プロローグ1:傭兵ジャック・F・デズモンド
どうも皆様、作者の太古です。この作品はタイトル通り【2nd Life】のシリーズものとなっており、剣士作品と並行して描いております。どうぞ、暖かい目で観てくれると嬉しく思います。
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燃え盛る建物。爆発が連鎖的に起こる武器庫と兵舎。深夜を回っているというのに、辺りは炎の灯で夕暮れのような明るさだ。それでも星空の輝く夜空に無数の筋が走る。
近くで爆音が鳴り響く。ガス爆発のものじゃない、この匂いは火薬だ。
霞む目を何度も瞬きする事で視界を良好にしようとする。血の匂いと火薬の匂いが混じり、不快な気分だ。
「――きろ!」
『誰だ?俺を揺さぶるやつは――』
「おいジャック!いつまで寝てやがる、寝るなら女とベッドで寝やがれ!お前が死んだら、あのウォッカ飲み干してやるからな」
「クーパー...?」
俺は名前を呼ばれて返事を返す。いや、返すというよりかは友人に確認を求めただけだ。
「ったく、毎度しぶとい野郎だ。ほら、さっさと掴まれ」
減らず口の多い俺の友人は手を差し伸べる。俺はすかさずその手を掴んで立ち上がった。身体中のあちこちが痛いが、こんなの訓練に比べたら蚊に刺されたようなもんだ。
「どうだ、まだやれるだろ?」
「当たり前だよ、悪友」
立ち上がるとすぐさま近くの壁に寄りかかる。壁を背にし、銃の確認をする。どこも壊れていないようだが、弾がない。
「クーパー、弾をくれ」
「悪いがこっちもピン切りだ、そのへんの奴を使え」
クーパーは返事をするも、こちらを見ていない。ただ一心に敵に弾を浴びせる。
ジャックは言われたように近くに落ちていた銃を拾った。つまり【死んだ仲間の銃】を。仲間の死を悔やむ資格も権利もない、俺達は傭兵だ。
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俺の名前はジャック・F・デズモンド。
生まれも育ちも米国ワシントン州だ。
出身はアメリカだが、日本人の母とアメリカ人の父のハーフとして生まれた。基本は英語を話すが日本語もそれなりには、話せる。
普通の小中高を卒業した後に普通大学へ入った。だが、俺はこの退屈な生活に嫌気が差していた。事あることに問題を起こしては、気分が晴れたもんだ。
両親も俺に他の子とは違う何かを感じていたと言っていた。
俺は小学生の頃から、生と死について考えていた。生あるものには死がつきものである。だが、俺は生についてとても疎い。そのせいか、自分の父が死んだ時も俺は涙一つ流さなかった。それどころか哀しみの感情もなかった。ただ、墓に入る棺桶を見て「なぜ母さんもみんなも涙を流しているんだ?」と疑問を浮かべた自分がいた。
そして俺は大学を中退して米軍に入った。頭で考えるより戦場で生と死について学ぼうとした。
そして、ある任務で俺は死にかけた。奇襲にあった俺は仲間が死にゆくなかで一人足掻いていた。死にたくないからじゃない、これが俺の任務だからだ。
二度の爆発で右腕と左脚が吹き飛んだ。それでもハンドガン1丁で俺は戦った。死にゆく最後まで。だが、俺は死ななかった。一人の兵士に助けられ、そして拾われた。
「生死について知りたければ着いてこい。そこならお前答えが出るはずだ」
あの日あの時手を指し伸ばしてくれた傭兵が俺の人生を変えたのだった。
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「あれから5年、早いもんだな」
ジャックは食堂で仲間達とこの組織に入った理由を語っていた。
「はー、って事はジョン、お前が入ったきっかけってBOSSとの出会いって事か」
「まぁ、そんな所だな」
ジャックと同僚のクーパーがビールを片手に話し掛けてくる。酒も入って上機嫌なのかやたらと肩を組みたがる。
「お前は少し酔い過ぎだ」
「あ?俺達はいつ死ぬかわからないんだぜ?飲みたい時に飲んで悔いだけは残したくねぇんだよ」
隣に座るや否やビールをグビグビと飲み干していく。良くもそんなに飲めるなと、ジャックは苦笑した。
「そうだ!お前も飲めよジョン」
「俺はいい、そんなに強い方じゃないからな」
「俺とお前の仲だろ?誰か!こいつにテキーラ持ってきてくれ!」
クーパーは仲間の誰かに注文すると、テキーラがなみなみと注がれたジョッキが運ばれて来た。
「おい、テキーラなんて呑んだことないぞ?」
「大丈夫だって、そら、俺達の出会いに乾杯だ」
「しょうがねぇな、乾杯」
腕を交わして注がれたテキーラを飲み干す。すぐさま体に熱が帯びて、酔いが回りそうだ。
「どうだ?」
「ああ、最...こーだ...」
