チヨと「喫茶店探偵物語」
喫茶店探偵物語という所でウェイトレスと探偵助手やってます相川千仍21歳です。
探偵物と言っても推理要素は少なく、私が様々な人と出会うドラマ、コメディ色が強いお話しです。
拙い文で、情景描写が壊滅的に苦手で小説の体を成していませんが、会話劇と見てくれれば幸いです。
よろしくお願いいたします!
喫茶探偵物語 スピンオフ
独眼の少女は殺しの許可証を持つ
https://ncode.syosetu.com/n4841ge/
ー喫茶探偵物語1ー
チヨと「喫茶店探偵物語」
高層マンションの一室。
ソファに座る容疑者4人の緊張した表情。
その4人を前に若い女性が推理劇を繰り広げている。
傍には大型犬シェパードを従えて。
「ーそして不幸な事故が起こりました。被害者の心情は大きく変貌を遂げます。
嫌悪から憎悪、そして殺意へと・・」
私の名は相川千仍。
私はこれまでの21年間、探偵について深く考えたこともなければ興味もなかった。
それが今、何故か探偵やってます・・。
ある企業の社長が殺害されてその死因を巡り、謎解きをしているところだ。
この犬と一緒に。
4人の容疑者を凝視するシェパード犬。
容疑者は被害者の長男、その愛人、義理の弟、伯母。
周りには数名の刑事とこの家のメイドが立ち尽くし、私の一挙一動に注目している。
「ー悲しい事件です。不幸の連鎖は新しい悲劇を生みました。・・そして・・」
自分にはこのような推理力はない。探偵役を演じてるただの代理。
正直、容疑者たちの名前さえ一致せず、予備知識もなく、犯人の検討さえもついていない。
何度この場から逃げ出そうかと衝動に駆られたか?
それももう終盤に差し掛かっている。
私は送信されてくる言葉を語り、推理劇を続けるだけ。
イヤホンの通信機からの指示の元、犯人の名前が明かされる。
<<犯人は菅原>>
これで終わる・・。
ゆっくりと冷静に容疑者4人の顔を伺う。
・・・菅原って誰?
話の流れから犯人は女の人らしいけど・・。
長男の愛人と伯母。女性2人は不安と不審の表情。見比べるが見当もつかない。
<<菅原彩芽です>>
通信から女性と教えてくれるが、
どっち?
パニック状態に陥る。
落ち着け私。ここは・・もう・・ごまかそう・・。
容疑者から目をそむき横の壁の絵画に目を移し、間を空ける。
絵画を見つめながら、名探偵らしく静かに口を開く。
「犯人は・・・菅原彩芽さん、あなたです」
沈黙。
長男の呟く声。
「何で・・」
ザワザワと騒めく声に私も犯人が誰なのか気になる。
ゆっくりと澄ました顔で4人の方を振り替える。
全員がメイドを見ている。
「?」
メイドが膝をつく。目には涙。
「・・・・・」
え?犯人この4人じゃなくて、・・メイドさん?
<<次は自供に追い込みます>>
<<菅原彩芽さん、貴女は被害者の血を分けた妹ですね。20年前ー
まだ、続くのか・・・。
6時間前
照りつく太陽を背に疲労と寝不足のなか、活気のないアーケード街をフラフラと歩く私。
肩にはショルダーバック。右手には求人広告誌。
喫茶店探偵物語 ウェイトレス兼探偵助手募集
条件 女性 年齢20~25歳
軽喫茶 接客できる方
舞台等演技経験者 モールス信号会得
週休2日制 月収50万~ 住居住み込み可
探偵業は未経験でも問題はありません
住所ー
何度も繰り返し見た求人内容を見直す。
偶然見つけたこの求人。これに賭けるしかない。これが無理なら・・。
商店街から住宅街へと歩き、一軒の建物の前に立つ。
年季の入った古い看板には「喫茶店探偵物語」
「ここか・・」
この喫茶店だけ昭和からタイムスリップしたような外観だ。
周りの新築の家と比べてかなり浮いている。
入口に向かうとドアに貼り紙が張り出されている。
(都合により無期限休業とさせてもらいます)
求人誌、バックを地面に落とす。
茫然として顔を伏せ、しゃがみ込む。
積んだ、私・・。これ以上の条件なんて、ないのに・・。
運のなさに嘆き、力なく立ち上がる。
スマホが鳴りビクつく。
ポケットに入れたまま着信音が鳴り終わるまで立ち尽くす。
もう逃げられない・・。
バックを拾い上げようとすると、1匹の大型犬シェパードと目が合う。
10秒ほど睨まれ、興味が無くなったのか喫茶店敷地内へと犬は消える。
犬にまで愛想つかされるか・・。助けてくれるなら、犬でも、何でも・・。
「・・終わったな、私」
バックと求人誌を拾い上げると、一瞬コーヒーの匂いが漂う。
辺りを見渡し匂いの元を探る。
この喫茶店から?
