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心象を操るのは  作者: 安藤真司
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焦がれる

 二月十七日。


 優芽は現代においては珍しくもない一人っ子で、公務員の父と旅行会社に務める母との間に生まれた。二人の出会いは日本から遠く離れた異国の地であるらしく、一人旅が好きだった二人は偶然か必然か出会い意気投合したという。

 この親からどうして自分が生まれてしまうことになってしまったのだろうかと、この世界を創造したらしい神様とやらに対して作り込みが甘いよと怒りを感じることもある。

「おはよう、お父さんお母さん」

 父と母の朝は早い。

 同級生の中では比較的朝に強い方である優芽が起きると、土曜日で仕事もないだろうに、既に父はふわりと甘い香りの中におり母はそれを正面から嬉しそうに眺めている。

 羨ましい限りである。

 嬉しい限りである。

「昨日も話したけどね、今日は夕方から奏音(かのん)友莉(ゆり)、それにみもりちゃんに詩織(しおり)ちゃんと出かけるから」

 優芽は母の隣に腰掛ける。

 どんな過去があるのか四人用テーブルを三人で囲う夢叶家にはご丁寧に椅子まで四脚用意されている。当然ながら一脚は使用されておらず、父の隣はいつも空席だ。

 食事中は基本的に喋ることなく食べることだけに集中して、しっかり手を合わせて食物として栄養として関わってくれた命に感謝する。

 自分の分と既に父親が食べ終えた分をさっと手に取り、台所ですぐに洗ってしまう。この時期は水が痛いくらいだがそれは母とて同じであり、自分にできることなら自分でやって母の時間を増やしてあげたいものだ。

 両親は子どもである自分に人生の多くを捧げてくれている。

 父も母も家族のためにいつだって働いている。仕事という意味で、家事という意味で、人生の先輩そしてお手本として優芽に恥ずかしい姿を見せないようにしている。

 かつて自らの欲のままに動いた優芽には両親の存在は眩しすぎてしまう。

 恋人にせよ家族にせよ、自らの時間を相手に捧げる行為ほど尊いものはない。

 なにせ、相手のためを思って行動したからといって必ずしも相手にとってプラスとは限らないのだから、自分が捧げて相手が受け取る、そんな関係が築けたならばそれ以上の幸福はないだろう。

 例えば友を見捨てて「綾のため」と言ってのける優芽の行為を認めてくれる人間など誰もいなかった。

 繰り返し繰り返す時間を犠牲に優芽が得たものは何もなく、優芽が与えたものもゼロだった。

 互いに信頼しあい、与え与えられる人間関係の形である夫婦の様は直視しづらい。

 直視しづらいから、目を逸らす。

 自分の時間はどこにあるのだろう、と。

 答えのない問いを考えながら。

 逃げるように家を出る。

「いってきます」



 土曜日の授業は午前中に終わり、午後は部活動や委員会活動、そのほか当然ながら帰宅部は帰宅する流れとなっている。昼食を教室で済ませて、優芽は生徒会室へ向かう。

 春先であれば中庭で弁当を広げる集団も見られるが、さすがにこの時期に修羅の道を選ぶ物好きもおらず、廊下の窓から見下ろす景色は雑多な空白だけだった。

(それでもこの間は、結構、いたなぁ)

 優芽は一昨昨日、水曜日を思い出す。その日は二月十四日バレンタインデーであり、高校生にとっては少々特殊なイベントがあちらこちらで発生していた。

 かつての男女がどんな過ごし方をしていたのかをよく知らないが、少なくとも現代の高校生にとってバレンタインデーの持つ影響力は小さい。

 誰も彼も、告白した事実が周知されるような真似を好ましく思わないためである。

 時には付き合っている事実すら秘密にしておきたい若者は、あからさまに恋愛関連のイベントに乗じて意中の相手にチョコレートを贈るようなリスキーなことはしない。

 そもそも、なぜバレンタインデーが先でホワイトデーが後なのだと不満の声が多いくらいだ。

 男子は貰った相手に返すだけでいいのに、どうして女子は勇気と労力でもって義理チョコ含め自ら行動しなければいけないのか。

 加えて近年流行りの逆チョコなど、何がどう逆なのかご高説賜りたいほどである。

 とはいえ、女子側の本音を知ってか知らずかそわそわしている男子の様子を見ているのは非常に愉快で悪い気がしない。まぁ好きでもないが慣例として作ってやらないこともないと思うほどには仲が良い。

