単純なお笑いシリーズ 有名な小説家にインタビューしたら、ちょっと想定外だった
ちょっと下ネタあり。性的な物じゃないです。
今、超売れっ子小説家の別荘の応接室で、先生が来るのを待っている。私の大好きな大好きな作家であり、インタビューやTV等にも露出せず、とてもこのような機会に恵まれたことは幸運以外例えようがない。
先日発売された作品も既に二十万部を超えるヒットになっている。先生にしては珍しい作品だった。異世界を舞台にした、中世的な世界観で、大国に挟まれた小国の滅亡を描いたものだ。
大国に攻め込まれ、民が無差別に殺されるなか、国民や王族を逃すために戦う騎士の部隊が主役だ。アクションあり、戦略あり、涙あり、友情あり、恋愛あり、ほのぼのあり、自己犠牲あり、王道パターンを幾つも詰め合わせたストーリーと言っても良い作品。
今までとは全然異なるこの作品、なぜ、この話を思いついたのか、その辺をしっかりと確認したい。ああ、緊張するうううう。
『待たせたね』
「いえ、とんでもありません。貴重なお時間を頂きありがとうございます」
直ぐに席を立ち、頭を下げる。そして嬉しさで涙がこみあげてくる。やばいやばいやばい、落ち着かないと。席を勧めてくるので、お互いソファーに対面して座る。
『一応最初に伝えておくが、これはわたしの個人としての考えであり貴方に強制する話では無い。
小説家は表に出るものじゃない。私の作品を読み、手に取り、その内容を楽しんでいただければ良い。一度世に出た作品をどう評価されても構わないと思っている。また、私がどんな容姿だろうか性格だろうが、どのように考えて作品が出来たのか、そんなものは出来た作品には一切関係がない。
なのでインタビューは極力受けないようにしているが、今回は私の友人からのお願いだから時間を取ったまでだ』
「はい。先生のお考えは承知しております。しかし、私は先生の作品が大好きなのです。そしてその作品を生み出した先生の事が知りたいのです。多くのファンも同じ考えだと思っております。好奇心は抑えられないのです」
思わず気持ちが高ぶって、前のめりになってしまった。言葉が気持ちを追い越して上手く話せない、いかんいかん。
『ふむ、貴方の考えは分かった。ところで何を話せば良いのかね?』
リリリン、リリリン。 部屋の隅にある黒電話が鳴っている。申し訳ないと断り、先生は電話に出た。
『もしもし……。タカシか? ああ元気にやっているよ。用事があるので出来るだけに手短に頼む。……ふむふむ……会社の金を使い込んだ? このままだと捕まってしまう? 幾らだ? 五千万か。なるほど。
実は私からもお願いがあってな、投機に失敗して、この家を売っても足りなんいんだ、自己破産は免れないんだが、一億程用意出来ないだろうか。そうか、無理か』
電話を終えてこちらに戻ってくる。小説以上に気になることがあって、本来の目的を忘れそうになる。
『ああ、さっきの電話は詐欺だよ』
こちらの気配を察知してくれたのか答えてくれた。
「そうなんですね。私もそうなんじゃないかと思って、気が付いてなかったらお伝えしないと、と思っていたんです。お金がない事をアピールしたのも防止策ですね」
『借金は本当だよ。さて、何を話すのだったか』
そんなに借金があるのかー! 借金の話が聞きたい。でも、当初の目的通り作品の事を聞くべきだろう。
「はい。最新作の“異世界転生したらイケメンで、騎士隊長にもなって調子に乗ってたら、大国に攻められて、しんがり部隊を指揮する事になったんだが”について尋ねたいと思います」
『ああ、そういえばそんな感じのタイトルだったね』
「今までの先生からは考えられないタイトルや作風だったので、びっくりしました。あのタイトルはどのように考えられたのですか?」
『うむ、タイトルは担当に考えて貰った。作風だが、最近ライトノベルというジャンルが流行っているとの事だったので、チャレンジしてみたんだよ。儲かるかなってね。
アニメ化やメディアミックスが出来るだけ早くされたいなと。萌え? だったか、その辺の要素も取り込んだのか良かったようだ。色々な方面から声が掛かっているよ、早く金が入らないかな』
ちょっとショック過ぎる、というか先生正直過ぎるよ。イメージが……、もっとオブラートに包んでください。
「なっなるほど、では、ストーリーはどのように考えたのでしょうか?」
私の質問に先生の顔が歪む。ん、何でだ?
『ストーリーを考えた理由は恥ずかしくて言えない』
「いや、ぜひお聞かせください」
『とても恥ずかしいので、話したくない』
「ぜひ、そこを何とかお願いします」
沈黙が続く。なぜ恥ずかしいのか? ストーリーを考えるのに恥ずかしい理由なんてあるのか? そういえばタイトルは担当が考えたと言っていたし、もしかして、自分で考えていない?
