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喫茶探偵物語  作者: ゆきんこ
18/27

ナイスガイ


ー喫茶探偵物語18ー 


ナイスガイ



藤嶋瑛一 29歳 探偵所員 


フジシマ視点



喫茶店。


カウンターでコーヒーを煎れるチヨ。

フジシマはノートパソコンのキーを打ちながら電話。


「-はい、その件はそれで決済します。それと新事業の視察は自分も赴きますので調整をお願いします」


電話を終え今後のスケジュールを練り直す。



チヨがコーヒーを持ってくる。


「有難うございます」


タブレット画面を覗くチヨ。


「これ、スケジュール表ですか?」


「はい」


「・・掛け持ち、大変じゃないですか?」


「相川さんが居てくれるおかげで楽になった方ですよ」


「言うほど仕事してませんよ。データをまとめるくらいですし」


「貴重な存在です。信頼を置ける者にしか傍に置かないでしょう、ボスは」


「・・そんなに信頼度は高くないと思いますけど」


「面接してその日に雇われたのが信頼の証です。自分はボスの元に来るまで2年掛かりました」


「2年ですか・・」


「状況は違いますけどね。系列の支店で探偵修行していました」


「・・フジシマさんは探偵志望なんですか?」


「正確には違います」


「・・私、フジシマさんのこと何も知らなくて、前にヨシダさんから藤嶋グループと言う単語が出てきたんですけど、それって・・」


「相川さんとはプライベートな話をする機会がなかったですね。一応、その藤嶋グループという会社の後継者です。父親がただ社長というだけなんですが」


「・・CMでもよく観る建設関連の大企業ですよね」


「その大企業が今も存続してるいのもボスのおかげなんです」


「・・ボスが暴れました?」


「暴れてくれました。その時に一緒に行動を共にして、惚れ込みました」


「人間だった頃の話しですよね」


「はい。5、6年くらい前ですかね。・・第一印象は最悪、横暴で利己的で嫌悪感しか感じませんでしたね。その後にその考えも180度変わりましたが」


「・・そのお話し、聞きたいです。あ、ご免なさい、お仕事中ですね」



ノートパソコンを閉じる。


「一息つきますか。どうぞ座ってください」


ワクワクしながら座るチヨ。


「ボスとの出会いから、少しここの歴史を語りましょう。そうですね、相川さんの面接くらいまで」


「やった!」




6年前。


父親は個人商店から創業し、時代の流れを読み40年掛けてこの巨大グループを築き上げてきた。


幼いころから自慢の父親であり憧れ尊敬する対象。その後を継ぐため、勉学やスポーツ、経営学に全力を尽くしてきた。


大学卒業後、名字を変えて身分を隠し藤嶋グループ子会社へと就職する。

父親に自ら宣言した。実績を作り認めてもらうまで社内で正体は明かさないと。七光り、威光と騒がれないよう一社員としてからのスタート。10年以内に父親に認めさせる自信はあった。


入社し業務にも慣れた頃、父親の右腕と呼ばれる岡島と、その腹心である役員らの裏切り行為が発覚。大量の資金、株が流出し会社が窮地に立たされる。


危機的状況に父親は古くからの旧友に助けを乞い、会社の存続を委ねた。



会長室。


中年男が会長室に現れる。


「やられちまったな。手綱も握れんのか、おい」


「創業以来の、苦楽を共にしたあいつがな。予想だにしない裏切りに笑うに笑えん」


「昔に見かけた時はお前に妄信的に見えたがな。欲に駆られて心移りしたか?それともお前に愛想と嫌気が差したか?」


「人間性を否定されると辛いな。それと、オレはお前に妄信的だ」


「軽口を叩けるほどの余裕はあるんだな」


「お前さんが来てくれたからな」



「瑛一、オレの一番信頼できる奴にこの会社を任せる。桧山探偵所長、桧山泰造だ」


「桧山、全国に幾つも支店がある・・」


「こいつがその頂点に立つ男だ。こいつが動くのは警察に協力し世間で騒がれている大きな事件。探偵社の表の顔だな。もうひとつ、裏の顔はグレイゾーン的な事件だ。今回はその後者だ」


「・・・・・」


「それでだ。決着をつけるまで泰造の元に張り付いて勉強して来い」


「・・は?」


「お前は優秀だが固すぎる。まだまだ無知で世間知らずの役立たず。社会の闇の部分を見定めて来い。少しは狡く黒く染まらないとな。間正直で堅実なだけの人間に将来この会社を譲れない」


「息子の件は断る。今日はそれを伝えに来た。お前の事だ、送り込ませられんからな」


「そう言うな。親が言うのも何だが見どころはある」


「まだ、ひよっこだろうが」


「・・父さん、この大事な時に怪しげな探偵なんかに会社を任せるんですか?いくら旧知の仲とはいえあり得ない判断です。早急に警察、顧問弁護士、この手の事例に強い人間をー