犬が消えた敷地内を覗き込み中へ入り込む。
道路からは死角となって見えないドアの存在。
「OPEN」と小さいプレート。
営業中?
躊躇しながらもドアの前に立ち、藁にも縋る思いでドアを開ける。
カランカラン
ドアベルが鳴り響く。
店内からはコーヒーの匂い。
中の作りは古くも清潔感のあるレトロ調で、
カウンターの中には帽子、メガネにヒゲの温厚そうなマスターが立っている。年齢は50代ぐらい。
「いらっしゃい」
「・・この喫茶店は、営業中ですか?」
「営業してますよ、どうぞ」
「募集を見てきたんですが、休業の貼り紙が」
求人広告誌を見せる。
「・・こちらに」
カウンター席を勧められ、お辞儀して着席。
「失礼だが、顔色があまりよくないね」
「・・あまり眠れなくて、・・ダメですか?」
「大丈夫ですよ」
グーとお腹が鳴る。
「すみません・・」
マスター笑み。
カレーを食べ終わる。
「ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」
「よかった」
マスターがタブレットの動画を中断する。
「挙がってた舞台の動画拝見いたしました。舞台の経験は1年半ですか。演技力は問題ないですね。メディアでの露出は?」
「ありません。それも劇団スタッフが撮ったもので動画はそれしかないはずです」
マスターは頷き、履歴書とメモを手に、
「で、まとめると。高校卒業後、地元企業に就職。2年務めて退職。
その後役者を目指し上京。アルバイトをしながら小さな劇団に所属。
現在演劇活動は休止。住む所なし。ここの募集を見て、・・・借金返済の為に働きたいと」
「・・借金の理由はー」
「プライベートな事はいいですよ」
「・・今どきのだらしない若者ですね。成人した女性が何をやっているのかと」
「年齢関係なく人には様々なしがらみがあります。老いた若いは関係ありません」
マスターの言葉に恐縮する。
「接客の方は?」
「高校時代、カフェでバイトを。一通りこなしてました」
「モールス信号は?」
「父が船舶の通信士で中学生の頃に興味本位で教わりました」
マスターはスモールライトでモールス信号を送る。
<<コーヒーはいかがですか ミルクは>>
ライトを受け取り、
<<ミルクは入りません ブラックで>>
「うん。問題ないね」
慣れた手つきでコーヒーを注ぎ、差し出してくれる。
「有難うございます。いただきます」
美味い。本物の煎れたてのコーヒー。落ち着く味だ。
「この店は私が喫茶店経営で、隣が探偵事務所の共同経営です。
私としてはここでのウェイトレスの雇用は問題ありません」
頷く。
「二段階の面接で、探偵助手の件は隣の雇用者と面接を行ってもらいます。
もし助手として雇われなかった場合、残念ですがこちらの雇用も諦めてもらうことになります」
「・・探偵の仕事とか全然分からないんですが」
「探偵の知識はさほどなくとも問題ありません。
事務所では簡単な雑用してもらいます。
稀に特殊な仕事もありますが能力は関係はなく、重要なのは演技力です。
これは舞台での経験、機転、行動力、それらが備わってるなら問題ないと思います」
「あとは隣の雇い主との相性ですね」
マスターは顔を近づけ小声で、
「かなり口が悪く辛辣だけど、あまり気にかけないように」
この優しそうなマスターと正反対の人?一気に不安になる。
「雇い主は会話のテンポが遅いですが、そこは了承して我慢してください。
性格も外見も驚くと思いますが頑張ってください、期待してます」
恐る恐る事務所の中へと入る。
事務所内は店の外装や喫茶店内と同じくレトロで、
昔観た古い映画の探偵事務所そのままだった。
黒張りのソファ。安っぽいテーブル。
机の上には乱雑に置かれた資料と黒電話。
その机の横にシェパード犬がジッと私を見つめている。
外で見た犬・・・。
犬は机の影へと入り姿を消す。辺りを見回すが誰も居ない。
突然、
<一連の話しは聞かせてもらった>
机の上のスピーカーから機械音の男の音声が流れる。
<軽くお前の素行調査をしたが散々だな>
<消費者金融、闇金、連帯保証人、ザッと260万の借金>
