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サアディアの剣とイルヒドの杖1 ~リンディスの魔法使い  作者: 山辺沙紀
第四章 エルタドの戦い
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Ⅱ エルタドの遺跡

 廃墟と化したエルタドは、強力な魔物が生息する、危険な場所だった。

 そのエルタドの地下に魔剣イシュトウェニアが封印されている。


 すでに魔剣所持者であるファドは自らの剣、魔剣グィネタルをかざした。

 魔剣と魔剣の共鳴を利用することによって、イシュトウェニアの封印をやぶったのである。

「くれてやる」

 ファドは短く、それだけいうとイズンにイシュトウェニアを放ってよこした。

 伝説の宝刀がこんな簡単にやりとりされるなど、驚きを隠せない。

「これが、魔剣イシュトウェニア」

 イズンは打ち震えた。

「これで俺も魔剣所持者というわけか」

 フィリオはすでに魔剣ディスティナの持ち主である。完全に出遅れていたイズンだったが、これでやっとフィリオと対等になった気がした。

 

「勘違いするでないぞ」

 ふと背後から女の声がして、イズンとファドは振り返ると、あわててひざまずいた。

「その剣は妾のものじゃ。妾に忠誠を誓う代償にイシュトウェニアを授けただけのこと。裏切ればその心臓とともにイシュトウェニアは返してもらうことになろう」

「これはこれは。レーシャさま自らがおいでになるとは」

 イズンは大げさに頭を下げたが、レーシャの機嫌はなおらない。

「イズンか。つまらぬ小細工をしおって。こんな小娘まで攫うて、愚かな男よ」

 レーシャはルカを一瞥すると、ファドをしかりつけた。

「なぜシャランダールだけを奪ってこなんだ。そちの魔剣グィネタル、飾り物とは言わせぬぞ」

「レーシャさま、わたくしどもは単に人質として、この娘を誘拐してきたわけではありません」

 ファドが仮面の下の目を光らせた。

「この娘、おもしろいものを所持してござりまする」

「おもしろいものじゃと」

 ファドはルカに目線を送ると、レーシャの前へと促した。

 ルカは抱えていた一冊の書物をおそるおそる差し出した。

「なんじゃ、これは――ダークロアの書か」

「さようでございます」

 レーシャの前でファドはいっそう身を低くした。

「これをレーシャ様に献上したいとのことです」

「殊勝なことじゃな」

 ダークロアの書を受け取ったレーシャが表紙を見るや顔を曇らせた。

「鍵がかかっておるではないか」

「はい。探してはみたのですが、どうしてもみつかりませんでした」

「話にならぬな」

 レーシャは、冷たい声で言い放った。

「よいか、このダークロアの書はもともとダークエルダの書と呼ばれる魔本の一部に過ぎないのじゃ。つまりこれはダークエルダの写本ともいえよう」

「は、はぁ」

 戸惑うファドを前に、レーシャは続ける。

「ダークロアは街をも焦土と化す威力を持つ強大な魔法じゃ。ダークエルダの書からダークロアのみ切り離されたのは、複数の魔法を管理するダークエルダの書の負担軽減と、ダークエルダの書だけに魔力が集中するリスクを回避するためのものじゃ」

 レーシャは唇をほころばせた。

「妾に献上するならば、このような不完全なものではなく、ダークエルダの書を差し出せ」

 ファドは平伏するのみであった。

 不穏な空気に包まれる男たちをよそに、ルカはさらに一歩進み出た。

「これ、父の形見なのです。元は母が持っていたものだと父は言ってました。わたしの母の行方を知りませんか? 名前はイーラといいます」

「母親じゃと? しらぬな」

 レーシャは、ダークロアの書をルカに返して、目を細める。 

「このダークロアの書は滅んだ我が祖国ラヴィスニアが管理していたものだ」

 レーシャは目を伏せ、長いまつげをふるわせた。

「先の戦で奪われ、その後の消息は定かでなかったが、まさかここで手にすることになろうとは」

「母はラヴィスニアの生まれであったと、訊きました。十年前の戦争のとき、母はたぶんこの本と一緒にラヴィスニアから逃れたのだと思います」

「ならばそやつは盗人じゃな。我が祖国から大切な魔本を盗み出した」

 レーシャが唇の端をゆがめた。

「あの災禍の中、逃れた民は少ないと聞くが、妾もなにぶんあの頃の記憶はあいまいでの。魔本の管理はある一族に一任していたが、皆殺しだったと聞いている。生き残ったものがいたとは思えぬ。あの戦禍で魔本も一緒に焼き尽くされたと考えておったが、盗まれておったのか」