その言葉に所長は笑う。


「怪しげな探偵か、いいな。・・賢明な判断じゃないか。未来の後継者」


所長を睨む。


「おい、もうその座を譲ってやれ。何とかしてくれるかもしれん」


「お前が思ってるほど正論は通用しないし、警察も法も当てにならない。今回はいい機会だ。泰造の元でドス黒い世界へ踏み込んで来い」


「勘弁してください」


「それにお前は見かけだけで人を判断するのか?」


「・・・・・」



所長が睨んでくる。


「オレをお気に召さんか?」


「召しません、100年かけても無理そうです」


「100年?おい、確か昔のお前も初対面でそんなこと言ってたなかったか?」


「よほど生理的に合わないんだな。親子二代で」


2人で笑う。



「まあ嫌だろうな。怪しい男だもんな」


「・・お互い意見が一致しますね。この話しはなかった事に」


足元から頭まで値踏みするよう見られ、それに嫌悪感を示す。


「逆効果だったな。オレはそんな顔や拒否されると逆に燃え上がるタイプなんだ」


「・・・・・」


「気が変わった。扱き使ってやる」


「瑛一、将来オレに認めてもらいたいなら、この課題は必修だ」


有無を言わせず、不服のまま探偵所長と行動を共にすることになった。





喫茶探偵物語 喫茶店


昔ながらのアンティーク調の喫茶店。


温和そうなマスターが煎れるコーヒーは絶妙な美味さだったが、大手の探偵社の頂上というこの場所、人間に不信感しか抱けなかった。所長を含め、所員たちのうさん臭さは否めない。


その根源の桧山泰造探偵所長。


競馬の中継を観ている爺さん。


無表情でスマホを弄る情婦のような女。


帽子、サングラス、マスクの男。



競馬の最終レースが終わる。


「ヨシダ、今日は?」


「7勝5敗。プラス970円だ」


「おーやったじゃん。もう桁2つくらい上げなよ」


「遊びでやるのがちょうどいい」


「毎回100円賭けでこの勝率じゃ勿体ない。来週その100倍で勝ち馬に乗るわ」


「欲が絡めばペースが乱れる。願い下げだ」


「ケチー」


外見も言動も、どう見てもケチな詐欺師グループにしか見えなかった。




翌日から株、資金奪還作戦が決行される。


その怪しさ粗暴さは軽蔑に値した。彼らの行動もそれを裏付けるものばかり。脅迫、賄賂、引き抜き、そんな言葉が飛び交いそれを実行に移す。


表向きには探偵所だが利益の為には何でもする、闇の部分を引き受ける犯罪集団。 


銀行を巻き込み、情報屋、暴力団、果ては警察や政治家から情報を得て、協力を仰ぎあらゆる法の抜け道を掻い潜ぐる。


所長の宣言通り扱き使われ、得体のしれないブローカーを取り込み裏の情報を収集する。



「お前は顔も割れてない。社会勉強だ。うまい話しを持ちかけろ、人を裏切る者に欲は際限ない。行って来い」


裏切者の岡島の腹心と接触。偽証し、惑わせ、利用する。心理を読み最終的に迷宮に嵌め込む。



役目を終えると探偵所長は、


「まだまだだな。相手が目を反らすまで反らすな。その仕草ひとつでご破算となる。相手が狡猾で上級者になればなるほどな。今回は小物で助かった。どうだ?人を騙くらかし、操る快感は?」


「・・・・・」


「欲望を取り込ませ、気付いた時に全てを失う。巧みにコントロール、人心掌握しろ。覚えておけ、一生ものだ」


所長の言葉は的確で行動は思いもよらず快感に等しかった。日々を追うごとに彼らの言葉、策略、手腕に魅入られる。驚くことにその一連の行動を必然と認める自分がいた。



3週間を過ぎた頃、奪還作戦は終わりを告げる。


ミヤコはスマホを置き、ヨシダに、


「OK」


「よし、金も株も回収作業終了。これで義理を果たしたな」


「坊ちゃんも使い走りと思えない働きをしてくれたねー。もう少しで帰れるから。私たちはここからが本領発揮。少し儲けさせてもらうよ」


「・・これ以上、何か?」


探偵所長は、


「こんなもんで収めん。不義理した輩にはそれ以上の制裁を与える」


「・・・・・」



非人道的なやり方、卑劣な手腕で株を取り戻し会社を立て直し危機を救ってくれた。なおかつ裏切り者に数億という借金と後悔と罪を背負わせ、壊滅的なダメージを負わせ再起不能にまで陥らせた。


犯罪紛いで褒められた仕事ではなかったが自分にとってそれは衝撃だった。社会の仕組み、裏表、善悪、駆け引きを見せつけられ、真面目なだけ、誠実だけではこの世界は渡ってはいけないと思い知らされる。


今回の出来事で価値観が180度変わった。所長含め所員たちへの対応は、軽蔑の対象から尊敬の念へと変わり、探偵所長桧山泰造、彼に魅入られた。策士で野性的、知略的な人物が目の前にいた。この人の元で働いてみたい、認められたいと強く願った。




