エンジョイマン 5話 刺客デュース その1
久し振りに仕事の依頼が入った。
この町に住む能力者を片っ端から殺せ、そういう大雑把な注文だった。
名前も明かさない、顔も見せようとしない客だったが、殺しの依頼をする人間なんてそんなものだろう。
報酬は前払いで、「大量殺人を犯すかもしれない」リスクを考慮してもお釣りがでるほどの日本円が積まれた。
俺はとにかく金が必要だった、金が欲しかった。
金のためならなんでもやる。そう決めていたからこの仕事を受けた。
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数日調査し、やっと俺は「雷坂流道場」の名を小耳に挟んだ。
道場の住所は不明だが「数年前の戦い」に参加した格闘家、雷坂隆が経営しているらしい。
そもそも謎だらけのあの戦いに参加した者であれば、近頃蔓延している「能力者」のことを何か知っているかもしれない。
いや、あるいは彼が・・・
_そうであるなら、俺は「仕事」をこなすだけだ。
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「で、では、始めましょう。松本さん」
「いつでもいいぜ」
その日道場では、いつも通りのトレーニングが行われていた。
内容は腰に引っ掛けたテープを制限時間内に奪った方の勝ち、というルールだ。
「はっ」
「甘いな」
松本は影に消える。
「やっぱりそれズルいなー、これじゃどうしようも無いですよ。」
岡島が途方にくれる。
「そらっ・・・取ったぜ。」
「あっ」
岡島の腰からするりとテープが抜かれる。
「勝負ありじゃな、これソウよ。諦めたらそこで人生終了と、そうお主に言ったはずじゃが。」
「そんなこと言われても・・・影の中に逃げられちゃぁ・・・」
「それでもどうにか対策を練り、勝つ方法を模索するべきなんじゃと、言っておる。」
「ま、俺とお前じゃ勝負にならねーのは分かりきってた事だが・・・始めからやる気あったのかよ?今の勝負、ハッキリ言って能力使わなくても勝てたぜ。」
「そ、そうですよね・・・負けると思ったらそこで考えるのをやめちゃう癖を治さないと、まずいですよね。自分の命に関わることだってわかっているはずなのに・・・」
「うむ、ではもう一度・・・と行きたい所じゃがそろそろ昼時じゃ、買い出しへいってこい。」
「あ、はい、おつかいは良いですけど・・・わかりました行ってきまーす。」
岡島は走って出ていく。
「いいのかよ?ジジイ。」
「あぁ、ソウは思い詰めてしまうタイプじゃからのぉ。」
「ふーん、そうかよ。それよりジジイ、今はあいつらもいねぇし、そろそろケンカしてくれや」
「はっはっ。あと半年修行したら、腕相撲くらいはしてやるワイ。」
「ちっ・・・」
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園常商店街
「お総菜を買いに商店街まで来たけど・・・なにがいいかなぁ。うわっ」
「おっと」
ぶつかったその男は身長180センチほどで、少し痩せぎみであった。
「ご、ごめんなさい!!」
「いや、こちらも考え事をしていて、すまなかった。それでは。」
「は、はい。・・・あれ?何か落として・・・写真?」
岡島は男の落とした写真を拾い上げた。
「おい君、まて、それは。」
「こ、これって・・・!?雷坂のおじいさんの写真!?なんで・・・」
初対面の男が落とした写真には見慣れた老人の姿が写っていた。
「・・・雷坂?雷坂隆を知っているのか?」
男は淡々とした口調で問いかけた。
「え、はい。一応・・・」
男は口元が緩みそうになるのをこらえた。
「そう、か。」
_見つけたぜ。
続く。