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男はそう言って出ていった。人間の猿のくせに面白いやつだと感じたのは初めてだ。推測だが、あの男も何かを背負って生きているのだろう。それが自分たちに対する怒りではなく、人類への怒りだ。
この施設に人間がと言うよりは、ワシントンに入ってきた時からその存在には気が付いていた。きっと、自分を殺しに来たのだろうとも考えていた。
自分を作った母親と呼べる存在がいて、その母親は数年前に世界中に歌を聞かせたらしい。人類が新世紀を迎える時に世界中に聞かせた元旦の歌。その日以降あの塔を作ってから長い事滅びの歌を聞かせ、少しずつ人類を滅ぼしていた。
アタシの存在意義と言うより、動機は怒りで満たされていた。故に自分自身を覆っている肉体の中身、魂の起源は母の怒りで構成されたのだろう。
アタシたちの体はどこかで死んだ人間達を器にして存在している。だからなのか、極稀に器にした人間の記憶を夢で見ることもあるが基本的に無視をしている。なにせ、アタシにはどうでも良い事だったからだ。
「ふふん、それじゃあ一曲アンタに聞かせて上げる」
あの男には自分の弾いた曲がなぜか耳に届いている。かといって、他の人間みたいにおちびとと言われている存在に仕立て上げることは出来ない。話してみて分かったことはただ一つ、あの男は既に壊れているという事だった。