 ルカは愕然とする。

「母は盗っ人などではありません。シメオン、……シメオン様に合わせてください」

 レーシャは、形のよい眉を動かした。

「ええい。煩わしい小娘じゃ。そろそろ黙れ」

 立腹したかと思いきや、ふとレーシャはルカをまじまじとみやった。

「おまえは魔法が使えぬようじゃな」

「はい」

「そのダークロアの書はおまえが持っておいで。半端な魔法使いに手にされるよりよほどマシじゃ」

 レーシャはドレスの裾をひるがえして、横目でルカをみやった。

「悪いようにはせぬ。おとなしくしておるのじゃな」

 ルカに顔を近づけると、レーシャは男たちには聞こえぬように、耳元で小さく囁いた。

 レーシャはおそらく二十代後半であろうが、毅然とした姿勢が厳しい印象を与えるが、近くでみると、少女のように艶やかな美しい女性だった。

 そのときルカは少し上の空だった。ひょっとしたら何かの魔法をかけられたのかもしれない、そのとき遠くで聞いた気がした。

「サアディア」と。


***


 オリンとフィリオ、そしてディールはエルタド上空へと来ていた。

 ラダティムールはゆっくり旋回すると、地上に降り立った。


 徘徊する魔物の多さに一同は驚愕を隠せない。

 奥ではイズンとファドという強敵が待ち構えているのだ。

なるべく体力は温存しておきたい。 

「こんなに活気がある場所とは思わなかった」

 魔物を切り伏せながら、ディールは皮肉を言った。

 やがて、地下への階段をみつけた。

 地下へ降りると地上とは違う、保存状態のよい建造物が目の前に広がった。

「地下神殿があったのか」

 ディールが低くうめく。

「思っていたより、ボロくないな」

 それでも太古の建造物であるのに、違いない。柱や壁がいつ倒れてきてもおかしくない。

 おそるおそるオリンは歩く。敵もいることだし、なるべく目立たないように進みたかった。

 その隣でラダティムールが大きくしっぽを揺らしながら、ズンズン歩いてくる。

「こらっ、ラダティムール。建物が壊れちゃったらどうするの。もう少し静かに歩いてよ」

 長時間の飛行と魔物との戦いでラダティムールは疲労を隠せない様子だった。

「魔剣での戦いにラダティムールを巻き込まないほうがいいかもしれない」

 さらに地下に降りる狭い階段があり、このままラダティムールを連れていくのはむずかしいと結論づけた。

 オリンはラダティムールの首輪をはずしてやった。

「イリュリースはドラゴンの生息地が多い。野良ドラゴンになってもきっと幸せに生きていける。元気でね」

 ラダティムールは階段のそばで、うずくまると目を金色に輝かせた。

 追ってこないが、帰りもしないという強い意志が現れているようだった。

「逃げてもいいのに」

 オリンは悲しそうにつぶやいた。



 地下三階層まで降りて、ようやくオリンたちは、イズンを発見することができた。