ジャックは目を回して机に伏せた。ここまで酒に弱いのだとは思わなかったクーパーだったが、笑いながらジャックを部屋に運んで行った。
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酷い頭痛と吐き気で起き上がりたくない、まだ世界が回って見える。
「くそ、クーパーの奴め。もう二度とテキーラなんて呑まねぇ...」
向かいのベッドで未だに酒瓶を持って眠りこける友人に文句を言った。本人は知らずに呑気な顔で眠っていた。
足どりは悪いが洗面台に向かって歩く。
『そういや、あの後風呂に入ってなかったな』
気づいたジャックは服を脱いでシャワーを浴び、出たら洗面台で歯を磨いた。
いつもの訓練服に着替えると、まだ眠るクーパーの腹に拳を加えた。腹部に急な痛みを伴い、クーパーは飛び起きた。
「起きろクーパー、飯行くぞ」
「ジョン、もう少しまともな起こし方は無いのか!」
「無いな、早くしろ」
腹部を擦りながらクーパーは洗面台へと向かった。クーパーの身支度が終わるまでジャックは、本でも読んで時間を潰すのだった。
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「いい加減レーション以外が食いたいな...」
「俺はこれでもいいが」
「ジョン、お前本気で言ってんのか?こんな不味いもんを平気で食えるのはお前かBOSSくらいだぞ」
渡された軍用携帯食に文句を言うクーパー、何食わぬ顔で食べるジャック。
「それに戦場じゃ飯なんて食えないかもしれないぞ?そう考えたらコイツが食えるのは贅沢だ」
「はぁー、なら俺は蛇とか兎を食ってる方がいいわ」
「クーパー、お前は俺の味覚が馬鹿だと言ってるのか?」
レーションの入った缶を開けて、スプーンで中身を弄るクーパーのもとに背後から声を掛けてきた人物。
その声に反応するかのようにレーションを急いで口の中に掻き込む。そして飲み込むと同時に席から立ち上がり後ろの人物に敬礼をした。
「おはようございますBOSS!」
「おはよう。で、俺の味覚が馬鹿だと?」
「いえ、滅相も御座いません!」
「なら良い」
朝から馬鹿を見せ付けられたジャックは、呆れた様子で食事を再開した。そこへルーク(BOSS)が声を掛ける。
「デズモンド、朝食が終わったら司令室に来てくれ」
「...何か任務ですか?」
「鋭いな、お前の父親にそっくりだ」
「了解しました、すぐに向かいます」
用件だけ伝えるとルークは司令室に帰っていた。ルークがいなくなった事で緊張が解けたのか、クーパーは椅子に座り込む。
「いいなーお前は任務かよ、やっぱりSランカーは違うわな」
「お前も任務に就いてるだろ?」
「馬鹿、警護なんてつまんねぇよ。俺は戦場に行きたいの」
欲しい玩具を見つけて駄々をこねる子供みたいにクーパーは文句を言い始めた。クーパーをよそにジャックはトレイを片付けて、給水器の水を1杯飲んでから司令室に向かった。
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コンコンコンッと三度ドアをノックする。
「BOSS、デズモンドです」
「入れ」
入室許可を取り、司令室に入る。司令室には自分とルーク以外はいない。静かに手元の書類を机に置いたルークは、ジャックの方へ向く。
「デズモンド、早速で悪いんだが君に任務を任せたい。私の知人からの依頼でな。彼の情報によると、なんでも軍事衛星をハックしようとするとテロのアジトが分かったらしい。やってくれるか?」
「了解しましたBOSS」
「返事が早くて助かる、装備はいつもの場所にある。準備が出来次第、ヘリに乗ってくれ」
「では、失礼致します」
任務を受けると素早く司令室から退出し、武器庫へと向かった。武器庫に入ると、既にボックスの上に装備が1式揃っていた。戦闘服に着替えて装備をチェック、携帯する。無線を手にした時に、ルークから通信が入った。
「言い忘れていたが、今回は単独潜入になる。リスクを減らす為だが、お前なら大丈夫だろう。頑張ってくれ」
そうルークが告げると無線は切れた。
『単独なんて久し振りだな...』
なんて、最後に単独潜入した任務をふと思い出した。初めての単独で苦い思いをしたが、あれは忘れ去りたい本人は笑えない過去だった。
装備を揃え、ヘリパッドに向かうと一機の軍用ヘリがプロペラを回して待機していた。パイロットが手首を回して、早く乗れ、とサインするのが確認できる。
ジャックは急ぎ足でヘリに乗り込んだ。パイロットの肩を叩いて飛ばすようにいう。また、機内の椅子に座って外を見ると他の仲間が見送りに来てくれていた。
ジャックはクーパーの目が合うとお互いに親指を立てたgoodサインして、ジャックを乗せたヘリは飛び立った。
この任務のあとに起きる悲劇に、ジャックも皆もこの時は思いもしなかっただろう。