喫茶店事務所。


探偵所長はゲッソリとしながら、


「あ?妄信した?」


「はい」


「お前はオヤジか?変なDNA受け継ぐな」


「父親の気持ちも分かりました」


「100年掛けても分かりあえない間柄だろ?」


「100年どころか1週間で桧山さんに心酔しました」


「・・たまにいるんだよな。そう言う類が。お前会社の方は継ぐんだろう?」


「いずれ継ぎます。しかしそれは今じゃありません」


「やめとけ。どう見てもオレと関わる事は今後の人生の悪手だ。経営学でも帝王学でも学べ、その方がずっとマシだ」


「自分が今求めているのがここなんです。桧山所長、貴方なんです」


「何を憧れたのか知らんがそれはただの幻想だ。見てきたろ、オレたちのすることを」


「自分の中の人生観が変わり、価値観と世の中の見方が大きく変わりました」


「今までオレみたいなタイプが周りに存在しなかったんだ。言うなれば初めて虎を見、狩りをする姿を見て感銘感動してるだけだ。そんなものただの一過性のものだ。すぐ薄れる」


「今回の騒動で自分は何もできませんでした」


「適材個所だ。汚い仕事はオレら、お前はお前で親父の居る高みを目指せばいい。好き好んで薄汚れた世界に飛び込まんでもいい」


「その世界に飛び出せと言ったのは父親です。貴方の元で見識や視野を広めたいんです。決意してきました」



「オレに認めてもらいたいのか?」


「それが目標です」


「親は?」


「父からも、何年でも海千山千の桧山さんから全てを吸収して来いと」


ため息。


「これは予想外だ・・頑固なところもオヤジ譲りか・・」


考え込む所長。


「書類送検は当たり前、執行猶予、前科も1犯くらいつくかもしんれぞ」


「それぐらいなら問題ありません。殺人以外はするなと父に言われてきました」


「お前みたいのが何人か現れたな。長くて半年だった。全国に支店があり所員は千人を越える。その大半はここの喫茶店探偵事務所本店にと願ってる」



「他支店の丁稚見習いから始まる。1年は雑用だ。それから何年もかけ手柄を立て周りから認められ、その大半を押しのけここに辿り着く自信はあるか?数年、10年以上掛かるかもしれん。いや、一生オレに会えんかもしれん。その根性はあるか?」


「お願いします!」


「・・10年コースと聞いてそこは諦めるところだろう・・・酔狂だな。お前」




桧山探偵事務所 ○○支店


所長の宣言通り、支店の雑用から探偵生活が始まった。


朝の清掃から雑務、依頼者への対応。新人の仕事を黙々とこなしていく。今までの23年間の経験はここではほとんど役に立たなかった。


雑務と仕事のフォローだけで半年が過ぎ、その後は尾行、張り込み。不貞調査を任され、地道な作業で1年を終える。


2年目、囮捜査、潜入捜査を経験して上司、先輩からも徐々に認められ、小さな事件から殺人事件、重要な案件を任され数々の事件を解決に至る。


自分なりに上手く立ち回れたと自負できる。いろいろなドラマを体験し様々な人間模様を観察してきた。醜さ、醜悪さの集大成がこの世界にあった。時には怒り、理不尽、喜びや感動さえも。この世界の人間として確実に成長してゆくそんな感覚だった。



ある日、大掛かりな事件を担当する。拳銃強盗殺人という危険をはらむ調査で、偶然にも加害者を追い詰めた。警察の到着まで間に合わず、危険を承知で犯人と対峙する。


結果、拳銃で撃たれ3センチの差で心臓からズレての命拾い。数日間意識がなく目覚めた時は恐怖に苛まれた。


さすがに命の危機に晒されたのは恐怖だった。だが分析すれば回避できた。危機管理能力の欠陥、慢心。どこか甘えがあった。経験不足、人間心理、行動学、異常者への対応、まだまだ自覚も経験も不足していた。


2度と同じ過ちは犯さないと誓う。



務めて2年の月日が経ち、功績が認められ主力メンバーに抜擢される。


ここまで来れば次の目標は支部長補佐。ここの支部長も桧山所長と同じぐらい魅力的で人望も厚い尊敬できる人物だった。


仕事の十全すべて教えてもらい、上司でもあり、そして友人でもあった。仕事もやりがいがあり自信もつき、充実感、達成感がある。


この世界が合っていた。天職と言っても過言ではない。この2年、無二の親友もできた。結婚したいと思える彼女もできた。政界、財界、著名人と自分なりの幅広いコネクションを築き上げてきた。