 祭壇のようなものがある場所にイズンたちはいた。

 思っていたより、人数が多い。

 それはお互い様だったようである。

「ルカ!」

 オリンが叫びながら近づくと、ルカはすぐに解放された。

「助けに来てくれて、ありがとう」 

 それにしてもダルティーマの連中は悠長なことよ。まだ魔剣を渡していないのに、人質を解放するのだから、余裕ぶった連中だ。

 ここにおびき出した時点で、シャランダールは手に入れたも同然、と思われているようだった。


「大丈夫? 嫌なことされなかった?」

「ええ。大丈夫。紳士的だったわ、二人とも」

 ルカの無事はうれしかったが、人を連れ去っておいて紳士もなにもあったものではない。

 オリンはイズンとファドを睨んだ。

 二人の背後にもう一人、人がいた。女だった。

「レーシャ」

 ディールがうめくようにつぶやいた。

「あれが、ダルティーマの魔女」

 オリンはもう少しレーシャに近づくと、目をみはった。 

「すごい美人だ」

 オリンは本人が気づくくらい大きな声を出して、レーシャを指さした。

「ほら、表情ひとつ変えやしない。美人って言われることなど、なれているといったところか」

 ルカに白い眼でみられるほど、オリンのテンションはあがった。

 はしゃぐオリンをみて、ルカはムッとした。

「大きな声じゃいえないが、あれは相当の悪だ」

 オリンに耳打ちされて、フィリオは顔をしかめた。

「どうしてそう言い切れる」

「あれほどの美人となると、話は単純だよ」

 オリンは得意げに熱弁をふるう。

「おとぎ話に出てくるような美人は、基本的に不幸な身の上か、悪党と相場が決まっている」

 オリンは力説する。

「あの美女は不幸そうに見えない。だから悪党だ!」

「シェイアは不幸そうにみえるのか?」

 フィリオがキレ気味でオリンに詰め寄った。

「いや、ごめんなさい。偏見でした」

 魔剣ディスティナの切っ先を喉に突きつけられてオリンは閉口した。 

 そんなオリンをイズンは鼻で笑い、レーシャとファドはなぜか押し黙っている。

 完全に小馬鹿にされているようであった。

 だがオリンは、上から目線を投げかけられても何故か不快に思わなかった。

「ダルティーマのお妃さまだし、高飛車なくらい、当然だよな」

 オリンが腕を組んでうなずく。

 ディールが何か言いたげだったが、彼もまた口数が少ない。

 みんな無言では、話が成立しない。

 オリンはひとりではしゃいでいるように思えて、なんだかばつが悪くなってきた。

「ルカは取り戻せたし、退却しちゃおうか」

 オリンがつぶやくと、場が急に騒がしくなった。

 イズンとフィリオ、ディールとファドが剣を構えて向き合った。

 よくみると双方、魔剣を装備している。

「イリュリースのディールか。傭兵くずれが」

 ファドが哄笑した。

「おもしろい。暇つぶしに相手してやろう」

(めずらしい見世物だな)