<60ほど返済したが現在金利合わせて280。法外の金利で逆に増えてるな>
「・・・・・」
<稼いだ金は全て返済。アパートは滞納で退去>
<バイト程度では借金が追いつかず、実入りのいい仕事を探してここに辿り着いた訳か>
「・・その通りです」
<都会に向いてないな、お前。上京したのはいいが理想と現実は違ったか>
<男に貢ぎ保証人になり、借金返済でフロに沈められる寸前か>
<セオリー過ぎて笑えるな>
「・・・・・」
<年長者の進言だ。イナカに帰った方がいい。親に頭を下げて闇金分だけでも清算しろ>
<後は就職でもパートでもして地道に金を返していけばいい>
<少なくとも悲惨な女の末路を辿ることはなくなる>
「・・・・・」
<それともここに残り、金持ちや老人をハニートラップで金を引っ張るか>
<その容姿で演技力があるなら楽に借金額以上の金が手に入るぞ>
<その度胸や覚悟があるなら手伝ってやってもいい>
「・・・・・」
<まあその度胸のある性悪女ならもうやってるか>
「・・騙されて借金をしたのは事実です。
けどあなたにその後の私の生き方まで決めてもらわなくても結構です。
私はバカで無知で男を見る目がなかったけど、人を陥れてまでお金を欲していません。
それとどこにいるんですか?カメラか何かで観てるんですか?
姿を現さない失礼な人に自分の人生面白おかしく言われたくないんですが」
<お前にそんな余裕があるのか>
「・・・・・」
<もちろん騙すダーゲットは厳選するさ>
<不正や違法で得た輩だ。良心の呵責に悩むこともない>
<いい話しじゃないか?オレと組めば大金を拝める>
<借金は完遂。オレはそのおこぼれの恩恵に与れる。WINWINの関係とはこのことだ>
「・・求人に載ってた演技力って、詐欺行為の為?」
<詐欺とは心外だな。慈善事業の一環だ>
「ここに来たのは間違いだった・・」
<そうか。まあ足掻いてみるのもいい人生経験だ>
<その器量だ。風俗やりゃ返済も早かろう>
<なんならいい店を紹介する。マージンは取るが>
「死ね!!」
ドアに向かう。
<待て>
<お前にとってここが最期の砦じゃないのか>
<追い込みの着信が凄いはずだ>
「・・・・・」
<お前を否定したことは詫びよう。すまなかった>
「・・・・・」
<外で死んだような目をしたお前を見てこれはダメだと思った>
<それで切っ掛けを与えた。追い詰めたらどう反応するのか>
<うまい話しに喰いつくのか。泣き寝入りか?悩んだ末自分を殺して乗ってくるのか>
<それが、「死ね」だ。オレ好みの反応だ。理性はあるし、少しは闘争心も残っている>
「・・・・・」
<お前、自分が傷ついても人前や独りでも絶対泣かないタイプだろう>
<限界を抱え込み続けた結果が今のこの状況というわけか>
「・・はい・・その通りです」
<それでは人間落ちるところまで落ちてしまう。実際落ちてるんだがな>
「・・・・・」
<同情されるのは屈辱か?>
「・・いえ」
<今から弱音を吐いてみろ>
「?」
<恨み辛み、色々吐き出しい事もあるだろう>
「・・・・・」
弱音、愚痴とか吐いたのはいつの頃だったか?東京に来てその記憶はない。
我慢ばかりしてきた。逃げてばかりだった・・。
こんな事言ってくれる人・・傍に居なかった・・。
「・・東京に・・・芝居が好きで、役者を目指す為に、上京してきた。
都会がこんな酷い所だとは思わなかった」
「男は下心しかない体目当て。女は妬み僻み、嫌がらせ。人間関係ボロボロ。
私の要領も悪かったけど、自信もないし、怖いし、それで少しずつ心が弱っていった」
「演劇の方もだんだん分からなくなった。アパートで身に入らない台本を読み込み、
生活の為のバイト、その繰り返しの惰性のような毎日」
「憧れた役者への道、演技、東京での生活、全然楽しくなかった」
「そんな時現れたのが彼氏。優しい言葉に救われた。
嫌われたくなくて、お金貸して、借金して、保証人になって、そして借金だけが残った」
自嘲した笑い。
