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うたいびと  作者: 元帥
第一章~うたいびと~
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3

 コロンバスにやってきたロウ達は旅疲れを癒す為に休憩を挟む。

 辺りを見渡しても廃墟と化したビル街が立ち並んでいた。生きているガソリンスタンドを探すために町中を徘徊し、どうにかして確保した補給源にてトラックを止めた。

 道中で拾った人たちを先に下し、隊員であるロウ達は後に続くようにトラックを下りる。拾われた人たちは隊員の指示に従って集められると、他の隊員達よりも風格を備えた男が人の波を避けて前に出た。

「こんにちは諸君、私がこの支部を任されているマイクだ。途中で連行するように乗車させた諸君たちには申し訳なかったが、君たちには我々メンシュ・ハイントに入団してもらう」

 トラックから降りた隊員達はマイクの横を並ぶように整列し、バーツと同じような境遇をした人たちはマイクの言葉に疑問符が頭上で左右に揺れている。

「隊長、その説明では分かりづらいのでは?」

「む、そうだったな。いやなにいつも見慣れた顔ぶれとは違う者たちを見るのは久しぶりでな、少々興奮してしまった」

 失笑気味に笑いながらも咳払いをして表情を凛とさせる。

「今、世界中がうたいびとの手によって人類は衰退しているのはご存じだろう。我々メンシュ・ハイントはそれを防ぐために、存命している者たちをこうして集めているのだ」

 マイクの演説めいたこの組織の説明を聞き流しながら、その隅でバーツはロウと喋っていた。

「お前も、成り行きで入ったのか?」

「今は、俺に話しかけてこない方が良い。マイクは話を聞かない奴が嫌いなんだよ」

「あ~、なら遅かったな。こっち見ているわ」

 腕を組み、睨み付けているマイクの視線に、バーツは失笑しながら愛想笑いを浮かべて頭を下げる。

「えっと、君はバーツ君と言うのかね?」

 目を付けられたバーツは小声で「うわ、まじか。目を付けられた」と言うと、マイクは唇を読み、発言に苛立ちを含ませた声音で近づいた。

「君は拾われた側だ、つまり我々には恩義があるとそう思わないかね?」

 マイクの握り拳に力が入っているのを確認したバーツは、この先自分に起こる事を察知する。殴られるのが確定ならば言いたいことを言って殴られようと、そう決意した。

「そうですね、確かに俺はあんた達に拾われたし、命を救ってもらっている訳だし、恩義は感じるけれど、隊長さんがどうしてそんなにも殴る気満々なのかは分からんのですが?」

「口答えをするな!!」

 急激な怒りを見せたマイクは感情のままにバーツを殴り飛ばした。勢いに任せてバーツは地面に身を転がして、殴られた頬を摩る。

「痛ってえなぁ、もう」

「まだ口答えをするなら、ここで捨てていくが、いいかな?」

 ムッとした表情を一瞬だけ浮かべるが、確かに今ここで捨てられれば自分は死ぬこととなる。シカゴにいた時に持っていた武器や食料の類はこの組織に全て奪われている。マイクの表情は本気でやることを物語っており、ここで口答えをすれば間違いなくここに置き去りにされて殺されるだろう。

「分かったよ、すまないね隊長」

「言い方が気に食わんな。そこに居る日本人同様に意思を見せれば許してやる」

 今度はその発言にロウが動いた。無表情で今のやり取りを見ていたロウだったが、マイクの発言にカチンときたのだろう。

「マイク、あまり調子に乗るなよ?」

「それはこちらの台詞だ。お前の国の言葉を借りるなら、郷に入っては郷に従えという事だ。それが今の世界の現状であり、ここの組織のやり方だろう?」

「だが、強要するのはボスの命令に背くことになるぞ?」

「黙れ、本当に生きているのか分からない人間など信用なるものか!」

「アイツは生きている。しっかりとな、側近だったんだ。顔も見ている。これじゃあ納得いかないか?」

「この支部を任されている身でありながらも、見せられない人間ならば信用できるものか」

 噛みつきそうな勢いでマイクはロウの首元を締め上げると、冷たい目でロウはマイクを見つめる。

「支部ごときでボスの顔を見ることが出来るなど烏滸がましいわ。国の一つでも任せられるほどの階級にでもなれればボスは顔を見せてくれるだろうよ」

「ふざけるなよ日本人。貴様がメンシュ・ハイントの何者であろうが、所詮は極東の田舎者だろうが。我々アメリカ人は――」

 マイクは人種に付いて人を見下している発言をしようとした時だ。見えない速度でロウはホルダーから銃を抜いてマイクの顎へと押し付けていた。

「今のご時世、人種差別をする様な発言は止した方が良い。俺はそういうのが大嫌いなんでね? 少しでも口元が滑るのなら、俺の指も滑ってしまうかもしれないから気を付けてくれ」

 ロウの迫力にマイクの顔に汗が大量に浮き出ていた。この男は本気でやるだろうと、猛獣のような瞳がマイクの予想を裏付けていた。

 その実、ロウはメンシュ・ハイントの本国からやってきた派遣員だ。北アメリカ大陸には支部団体は複数ある中で、アメリカ合衆国を任されたのがロウだった。

 本国がどこにあるのか支部隊長の階級は知られていない。本国と言うからには大きな国にあるのだろうとマイクは考えていたが、日本人であるロウが本国から来るほどの実力者という事ならば、実はこの組織は小さな国にあるのかもしれないという推測を立てていた。

 メンシュ・ハイント。和訳をすれば人類と言われているこの組織のボスはどれほどの力量を持っているのだろうか。

 この猟犬めいたこの男を手懐けているのならば、もう少し発言は控えた方が良いかもしれないと心の中でそう決意した。

 アメリカ支部の長であったマイクは、数か月前に派遣されてきたロウについて良い印象を持っていなかった。

 今まで自分が統率していたこの支部の隊員達は勿論軍隊上がりであり、マイク自身も軍隊の上位階級に座っていた男だ。

 そのため、隊員達の殆どは軍隊上がりであり、格闘術や銃の扱いにも手馴れている猛者ばかりだった。しかし、その猛者達を屠ったのはロウだ。

 本国の力量を計ろうとマイクがロウに提案したのは隊員達との組手だ。

 初めは拒否したロウだったが、マイクがロウを煽り、仕方なく相手をした十人の隊員達は二カ月の休養を求められるほどに壊された。

 下手をすれば殺されかねない事態まで陥ってしまう程の事件にマイクはロウの行動には特に制限を掛けることは無かった。というよりは、掛けられなかったと言った方が良い。

「ソーリー、悪かったよ。もう言わない」

 マイクは両手を上げて降伏し、離れ際に殺気を込めて睨み付けるがロウは流してこの場のやり取りは終了した。

 立ち上がったバーツは頬を摩りながら砂埃を払い落してロウに話しかける。

「なあ、俺だけ殴られ損じゃね?」

「そんなことは無いだろう。今のでお前にも目を掛けられなくなったさ」

「なら、有り難いね。軍隊上がりのお偉いさんは堅苦しくて息がつまりそうだからな」

 同感だと便乗するような笑いにバーツは少しだけロウの性格が分かったような気がした。


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