」


「ちょっとちょっと、子供の私に何を望むの?・・逃げてもいい?」


「無理」


「・・・・・・・・」





喫茶店。


喫茶店の中には眼帯少女メイがテーブル席に座り、テーブルにはお菓子とジュースが置かれている。


「チヨ、ボス、よんでる」


「ちょっと待っててね。マセ子」


先生は事務所に入っていき、メイと2人になる。


正直、この子無表情で何を考えているのかわからない。片言で言葉の問題もあると思うけど。


「マセ子、すわれ」


先生のせいでマセ子定着してるよ。別にいいけど・・。


座る。


それより秘密って?ボスって犬のこと?私の勘が正しかったら・・。先生は来る途中、終始電話してて全然喋れなかったし。


この子は事情は知ってる?・・・知ってそうね。


「メイって呼ぶよ。いい?」


「いい」


「ボスって、犬?」


頷く。


「犬って喋れるの?」


「犬はしゃべれない。動物は人間とちがい、はっせいきかんの、こうぞう、ちがう」


映画やアニメではガンガン喋ってるけど・・って今はそれ違う・・。


「相川先生が犬に向かって喋ってたのは、どういうこと?」


「チヨが話して、ボスがモールスしんごうで、伝えてる」


「・・・犬が?モールス信号?」


頷く。


「マセ子。犬じゃない、ボスとよべ」


「・・はい」



「どうして・・ボスは人間の言葉が分かるの?知性がある犬が居るとは思えないんだけど」


「人間から、犬になった」


漫画やなろう小説の展開きちゃったよ!けどそれって何となく、今日の出来事で・・。


「犬のボスって、沙希のお父さん?」


「そう」


「・・それは転移したってこと?」


「てんい、その単語わからない」


「人間から、犬に意識だけが、ぴゅーと乗り移ったとか、あ!・・あの事故に遭った時の?3年くらい前だったかな?」


「そう、それ」


「その展開はもうポピュラーで、お約束的な・・」


「おやくそく?」


「あ、いえ、お決まりというか、よくあるパターン、かな?」


「てんいは、よくあることなのか?」


「ないない、現実世界では。小説とかの、作り話のお話しね」



交通事故で意識が犬に転移。モールス信号を使って、人と会話が出来る。それなら説明つく?先生と会話してて。


剣菱彩が会いに来たのは、犬になった沙希のお父さん・・。さすがにそれは・・いや、そういうことなのか?いや、そもそも非現実的な・・けど・・・。


「マセ子、わたしも最初、おどろいた。その、はんのうわかる。わたしは、日本の犬はしゃべれるのかと、思った。まあ、おちつけ、ジュースのんで、気をしずめろ」


ジュースを差し出す。


「・・どうも」


ジュースを飲む。


「りかいしたか?」


「・・何となく・・信じられないけど、ね」


メイが嘘をついてるとは思えない。この話しが本当なら今までの事、辻褄が合うような。


「お菓子は、食べないか?」


「・・今はいいかな」


「しょっぱい方が、好みか?かっぱえびせんもってくるぞ」


「・・いや・・じゃあいただくね」


食べる。


うまっ!手作りだこれ。


メイが見つめてる。


「美味しいね、これ」


「沙希が、ボスのおやつ、作ってたから、まねした。ボスの分の、はんぶん、たべろ」


犬用のオヤツ?まあ、うまいから問題はないか。


「じぁあね、この前の時剣菱彩さんが来たでしょう?それー




先生とイケメン青年が事務所から出てくる。


「マセ子、この人はフジシマさん」


「初めまして。笹原美緒さん。ここの所員してますフジシマです」


「どうも・・」


「マセ子に秘密を教えるのは、けっこう前から決まってたって」


「・・・・・」


「それとご免ね、私これから警察に行かないといけなくて。この後のお話しはフジシマさんから聞いてね」


「え?先生、傍に居てくれないの?」


「居たいんだけど、さっきのひったくり犯の事でメイちゃんとお呼びが掛かってね。フジシマさんは頼りになるいい人よ。じゃあ、急いで帰ってくるから」


「いやいや、待って」


「がんばれ、マセ子!」


「何を?!先生、ちょっー」


先生とメイは出て行く。



「不安でしょうが、これから述べる事実を受け止めてもらいます」


「・・・・・」


「ここには防犯用として喫茶店内と事務所内にカメラを取り付けています。先程のメイさんとの会話をカメラで観察して、笹原さんは聡明な方とお見受けしました。頭の回転が速く、柔軟な頭の持ち主、ボスの事を確信に近いところまで推測してるとは驚きです」