「金貸しの業者からは風俗で働いて返済しろと迫られた。借金を一本化して今後利子を割り引くからと面接を受けさせられた。けど、怖くて逃げた」
「誰にも話せず、頼れず、もうどうしたらいいのか分からない。
周りに信頼できる人、叱ってくれる人、諭してくれる人、いなかった。
同情してくれる人、誰もいない・・」
「・・・限界です」
<都会の中の掃き溜めのような場所に当たったか。周りの人間はクソ。対人関係は崩壊>
<クズ男に引っかかり、金の亡者のハイエナが食い尽くす。大外れだな>
「・・・・・」
<人間たまには愚痴を言ってストレスを発散させんとな、やってられん>
<まあここに来たんだ。助けを求めてもいいと思うぞ>
<偶然でも運でもこの喫茶店に辿り着いたということはけっこうな幸運だ>
<その幸運を利用するくらい、時には図太く、ずる賢く世間を渡っていくくらいじゃないとな>
スピーカに向かい縋るように、
「助けて、くれますか?」
<ここはどこだ?探偵事務所だ>
「・・依頼、とかですか?」
<美人の可愛いお姉ちゃんは、助けろ守れと師匠からの教訓だ>
<自分好みならいくらでも犠牲になれ、背負ってやる覚悟を見せろと>
「・・・・・」
<ちなみにお前はそれほどオレの好みではない>
<顔は美人の部類だが、残念な事に胸がないからな>
「・・・・・」
<依頼料や借金は元彼を追い込み金を吐き出す。金の心配はしなくていい>
<勝ち馬に乗るか>
「・・お願いします」
<よし>
安堵のため息が出る。身体が軽くなり緊張が解ける。
<やっと表情が柔らかくなったな>
「本当に余裕がなくて・・」
<追い詰められたままじゃ、まともな面接などできん。不安要素は排除しないとな>
「・・私の為に?」
<言っとくが受かったわけではない。依頼を受けただけだ>
<懸念がなくなったところで面接を続行する。机の後ろに来い>
机の後ろへと移動する。
そこには大型キーボードを打ち込むシェパード犬の姿。
「???」
周りを見回すが犬しかいない。
前足で器用にキーを打ち込んでいる犬。エンターを押すとスピーカーから、
<オレがここの探偵社の所長だ>
「・・・・・・へっ?」
犬はキーボードを打ちエンター。
<所長だ>
「・・・・・」
犬?所長?・・・何このキーボード大き過ぎない?
前足で打ち込むキーボードの打ち順見る。
<<HOUKERUNAAIKAWATIYO>>
エンターを押すとスピーカーから、
<呆けるな相川千仍>
「・・・・・」
本当に打ってた?
混乱し戸惑い、再度周りを見回す。犬のみしか存在しない事務所。
<面接で動揺は禁物だ>
「・・・・・」
<何か言え>
「・・え、えっと、・・キーボード、大きくない?」
打ち込み、エンター。
<そこかよ!>
ツッコミ入った・・。
いやいやいや、落ち着け落ち着け、これは面接だ・・。
何か試されてるの私?・・所長は?・・・犬?
改めて犬を見る。紛れもなく犬。
キーボードの横の50音表示の大型タブレット。
犬は打ち込みをそちらに変える。
<こっちが早い>
何なのこれ?ドッキリ?宇宙人?いや、宇宙犬・・ってなんだそれ?
<意外と表情豊かだなお前>
「誰?!」
<所長だ>
「だって犬でしょ」
<犬だ>
「・・犬の、・・所長さん?」
<犬のお巡りさんみたいに言うな>
「・・ありえないでしょ、なんで犬が、キーボードで?」
ポチポチとキーを打つ犬。
<敬語を使え。雇い主でもあり面接官だぞ、オレは>
「・・すみません」
犬に怒られた。でも犬が・・犬・・。
<面接でタメ語は致命的だ。フレンドリーな関係は信頼関係を築いてからだ>
<まあ今回は許してやる>
「・・・有難うございます」
許された。犬に・・。
なんかもうよく分からなくなってきた・・。
何かの映画で猫と入れ替わったのがあったけど、
その世界観?そんなのあるの?ないない!
誰かにからかわれている?偽物?
しかしどう見ても本物にしか見えない。
犬は太いストローで水を飲んでる。
そういえばうちの近所に毛並みのいいシェパードいたな。
触ってもいいのかな?ちょっと確かめたい・・。
ポチポチ打ってる姿を見て、
謎はともかく、可愛いな!
