千仍日記その2 喫茶探偵ショート その3
ー喫茶探偵物語14-
千仍日記その2
お久しぶりの日記です。今回の日記は書かずにはいられない!
晴天。河川敷。
トレーナー姿で背伸びをするチヨ。
川原を全力疾走で走り回っているボス。
ボスは1日1回散歩する。身体を動かさないとストレスが尋常じゃないそうだ。疑問がある。ボスは体を動かさないと夜鳴きとかするんだろうか?今度聞いてみよう。
いつもはバイトが来てお散歩をするのだが、今日はお休みということで臨時で私がお付き合いだ。これが5度目。室内ばかりの私にとっても外はいい気晴らしになる。しばらくジムをさぼっているので今日はここでストレッチだ!
軽くランニング、ストレッチする。
数組の愛犬を連れた人たち。
一応、ここに来るのも調査の一環であるらしい。最近、この町や近隣付近でペットの盗難、失踪が多発、相次いでいる。この町は犬率が非常に高く、この場所は人気の散歩コースのひとつだ。河川敷は広く、建物など影がないので盗難に不向きだが、何件か失踪事件が起きているのでボスは巡回と一緒に運動をしている。
疾走して河川敷の端から端を駆け巡るボス。
ボスは目立つ。散歩に来てる人、種類問わず犬からも注目を浴びている。モテモテだ。凛々しいし私も格好いいと思う。シェパードは犬の中の犬!って感じだよね!
犬を連れた老人。
「こんにちは。おじいちゃん」
「おー今日はあんたかね」
「はい」
疾走中のボスを見て、
「相変わらずボスは元気だな」
意外にもボスの正体を知ってる人は数多い。この町、ご近所さん限定と思うが、秘密保持とかその辺は大丈夫なのだろうか?
正体を知られると政府とかに利用されたりとか。
謎の組織に狙われ人体(犬体)を解剖されるとか。
見世物になるとか。
そんな危険性ははらんではいないのだろうか?小説の読み過ぎか?いやいやその小説がもう破天荒過ぎて・・。
喫茶店に来てからというもの、ここの常識は私の持ってる常識と異なるらしい。数々の規格外やカルチャーショックを受け続けている。一般的な目で見ても常識違うよね?
ボスが走ってこちらにやって来る。
ボスの咆哮。
周りの犬たちもそれに習い咆哮する。
吠えて主従関係をはっきりさせてるのかな?犬たちにもその名の通りボスとして君臨してる?
「帰りますか?」
頷く。
あとは喫茶店までランニングだ。
住宅街。
人だかり。パトカー、警官。被害者らしき女性が事情聴取を受けている。
見物人に、
「何かあったんですか?」
「ペットの連れ去りだそうです」
また事件だ。先月、少年の犬探しでメイちゃんが忍び込んだ屋敷は、悪質なブリーダー、盗難、転売目的の拠点と調査結果が出た。フジシマさんからの話しで、前々から調査をして当たりを付けてたらしく、全国規模の大きな組織のひとつということらしい。
今回の仕事はこの組織を捕まえることだ。ボス自ら捕獲されオトリとなり、取り引き先と接触したところを一網打尽にする作戦だ。
そしてこの事件でボスにとって人生と犬生を揺るがす重大な出来事があった。人間から犬への入れ替わりの現象が解明されたわけではないが、少なくとも希望を見い出せる出来事が起こったのだ!
4日後。
真夜中。喫茶店事務所。
ヨシダは2画面のモニター眺めている。
オトリで捕らえられたボスの首輪に映像カメラ2種。そのカメラから映像に捕らえられてる何種類もの犬、10数匹。
監視中のヨシダに、
「どうですか?今日動きますか?」
「情報ではな」
コーヒーを注ぐ。
「高価な犬ばかりだな。目ざといもんだ」
「早く飼い主に戻してやりたいです」
ポメラニアン、ヨークシャーテリア、マルチーズ。この犬たちは愛犬家にとってたんなるペットではない。家族なのだ。誘拐に等しい行為。酷い話しだ。許せない。
映像の犬を観て、
もう少し我慢してね。
映像に小型犬プーリー。
あのボスの悪戯でこのモップ犬、軽くトラウマだよ・・。
本物だったとは知らず、虐待してしまった・・ボスめ!
一匹のシベリアンハスキーに目が行く。
少年の飼ってたハスキーちゃんそっくりだ。可愛いな。
キョロキョロとしている。
思いっきりモフモフしたい。保護したらモフモフタイムをぜひ!
