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赤い雨  作者: 砂野秋
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その後

「おおい、糸!海へ遊びに行くぞ!楽しいぞー。宿題なんか、後回しでいいだろ!」


あの日以来、父は休みの度に遊びに連れて行ってくれる、子煩悩な人物に変貌していた。それだけでなく、研究所で働いていたという事実もなくなり、あの喫茶店のオーナーとして当たり前のように私の父は存在していた。


きっと、マスターが宇宙へ帰る前に私に残してくれた、置き土産だと思っている。


「えーと、あなたは、私の息子…、いえ、娘よね。うーん、そうだった、気がする…」


母は、少しずつ、私のことを思い出してくれている。きっといつか、完全に記憶が戻ってきてくれると信じたい。


「糸ちゃん、遊びに来たよ」


陽ちゃんが玄関のドアを開け、明るい笑顔で手を振る。


「陽ちゃん!お父さんが、海に連れてってくれるって!一緒に行こうよ」


あの後、陽ちゃんがアパートに帰ると、知らない男の人はいなくて、全ては元通りになっていた。変な生き物を産んだという記憶は無くなっていて、以前の明るい陽ちゃんに戻っていた。これも、マスターが宇宙に帰る前に元に戻してくれたのだろうと思っている。


「おう、陽!糸!今日は何すんだよ」


「あっ、久竹。首の赤い発疹、大丈夫?」


「ああ、だいぶ治ってきたよ。宇宙のウィルスとやらも、たいしたことねえな!」


「着替えるから、待ってて!」


まだ部屋着だった私は、着替えるために自室に入る。


「ニャー」


机の上にいたシロが可愛い声で鳴く。


見ると、一瞬シロの目がカメラのレンズのように見えた。が、瞬きすると、いつもの黄色い猫目に戻っていた。


「海に行ってくるね!お留守番よろしく!」


額をくっつけてグリグリすると、猫の瞳に映った私の姿が、黒く、陽炎のように見えた。


シロが少し口を開く。


「宇宙から、いつも見守っていますよ」


かすかにマスターの声が聞こえた気がした。


が、私は気にしないことにして、いつものパーカーとズボンに着替えると、海へ行くために階下へ降りた。


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