メイ
ー喫茶探偵物語11ー
メイ
喫茶店内。
テーブル席に1人パソコンで勉強中のメイの姿。
カウンター内からその様子を伺う。
ミヤコさんの仕事が忙しくメイちゃんを明日まで預かる事になった。ここ最近の預かり率は週の半分で、今日は私の部屋で初のお泊り会だ。
本当に私でいいのだろうか?ここでのお泊りは本人たっての希望ということだが、あちらからは話しかけてこないし、話しかけても頷くだけだし、嫌われてはなさそうだけど、オムライスやボスがお目当てなら悲しいな・・。
私はいつでもウェルカムだよ!いつ何時頼ってくれてもいいのよメイちゃん!
16時 閉店時間
「よし!お仕事も終了。メイちゃん、今日の晩御飯お外で食べようか?」
パソコン画面から目を離しこちらを振り向く。
「ここの、オムライスすき」
「・・・・・」
嬉しいけど・・嬉しいけど、やはりオムレツ要員か・・。
「ご飯まで時間あるけど、どこか行きたい所ある?」
「ジョウワンニトウキン、ソウボウキンカブ、コウハイキン、きたえたい」
「んー?・・ジムに行きたい?」
頷くメイ。
ジム。
白髪を後ろに束ねチンニングで懸垂のメイ。
小柄で華奢な身体で10分以上持続している。
ジム客の大半の注目の的。
目立つな。これは誰でも見ちゃうよ。
上下黒縞の黄色いトレーナーが、小さなユ○・サーマンかと見惚れてしまう。眼帯のダリ○・ハンナと、いい具合に被りまくりだし。
美少女だし凛々しい。凛々格好可愛いメイちゃん。
喫茶店。
オフロに一緒に浸かる。
メイの身体には全身の火傷、傷、銃痕の生々しい傷跡。
こんな小さい子が、悲しいな・・。
この傷跡以外は、無表情だけどどこにでも居るような少女だ。詳細は少ししか教えてもらっていない。白い髪の毛も元々は黒髪だったらしく、香港時代は「白銀の悪魔」の異名を持つ暗殺者とのこと。傷の跡もその時のもの。
この少女はどれだけの死線ををくぐってきたんだろう?
私の想像や推測では限界がある。その手の知識など映画や本だけでしか分からない。映画でよくある諜報員のような訓練を小さい頃から強いられたとか、そんな感じなんだろうか?
小説でしかメイちゃんの事情は知らない。あれだけでも衝撃だった。私には想像も及ばない境遇も環境も違う世界にいたんだ。笑顔や感情も失ってしまうくらいに・・。
無感情にアヒルの水鉄砲をチャプチャプするメイ。
日本での生活はどのように映ってるんだろう?これまでと180度違う世界。現状ここの生活に満足してるのだろうか?普通の生活が逆に息苦しいとか、そんなことはないのだろうか?
「メイちゃん、今の生活、楽しい?」
いつも即答で頷くメイが考え込んでいる。まずい事聞いたか?
「みんな、やさしい。生活は、しょうじき、とまどってる。けど、イヤじゃない。ミヤ好き。ボス、フジシマ、ヨシダ、ハットリ、チヨも好き」
おーー好きだって名前呼んでくれた!嬉しいぞ!・・ハットリって誰だ?
「はやく大きくなって、しごとしたい」
「・・仕事?」
「ここの。そういう、けいやく」
「・・大きくなったら、ここの探偵社で働くということ?」
頷く。
「いまでも、少しかかわってる」
ボスと契約を交わした?小さい子に何をさせるつもりだ、ボスは?いや、この前のハスキーちゃんの救出とか、もう半分現役なのか?