 その辺りのバランスが絶妙に釣り合って成立するイベント、それが幸魂高校におけるバレンタインデーであった。

 結果どう見ても、恋愛イベントではない。

 普段、普通の恋愛事情に関しては複雑な立ち位置にいる優芽も困ることなくあっさりとこの日を終えることができた。

 普通に生徒会役員の(櫛夜を除く)皆にクッキーを渡し、クラスでは女子一同から男子一同へと有志で集金して市販のチョコレートを適当に見繕った。購入の際、何故か生徒会役員というだけで男子に取り立てて興味のない優芽も参加させられたわけだが、どこか浮ついた同級生たちの恋愛事情を聞くことや可愛い包装を見ているだけでも十分楽しかったので一応はよしとする。

 かつての自分とは違い、人の話を聞けるくらいには余裕ができたのかもしれない。

『人を見下す余裕ができただけだろう。憎悪が軽蔑に変わったことのどこが誇らしい?』

 やはり幻聴の主は優芽の成長を事実で否定し、そのことに安心する自分がいる。

 国立の大学を第一志望にしているはずの綾はまだ本番が残っているためほとんど学校に姿を見せることはなく、見せたとしても自習室に一人でいるか教員室で何かしら質問をしていたため優芽はチョコレートを渡すことはしなかった。

 渡せば綾にとってちょっとした気晴らしくらいにはなったかもしれないが、どうせならば全部が終わってからの方が純粋に喜びやすいだろう。わざわざこちらの都合に綾を付き合わせることも躊躇われた。

「好き、なのかな、ほんとに」

 好きな人の将来に気を遣っているのか。

 はたまた歩き出せない自分自身に言い訳しているのか。

「それこそ、どっちでもいい、けど」

 ひとりごちる。

 自身の心情がどうであれ行動の結果は同じで、行動の結果がどうであれ自身の心情は不明瞭なままだ。

 考えてもわからないことに時間をかけたところで、「考えてもわからない」という結果しか得られない。

 バレンタインデーなんてただ適当に楽しめばいいだけのイベントすら穿(うが)った見方をしてしまうなんて。

 自分はなんて寂しい生き方をしているのだろう。


「何がどっちでもいいの? 夢叶さん」


 などとぼんやり考えながら歩いていた優芽の横に並んだのは、現三年生で元生徒会副会長だった男子生徒――光瀬(みつせ)(みつ)だった。 


 現在、幸魂高校における生徒会役員は卒業間近の三年生を除いて七名である。

 一人は書記を担当する優芽。

 生徒会長の狩野(かのう)奏音(かのん)

 その他の二年生では会長補佐の櫛咲(くしざき)櫛夜(くしや)、広報の侑李(ゆうり)友莉(ゆり)

 一年生の役員は副会長の綾文(あやふみ)弥々(やや)と会計の森崎(もりさき)みもり、そして庶務の織上(おりかみ)詩織(しおり)