 魔剣と魔剣の闘い。滅多に見れるものでもない。

 オリンは、観戦に徹することにした。

 この流れで行くとオリンはレーシャと対峙すべきなのかもしれないが、魔剣のなかでも最強といわれるアーヴァテイルと戦うのは無謀に思えた。

 しばらく様子をみることにする。

 レーシャも遠目からディールたちをみやっているだけで、動く気配はなかった。

 オリンはこのままフィリオとディールががんばって戦って、ついでに勝ってくれればいいと都合のいいことを考えた。

「ルカは取り戻せたし、いますぐ帰りたいくらいだ」

「無責任なこといわないで、あなたも戦いなさいよ」

 ルカがオリンを小突く。

「オレに戦えっての? まさか、あのお妃さまに剣を向けるわけにはいかないだろ」

「どうして?」

「どうしてって、帝国のお妃さまだよ? うっかり手を出して、もしオレが勝っちゃったらどうする。皇帝を怒らせて戦争になるだけだ」

「そうかしら?」

 ルカがいぶかしむ。

「ねぇ。オリン」

 ふいにルカがオリンの腕をつかんだ。

「ごめんなさい。オリン。わたし、ダルティーマに行こうと思うの」

「へっ?」

「この魔本、あげるわ。わたしにはもう必要ないもの」

 本をつきつけると、呆けたオリンを突き飛ばして、ルカはレーシャの元へ走った。

「ルカ!」

 オリンはダークロアの書を抱えたまま、愕然とした。

 ダルティーマの魔女になにをそそのかされたにせよ、冗談が過ぎる。

「嘘だろ? 一緒に帰ろうよ」

 オリンは必死にルカに呼びかけたが、ルカは見向きもせず、レーシャの側に控えた。


 レーシャに近づこうとしたオリンが目に見えない結界に吹き飛ばされた。

「ルカ!」


 一方で、オリンの絶望を打ち払うかのごとく、緊迫した、魔剣対魔剣の闘いが繰り広げられている。

 ディールのクィヴィニアとファドのグィネタルがぶつかり合う。

「やるな!」

 ディールが後ろに飛びずさった。そこにファドが追い打ちをかける。金属がこすれるような音がした。

 あのディールをここまで追い詰める男がいるとは。

 その迫力にオリンは、身を縮ませた。

 ついでに、フィリオの姿を目で追うが、イズンとの死闘も白熱していた。 

「目を覚ませ、イズン」

 フィリオがディスティナを奮いながら、魔剣イシュトウェニアで攻撃してくるイズンに呼びかけた。

 念願の魔剣を手に入れたのか。たかが剣ひとつのために裏切られたことに口惜しさを感じるフィリオだった。

「シェイアが悲しむぞ」

 イズンは訊く耳をもたない。イズンの瞳には本気の殺気が宿っていた。

 力が均衡しているせいかディールもフィリオも決着がつけられないで、闘いは長引くばかりであった。


 オリンは頭を冷やしながら、周囲をもう一度みまわした。

「ファドのグィネタルとイズンのイシュトウェニア、そしてレーシャさまのアーヴァテイル」

 ごくりと生唾を飲みこむ。 

「すっげぇ、魔剣が勢ぞろいだ」

 これもダルティーマの魔女の引力がなせる業か。

「でもこんなに揃うと、ありがたみが薄れるなぁ」

 オリンは頭を掻いた。

 シャランダールはずっとへそを曲げていて、戦意ゼロである。オリンも乗り気にはなれない。

 それにくらべてあいつらの血の気の多いことよ。

 どうしてあんなに好戦的になれるのか不思議に思うくらいだった。

 レーシャも淡々と男たちの戦いを上から眺めている。

  