不審と好奇心のなか、
「あの、ちょっと触ってもいいですか?本物か確認したいんですけど」
犬は少し考え、
<優しくしろよ>
犬の頭を撫で、背中を摩り、尻尾掴み揉み揉み。
<尻尾はダメ>
ビクッと離す。
感触も毛並みも息遣いも、本物の犬・・。
<オレの弱点を見抜くとはな、なかなかやるな>
ええーもう、どうしたらいいのこれ?
<以後尻尾禁止な>
手を差し出し、
「お手」
<お前は雇い主を服従させるつもりか?何様だ?>
「・・すみません」
凄い失礼な事を・・。って、どう考えても異常だよ、これ・・。
「あの、犬が話すなんて、・・どう考えてもおかしいです」
睨む犬。
「訓練された犬とか?ですか?」
<日光のサル扱いするな>
「白いお父さん的な?」
<CMじゃねーよ。白いのは喋れるだろうが>
「分かった!ミュータント」
<カメじゃねーよ>
「・・・・・」
<今のツッコミはローガンの方がよかったか。格好いいよな>
格好いいのは認めるが・・・今は・・・。
「何かもうほんとに意味わからないんですが」
沈黙が流れる。
「説明してください。怖いです・・」
<犬が言語を理解して悪いか>
「・・・・・」
<悪いのか>
「・・悪くはないけど」
<犬の1パーセントは人語が分かるんだぞ。オレはその1パーセントのレアものだ>
「ウソ!?」
<この世界にも決まり事があってな、犬界の法律で人間とは接触できない事になってる>
犬の世界?決まり事、そんなことが・・。
<まあそれはウソだがな>
イラッ
<お前にはオレがどう映る>
「?」
<こうして犬と会話をするのをどうみる?>
「どうみるって、どう考えてもありえない世界です」
<どう感じた、オレと話しをして>
「・・なにか、こう、外見が犬じゃなかったら人間と話してるみたいです。
人間ぽいっていうか、知性はあるし、ツッコミ入れるし、ウルヴァリン観てるし」
<そうだ、オレは元人間だ>
「・・・またウソ?」
<ウソではない>
「何で犬に?」
<何でこうなったかか>
「・・・・・」
「疑問か」
「はい」
<オレも知りたいよ。・・どうしてこうなった>
遠くを見るような目。そしてその目を閉じる。
元人間?だった?・・オレも知りたい?・・頭ついていかないよ。
けど意思を持ってるし会話も成立してる。・・信じられないけど。
目を閉じたまま微動だにしない犬。
停止しちゃった。
「あ、あの・・」
目を閉じた状態。
「・・電池、切れ、ました?」
目を開け再びタブレット打つ。
<面接を続ける。最終試験だ>
試験?
<ここでは最低限の頭は必要だ。クリアしたら雇用決定。モニター見ろ>
パソコン画面に若い女性の画像と名前。
<この娘の母親から依頼が来たと仮定しろ>
<お前は探偵としてこの娘の居場所、もしくは情報を特定しろ。時間制限は5分>
タブレットにタイマー。
<始めるぞ、スタート>
「無理ですよ。これは」
犬はタイマーを見ている。
「探せるわけないです。赤の他人なのに」
<諦めるか。じゃあお前はこことは縁がなかったということか>
「無理です、5分とか」
睨む犬。
<最初から無理と決めつけるのか>
<考察する頭はないのか。思考し想定しろ。頭ごなしに否定してどうする>
<お前、上京してきて人間関係や要領が悪いと言ってたな>
<それを改善するための努力を行ったのか。ただ逃げていただけじゃないのか>
「・・・・・・・」
<オレにはお前が嫌なことから目を背け、現実逃避してるとしか思えん>
<心が弱っていった。それは行動を示さんただの言い訳だ>
「・・・・・・・」
<自力で解決し、行動しないと一生逃げ続け、流されるままの人生だ>
<最初から放棄するようなら用はない。時間の無駄だ。帰れ>
<依頼の方はこっちで勝手にやっておく>
その言葉に衝撃を受ける。
確かにその通りだ。私は今まで嫌な事から逃げてきた・・・。
反抗も行動も起こせず、体裁ばかり気にしてて、あげく男に依存して流されるままに・・。
犬を見る。
<自分を客観視すれば意外と自分が見えるものだろう>
頷く。
「何だか気づかされました。私ー」
<時間がないぞ、早く解け>
「・・・・・」
今まで逃げるだけで、変わるんだという意識さえも私の中になかった。
犬、さんの言う通り変わらなければ。諦めてはダメだ。
モニターを見る。若い女性の画像と名前。
時間は過ぎたようだけど・・待っててくれてる。
ダメでも、落ちても、試験だけはやり遂げたい。
気付かせてくれたこの人(?)に認めさせたい。
この情報だけで、・・名前、名前!
