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うたいびと  作者: 元帥
第一章~うたいびと~
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2

それは五年前に起こった終焉の元旦と言われる事件が発生した時からだ。

 元旦を過ぎ、それから数か月が経過した時に人類は地球に異変が起きたのを感じ取った。

 一番初めに地球に異変が起きたのは太平洋沖だ。海図を眺めてみても島が存在する筈がない場所に突如、要塞めいた一つの塔が建築されていた。

 海上に浮いているのかと思われていたその塔からは、今までに見たことも無いような巨大な木の根が海底まで伸びている。外装は虹色に輝く貝殻で装飾を施されており、所々には本でしか見ることの出来なくなっていた歴史的な建造物が搭に埋もれているようにオブジェとして模られていた。

 芸術家が作った作品にしては余りにも不気味で、異質で、調和の取れていない作品にも関わらず、バランスの取れている矛盾した建造物。

 国際会議にでも議題として取り上げられたこの塔は、各国の芸術家達へと問い合わせてみるものの、誰もが名乗り上げることは無かったという。

 芸術家たちが口を揃えて発した言葉といえば、一日で太平洋沖にあのような塔を作ることは出来ないという事だけだった。

 ならば、誰が作ったのか? 人でないのなら誰があのような物を作り上げたのだろうかと、探求しようと各国が搭を調査するための団体を作り上げた。

 ここでも、何処が早く調べ上げることが出来るのかと醜い争いが始まった。一種の戦争のような事にもなり、何時の時代でも地球には争いが絶えることは無かった。

 不気味な塔は、地球の歴史的建造物を取り込んでいる塔として、名前は星屑の塔と呼ばれるようになる。各国でも星屑の塔の名前は定着しており、今では誰もがこの塔の事を知っている。

 しばらくしてから、星屑の塔からは生命活動をしていることが判明され、各国の研究者達は頭を悩ませることとなる。

 人工的に作られた物には違いないのだが、星屑の塔は生きているという驚愕的事実。

 人類はこの星屑の塔を始めは害を成さない代物であるのならばそのまま放置していくつもりだった。

 しかし、とある二つの国がこの塔を壊そうという提案に、議会は一時だけ反対意見が出た。あの塔を壊すことは、動物的本能が避けているようにも似ており、塔に手を出すことは禁止するといった、なんの科学的根拠もない反対意見だった。

 意見を聞いた二つの国は当然無視をして、自国の持つ軍隊を星屑の塔へと向かわせた。

 思えば、この時からすでに人類とうたいびととの戦争は始まっていたのかもしれない。

 塔へと向かわせた両国の軍隊は壊滅。兵器による防衛措置を行使されたのかと問われれば、それは一概にそうとは言えなかった。

 塔へと向かった戦闘機は全て墜落という記録を残している。それ以降、両国の軍はありとあらゆる兵器を持って星屑の塔を破壊しようとしていた。

 この間、約三か月の出来事だ。自国の軍費が尽きようとしたら隣国から、それすらも尽きようとしたら、他の国から銃火器を貰い受けながら、共に塔を壊そうと勤しんでいた。

 生きている塔というのも可笑しなことだったが、現にこの塔に挑んでいった者たちは何らかの手段によって殺されていることには違いない。

 そして、両国及び加勢に入った国は全て星屑の塔によって滅んでしまった。搭による攻撃かと思っていたが、真相は人の手によって、しかも自国が送り出した軍隊たちによって計七つの国は壊滅した。

 だが、奇跡的にも星屑の塔へと攻撃しに行っていた一人の兵隊は無事とは言い難いが、一命をとりとめた後、世界をざわつかせる真相を言ったあとこの兵隊は残っていた命の灯を消したという。

 この兵隊が見た、というよりは聞いたという話だ。星屑の塔へと向かったこの兵隊は、距離およそ五キロまで差しかかった時、塔へと照準を合わせ、スイッチを押す動作まで入った瞬間、彼の耳には一つの歌が聞こえてきたのだという。

 聞いたことが無い歌だったという。どこの国の言葉かも知らないその歌は、この兵隊の心を掴み、気が付いたら地上へと落下していたという事だった。

 自力で国まで帰り、傷を受けた体は治療によって一命を取り止めたのだが、彼はこの時既に人として死んでいたのだという。

 体は無事だ、後遺症も無いぐらいに完璧な医療技術だった筈だ。だが、彼が目を覚ました時には視線は節操なく辺りを見渡しつつ、歌が聞こえたんだ、とうわ言を呟き続けた。

 それから数日後、この兵隊は突如暴れ出し、周りにいた医者を殺害した。

 駆けつけた人たちによってこの兵隊は殺されてしまうが、この兵隊が後のおちびと第一号と言われていく。

 そして三か月の月日が経過した時、各国が動き出す前に星屑の塔が反応を示した。

 教会にある大きな鐘を鳴らす様に、その音の波は太平洋沖から世界中に木霊した。正午零時を知らせる合図のように、その鐘の音は定期的に繰り返されるようになる。

 この鐘の音を聞いた世界中の人間は、着々と脳を破壊されていき、その末路はあの兵隊と同じように生きたままの屍になっていった。

 こうしておちびとが出現してから二年の月日が経過すると、地球に存在していた人類の数は最大値よりも三分の一まで減少し、増えていくおちびとと比例するように人類の数は着々と消滅傾向に陥っていた。