 七人中男は櫛夜一人だけであり、意図したわけではないのだろうが自然と男が入りにくい雰囲気があるのかもしれない。

 生徒会役員は三年生になる時点で受験勉強に専念するため引退するのだが、例年六月に行われる体育祭までは生徒会長と副会長が残り後輩の指導をしている。

 その三年生の生徒会長と副会長というのが綾と光である。

 二人ともに体育祭の終わりと共に役職を後輩に譲り引退したわけだが、学年が違ってもすれ違い様に話しかけ合うくらいには生徒会役員同士の仲は良い。

 現行生徒会役員七人の仲も一部(優芽と櫛夜)を除いて良好であり、若干の気まずさ

は(櫛夜と友莉の間に)あるものの男女の垣根なく良い関係が築けている。つまり問題があれば大概櫛夜が原因である。

 当の櫛夜は後輩である弥々と恋人付き合いをして既に八ヶ月ほど、校内随一のバカップルという大変栄誉な座を頂戴している真っ最中であり、自分がどれほど問題になっているのか正しく把握している気配がない。

 優芽からするとそのことがまた気に食わない。


「光瀬先輩、来ていたんですね」

「僕もまだ受験は終わっていないが、既に終わった同級生とあれこれ話すのは結構な気晴らしになるんだ」

 逆の立場なら僕とは話しづらいだろうけどね、と付け加える光。

 柔らかな物腰で男女関係なく交友の幅が広い光は一見すると絵に描いたような優等生である。頭も良く運動もそれなりにこなし、生徒会の副会長を務めていた眼鏡男子。

 そんな外面とは裏腹に、体育祭の際には優芽に加担して時間の巻き戻し現象を利用、綾と自分とが恋仲になるように動いていたりしていたのだから人間とは恐ろしいものである。 恐ろしいのはそうさせる恋愛感情そのものなのかもしれないが。

 あるいは、単に優芽、珠子、光の三人が狂ってしまっていただけかもしれない。

「今は卒業式の準備かな。順調?」

「はい。問題なく」

「夢叶さん自身も?」

「……はい?」

「綾文さんが卒業生代表として挨拶するから。彼女も卒業式当日には試験自体は終わっていても結果がまだだろうにね」

「ええ、と。それが、私となにか」

 関係があるのか、という言葉を優芽は飲み込んだ。

 悲しそうに微笑む光を見て、自分がどんな人間であるのかを思い出す。

 珠子に言われたばかりではないか。

 綾への歪んだ愛情のためなら、時間を巻き戻すくらいわけないという思考回路を持っている人間。

 それが夢叶優芽の正体だろう。

「大丈夫です。順調です。もう、戻るつもりは、ありません」

「そっか。いや、正直なところさ、戻すべきなのかなとは思うんだけどね」

「戻す、ですか。はじめの、綾文先輩が、付き合ってしまうあの世界に」

 確か珠子も昨日、似たようなことを言っていた。もしかすると優芽は、櫛夜と綾とが元通りになる世界に巻き戻したいと考えているのではないか、と。

 そんなわけないではないか。

 あるべき姿に戻すことは正しいのかもしれない。

 けれど、正しさ以上の感情があったからこそ今の自分達がいる。今しか肯定できない自分達なりに選んだ世界がここなのだ。

 なにより優芽にとっては、あの体育祭の日に自分と奏音と友莉と、三人で誓った世界だ。誓いまでなかったことになんて、したくはない。

「感情的には、嫌ですね」

「へぇ、なら僕とは真逆だね。感情的には直したいし戻したい。繰り返したいとまだ思っているよ僕は」

「条理には、敵わないと思います」

 感情としては、もっと言えば感想としてはもう二度と時間を巻き戻すべきではないと思うし、皆で掴んだ今を大切にしたい。

 だが、間違っている。

 これは皆で掴んだわけではない。勝手に変えられた世界を、皆が納得してくれただけだ。誰かの幸せを奪って、他の誰かが幸せになっているだけだ。

 元の世界で幸せを掴んだはずの人が一番に不幸になって、それでバランスを取っているに過ぎない。

 優芽は考える。自分自身の感情さえ度外視するなら、今すぐにでも時間を元に戻すべきなのだろう、と。

「どちらにせよ、僕らは文句を言える立場にないね。僕らなんかよりも……それこそ、綾文さんの感情を聞かなきゃいけないって思うけど」

「そう、ですね」

「当事者だから聞かなければいけないんだろうけど、どうも逃げてしまっていてね。さすがに受験が終わってから聞くのはずるいとも考えたが、時期が時期だ、絶交を覚悟にそれだけは聞かなきゃ前に進めない」

