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拾われて




 どれくらいの時間が過ぎたのだろう。

 音が消えた。

 体を起こすと、恐ろしい光景が広がっていた。


「ミア…」


 テオが何も見せまいと、自分の胸にミア顔を押し付けた。

 ミアは、テオの胸で泣いた。


 たくさんのゴーレが死んでいた。

 兵士の姿もある。皆、燃えて姿形が分からない。

 だが、ミアたちは無事だった。


 わたしがみんなを殺したの?

 わたしは救世主なんかじゃない。

 こんな、石いらない。


 テオの胸の中で泣きじゃくった。

 

「ミア、どこもケガしていないか?」


 テオの優しい声が辛かった。

 ミアは泣きじゃくりながら、自分なんかいなくなればいいと思った。


「ごめんなさい…」

「お前が無事でよかった」


 テオは言ったが、彼も途方に暮れた顔をしている。

 すると、グレイスが呻いて体を起こした。


「いったい…何が…」


 辺りの惨状を見て青ざめた。しかし、彼女はすぐにトマスとソフィーの容体を確かめた。


「大丈夫よ、二人とも生きているわ」

「よかった…」


 二人が無事でよかった。でも、現状は何ひとつ変わっていない。


「ここから出よう」


 テオが言った時、グレイスが息を呑んである場所を見つめた。


「誰か生きているっ」


 黒い塊の中で一人だけ生き残った人がいた。

 テオが走って助け出すと、全身を火傷したヘンリーだった。


「ヘンリーっ」


 彼は微かだが息をしている。そして、強く何かを握りしめていた。

 クロエの石だった。


 ミアは口を押さえた。

 一歩、後ずさりすると、ヘンリーが震える手を差し伸ばした。


「ミア…」


 口は動いたが、声は出ていない。


「ヘンリーを助けないと…」


 テオは言ったが、動かすこともできない危険な状態だった。


「ミア…」


 ヘンリーが手を伸ばす。ミアは彼の手を握りしめた。すると、ヘンリーがほっと目を閉じて意識を失ってしまった。

 グレイスが急いで彼の脈を確かめた。


「大丈夫、生きているわ」

「よかった…」


 テオが、がっくりと座りこんだ。そして、


「ヘンリー…、無事でよかった」


と呟いて、彼の手を握りしめた。



 それからミアたちは傷ついた人を助けるために、行動を起こした。だが、生き残った人間はヘンリーだけだった。

 要塞の中はほとんど焼けていた。


 ゴーレの死体は、燃えて煙だけがくすぶっている。

 その臭いが充満して、息をするのが苦しかった。

 みんなで協力して、ヘンリーを移動させた。


 彼の住まいは要塞を出た場所にあった。

 そこにはたくさんの人々が生活をしていて、彼は皇太子といえども、殺風景な部屋に住んでいた。

 要塞の外は被害はなく、生き残ったジニアの人々は恐れて家の中に入ったまま出てこない。

 テオは素早くヘンリーを部屋に運び入れた。誰にも見られなかったが、おそらく見られた所で、ヘンリーだとは気づかないだろう。


 彼をベッドに寝かせるとテオが重々しい口調で言った。


「ヘンリーを…許してくれないか」


 テオと一緒にヘンリーを寝かせたトマスは小さく頷いた。彼は落下したにも関わらず、軽傷ですんだ。

 ソフィーも腕のケガはひどかったが、何とか無事でいた。


 トマスは片方の足を痛めたが、懸命にヘンリーを介抱した。


「俺たちをここから逃がしてくれるなら、許すよ」


 テオは何も言わなかった。

 要塞はないに等しい。

 早いうちに対策を取らなければ、たちまち、ジニアに狙いをつけた人間たちが襲ってくるかもしれない。


「ジニアの王はどこにいるの?」


 グレイスが聞くと、テオは顔をこわばらせた。


「ここにはいない」

「え?」


 グレイスが聞き返す。


「ここはヘンリーが作り上げた要塞だ。国王は別の場所にいる」

「王はいないの?」

「ああ……」


 どういう事だろう。

 ミアには難しい話に思えた。


「ジニアは広大な土地を所有している。ここからさらに進んだ土地に、王は暮らしているが、宮殿はごくごく小さい。だから、ここの要塞がなくなって責められたらすぐに陥落するだろう」