「・・・・・」


「相川さんに事故前のボスの名前を聞くなど、閃きや洞察力はその歳でかなりのものです。今は確信するには及ばないが、理解をしようとしていると。まだ混乱してるようですが、転移に関して理解してるなら話しが早いです」


「・・・ちょっと、まだ頭が・・整理が・・まだ信じられないんですけど」


「疑いは当然。事務所へ、順立て説明します」



喫茶店の中の事務所に通されると、大きなキーボードの前にボスと呼ばれる犬が居る。


「キーボードを見てください。ボスが打ちます」


犬がキーボードを打つ。


M A S E K O


エンターを打つとスピーカーから、


<マセ子>と男の声。


「・・・・・」


超展開・・犬が文字を・・。出来ればそこはミオにしてほしかった・・。いや今はそんな問題じゃ・・。


「これで会話します」


犬がポチポチと打ち込みエンター。


<娘の沙希と仲良くしてくれて感謝してる>


「・・・・・」


<お前も沙希ももう少し食え。軽い。平均体重より下回ってる。少女期は体を作る事、食うことが仕事だ>


現実にはあり得ない光景にフジシマを見る。


「沙希さんの父親で探偵所長、私たちのボスです。ついでに小説の方のモデルもです」


<その手の活字はせめて大人になってから読め>


「・・・・・」



それから沙希の父親という犬のボスは夏祭りの事を語りだす。

5年前、私は沙希の父親と一度会っていた。夏祭り当日、父親と一緒に見物できることに沙希は喜んでいた。


私は沙希と合流して縁日の焼きそばを一緒に半分こにしたこと。いちご飴、金魚救いの数。水風船が割れたこと。沙希が肩車してもらったこと。詳細を語る犬は、到底信じられないが紛れもない沙希の父親だった。


信じざる得なかった。この前無邪気に馬乗りに乗ったことを思い出す。


「この前は失礼な事を、知らずに乗ってすみませんでした・・」


<かまわん>


凄く威厳があるシェパード犬だけど、ポチポチとキーを押す姿は可愛い。しかしCMでも白い犬や猫は喋るのに、発声器官?喋れないとは変なところがリアルだな。



「順応力が早く助かります。キーボード操作は時間が掛かるのでここからの説明は自分がします」


事故で犬に転移した顛末を聞かされる。


事故後から相川先生が面接に来るまでの出来事。学校へ潜入捜査の事。フジシマさんの話しは惹きこまれるくらい話しがうまかった。それから喫茶探偵物語の小説は半分ノンフィクション。それと剣菱彩の出来事を聞かされた。溺愛され婚約の話しは転移以上に驚いた。


眼帯少女メイの事は詳しくは言えないらしい。両親が死んで感情を表に出さなくなり、武道の達人とだけ教えられた。



「ー以上です。どうでしたか?」


「・・・面白かったです。と言っては失礼になるもしれませんが・・。全ての謎が解けたような感じです」


「何か質問ありますか?」


「・・沙希のお父さんに聞いてもいいですか?」


犬は頷く。


「どうして沙希に本当の事を言わないの?私に正体を明かすくらいなら言えるんじゃないの?」


<当時12歳の子供に父親が犬になったとは言えん。それに沙希と会い触れ合うのは人間に戻ってからと決めている>


<先週のは予想もしなかった出会いがしらの事故みたいものだ。だが3年ぶりに触れ合い感情が爆発した>


<お前さんを通してたまに会えるようにして欲しい。こんな姿で我儘なオヤジだがな>


<今さら正体をバラしたところで沙希も複雑な気持ちになるかもしれんしな。機を逃したとはこのことだ>


心配するからと我慢したんだ。3年間沙希を想い続けながら。親の愛情を感じた。


<チヨには今の事は言うな。恥ずかしいからな>



「あの、どうしてこの事を私に?黙ってれば違和感だけで分からなかったですけど」


「今までの話しは私たちを信用してもらうため。これからが本番です」


本番?これ以上何があるの?