***


「これがダルティーマのファドか」

 ディールが血の混じった痰を吐き捨てた。

「噂には聞いていたが、恐ろしく腕の立つ男だ」

 ディールは剣を構えなおした。クィヴィニアの相手にこれほどふさわしい敵もいない。

 フィリオとイズンも長期戦に突入していた。肩で息をし、互いに消耗を隠せずにいた。


「妾は抱えているのものが多いわりに使える手駒が少ない」

 男たちが戦う様子を眺めていたレーシャは、戦いに見飽きたのか、小さく嘆息した。

 腹心の部下と呼べるのは、いまのところファドしかいない。

 ファドは側近として申し分なく、何かと頼りになる男ではある。

 その忠誠心を疑っていないが、顔は常に仮面に覆われ、素顔はレーシャにすら見せたことがない。

 忠誠を誓ったばかりのイズンもまだまだ頼りない。

 魔剣イシュトウェニアを手に入れたまではいいが、魔剣の力を使いこなせず、逆に振り回されている。

 これから魔剣を集めていくことを考えれば、もう少し、手数を増やしたいところである。

だが、欲はかくまい。

 ファドほどの忠誠をこの新参者に期待するだけ無駄である。

 いまはただ、扱いやすい手駒が増えたことのみ、良しとすべきなのだ。焦る必要もない。女以上に男は欲深いとイズンが証明してくれた。

 それなりに使いようはあるというもの。

 実際、レーシャは満足していた。確実に魔剣はレーシャの元にそろいつつある。

 たとえ一時的なことであろうとも、今ここに六本もの魔剣がそろったことには意味があるはずだ。

 だが、今回は思惑がすべて叶うことはないようだ。

 あのファドもディール相手では、苦戦を強いられ、実力に差がないイズンとフィリオの闘いは、長丁場になるだけの見るにたえない試合のようだった。

 そうはいっても、ここまで来たついで。ディールのクィヴィニアか、せめてディスティナだけでも、手に入れたいものである。

 シャランダールは癖のある剣だけに、優先度は下がるが、今後また手に入れる機会があるとは限らない。

 しかもシャランダールの主は、死にかかった無力な少年だ。

 どこかで力尽きて、魔剣の行方がわからなくなってしまうくらいならば、所有者がはっきりしている今が好機であった。

 オリンはレーシャに対して、なぜか敵意も向けてこないし、戦いそのものを避けている。


 レーシャはじっとオリンを見つめた。何か、思い出せそうな気がした。

「セイラムクルス」

 ふと言葉が脳裏をよぎって、わだかまりとなった。

 そのわだかまりが不安となって、レーシャを苛立たせた。

「ええい。おまえたちなにをもたもたしておるのじゃ」

 しびれを切らせたレーシャが、斬り合っている男たちに檄を飛ばす。そして、オリンに向かって云う。

 オリンは魔本を抱えて呆然としていた。

「おぬし、魔法使いであろう。何を出し惜しみしておるのじゃ」

 久しぶりに魔剣以外に興味を示したレーシャは、ダークロアの書とルカを交互に指さした。

「この娘の命が惜しければ、シャランダールとともに東へゆけ。ダークロアのカギを探し、本の封印を解くのじゃ。妾に究極の暗黒魔法を授けよ」

 それだけいうとレーシャは転移魔法の詠唱をはじめた。ディールを一瞥した後、

「シャランダール、ディスティナ、クィヴィニア。いずれはすべて手に入れてみせる」

 レーシャは目を伏せた。

「ま、待て」

 オリンはメイススクリプタを構えると、炎を放った。ヘロヘロの火が、飛び出す。

 見えない結界に守られたレーシャにはかすり傷ひとつ、つけられなかった。

 しょぼい攻撃でも、攻撃は攻撃である。歯向かうものには容赦せぬ、レーシャは唇をゆがめた。

「そのようにちゃちな炎で妾に一矢報いれるとでも思うたか」

 オリンはうめきながら、手を伸ばした。ルカはレーシャの影に身をひそめた。

「ルカ!」

「ええい、無礼者め!」

 レーシャがアーヴァテイルをふりかざした。

「妾がなぜダルティーマの魔女と呼ばれるか。そのゆえんを知らぬのか。知らなかったのならば今、覚えてゆけ」

 レーシャは転移の詠唱を中断すると、右手を空にかかげた。魔剣アーヴァテイルがうなりをあげる。

 白銀の光が大きく膨らんで鳥のような形を描くと天高く舞い上がり、刃となってオリンの四肢を貫いた。

「うわぁっ」オリンは吹き飛ばされた。

「非力じゃの。勝負にならぬ」

 オリンと同じくらいぼろぼろになったメイススクリプタをみて、レーシャは冷酷なまなざしをむけた。

「シャランダールを出し惜しみしたことを後悔するがいい」

 鞘から抜かれることもなかった魔剣は沈黙を守っている。

 シャランダールが突然、光輝いた。オリンの体の傷が癒えていく。

「なるほど、それがシャランダールの力か。我が魔剣アーヴァテイルと同じ能力をもつのか。やはり欲しいものよのぅ」

 レーシャほどの使い手となると、転移魔法の詠唱など、さほど時間はかからなかった。

「もうよい」

 レーシャはファドとイズンを呼び寄せた。 

「まて、逃げる気か!」

 ディールとフィリオが声を張り上げた。

 うざったそうにレーシャは男たちの怒号を振り払う。冷たい目を向け、神殿の彫刻に向かって、手をかざした。

「おまえたちにこれが倒せたら、もう一度だけ話をきいてやろう。……おそらくそんな機会はあるまいがな」

 それだけいうと、レーシャはファドとイズンとともに姿を消した。ルカの姿もない。

「どうして? ルカ――」

 オリンは膝をついて、慟哭した。

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