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0-0「さよならだ、黒女帝ティヌアリア」

本編から削除した序章になります。

 西日が豪奢なステンドグラスを通して差し込み、黒曜石を思わせる妖しい光沢のタイルに反射して、帝の間を彩る。玉座から伸びる赤い絨毯の先には、巨人でも通れるであろう大きさの扉がある。その扉が無粋な音を立てて開く。

 女帝の隣に控えていないがら、女帝の眼前にも関わらず腰の剣に手を伸ばしている自分に気がつき、ルイドははっとして手を戻した。女帝の顔をうかがう。平然と、いつも通りの冷徹な瞳で、ゆっくりと開いてゆく扉から視線を逸らさない彼女の横顔を見て、ルイドはまだ剣を抜くのは早すぎることを自覚した。


 獅子を彫った白銀の鎧を煌かせ、後ろに四人の騎士と大勢の兵士を従えて、人間の王が玉座の間に姿を現す。


「おひさしゅう、ゲールデッド」

 黒女帝ティヌアリアは、そう言って、玉座から人間の王ゲールデッドに微笑みかけた。ゲールデッドはそれに応えず、黙って剣を抜いた。後ろに控える四人の騎士も剣を抜く。

 ルイドが改めて剣の柄に手をかけようとするのを女帝は手で制して、いいの、とばかりに首を振って見せた。


「黒女帝ティヌアリア、あなたの負けだ。俺たちは自由を築く。どうか安らかに、新たな時代の為の礎となってくれ」

 ゲールデッドは言いながら歩を進め、赤い絨毯の伸びた階段を上ってくる。


 ルイドは息を吸って、吐くと同時に剣を抜いてゲールデッドに斬りかかった。金属のぶつかりあう音がして、ルイドは階段を二歩ほどよろけながら上ることになった。ルイドの剣を受け止めたのは、ゲールデッドの後ろに控えていた騎士の一人。


「パージュ……貴様っ!」

「王を守るのは騎士の務め。お前もそのつもりだったんだろう?」


 ルイドは体勢を整えると、パージュに剣を振りかざす。一合、二合と剣のぶつかりあう音が玉座の間で反響する。どちらも相手に傷を負わせることができない。


「――おやめなさい」


 静かに、だが、はっきりとティヌアリアがそう言うと、ルイドは歯軋りをしながら剣を収めた。対するパージュは何事もなかったかのように平然と剣を引き、自らの王の後ろへと戻った。


「貴士王ゲールデッド、あなたがユーガリアの地に平和をもたらしてくれるというのなら、私は喜んで玉座を明け渡しましょう。お父さまほど、私は権力に魅力を感じていませんから。ただし、私に付き従った者たちにまで、あなた方の怒りを向けないでください。あなた方人間の怒りは、憤りは、私が一身に背負いましょう。それが支配者の最後の責務だと重々承知しております。それに――あなたになら、任せられると、そう、思いますから」


 ゲールデッドは目を閉じ、剣を振り上げた。ステンドグラス越しの夕陽が、彼の剣に光彩を与える。



「さよならだ、黒女帝ティヌアリア」

「さようなら、貴士王ゲールデッド」

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