会社の事は多少の未練も残っていたが父親の許しもあり、なんら問題はない。何より目標の桧山所長から認められ、本店での仕事に達することはできていない。



支部所長から、


「ここの副所長の任命と、ヨシダさんの元、どちらを選ぶ?」


「・・・・・」


「ヨシダさんから連絡があった」


2年前はお世話になったヨシダ。後に知ったがギャンブラーとは二つ名、逸話は数知れない人物。


「どっちだ?」


「ヨシダさんです」


「・・まあそうだよな。正直手放したくない。もったいない、お前育てたのオレだぞ」


「・・すみません」


「桧山所長の腹心から認められたということだ。お前の念願に一歩近づいたな。おめでとう。今度おごれよ」


「・・有難うございます」




雑居ビル、室内。


ニヤニヤとしているヨシダ。


「あれから2年か。ボスも驚いている。その若さで優秀過ぎて怖いとな」


「・・いえ」


「悪運も強い。銃弾を受けて死の危機に瀕した時はどうだった?死と隣り合わせの恐怖は克服したか?」


「いえ、克服してません。今でも夢に出ます。逆に臆病になりました。何をするにも慎重に。ダメですね、これでは」


「それでいい。命知らずの方がよほど当てにならんからな。そういう奴は必ず下手をこく」



「ワシらでもお手上げの事件がある。受けるか?」


「はい」


書類 明月病院看護師失踪事件


「ニュースで知ってるだろう」


「去年6月7月9月に起こった同病院の女性看護師の失踪事件ですね」


「話しが早いな。2人は仕事場からの帰宅途中に行方が知れず、1人は休日中に失踪。家出なのか事件に巻き込まれたのか、いずれも遺体は見つかっていない」


「容疑者が絞れず、警察の捜査は難航してるんですね?」


「まったくな。しかし」


モニターに若い男のプロフィール。


柴田良英 30歳 職業 ○×会社 医療搬送係


「この男が容疑者ですか?」


「警察もまだ掴んでない人物。証拠も動機もないが、犯人と確信してる。数十人この病院の関係者、患者、通院者とボスが事情聴取、観察して、この男と直感で当たりをつけた。

アレの嗅覚は鋭い。凡人には分からんが犬のように気配や匂いを感じる事ができる。探偵社がここまでのし上がり、警察や政界にコネができたのもこのおかげだ。

まあ、この手のはほとんど外れるがな。しかし1割、2割は当ててしまう」


「未解決事件の検挙的中率としては驚異的ですね。10件のうちひとつでも解決できるなら」



パソコン、資料、書類、ノート類。


「ここにはワシや所員が集めた情報が出揃ってる」


パソコン画面、容疑者の個人情報。趣味、嗜好等。


資料にパソコン、クレジットカード、ネット販売購入履歴。


タブレットにはネット検索画像、動画の履歴。


勤務会社日報、書類等のコピー。


ライン、SNSデータ。コメント欄各種。


ノート類、学生時代のノート、小学生の日記帳、夏休みの友、卒業アルバム。


日常品廃棄物一覧、手紙、ダイレクトメール等。レシート購入記録。


休日、有給の動向等の一覧表。


家族構成表。車、自宅の見取り図、各部屋の所持等画像。



「非合法で取り寄せた物が大半だ。中にはコピーで見にくいのもある。出来る限りの経歴や私生活部分を調査し収集した」


膨大の量の資料。


「見ての通り、この捜査方法は警察ではできん。違法だが、この代償の検挙率は相当のものだ。問題あるか?」


「ありません。これ以上犠牲者を出さないために」


「よし、若い頭を見せてくれ」



桜岡、26歳。ヨシダの部下が事件の概要を説明してくれる。


自分より一つ上。ヨシダ直属の部下。この場に居るということは自分より優秀ということ。かなりの切れ者と思われる。


「ー被害者同士の接点は同じ職場の同僚というだけです。趣味や嗜好などの共通点は見当たらず、過去の住居や学校などもお互い別々、プライベートでは接点はなしということで結論付けてます」


「交友関係はなしということですね」


「容疑者と彼女らの接点も仕事上での病院というだけです。すれ違いのあいさつくらいで、対話もないと思われます。容疑者は目測で看護師を選び、性的目的、もしくは快楽殺人者ではないかと、ここでの見解、推察です」



パソコン前に座り調査。


各町要所の監視カメラ映像、リアルタイムでの顔認証システム。


そのデータ記録画像、動画を見る。


個人記録データを取りだす。

趣味は海釣り。海釣りマップ。容疑者の今年度海に行ったルート、日付時間帯の概要。帰りのコンビニの監視映像。Nシステム画像の記録、時間帯。


凄いな、ここまで調べるんだ。


釣り場は遺体遺棄には不向きと結論付けられている。


確かに土日は人手が多い人気スポットだ。遺棄じゃなくどこかに保管、保存の可能性?それだと誰にも咎められず発見されない場所・・。

この手の異常犯罪者の扱いは初めてだな。プロファイリング自体本の知識しかない。



別件のデータを見てる桜岡に、


「快楽殺人者と仮定します。この手の人間とは小さい頃からその異常性の資質とかあるんですか?」


「幼少期からですか?私も専門外ですが、イジメや両親からの暴行、性的虐待、親からの愛情の欠落、屈折する人は屈折しますね。容疑者の虐待やイジメの有無の報告は今のところ上がっていません」


「この事件は遺棄じゃなく、遺体保存と考察していますよね?」


「しています。眺める。愛でる。腐乱死体でも興奮する事例もあります。容疑者の異常性の性癖は残念ながら掴めていません」


遺体保存。屍体愛好者、その線で調べるか・・。



パソコン操作。住民票、戸籍、本籍、個人情報。


凄いなこれ・・。警視庁、警察庁、政府の情報もハッキングできるそうだが、まさか世界規模での侵入可能?