それなら理解出来る、作風が余りにも違い過ぎる。いやいや、これってもしかして、いや、そんな事は無い。尊敬できる大先生だ。私が女性だったら結婚したいくらい大好きな先生がそんな事をするはずがない。
どれだけ沈黙が続いただろうか、十分だろうか、二十分だろうか。ちなみに十二分だった、時計を見ればすぐに分かる。
『そんなに、聞きたいかね?』
「はい。ぜひお願いします」
『うむ。そこまで言うなら話そう。物凄く恥ずかしいんだが仕方ない。それはウンチで思いついたんだ』
「はい? トイレで小説を書いているという事でしょうか?」
『いや、ストーリーを思いついた話だ。わたしはウンチで今回のストーリーを思いついたんだ』
「え? え?」
『そうだな、話が長くなるかも知れないが。私はね、普段のウンチは膜に包まれたような綺麗なウンチなんだよ。お腹を壊すようなことは殆どない。それこそお尻を拭かなくてもいいくらい素晴らしい快便なんだよ』
「は、はあ」
『ところがね珍しく軟便でね。その時は気が付かなかったよ。でもね翌朝再度トイレを利用したら驚くべきことがあったんだ。
こびり付いていたんだ、ウンチが便器にね』
「はあ?」
『で、思いついたんだ。この話を』
「いやいやいやいや、ちょっと何言っているのか分かりません!」
『分からないと言われてもね。思いついたんだから仕方がないよね』
「いやでもですね。こびり付いたウンチと話の共通性がですね、全然繋がらないんですけど」
『そうか、確かに説明が足りなかったね。私もそのこびり付いたウンチを一回見ただけで、ストーリーを思いついた訳ではないんだ。
まあこびり付いてはいたけど、小をするためにトイレに来たので、当然用をたしたんだ。で、水を流す。まあ当たり前の話だね』
「はあ」
『そして数時間後、再度トイレに入って愕然としたんだ。まだこびり付いていたんだよ。そして思いついたんだ』
「いやいやいやいや、やっぱり分かりません」
『熱烈なファンとも聞いていたんだが……。そのウンチが小国の騎士団なんだよ』
「えええ!!!」
『そして流れる水が大国の兵士さ。何度も何度も流したんだけどね全然流れないんだ』
「……」
『それでこの話の骨格となるシナリオが出来たんだ』
「想像もしていない内容で、物凄く驚いています。でも、その、激しいアクションシーンや、様々な攻撃にさらされるシーンなどもあったと思いますが」
『うむ、何度流しても流れないのでね。色々考えたんだ。例えばトイレットペーパーを千切り、そのこびり付いたウンチと水の溜まりがつながるようにして放置してみたんだ。
ところが多少取れるだけでね、全部は無理だったよ。デッキブラシを使うのは簡単だけどね、それじゃ自分の負けだと思ってね』
「はあ」
『あとは、読者が喜びそうなエッセンスを入れたら完成だよ』
「……ちょっと腑に落ちないというか、何と言いますか。あっ、恋愛、恋愛描写もあったじゃないですか、あれは違うんですよね」
『そりゃそうだろう。何を馬鹿な事を言っているんだ』
「すみません。そうでしたよね」
『うん、あれはカニだよ』
「はあぁあ? かに? かにって何ですか?」
まさか食べる蟹じゃないだろうし。
『勉強不足だね君は』
「すみません」
『カニといえば、海の幸、甲殻類、みんな大好き。カニも知らないのかびっくりだな』
両手をチョキの形にして、腕を上下左右に揺らしながら、閉じたり開けたりしている。先生かわいいな、じゃない。
「や、食べる蟹とは思っていませんでした。蟹は知っています。しかし何故蟹なんですか?」
『私は蟹が大好きなんだよ。愛していると言っても過言だ』
「あっ過言なんですね」
『でも、みんな蟹好きだよね? つまりそういう事だよ』
「すみません。どういう事でしょうか?」
『好きって気持ちを素直に表現したんだよ。蟹って食べるまで面倒なところがあったりするよね? 例えばだ、ボイルされている冷凍蟹。解凍方法の違いで驚くほど味が変わってしまうんだ。
面倒な部分もあるけど、手間を掛けたらそれに答えてくれる。でも好きなんだし多少の面倒なんて気に成らないさ。そういうもどかしさも取り込んで恋愛の話に変換したんだよ』
「はあ……」
『きっかけは何でも良いのだよ、結果として文章が出来れば良い。だからどんなきっかけだからとか、気にして解明したところで何の良いところも無いと思う』
「確かに今の話を聞いたら、ファンの方もガッカリ、いや、衝撃を受けるかも知れないですね」
『やっぱり、そうか、借金はまずいか』
いや、そこじゃねーよ!!
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