7話 刺客ドゥース その三
十二月十五日。
4年前のその日は、歳が五つ離れた妹の10歳の誕生日で、お祝いにと家族と車に乗って隣町にあるレストランへ向かっていた。
車内ではしゃぎすぎな妹を俺が宥めていたのをよく覚えている。
区間を越えようと、自分たちの住む町と隣町の間にある橋に俺たち家族を乗せた車が差し掛かった時だ。
突然轟音が鳴り地面が大きく揺れたと思った瞬間、橋はその場にいた全員を巻き込み真下にある川へ崩れ落ちた。
車が川に着水して間もなく、大きな瓦礫が運転席に落下して多分、父さんと母さんは即死した。
車が変形し窓が壊れ、車内に大量の水が流れ込んできた。
俺は妹を連れて死に物狂いで車から抜け出した。
対岸まで泳ごうと努力したが、真冬の川の水温は氷点下まで下がっていただろうし、厚着をしていたので服が水を大量に吸い、思うように身体が動かせなかった。その場で踠いているうちに、段々と意識が薄れてきて俺はついに泳ぐのを諦めそうになった。そのとき。
急に知らない男が現れ、俺たち兄妹を抱え上げて川の流れなどものともしない屈強な泳きで、俺たちを海岸まで運んだ。
お礼を言おうと思ったが、既に男は川に飛び込み、中心部へ向かって泳いでいた。…まさか溺れている人全員を救うつもりだったんだろうか。
数秒呆気にとられていたが、はっとして妹に目を向けると、妹は身体が冷たくなって、意識を失っていた。
数分後に救急隊員に保護された俺たちは病院へ運ばれ、治療を受けた。
俺の怪我は数ヶ所骨折、全身打撲程度だったが、妹はそれらに加えて、原因不明の昏睡状態に陥っていた。
病院での検査では、頭部の外傷は無し、脳機能共に特に異常はないと診断された。
両親を事故で失った当時、妹の入院費用を稼げるのは俺しかいなかった。今思えば、遠い親戚なりを頼れば良かったと思うがそこまで頭が回らなかった。
暫くして学校をやめ、バイトをして金を稼いでいたがそれでも金は足りず、俺は仕方なく危険な仕事に手を染めていった。それが今の汚れ稼業に繋がっている。妹はいまだに目覚めない。昏睡の原因が不明なら、俺にできることはとにかく治療費を稼ぐ、金を稼ぐことしかない。
あの日、何もかもを失った俺がたった一つ手に入れた物がある。
それがこの町に住んでいると言うターゲットたちと同じ力だ。
この力で、俺は今回の以来を必ず為し遂げる。
そう、妹のために、俺は金が必要だ。
次回で刺客ドゥース編ラストです。