映像を眺めているとある違和感を感じる。
ボスが動いたらしく、映像が移動して別の犬が映し出される。
発信機でボスに、
「ボス、捜査に関係ありませんがシベリアンハスキーの仔犬がいますよね。それ映してくれませんか」
映像にシベリアンハスキー。
「・・・・・」
「どうした?」
「ボスをいつも見てますが普通の犬と挙動が違いますよね。落ち着いてるというか、物事を集中できるんです。このハスキーは、普通の犬となんか違うような・・」
「何が言いたい?」
「犬って基本落ち着きないんです。落ち着き払って確認するように、ゆっくりと周りを冷静に見ますか?犬の特徴は、何かに反応したり、振り向いたりする時、パッパッと・・・こう速いんです。あー説明下手で・・」
ボスからモールス。
<<チヨ>>
「はい」
<<この犬は普通じゃない。オレと同じかもしれない>>
「もしかしたらボスと同じ、転移かもしれないと」
「入れ替わりということか?」
<<質問しろ>>
「質問しろと」
「発信機はこちらからの声が出るようになってる。そうだな、まず頷かせろ」
「ねえそこの仔犬のハスキーちゃん。私の声聞こえる?」
ハスキー、キョトンとしていて、驚いて辺りを見回してる。
「聞こえたら頷いてくれるかな?」
ハスキーしばらくして頷く。
「・・3回頷いて」
3回頷く。
「コンタクトできた。すごい、ヨシダさん、理解したよ」
「・・生死にかかわるような事故に遭ったかだ」
「あなたは車とか、何らかの事故に遭ったの?気付いたら犬になってたとか?」
何度も頷く。
「通じました、ヨシダさん!」
「場所だ」
「・・どうやって聞き出すんですか?」
「そうか、・・歳だ」
「年齢を聞きます。数字を読み上げていくのでそこで頷いてください」
「4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15」
頷く。
「東京かと」
「住んでた場所は?東京?」
頷く。
「場所の特定か。・・最近の事故を調べる」
男2人が入って来る。
怯えるハスキー。
「なんてこと!邪魔が・・」
男がハスキー側を指し、
「よし、こちら側は西に送るぞ。準備しろ」
「はい」
「おい、このシェパード首輪が付いてるぞ」
「取れないんですよ」
「ブチ切れ。傷はつけるなよ」
「ヨシダさん、今すぐ犯人を捕まえて犬を保護しましょう!」
「・・取引まで泳がせたかったが・・証拠は十分か」
スマホで所員に連絡。
「異例事態だ。張り込ませてる警察と突撃しろ。全ての犬を保護する」
屋敷前。
警察に連行される男女4人。
それを見届けヨシダと屋敷へと。
「ワシはパソコンを調べる。例のやつ全部確認しろ。大声で、反応を見逃すな」
「・・はい」
屋敷内。
警官の案内で捕まった犬の部屋へ通される。探偵所員2人、警官2人が現場検証中。
「ごくろうさまです」
事務所に顔を出す馴染みの若い所員に声を掛けられる。
「キクチヨさん!」
「さん、いらないって・・その名前も、ちょっと・・」
二つ名の威光なのか、何故か一目置かれてる存在になっている。所員は例外なく私を見て敬語で話す。
もっと気軽に話したいのに・・。
ボスの傍にハスキー。
捕らえられた犬全体を見る。
一応全部の犬を調べろって・・イヤだなー。所員さんは問題ないけど、警官か・・。
所員、警官に向け、
「これから調査を始めます」
犬に向かい、
「あなたは人間だった?」
ワンワン!
「人間かな?」
キャンキャン!
「人間?」
ガルルルルー
警官は沈黙して奇異の目で私を見てくれる。
そんな目で見ないで・・これは仕事なの・・。
あー、めんどくさい!
「この犬の中に人間はいますか!居たら手を・・いえ前足を上げてください!」
反応なし。
警官茫然。
私、電波子ちゃんになりました。
「失礼しました・・」
まあいい。弘人さんが居ないなら問題はない。
「チヨ・・」
振り向くと後ろに安田弘人刑事。
「うわあああ!」
「・・・・・」
「弘人さん・・え?・・・課も、管轄も、違うよね?」
顔が引きつる。
「警部から聞いて。・・危ない事なかった?」
危ないのは・・私の方だよ。かんべんして、タイミング悪いよ・・。
慌ててスマホを取り出しヨシダに、
「ヨシダさん!命令の、言われた通り!人間ですかと聞きました!犬の中には居ませんでした!調査終了!」
「・・調査?」
「・・守秘義務ということで・・収めてください」
ボスからモールス。
<<チヨ、元の犬に戻った>>
「え!?」
ハスキーの元へ、捕まえる。
「ねえ、15歳よね?」
ウゥーーー
抵抗。放すと逃げ出す。
「・・・・・」
早朝。
事務所。
顔を伏せ落ち込む。
何という醜態。誰が見ても意味不明の行動だ。奇行以外のなにものでもないよ!逆の立場だったらこんな電波女私でもドン引きするよ・・。
ヨシダがパソコンの情報で、
「栗原賢一15歳」
「3日前に隣町の○○通りでシベリアンハスキーの散歩中に交通事故があった。ハスキーは現場から行方知らず。そして少年は事故から現在まで在昏睡状態が続いている」
「・・・・・」
「一致したな」
「・・ハスキーが元に戻ったということは」
「意識が戻っとる可能性がある」
「病院はどこですか?」
「ボスと同じところだ」
「行きます!」
「まだ明け方だ。少し仮眠をとれ」
「でも」
「嬢ちゃんの彼氏な」
「何か言ってました!?」
「意味不明の言動より、寝不足の酷い顔色を心配してた」
「がっつり寝ます!」
病院。
午前10時。
ロビーを歩いてると瑛斗少年と出会う。
「先生」
「・・少年。・・どこか悪いの?」
「友達が事故で・・」
「え?・・3日前の?・・その子、まさかの、A組の子?」
「はい」
A組の子、縁があるな・・。
「受付で面会謝絶って言われました。けど深夜に意識を取り戻したそうです」
取り戻した!深夜に!やった!