「それは私らの知ったことじゃないよ」


 ソフィーが怒ったように言った。


「もう、土地の奪いあいはたくさんだ。戦争のない世界にしようと思わないのかい」

「簡単に言わないでくれ…」


 テオは力なく言った。


「これからどうするの? ここで悩んでも始まらない」


 グレイスが鋭い口調で言う。


 トマスが息をついて、ミアを見た。


「ミア、俺は今日までお前を自分の娘のように大事にしてきた。お前もそうだろ? ソフィー」

「ああ、そうだよ」


 トマスとソフィーが頷き合う。そして、ミアを見つめた。

 ミアは、歯を食いしばって泣くまいと2人を見た。

 彼らはミアにとって両親のようなものだ。


「俺は救世主がこの世界を救うと信じている。今もこれからもずっとその考えは変わらない」


 トマスがはっきりと言った。


「ミア、俺はお前を守ると誓うよ。だから、世界を救ってくれ」


 テオが目を丸くして、ミアを見た。

 その顔は青ざめ、唇は震えていた。

 ミアは涙を止めることができず、2人を見て、それからテオを見た。


「ミア、俺はお前を信じている」


 トマスが言った。

 ミアは震えながら言った。


「トマス、ソフィー、少しでいいの。わたしをテオと2人きりにしてください」

「もちろん、いいよ」


 トマスが頷いた。そして、テオを睨んだ。


「テオ、万が一、ミアを傷つけるようなことがあれば、俺はあんたを絶対に許さない。ヘンリーについても同様だ」


 トマスの言葉に、テオが顔をこわばらせて微かに頷いた。

 ヘンリーの部屋から3人が出て行くと、2人きりになった。ヘンリーは意識がないままだ。


「ミア…」


 2人になると、テオが近寄ってミアの顔を見て言った。


「俺を許してくれ」


 ミアは首を振った。

 許すもなにも、ずっと側にいたかった。


 すると、テオがミアを抱き寄せて、昔みたいに頭を撫でてくれた。


「こうしてお前を抱きたかった。会いたかったよ」

「テオ…」


 ミアはテオの背中に腕を回そうとしてためらった。

 体を離すと、ヘンリーの方へテオを引き寄せた。


「ミア、何をするんだ?」


 テオが言って、後ろに立つ。

 ミアは、クロエの石を握っているヘンリーの右手にそっと触れた。


 お腹が熱くなる。すると、ヘンリーの顔の火傷が少しずつ癒えていった。

 テオが驚いて、身を乗り出した。


「どうやったんだっ」


 やはり、宝石に対して力が働いている。

 クロエの石は死んでいない。

 宿る相手を探しているのだ。

 それはヘンリーではないけれど、石は生きている。


 ミアは目を閉じてヘンリーの体が元に戻れるよう力を送った。

 お腹が熱い。

 みるみるうちに彼の姿が人間らしく、綺麗に戻った。


「ミアっ、答えろっ」


 テオに言われてミアは振り向いた。

 そして、震える手でお腹をめくり、宝石を見せた。

 透明の宝石は美しくキラキラと光っていた。


 テオが目を丸くして、それを見てからミアを見た。


「救世主なのか…?」


 テオの声が絶望のように聞こえた。


「いつからだ…」

「話せば長くなるの。でも、今は話せない。テオ、信じて」

「それは、アメリア姫の宝石だな…」


 テオが暗い声で言った。


「ええ、そうよ。アメリアがわたしにくれたの。でも、どうしてアメリアの宝石だと知っているの? アメリアは誰にも見せたことはないと言っていた。わたしとジェイク以外の者は見たことはないはずよ」