「わたしから望んだこと」
「・・自分の意思で?」
頷く。
「わたしには、これしか、できない」
「その事、ミヤコさんに反対されなかった?」
「された。つよく」
「・・私もミヤコさんと同じ気持ちかも。普通の生活をして、お洒落とかして、お友達を作って、あまり急いで将来の事は考えなくてもいいんじゃないかな?」
「わたしは、周りの人たちを、まもっていきたい。もう好きな人を、失うことは、いや」
「・・・・・」
「ミヤはわかってくれた。好きにしろと。そのかわり、わたしより先に死ぬなって。死んだら、ころすと言われた。りょうかいした」
「・・・・・」
「じょうけんは、学校。じょうしき、社会のルール。覚える」
生きてきた価値観も、考え方もまったく違う人種。
そしてこの子は純粋なんだ。ただ好きな人を守りたいだけ。それがこの子にとって全てなんだ・・。
メイの頭を撫でる。
ここの喫茶店、世界観はメイちゃんに合うと言えば合うのか・・。
けどここの仕事か。けっこう非人道的な過激なことしてるんだよね。その手の仕事は私には極力関わらせてないだけ。
重犯罪者もそうだけど、特にロリ属性の性犯罪者や虐待には容赦はない。一線を越えないだけで破滅に近い所業を強いている。
そんな輩は当然の報い。私も大いに賛同だ。許せるはずもない。
メイを見る。
修羅場を見てきたメイちゃんなら何でも出来そうだ。それこそ今からでも。
けどその前に今しか出来ない体験、少女時代でしか出来ない経験とかさせてやりたい。不遇な悲しい過去を吹き飛ばすくらいの。私の考えなんて、ありきたりで部活動とか、趣味、友達とかだけど・・。
お友達に沙希ちゃんとかマセ子とかどうだろうか?さすがにボスは沙希ちゃんとは関わせるつもりはないか?
「メイちゃん、いま何歳?」
「わからないから、ボスが決めた。15にした」
15歳ということは沙希ちゃんと同じ?
「4月から、高校いく」
意図的な15歳だ。これはもしかしたら接触させる気満々か?悪くはない、同じ高校なら沙希ちゃんにとって最強のSPだ。・・別に悪人は居ないけど。
「チヨ」
「!」
初めて私に振ってくれた!
「何?」
「みたい映画ある」
事務所。
若い女性所員がボスを連れて来る。
ボスはPCへと向かう。
「お疲れ様です」
「はい。明後日は他支店の人が迎えに来ますのでよろしくお願いします」
「分かりました。ご苦労様です」
所員は帰る。
ボスに、
「メイちゃん、2階で「七人の侍」観てます」
ボスは飽きれたように、キーボードを押し、
<子供に観せる映画か>
「部屋に張ってあるポスターを見て興味を示したようで」
「メイちゃんと好きな映画けっこう被るんです!驚きです!」
<どんな映画だ>
「「男たちの晩歌」とか「続夕日のガンマン」「グッドフェローズ」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」共通の話題ができました。
ガールズ・ムービー・トーク全開とまではいきませんが、そこそこ話しが弾みました」
<女子供のチョイスじゃねーよ>
「タラン○ィーノ前期は未見との事で今度「レザボアドッグス」観せようかと。それか「パルプフィクション」の方がいいですかね?ボス?」
<お前の歳でそのセンスが怖いわ。どこで培った?>
「映画狂の父からです。ちなみに母からは「中島○ゆき」です」
ボスを見る。
「なんか押し入れに初期の頃のレコードがありますねー、ボス?」
<・・・・・>
2階部屋。
真剣に「七人の侍」を観ているメイ。
2人と1匹で鑑賞。
七人の侍 完
「面白かった?」
頷く。
良かった。気に入ってくれたなら今度は「用心棒」「椿三十郎」とか観せたいな。
「キクチヨしんだ・・かなしい・・」
「・・そうね」
「カタナ」
部屋の隅に立て掛けてある刀を指さし、駆け寄り手に取る。
「ボス、前から気になってましたが、刀本物じゃないでしょうね?」
刀を見て考え込む。首を横に振る。
その動作で、
「本物あったんですか?」
鞘から抜いて身構える。鋭い目つきで異様な迫力。
刀と一体化したような、様になり過ぎだよ・・メイちゃん。
両手で持ち一振り二振りと振り回す。
「ボス、物凄いオーラを舞ってるように見えるんですが、まさか・・」
ボスが首を横にブンブンと振る。
「鞘に収めて!本物らしいから!」
収める。
「ほしい」
「ダメ!持ってるだけで捕まっちゃう。ボス、何で真剣があるんですか?」
壁に掛かった額の中の多種多様な古刀、手裏剣を見つめるメイ。
ボスを見る。
首を横に振る。
「それもダメぽっい!」
ベットで眠るメイ。
寝顔が天使の様だ。
今日はメイちゃんと一気に距離が縮まったな。名前も呼んでくれた。嬉しい!
手にはナイフを握りしめている。
「・・・・・」
横に忍び込んでも大丈夫だよね?賊じゃないよメイちゃん・・・。
11終わり
12 俳優 剣菱彩 (前編)