「どうでしょう。弥々ちゃん、いるから、良くも悪くも」

 綾が元々好き合い、付き合うはずの櫛夜は現在、綾の妹である弥々と交際している。それはつまり同じ家に毎日毎日、恋敵で勝者で、ねじ曲げられた世界の象徴が存在するということである。

 有り体に言って、それは。

「地獄だよね。この世界に納得がいっていない人間がいるというなら、それは綾文さんただ一人だろう」

「そう、でしょうか」

「綾文さん以外に被害者がいないって言い方もできる。僕らの標的になったのは綾文さんと櫛咲くんで、櫛咲くんは綾文弥々さんと付き合い始めた反面、綾文さんは一人きりだ」

 遠い何十年後、櫛夜と弥々が一緒にいる保証などどこにもない。むしろ普通に考えれば高校生の恋愛がそのまま結婚に結びつくことは稀であろう。

 綾もこの先誰かしらと恋に落ちて付き合い、結婚するのかもしれない。

 ならば全て青春の一ページと割り切ってしまうことも不可能ではないが、当の高校生にとってはまさにその青春の一ページこそが今の自分の全てなのだ。

 今現在の自分自身を割り切れ、など、誰に言えるはずもない。

「それで? さっき有耶無耶にしちゃったけど、どっちでもいいって何の話だい?」

「む……」

 気のせいか、昨日の珠子といい目の前の光といい幻聴ならぬ幻聴の主といい、どうも誤魔化しという行為を認めてくれないらしい。

 見て見ぬ振りと無言を読み取るのが日本人の美徳ではなかったのか。

 どちらもできない自分自身を棚に上げて優芽は不満げな表情で返答する。

 ノーコメントである。

「まぁ、何事もなく卒業式が終わることを祈っておくよ。聞いたよ、文化祭も森崎さんと織上さんが大変だったんだって? 体育祭、文化祭と来て卒業式にまた事件とはなって欲しくない」

「それは、まったくの、同感です」

 既に事件が起きているかもしれない、とは言えない。

 心を閉ざしていた優芽だけに聴こえる声。

 一体何を伝えようとしていて、何を起こそうとしているのか。

 わからない。

「光瀬先輩」

「ん、なに?」

「ユアって言葉に、聞き覚え、ありませんか?」

「ユア? ユア、かぁ……」

「あ、いえ、すみませんなんでもありません」

 幻の声曰く、優芽が犯している唯一の罪がユアであるらしいのだが、相変わらずヒントの欠片も手にしていない。

 というか、自覚もなく罪を犯すことなど本当にあるのだろうかと疑い始めてもいる。

 誰しも意識的にか無意識的にか人を傷つけることはある。あるが、指摘されて初めて気付くことなど実はないのではないだろうか。

 無意識だろうが罪となるような行為を実行するときには誰かが傷つくだろうと心の中で考えているのではないだろうか。

 人はいつだって誰かに対して罪を犯しているのではないだろうか。

「人名とかじゃなくって、ただの世間話というか、ダジャレみたいな話になるんだけど、いいかな」

「?」

 罪というものを人はいつだって自覚している。

 そうでなければ人が縛り縛られる常識で考えて間違っている行為をするはずがない。

 普通であることから外れてしまう人生を誰もが拒み、内心どこかで外れたい願望を持ち合わせる人であっても罪であれば実行しない。

 それでも我慢ができない人類は、欲に駆られて他人の財産を奪う。文字通りの金品でも、時間でも、命でも。

 ならば、幻聴の指す夢叶優芽の罪とは一体なんなのだろう。

 自分自身で忘れてしまった、忘れようとしている罪とはどんなものなのだろう。

「綾文さんが言っていたことがあるんだ」

「え、ユアって言葉を、ですか?」

「『You are』って、『あなたは』って英語だね」

「はあ」

「露骨に興味を失ったね。ただのダジャレだって言っただろう?」

「へえ」

「ま、続けよう。綾文さんがいつか言っていたんだ。『You areもYourもとても響きがいい』『あなたは、あなたの、君は、君の』『けど何よりいいのは、日常生活であなたとか君って言葉を案外使わないことよね。だからこそ使う時には言葉に重みがでる』とか」