画像にFBIの文字。



ヨシダが来る。


「おい、国内だけに留めておけよ。面倒になるからな」


「・・・・・」


「コーヒーでいいか?」


「はい、有難うございます」


「桜岡、いつもの」


「了解です」


桜岡が部屋を出て行く。


「ヨシダさん。小さい頃、空き地や河川敷とかに秘密基地とか作っていませんでしたか?」


「・・あったな」


「宝物感覚で集めたカードやお気に入りの玩具とか秘密基地にため込んで、放課後や休みの日に友達とそこで過ごしたりと」


「たむろしたものだ。ワシらの世代の宝物はビー玉、綺麗な石。メンコだ」


「これを見てください」


小学2年の夏休みの友を開く。


8月12日 だれも知らないぼくだけのひみつきち


絵にはネズミ、ウサギ。


「これは3年生の時のです」


絵にはイヌ、ネコ。


いずれも目の部分がバツになっている。


「・・なるほど。宝物か。この場所は?」


「ここの記録や情報では、亡くなった父親の実家が抜けていました。その村は過疎化が進み17年前に廃村となっています。戸籍も父方の実家から母方へと変更しています」


「・・その廃村の村は?」


「家から海釣りへの中間地点です」



「2か所のNシステムの時間に開きがあります。釣り場から自宅への帰宅まで約距離50キロ。時速50キロ50分として、コンビニ10分、信号、渋滞停止時間20分と計算して80分。誤差を10分付けて90分で帰宅としましょう」


「11月と12月とNシステムから帰宅途中の時間を割り出すと、釣り場から帰宅まで、120分と125分掛かっています。時間にして30分、35分の空白です。廃村の場所は国道から逸れて5分もかかりません。その空白時間で廃村となった村へと寄っている可能性があります」


「・・宝物の腐乱死体を眺め、愛でる、か?」


「・・・・・」


「お前に完敗だな」


「それは違います。容疑者が特定され、これだけの情報収集をしたヨシダさんや所員らの結果です。戸籍が分からなかったら、この日記がなかったら、Nシステムの情報がなければここまで行きつけません。それにまだ遺体が発見されたわけではないので」


「・・・・・」


「ヨシダさん・・これもう解決してたんじゃないですか?私を試してるとかですね」


「・・まさか2時間で辿り着くとはな。ネットの動画、画像の履歴に人骨が多々あった。骨の屍体愛好症候群というやつらしい。お前を試す為に履歴は隠していたが、看破されたか」



「2日前にその結論に至り、前日廃村の村の小屋を調べたところ、小動物の骸骨。それと人間の骸骨が5体出てきた。いま鑑定してるところだが確定だろう」


「3人の他、まだ被害者が・・」


「最後の仕掛けはどうする?」


「適当な理由をつけて容疑者を誘い出すだけですね。伐採計画予定をちらつかせるとか」


「・・満点だな」




喫茶店。


テレビ。ニュースキャスター。


「明月病院の3人の女性看護師の失踪事件の犯人が捕まりました。さらに不明の2体の遺体が発見されておりー」


連行される容疑者の映像。



事務所の机に座るボス。


「お前をもっと早く使えばよかった。もしかしたら3人目は防げたかもしれん。修行をさせるとか経験とか、オレは頭が古いんだと痛感した。優秀な人間は出来るんだな」


「探偵社での2年間の賜物、そこでの経験のおかげです。自分も桧山所長にもっと早く出会い、大学4年の期間を費やしていたらと思ってるくらいです」



「ここの本店でどんな案件を扱っているか分かるか?」


「察してます」


「二つ名をやる」


「・・有難うございます」


「ハンサム」


「・・・・・」


「気にくわないか?」


「・・いえ」


「昭和のテイストを残すのがオレ流のこだわりだ。もうひとつあるぞ」


「聞いてもいいですか?」


「ハイカラにした。ナイスガイ」


「・・・・・」


「ナイスガイにするか」


「・・それで、お願いします」


「お前はどの世界ても通用する器だ。これから父親と一緒に経営に力を入れるか?」


「会社の方も戻りたい気持ちもありますが、五月さんのように臨時要員として残れませんでしょうか?もちろんここでの仕事をメインです。直接所長の下で働きたいという願い少し物足りないです。せっかく二つ名を頂いたんですから」


