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福が訪れ、鬼が去る  作者: たかひさし
1/1

春は、土の中で眠ってる



 春を迎え待つ森


 雪の季節が終わり 雪の下から森が現れた頃、一人の少年が土の上に残る雪に足を取られながらも森を彷徨っていた。

毎年 冬が来ると大雪で森は、背の高い木の天辺を残して雪の下に姿を隠して世界を真っ白に塗り替えてしまう。

だから、森に生きる生き物達は、土の下に深く穴を掘ったり、木の洞の中で冬篭もりをする。

そうして、穴の中で眠りながら三度の満月を越して春の季節が来るのをじっと待つ。足音を立てて春がやって来るのをただじっと穴の中で。



 この森を歩き回っている少年のお目当ての相手も秋に冬篭りの準備をして土の下に穴を掘って熊のように冬眠してしまった。

この冬眠した友人も中々に薄情で当分会えないことを悲しむ少年をあくび一つして、次起きた時に きっとお前の事は、忘れている と、宣言までして寝に行ってしまった。

まったく、薄情な友人だ。




 この森の中を歩き回っている少年の名は、あん という。

少年は、この森の東にある村に住んでいる。

あんは、村で一番のチビだ。

どれくらいチビかというと、村一番の歳をとっている いつでも腰を曲げている大婆様にさえ見下ろされるほどにあんは、チビだった。

あまりの小さに力仕事をする大きな体を持った大人達からは、「小豆」だとからかわれたりする。

しかし、あんは、この小さな身長を気に入っていた。

なにせ、この小さな体があるからあんは、こっそりこの村から出て森に来ることが出来るのだから。


 あんの村では、村の外には出てはいけないという掟がある。

村の外には森がある。その森には、鬼が住んでいるのだと大人達は口を揃えて言う。

だが、あんは、知っている。

日が差す時間のこの森には、森の獣とあんの友人と友人の師匠をしているヘンテコな男が住んでいるだけだと。


 村の大人達ががこの森を恐るのは、この森が異質だからだと あんは、思っている。

この森は、どんどん景色を変える不思議な森で、どんな動物でも迷わせてしまう。

昨日はなかった所に突如 山が出来たり、大きなモグラが掘ったのか大穴ができていたりと 

まるで、巨人に地面で粘土遊びをされているように地形が変わる。

植物もまるで自分を置いて時が早送りするように成長しては、種を残し、枯れて、また芽吹くのを繰り返し忙しない。

 目印になるものは、天に昇る太陽くらいしか当てになどならず、この森で見つけものをするなら頼りになるのは、己の感くらいだろう。

頼れる感がないのなら清く諦めて、迷いながら探す他ない。

幸運なことにあんには、この森に入って村に帰れる程度には、頼れる感を持ち合わせていた。

だから、この森に住む友人を見つけるのも大した問題ではない。



 崖下にたどり着くと あんは、大きな巣穴を発見した。

たしか、友人の冬篭りの手伝いをした時は、土で人一人が入れるくらいの かまくらの様なものを作ったはずだが、ここは、どんどん地形が変わる土地なので同じ場所がに立派な崖が出来ていたとしても驚きはしない。

 切立つ崖には草木が根を張り手を伸ばしていた。

あんが、蔓を掻き分けて見つけた穴の入口は、植物が絡み合って暖簾の様に隠して、陽の光を遮って、奥は暗くて何も見る事ができない。

だが、穴の中からは、湿った空気とともに鼻をつくほどの生臭い獣の臭を漂わせて確かな気配を主張していた。

どんなに鈍感な獣でも、この巣穴に逃げ込むことはないだろう。


 あんは、そんな穴を恐ることなく入って行く。

巣穴の入口に群生する植物の暖簾を腰に差していた小刀で切り落とし、暗い穴の中に光を差し込む。

明るくなった穴の中は、見渡すと穴の中いっぱいに敷き詰められた枯れ葉の山。

枯葉の中を泳ぐようにかき分け、掘り返し いるであろう友人を探す。

ガサゴゾと手当たり次第に枯葉の中を掘り返してみれば、彼はとは違う柔らかない感触に触れた。

見れば、見覚えのあるモサモサが枯葉の隙間から覗いている。まるで、褐色のヨモギのようだ。

急いで枯葉を除けてみれば、思ったとおりの褐色の毛玉の塊が現れる。

その姿にあんは、にんまりと笑んだ。



「かしわ み~つけた」



まだ、冬篭り中でぐーすかと眠る友人にあんは、渾身の一撃を喰らわせた。



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