「本当に良かったです」
「様子だけでも見たくない?」
「見たいです」
「行くよ」
集中治療室前。
事故の少年の母親との話し合い。
「ー2、3日中に保護したハスキーを届けるそうなので。ーー息子さんの方は落ち着いたらまたお話しに伺います。今日のところはこの辺で。お話し有難うございました」
少年の元へ。
「手を振ってくれた」
少年涙。
友達思いのいい子ね。
治療室の中の少年。こちらを見ている。
うーん、記憶にない・・。
「賢一は一番の友達なんです」
「うん。個室に移ったら面会に来れるね」
「はい」
余談だが瑛斗少年と被害者の少年の犬は同じハスキー犬。母親が同じで兄弟ということだ。なんとも不思議な縁だ。
1週間後。
病院個室。
「こんにちは。私覚えてる?」
「はい。瑛斗から聞きました。この前・・・あれ?」
胸を見られ、顔を見られ、また胸を見る。
「?」
クラスの子に見られる度にこの不思議そうな顔が見られるのか・・。
「この胸の疑問は瑛斗少年から聞いてね」
「大変だったね」
「はい」
「私、今は探偵社で働いてて事故の調査をしてるの。少し質問をします」
調査の結果は、「あまり覚えてない」だった。事故に遭った前後の記憶が曖昧らしく、私の声掛けもおぼろげで、完全に夢と認識。
夢と同じで現実に意識を向ければ徐々に忘れ、記憶から無くなってしまうような、そんな感じだった。
母親から聞いた話しでは、目覚めた第一声は「犬になった夢を見た」だった。自分の飼っているハスキー犬に。確定だ。昏睡状態から目覚めればボスは人間に戻れる。
間違いなく入れ替わっていた。犬の記憶も微かだが残っている。事故に遭ったこの子には悪いが、意識が戻ったら人間に戻れると証明された。ボスにとって朗報意外なにものでもない。
しかしどうしてこんな事が起こり得るのか?こんな話しや症例など聞いた事などない。事例が少ないだけで過去にも今現在にも、このような入れ替わりの現象が起こっているのだろうか?夢と疑わないのか?夢のように覚えてない、忘れるとか?
考えても分からない。
重要なのはボスは意識を取り戻したら戻れるということだ。解明が目的じゃない。犬から元の体に生還できる。そのこと事態に意味がある。これ以外何を望む事があるのか。
「どうしてボクの夢の中の事が先生に分かるの?」
この問いに窮しました。
「事故の、調査委員会で・・昏睡状態に陥った場合の、深層心理の中の夢の関連性を調べてて、・・今度報告があるの。・・何とかアカデミーの、学会集会で」
言ってる私がまったくの意味不明で、ウソもまったく言えてない自分にツッコミ入を入れ、本当に適当な事を言って、栗原少年ご免なさい!
14終わり
15オレオレ詐欺
喫茶探偵ショート その3
ショート7
チヨ、キッチンで料理。
ボスの昼食を届けに事務所へ入る。
ウリ坊が数匹ボスに向かって突進中。
必死で逃げ回るボス。
「・・・・・」
襲われてるw 何このコント?
ボスこちらに気付きこちらに向かってくる。
ドアを閉める。
ガリガリガリ、ガタガタと物音。
「巻き込むな!怖いわ!」
ショート8
チヨ、キッチンで料理。
ボスの昼食を届けに事務所へ入る。
机の裏から、
シャーーーシャーーー
「・・・・・・」
机の裏へ。
大きい大蛇。
「・・・・・」
お皿を机に置く。
蛇を掴み、首に掛ける。
柱の陰で様子を伺ってるボスの元へと。
ボス、後ずさり。
「秋田の山に囲まれて育った私には蛇は友達なんです」
ジリジリと追い詰める。
壁に追い込まれるボス。
「一緒に遊びましょう!ボスに巻き付け締め付けますwww」
逃げるボス。
部屋中を追いかけるチヨ。
完