 この状況を打破しようと各国の医療スペシャリスト達は結託し、異様な速さで人がおちびとになる経緯まで辿り着いた。

 まず、星屑の塔から定期的に世界中へと飛ばされる音波は、人の脳波を乱らせる役割があった。微弱ながらにその音波は人の脳を蝕んでいき、最後には星屑の塔によって生きたままの操り人形と化すのだ。

 初めは研究者たちも絶望感に苛まれただろう。何故なら、定期的に自分の脳が破壊されていること、この音波は正午と一日の切り替わり時の計二回に分けて世界中へと広がっていたからだ。

 一週間だけで十四回も強制的に聞かされることとなると、いつおちびとへと変化してしまうのかも時間の問題だった。

 次に研究者たちが見つけた事は、この音波は他の生物には何の異常も来していない事だった。実験に使うマウスは突然凶暴化する訳でもなく、人に近いと言われるチンパンジーですら凶暴化することは無かったのだ。

 つまるところ、星屑の塔から発信される音波は人類だけに効果が表れているということにまたも絶望の淵へと落とされることとなった。

 それでも諦めないで研究者たちはこの音波を調べ上げ、唯一の予防法を見つけ出すことに成功した。残念ながら、おちびとになってしまった人間を元に戻すことは出来ないと研究者たちの間では百%の確率で導かれた答えは、いずれも世界中を絶望へと突き落とす。

 研究者たちが行った実験は四人の検体を音波が届く部屋にいるだけという簡単な実験だった。

 初めはこんな実験が後の音波を予防するための手段となることはこの時は重点に置かれてなかったものの、結果を残した事で少なくとも人が絶滅するまでは延期したぐらいだ。

 一人目は心身ともに健全な人間、二人目は身体的に健全な人間、三人目は精神的に健全な人間、四人目はどちらも良好ではない人間を集めた。

 実験を集めて一週間が経過した時に初めに症状が現れたのは四人目の不健康な人間だった。

 我慢が出来ない程の頭痛に苛まれた後、床にひれ伏す様に崩れ落ちる。数分が経過すると何事もなかったように立ち上がり暴れまわった。

 おちびととなった四番目の実験体を殺して引き続き実験は行われた。非人道的のようにも見えよう、だが、人類が生き残るための手掛かりにもなるかもしれなかった為に、研究者たちはただ爪を噛むだけしか出来なかった。

 実験が始まって一か月経過した時二人目におちびと化したのは身体が健康だった人間だった。しかし二人目のおちびと化した後の行動に研究者たちは予想外の事が起きて、一瞬だけパニックになった。

 初めに発症した検体は暴れまわっても脅威になるような人間ではなかった。言うならば駄々を捏ねる子供のように暴れ周っていたのだが、二人目が発症し、同じように暴れまわったのだが、鍛えていた体を活用して強化ガラスを壊そうとしていたのだ。無論、研究者たちは直ぐにこの検体を殺した。

 この実験を始めてから半年が経過すると、研究期間が終わり、二人の実験体はおちびととなること無く普通の人間であることが証明された。

 この実験から見出された答えは、おちびと化しないためには精神的に健康であれば音波によるおちびと化は予防出来ると世界中に報告された。

 ストレスケアを十分に行う事、これが人類を存続させるために課せられた事だったが、既におちびと化した人間がいる以上は容易に外出を禁止することも世界中で執り行われた。

 予防策を世界中に広めると、次に国連は音楽に関する事柄を全て廃止することを決めた。

 もちろん反論は暴動が起きる程に各地で沸き起こった。それもそのはず、音楽で生活をしている者たちは、次の日から違う仕事をしろと強要されているからだ。世界の声は無慈悲にも音楽家達を根絶やしすることに決めた。

 星屑の塔から発せられる音波のせいで音楽家たちはあらぬ罪を着せられて、代々続いてきた音楽家の血筋も新世紀に入ってからは消滅したことに等しい。

 いつしか、音楽というジャンルは世界中から消えた。歌も、曲も、詩も、楽器も全て壊されてしまい、音楽活動をしようものならば、周りの人間が国連に報告し、国からルールを破った罰として問答無用で死刑に処されることとなった。

 それほどまでに、星屑の塔が恐怖の対象だった。音楽が畏怖の対象だった。それを使うことが出来る人間たちが処罰の対象だった。

 今までは音楽を聞くことでストレスを半減させてきた者たちにとっては、苦痛の時代だろう。いや、既に近年では自殺者も多く、塔がアクションを起こさずとも人類は瞬く間に絶滅への道を辿っていた。

 これが新世紀を迎えてから、五年間の間に行われた所業の数々だった。


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