スマホ画面。SNS。
<<今日は彼氏とライブ 楽しみ(絵文字)>>
<情報を得たな。正解だ。時間は過ぎたがな>
「・・はい」
悔しいが最低限の事は成し遂げた。
ほんの少しだけど見直してくれたかな?
少なくともさっきのような幻滅はさせていないはず。
犬は私の顔を見て考え込み、
<説教も過ぎた。まあいいオマケで合格だ>
「・・いいんですか?」
<諦めなかっただろう>
「有難うございます」
嬉しい言葉だ。
<合格しない方がよかったかもしれんぞ。月50の意味知ってるか>
「・・・・・」
<過酷ということだ>
過酷という言葉に拒否反応を覚える。
<怖いならやめてもいい。借金帳消しは確定だから問題はないだろう>
「・・・・・」
見つめる犬。
決意する。
「簡単に諦めて逃げてしまう自分を変えたいです。未熟な自分を。
あなたは私を助けてくれると言ってくれました。
こんな言葉かけてくれる人、今まで誰もいませんでした。
私に出来る範囲ならどんなに過酷でも、あなたに報い尽くしたいです」
「私なんかで良かったら、どうか存分に使ってください」
沈黙。
<いい眼だ。よし、なら尽くしてもらうか>
「よろしくお願いします」
<あとはオレが所長として受け入れてくれればいい。犬の下で働くのは抵抗あるか>
「いえ、大丈夫です。犬は好きです」
<ペットじゃないからな、上司だぞ>
「はい。すみません上司です。・・いろいろあって、まだ混乱してますが」
<いきなり固定観念を変えろとしても戸惑うわな。それでも受け入れてもらう>
「・・本当に元人間なんですか?どうして犬に?」
<それはおいおいだ。少しは謎を残しておく>
<ここで働いていくうちに、その謎を解いてもいい>
<それともこれを課題にするか>
「・・・・・」
<それとオレのことはボスと呼べ>
「・・ボス?」
<ここでの決まりだ>
部屋に入ってくるマスター。
「チヨ君おめでとう。採用されると確信していた」
「有難うございます。まだ不安ですが、よろしくお願いします」
「サポートはできるだけするから心配ないよ」
マスターはボスに向かって、
「例の件だが警察から連絡が来た」
<動機も証拠も押さえた>
マスターは私を見て、ボスを見る。
「やらせるのか?」
<見た目は上玉。中身も面白い>
「さすがに早計では?」
<容疑者を集めさせろ>
マスターは諦めたように、
「チヨ君、早速で悪いが仕事だ」
机からイヤホンを取り、
「これ耳に付けて」
イヤホンを渡される。それを耳に装着。
「初日からすまないが、ちょっと難易度が高い仕事だ。ボスがこの装置を使用して、チヨ君にモールスを送る。それを耳で読み取って喋るだけでいい。
推理はボス。ボス(犬)を従えた探偵役がチヨ君、君だ」
「・・・・・・・」
イヤホンから音のモールス信号。
<<がんばれ>>
私が喋る?探偵役?
「話しが見えてこないんですが・・」
<金田一であるだろう?「真犯人はあなただ」それをお前がやるんだ>
何その大役?
「・・助手というより探偵そのものじゃ」
怖気づきマスター、ボスから離れる。
<ケツに火がついてるお前は拒否できん。それに尽くすんだろう?>
「・・・・・・」
<お前に推理力は求めん。モールスを読み取れ>
<ポアロや金田一の名探偵のように堂々と喋ればいい。演技はお手の物だろう>
<採用された初日に難易度最高ランクか。持ってるな、相川千仍>
「・・・・・・・」
冒頭の続き
泣き崩れる犯人の女性。
推理や動機の解明が終わり緊張から解き放たれる。
何とも言えない表情で犯人を見つめる。
ボスを見る。
この推理を犬が、いえボスがやったということ?
モールス信号が送られてくる。
<<終了 上等 堂入ってた>>
<<帰る>>
「・・・・・」
こうして私は採用されウェイトレスとして、探偵助手として、
喫茶店探偵物語で働くことに決まった。
不安しかありません・・・。
1終わり