星
「ここどこなの、もうだいぶ暗いよ」
しばらく歩き、緩やかで長い坂が見えてきた。
「次はこの坂登って」
「ほんとにこの坂登るの?」
「そうそう、登りたいの」
「わかったよ、そしたら登るよ」
しばらく登った坂の中盤。
「なんで僕なんだよ」
「いつも暇そうじゃん、今日も暇だったでしょ」
「そうだけど、普通僕に体育系のお願いしないでしょ」
「まぁ、いいじゃん!もうすぐ着くよ」
僕は汗だくになりながら坂を登りきったらしい。膝に手をつき、呼吸を整える。
「ほら、みてよこれ!」
「え、何もないじゃん」
「違うよ、上だよ上、空見て」
初めてだった。無数に広がる星が本当にきれいに見えた。いつも見ている星なのに、全然違うものに見えた。こんな感覚初めてだった。
「すごくきれいじゃない?昔よくこの坂登ってここで寝転んで見てたの」
「初めて星がきれいだと思った」
「でしょ!そうだ、ちょっと車椅子から降りるの手伝ってよ」
「大丈夫なの?」
「ちょっとなら大丈夫だよ、たぶん」そう言って車椅子から降りようとする。僕はそれを手伝った。彼女が地面に足をついたとき、笑顔が消えた彼女の顔を忘れることはなかった。
車椅子から降りるとすぐに地べたに寝転び「こっちの方が二倍くらい綺麗」とまた笑顔だった。
話して間もないけど君らしいなって思ったりした。
その日以来、彼女との会話は僕の事務連絡程度の会話にちょっとだけ色を付けた。
車椅子は踏み込んではいけない領域な気がして理由は聞けてない。