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「は?」
婚約者ではないと告げられ気勢がそがれたのか王子は呆然と立ち尽くした。その間にひとつ深呼吸をして心を落ちつかせる。もう映像は浮かんでこない。
先程は何だったのか。
ううん考えるのは後、とにかく王子を何とかしなくっちゃ。
「何故わたくしを婚約者とお思いなのか・・・、陛下より此度の茶会で友と婚約者候補を見つけるよう言い付けられたのではないですか?」
「そ、それは・・・」
そう言われたていたのを思い出したのであろう、忙しなく目線をさまよわせる王子にさらに告げる。
「王子が茶会を開かぬ限り、誰からも招待されないとも言われませんでしたか?」
「そ、そうだ。だからお前が」
「違います」
淑女にあるまじき行為だとは思いつつも王子の言葉を遮り睨み付ける。最近は疎遠になったとはいえ幼い頃からの付き合いで知っている、王子は強気に出られると大人しくなるのだ。
「だ、だが」
「やぁ、今日も可愛いね、フィー」
「いやいや、あの顔はないだろう。フィー、母上に知られたらまた説教されるぞ」
王子が何か言おうとしたところで、二人の青年が現れた。
一人は王子の兄でこの国の王太子アルベルト、もう一人は私の兄で大公家次男のリチャード。二人はまるで双子のようにそっくりな顔立ちで年も同じ16歳。共に黒髪、違いは瞳の色だけで王太子が濃紺、リチャードが茶色の眼をしている。
「アル兄様、リック兄様どうしてこちらに?」
実の兄と同じ顔をしていたアルベルトも兄だと思っていた私は、兄ではないとわかった今でもアルベルトを兄様と呼んでいる。
「ジルが初めてお茶会を開くと聞いて様子を見に来たんだけど、」
そう言いながら、アル兄様は王子を横目に見つつ私の手を取り指先に口付けを落とす。
「あ、兄上?な、何を…」
「ジル、フィリアは私の婚約者だよ」
「!?」
さらりとアルベルトが述べた言葉に、王子は口をパクパクさせ顔を真っ赤にして走り去り、主催者がいなくなったお茶会はアルベルトとリチャードが取り繕い終了したのだった。
う~ん、まだアル兄様の婚約者でもないんだけど・・・