「こちらとしては願ってもない。助かる。・・これからはオレをボスと呼べ」


「・・ボス、よろしくお願いします」




1か月後。


夜中、大雨、病院。


廊下を急ぎ足で歩くフジシマ。


手術室前、手術中。


マスター、ボスの弟の警部は立ち尽くし渋い表情。


娘の沙希は長椅子に座り啜り泣いている。


壁に寄りかかり茫然自失状態の剣菱彩。


小声でマスターに、


「どういう状態です?」


「頭の損傷が酷く、生きてるのが奇跡らしい」


「・・・・・」


「事故時のトラックはそのまま逃走。故意の事故、怨恨だ。今ヨシダさんが調べている。こんな時で悪いが行って手伝ってくれないか?」


「分かりました」




夜明け前。


土砂降りの雨。


車で到着すると喫茶店の中は明かりが灯っている。


車を降り小走りに走ると、入口に潜んでるシェパードに驚く。


ジッと見つめられ、入口に向かって前足を振る犬。


無視しドアに手を掛ける。


前足を足に掛け哀願するような目で見つめる犬。


「・・・・・」



事務所内。


中にはパソコン操作のヨシダ。傍にミヤコ。


一緒に入る犬に驚く。


「お疲れ様です」


憔悴したミヤコが、


「悪い知らせじゃないよね」


「大丈夫です。まだ手術は続いてます」


タオルで犬を拭く。


「その犬は?」


「店の入り口で何か訴えてまして、無視できず連れてきました。この寒さです、雨が止むまではと」


「でかい迷い犬・・」


タオルで体中を拭くと、犬は椅子を駆け上がりボスの机に上る。


電源のボタンを押し起動させる。


一同、その動向を見守る。


キーボードを押すが手が太くうまくいかない。


「何?怖いんだけど」


「気味悪いな」


「・・自発的にパソコンを?」


「イヌっころ。何がしたい?」


ヨシダを見る犬。


「・・パスワードを入れたいのか?」


頷く犬。


「・・まさかと思うが・・通じるのか?」


頷く。


「何これ?」


「・・あり得んな」


「右の前足を上げれますか?」


右前足を上げる犬。


「・・会話が・・出来るのか?」


犬は床に降りヨシダを見つめ頷く。


3人 「・・・・・」


「フジシマ、カレンダーを剥がして50音表を裏に書け」



50音表を前に犬の前足で指し文章を作りあげる。


<オレは泰造だ>


3人 「・・・・・」


<オレはまだ生きてるんだな>


3人 「・・・・・」


<事故に遭った瞬間、近くの民家の犬に乗り移ったらしい。信じられるか>


「・・フジシマ、信じられるか?」


「信じられません。・・けど文章が物語っています」


<オレが一番信じられん>


ミヤコ、犬に触れ、


「犬に入れ替わった?生まれ変わり?・・転生?」


「転生では元が死んだことになります。ボスは意識がないだけで生存しています。意識だけが乗り移ったのなら、憑依、転移だ。犬に・・・」


「信じられん。狂言としか思えん」


犬に向かって、


「ボスは手術中です。まだ生きてます」


<信じてくれて嬉しい。ナイスガイ。アネゴ。ギャンブラー>


ミヤコ、犬に抱きつく。


「ボスだー生きてたー!」


喜び顔をうずめるミヤコ。



「今ボスは生死の境にいます。もし、亡くなったら、この犬のボスの意識は・・」


「不吉の事言わないで!死ぬわけないでしょ!ほら、ここに生きてる!」


「・・すみません」


「ここは喜ぶところだが、フジシマの言う通りだ。死んだらこの犬の意識はなくなるのか?このまままか?手術中のボスが意識を取り戻したら・・・分からんな」


「とりあえず喜ぶ!まがりなりにもボスなんだし」


「・・今のボスの状況を考えれば意思が通じるという事は喜ばしいことです」



<すまんな。走りっぱなしで疲れた。眠気がひどい、寝てもいいか>


「・・寝たら死ぬとかないよね」


「冬山じゃないんだ」


<限界だ>


「ボス、事故が起きた時の事覚えてますか?」


<大きいトラックがぶつかってきた>


「恨みを買ってる人物とかいますか?」


<たくさんいる。起きたら肉食べたい。寝る>


眠りにつく犬。


「ほんとにボスね・・」


「よし、調べるか。大きいトラックを」


「はい」





ICU集中治療科。


常時看護師待機。


フジシマは廊下から見守る。


手術中に一度、手術後にもボスは一時心肺停止状態となった。病院側の心臓マッサージ、AEDなど適切な救命処置と尽力で心肺機能を回復させることができた。


心肺機能の停止。身体の酸素の欠乏は重い後遺症が残る可能性があると言われる。楽観はできない状態。最悪植物人間・・。




5日後。


喫茶店。


フジシマとタカベマネージャーがテーブル席に座っている。


鈴鳴る。


ヨシダとミヤコが入って来る。


「フジシマ、どうだ?」


「昏睡状態は変わりません。いつ心停止してもおかしくないと。ボス(犬)の方は元気で現状維持のまま、今は昼寝中です」


「いま現在も会話はできる・・贅沢は言えんな」


「ボスのしぶとい生命力なら何度心停止しても、息を吹き返しますよ」


「当然だな」


カウンターに行きコーヒを煎れるヨシダ。



「ミヤコさん、マスターどうでした?」


「実行犯を前に久しぶりにキレてた。任せてきた。後はどうなるか私は聞かない。関わらない」



「タカベマネージャー、久しぶり」


「・・どうも」


「どうだった?ボスと話して?」


「・・まだ、混乱中です」


「まあね、誰でもこうなるよ」


「・・・・・」


「この後の予定は?」


「弟の警部に入れ替わりの現状を会って直に伝えるそうです」


「警部さん堅物だから見ものね。私が立ち会うか。娘には教えない方向よね。それがいい」


「問題はアヤさんです。現状でボスの容態の次に問題です」


「私は彼女に敵認定されてるからそちらは任せるよ」




病院。個室。


ベットで横になり点滴を受けているアヤ。


フジシマ、ボス(犬)