「考え方が綾文先輩、らしいですね」

「そう思うよ。けど、言っている彼女は結構あなたって言葉を使っている気がする。そこを含めてやっぱりいいなと思う」

 思い返してみると、確かに綾はよく二人称を使用している気がする。自分のことを棚に上げての発言をしていそうでもある。

 そしてそこを含めてやっぱりいいなと、優芽もまた同じ意見を持ってしまう。

 彼女の魅力は言葉で言い表せない。だから結局、いいなという稚拙な感想でしか語ることができない。

「と、言いますか」

「うん?」

「先輩、控えめに言って、ちょっと、気持ち悪いですね」

 ユアなる言葉一つで綾にまつわるエピソードが飛んでくるとは思わなかった。

 それも珠子が発した冗談以上の情報もなく、だ。

 頭がいいくせに頭が悪い。

 ふざけた先輩に対して乱暴な口になってしまったことを後悔しないくらいには優芽の中で光への評価がぐっと下がる。

 とはいえ元々櫛夜ほどでないにしろ綾に纏わり付く害虫程度に見ていた節はあったので、その時と比べれば今は随分とマシではある。

 これは優芽の精神的な成長などではなく、単に光とよく喋るようになった、というだけのことなのだろう。

 目を見て喋ろうとしたことのない相手に対して勝手にレッテルを貼り付けてそれ以上に踏み込もうとしなかった自分など、今となっては忸怩(じくじ)たる思いである。

「あはは、奇遇だね。僕も自分で自分をそう思うよ。どんな言葉もどんな記憶も気付けば綾文さんに繋げてしまう」

「私も、そう、です……」


『選ばれないことがわかっていても選ばれたいと思うほどに大好きだった』


 今のは幻聴だったろうか。

 優芽は問い。

 答えを知っている自分に呆れてしまう。

(幻聴なんて、嘘。結局は私の本音、じゃんか)

 もうこれはただの幻聴などではない。

 ただの、私だ。

 それでもやはり、まったく意味がわからない『ユア』に関しては謎が残るが。

「夢叶さんのこと、わかるとは言い切れないけれど、でもたぶんわかるよ。だから僕らは間違っていることを知りながら、嘘って武器でもがいてみせたんだ」

「……はい」

 臆病で物を言えない自分とは別に、本音を隠さず発露する自分がきちんと内側に存在しているというのなら。

(どうして、もっと早くに現れてくれなかったんだろ)

 何もかもが終わりそうな時になって、どうしていまさら。

「光瀬先輩、受験、最後まで頑張ってください」

「うん。夢叶さんも、最後まで頑張ってね」

「せめて最後の最後まで自分の純な願いを、信じてみます」

 恐らくはその言い方が気になっただろうに、光は優芽の表現したところの純粋な願いに関しては尋ねなかった。

 光にとってはわかりきっていたことだったからかもしれないし、聞いたところで理解とは程遠い回答しか返ってこないと判断したからかもしれない

 当の優芽自身が答えを持っていないのだから、聞く意味など何もないのだが。

 優芽にもわかっていなかった答えを得たから尋ねなかったのかもしれない。

 もしそうなのだとすれば。

 優芽に見えないものが光には見えたというのならば。

 優芽の中にもまだ純粋な願い事があるという客観的な事実に他ならないのかもしれないし。

 光もまた優芽同様に幻を視ているのかもしれない。

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