 テオは、ミアから顔をそむけた。


「俺は、アメリア姫に恋していた」

「え?」

「アメリア姫しか愛したことはない」


 瞬間、お腹がチクリと痛んだ。見てみると、宝石が青色に変わっていった。


 色が変わった。


 ミアは愕然と宝石を見た。


「アメリアに…気持ちを伝えたことはあるの?」

「あるわけないだろ…」


 テオがぽつりと言う。


 リリーが死んだ時と同じ声だった。

 心のない、気持ちを隠した声。


 お腹が痛い。冷たくてひんやりしている。

 あの、いじめられていた時のように。


 寒々とした気持ちが心を一杯にしている。


 テオが愛しているのはアメリアだった。


 わたしじゃなかった。

 本当は泣きだしたいのを我慢してお腹に手を当てた。


「わたしはずっとアメリアから教わっていたの。救世主としての役割を」

「どうりで…。だから、お前が付き人になったんだな」


 納得したように見えたが、皮肉な声で言った。

 テオはだいぶ落ち着いたように見えたが、もう、ミアに触れようとしなかった。

 ミアは、大きく息をついた。


 もう、泣かない。

 石の話をして、すっきりした。

 秘密はたくさんあったけど、言っても分かってもらえない気がした。


「みんなを呼ぶわ」


 ミアはくるりと踵を返すと、ドアを開けた。

 3人はすぐに中へ入って来た。


「ここを出て行くわ。わたしは役目を果たすつもりよ」


 トマスが顔を明るくさせて、ソフィーと共にミアを抱きしめた。


「よく言った。ミア。俺はどこまでもお前について行くよ」

「あんたはそれが目的なんだろ」


 ソフィーが笑う。


「私も行くよ。もう、宿はないし、ここにはいたくない。あんたが救世主なら、きっと世界を救ってくれると信じてるよ」


 グレイスは知らなかったのか、目を丸くした。


「ミア、あなたが救世主なの? 嘘でしょ」

「ごめんね、隠してて」


 ミアはためらいもなく宝石を見せた。

 トマスとソフィーが息を呑んだ。


「色が変わっているじゃないか!」

「色はいつだって変わるの」


 ミアは嘘をついた。

 色が変わった理由を知っているのは、自分だけだから。


「綺麗ね、これが宝石なのね」


 グレイスがうっとりと見て、それから、ヘンリーを見た。


「ヘンリーの傷も治したんだね」

「わたしじゃないわ、この宝石が治したのよ」

「それでもあんたがしたことには変わらないよ」


 グレイスが感心して言った。


「テオ」


 ミアはテオに言った。


「わたしはここを出て行くわ。アメリアが言ったの。わたしには役割があるって、それを探す旅に出るわ」


 テオは、一緒に行くと言わなかった。


「テオ、これでさよならね」


 ミアが笑うと、テオはハッとした。


「いや、さよならじゃない…」


 その時、背後でヘンリーが囁いた。


「ヘンリー…っ」


 テオが側に駆け寄る。

 ベッドの上でヘンリーが大きく息を吸い込んだ。


「救世主よ、俺はお前に命をかける。こんな姿になって初めて…弱い者たちの気持ちが分かった。クロエを傷つけたこと、君たちを殺そうとしたこと、全て償うよ。俺も…一緒に行かせてくれ…。頼む…」


 ヘンリーが涙を流した。

 そして、手を伸ばしてミアにクロエの石を渡そうとした。


 ミアは、石を手に取った。

 小さい石は、何の変化も起こさなかった。


 ミアはほっとすると、クロエの小さい石を大事に抱きしめた。


「ヘンリー、いいの? わたしたち何もないのよ」

「君がいたら、いい。君の側にいたい…」


 ヘンリーが言って目を閉じる。


「頼むから、俺を置いていなくなったりしないでくれ…」


 彼はそう言って再び眠った。


 テオだけが何も言わなかった。

 表情を見ても、何も分からない。


 わたしが愛した人はもういない。





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