タカベ、アヤに話しかけ説明中。


「信じられない話しだけど今述べたのは全て真実よ」


アヤ、生気のない顔で犬を見ている。顔を背ける。


「見るの!私や所長さんがあなたにウソをついたことある?」


顔を犬に向けさせる。


生気のない目。


ボス、セットした大型キーボードを打ち込む。


スピーカーから、


<アヤ、お前死ぬのか>


「・・・・・」


<冗談のようだが、オレは泰造だ。ここに居る>


「・・・・・」

 

<人間の身体は生死を彷徨っているが、生きるのを諦めるつもりはない。方法は分からんが、必ず元に戻って見せる>


「・・・・・」



<あの日、ぎこちない手つきで火を点けてくれた最後の煙草は美味かったな>


アヤ、わずかに反応。


<お前が死を望むなら禁煙も終わりだ。ライターを返して貰わんとな>


「・・・・・」


<犬から戻ったら真っ先に吸う>


<マネージャー、ライターを取り返してくれ>


<アヤ、あとはもう好きにしろ>


悲しみに溢れた喉を振り絞って声を上げる。


「イヤ・・・」


手に持ったライターを握りしめる。


鳴咽の声が漏れ涙。


「イヤ・・イヤ・・・」


<このバカ娘が>




1か月後。


喫茶店。


剣菱彩の心神喪失状態から1か月。


ボスから片時も離れないアヤも少しずつ元気を取り戻してきた。療養中として仕事をキャンセルしボスの世話役を率先している。食事のメニュー作成、食事作りから変装して朝夕の散歩まで。


余裕がある時は病院に赴き介護までこなしている。

いつか昏睡状態から目覚めると信じて、昏睡状態のボスと犬のボス、両方の世話役を心から嬉しそうにこなしている。美少女は笑顔に尽きる。


病院のボスの容態は安定していた。しかし意識を取り戻し生還するのは絶望的との見解だ。このまま目覚める事はないと。


ボスには包み隠さず全てを伝えてある。その事実にボスは終始無言だった。



ボスの伝達手段には50音表、ワード音声がある。表や機械以外何か別の手段はないかと模索していたらアヤが、


「フジシマはモールス信号できる?」


「・・できません」


「タイゾーとのお話し、モールスも取り入れたらいいんじゃないかな?」


「・・いい発想だ。外出先や緊急時に重宝するかもしれない」


「でしょ!」




アヤとライトでモールス交信中。


光だけでなく音とか、いろいろ改良の余地があるな。

光の交信、音の交信・・ボスからは、歯を使ったマウス型を制作を・・。


アヤからライトでモールス信号が送られてくる。


<い・ろ・は・に・ほ・へ・と>


アヤの2週間でモールス信号マスターには驚愕する。元々頭もいいし回転も速い。それがボスに関する事には全身全霊で取り組む。


<ち・り・ぬ・・・・・>


「はい、時間切れ、トンツートン トントンツーね」


モールス表を反復してるアヤ。



事故前と違いボスに対する態度が明らかに変わった。父親という存在から、恋をする少女に。それも異種を越えた感情さえも見受けられる。


((フラッシュ))


笑顔のアヤが、


「タイゾー、こう言ってくれたの。オレが死んだら死ね。看取ってから死ねって」


ボス、それもう完全なプロポーズですよ。




事務所。


昼寝のボス。


仕事上で懇意にしている政党、政治家、警視庁の協力により、ボスの入れ替わりの秘密は厳守され、元々の知力、犬の能力の特性を活かして少しずつ仕事に着手している。


ヨシダさんも言及していたが、ボスの嗅覚は鋭い。人間を見分ける力、全ての五感を読み取る能力に長けている。研ぎ澄まされた感覚や能力を所持していると。


犬に転移し直感力がさらに磨きがかかったようだ。犬の嗅覚なのか、生まれ持った直感なのか、相手の声から、心理状態、体調により、その小さな変化する匂いを嗅ぎ分けているようだ。とりわけ発汗に関して敏感のようで、ウソ発見器並みの機能が備わっていた。


犬になった特性について興味があるがボスは一切話さなかった。人間にとって未知の世界に踏み込んだ能力や内面や心理はどうなのか?どこまで犬の嗅覚が鋭いのか?五感は?興味は尽きず色々研究してみたかった。