「メイさんのことです」


眼帯少女?


話しはメイに関して協力をしてほしいとのお願いだった。高校のクラスは私と沙希とメイを一緒にするらしい。メイはまだ日本の常識には疎く世間知らず。できるだけサポートして欲しいとのこと。悪意ある人間に対しては憎しみを抱くので、行動を共にする間は監視役とストッパーになってほしいと頼まれる。


正直何者か分からない眼帯少女。引ったくりの事や、雰囲気からただ者と思えない少女だが、この前の時の会話や今日の印象は悪くはなかった。一生懸命私の質問に答えてくれて、手作りお菓子を振る舞い、私の方からお近づきになりたい、仲良くなりたいと思った。美少女だし何よりカッコいい。私が男だったら付き合いたいレベルだ。


問題はないと答えた。


「有難う笹原さん。ここでは出来るだけ隠し事はしません。事件性のあるもの、秘密保持やまだ15歳と言う年齢で、言えない事も多々ありますが、可能な限り正直に打ち明けました。協力に感謝します」



「承諾して秘密保持を約束することで笹原さんには給金が発生します」


「え?」


「対価です。バイトみたいなものです。高校の3年間、月5万程度ですが」


「・・・・・」


「ですが、そのお金は社会人になるまで利用できません。どうしても用立てが必要な場合は私に伝えてください。贅沢品や娯楽費などは受けつけませんが、学業関係、大学進学の場合の奨学金などは相談に応じます。

その他は、何かトラブルなど事件の依頼をしたい場合は、探偵社所員扱いということで無料で行います」


「なんか、お金なんて・・」


「そんなに深く考えなくてもいいんですよ。自分の生活を乱すことなく、いつも通りの生活で構いません。相川さんに沙希さんの日常や、メイさんの変化や行動を報告するくらいです」


5×12×3で180・・・。うわー、大金・・。あれも、これも、って使えないのか・・。


「正式な雇用関係の書類ではありませんが、一応形式的なもので、サインをしていただければ了承と受け取ります。今すぐでなくても熟考してもらってもかまいません。もちろん断っていただいても何の問題もなく、今まで通り沙希さんや相川さんと接し、メイさんも居ますが、普段通りの生活を送ってください。断ったと言っても私たちとの関係性は変わりません。相談事があるなら、相川さんや私に言ってください。最優先で事を行います」


「・・・問題ありません。沙希とは昔から、今でも、これからも友達です。メイとも仲良くなりたいと思ってまいす。それとお金は要りません。協力はしますが、友達を監視と言う形でお金を貰おうとは考えてません」


「大変失礼いたしました。正直断るのではないかと思ってました。試すようなことをして気分を害されましたら謝ります。笹原さんを選んで良かったと思います。沙希さんもいい友達を持ちました」


いや、一瞬心揺らいだんだけど。


高校生活は皆と一緒か。どうなるんだろう?不安でもあるけど、楽しそうでもある・・・。




喫茶店内。


「ーまあ、こんなところかな、私のお話しは」


相川先生はコーヒーを注いでくれる。


「・・相川先生、苦労したんですね。喫茶店に来る前から、来てからも」


「生活は180度変わったけど、後悔はない。それどころか感謝しかない。ここに居ることが」


凄い所だな喫茶店探偵物語。

犬は桧山探偵事務所の所長。フジシマさんは藤嶋グループの後継者。世界でもトップクラスのハッカーの人。養子のメイの母親が五月ブランドの代表。剣菱彩に武道の達人眼帯少女。どれもこれも最強高性能スペック過ぎるでしょう・・。


相川先生は平凡で普通と自分の事を自虐してるけど、稀に見るかなりの美人さんだ。胸がないのが惜しいところだけど・・。


「ほんとに小説みたいですね、ここ。それ以上かも・・」




21終わり









「これからはマセ子が私の代わりの代弁者ね」


「・・・・・」


「これはもう世代交代ということで、これからはマセ子、メイちゃんの高校生活編が始まるという感じね。がんばれ、マセ子」


「言ってる意味、全然わかんないんですけど・・高校生活編、とか・・」



終わり





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