出来れば自分が犬に代わってやりたいぐらいだった。ボスの前で言えば怒られそうだが。


性欲は人間の女にあるのか?犬のメスか?発情期は?さすがに聞けない。聞ける人間はよほどの大物だろう。




事務所。


<ナイスガイ>


「はい」


<お前の後任を探す>


「私が不満ですか?」


<後任と言っても外出時モールス使用した仕事に関してだ>


<お前は優秀だ。これだけの優れた相棒は今後現れないだろう>


<オレがこうなって最近きついはずだ。ここと経営との二足のワラジは>


父親が倒れ入院した。姉が手助けをしている状態だが、正直ここをまだ離れるつもりはない。ボスの容態が安定、いや、最低限人間に戻るまでここには残るつもりだ。


「大変ですが楽しいです」


<それとお前はマジメで遊び心がない。会話の妙に。敬語は直らんし、下ネタとか絶対ふらんだろう>


「お望みなら」


<計算じゃない、天然さが欲しい>


対等の仲間という事で二つ名持ちは敬語じゃなくとも許されている。年下でも敬語を使う自分にそれは無理だった。自分に足りないものは天然か。計算高い自分には無縁・・。


ボスは変わった。犬になって茶目っ気というか明るくなったようだ。ヨシダさんからの話しでは結婚をして娘が生まれてから、タガが外れ少しずつ丸くなっているとの事だ。


奥さんは娘が生まれ1年で亡くなったそうだが、小説のような粗暴さは鳴りを潜め、娘の存在が大きいのか年々性格はおとなしくなっているらしい。


再婚は考えてはいないとの話しだ。自分がボスの元へ来てから1か月ほどで事故に遭ったが、女性との関係など浮いた話しはなかったように思える。唯一、タカベマネージャーに心を寄せていたようだが、核心は持てなかった。



あらかじめ会話を入れておいたのか、エンター押すと、


<女成分が足りない。若く美人な上玉だ。胸があって、芯があり、自分を持っている。演技力や頭もそこそこ、機転が利き軽妙な会話ができ、ツッコミ、ボケ対応。少しHで下ネタをものともしない、脚がすらりとしたグラマーで胸のある女だ>


「胸、2回言いました」


<大事な事だからな>


「ボスの好みですか?」


<好みとはまた違う>


「アヤさんがいるじゃないですか?未来の相棒でしょう?」


<別に拒むわけではないがアヤは心が重い>


<マジメと重過ぎ。真ん中に軽いのを挟めたい>


「その条件全てを満たすのは限られますし、そこに演技、モールス習得も加わるんですよ」


<全部は望めんが胸があればいい。それだけは外さん>


「胸しか興味ないんですか?」


<ない>



回想終わり




「それで相川さんが面接に来たという次第です。お話しはこんなところでしょうか?」


チヨは笑いながら、


「相変わらずセクハラ野郎だ」


「なにか自分語りになって、ボスに関係のない無駄話しもありましたが」


「無駄なんかありません!分かりやすく最高に面白かったです!いろいろな過去のお話しも興味深かったです。有難うございます!」



「面接後の相川さんに会うまでちょっと怖かったんですよ」


「え?」


「面接だけでボスを認めさせた人物。どれほどの大物なのかと」


「いや、何かみんな勘違いしてますって。何の取り柄もないない普通の小娘なんですが」


「はい。驚きました。本当に普通で」


「そうでしょう?そう思いますよね?」


「その普通さがいいのかもしれませんね」


「それに胸が胸がって、私本当に胸なく、面接受かった意味分かりません」


「もっと自信を持っていいですよ。ボスは口は悪いですが、内面重視、外見で人を判断をしません。胸を妥協するだけの価値があったんです。すみません、セクハラ発言でした」



鈴鳴る。


メイが入って来る。


「おかえり。メイちゃん」


「ただいま。チヨ、フジシマ」


「一人でジム行ってるんですか?」


「らくしょう」


「ご飯、今日はカレーでいい?」


「いい」


「フジシマさんもどうですか?」


「いただきます」



「きがえてくる」


メイが部屋へと。


カレーの準備をするチヨ。



ここに来た当初は自分に自信はなく表情に影があり怯えていた。そして少しずつ自信をつけ明るく笑顔が増してきた。そして普通だった。


秀でた才能はないがこの笑顔は皆を安心させてくれる。よほどボスとの心の波長が合うのだろう。掛け合いが面白い。


ボスも生き生きして悪戯に勤しんでいる。生き物編は裏目に出て懲りたようだけど。


ミヤコさん、ヨシダさんの心も掴んでいる。それだけか難攻不落のアヤ、メイもだ。


自分も話すつもりのない過去話しを語った。そうさせる天然さを持つ者。普通さ。今までここに存在しなかったものだ。いい感じに皆が皆、お互いにお互いが作用してるのかもしれない。



「お待たせしました」


カレーを置く。


「そうそう、フジシマさん、前言ってましたね。ボスの恋愛対象者とか、犬になっての発情はあるのかを知りたいって」


「・・はい」


「タカベさんの事、好いていたらしいです」


「やはりですか」


「胸なんですね、女性は・・」



「それと」


少し、赤面しながら照れたように、


「発情期とかないらしく、犬になって・・・反応がないそうです」


「反応?」


「反応と言ったら・・・」


「はい、すいません、分かりました、そうですね」


「犬にも人間にも興奮も興味はないって言ってますが、どうなんでしょう?セクハラ発言凄いんですけど。これって反応ない反動とか、精神的みたいな、いや深層心理的なものでーーー」


普通だけど、それをボスに聞けるこの子は別の意味で大物なのかもしれない・・。




終わり




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