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「お久しぶりですアレクさん、ロウさん、それとエイブラハム」
空港に付いたロウ達は到着すると本国からの迎えが先に居た。
「なんで僕だけ呼び捨てなんだよ? 不愉快だなぁ」
エイブの呟きに本国の人間は聞き流し、癇癪を立てるエイブラハムをブライドとバーツが宥めている間に話は進む。
「ボスか?」
こちらからは特に連絡を取っていない、にも関わらずこれほどまでに準備が良いのは、ロウが考える人物に中で一人しかいない。今では燃料を確保するのも大変な時代だが、ここの組織は色々なルートを確保しているので、底が尽きることは無いと言われている。
飛行機を飛ばす、迎えに寄越すだけでも金額は破格な値段を叩きだすと言われているが、そこは触れないようにする。
「正解だよ、ロウ」
エンジン音を物ともしないような通る声が五人の耳に届く。暴れていたエイブも一人の男が姿を現した時ぴたりと動きを止めた。
「彼は予測を立てて今日、この時間に迎えが出来るように僕たちを送迎係として贈られたのだけど、うん、時間もぴったりだ」
銀時計の蓋を締め、機内から体を出して地に降り立つ。その横で数人の搭乗者たちは敬礼をする中で、ロウ達も同じように敬礼をした。
彼の名前はクラウス。メンシュ・ハイントが創立された時、二人しかいなかった時のメンバーだ。実質の二番手ということになる。
物優し気な雰囲気を身にまとい、警戒心を解くような佇まいではあるが、あの五段階訓練を耐えきった四人のうちの一人だ。
「そんなに畏まらなくても良い。僕たちはそういう形式が嫌いだって言っているだろう。まあやりたいなら強要はしないけど。さてと、こんな所で立ち話も何だし、時間も惜しいから、早く乗り込んでくれ」
クラウスの言葉に全員は同意して飛行機に乗り込む。個人用のジェット機であり、中は旅客機用に作られるような椅子の数は置かれておらず、机と椅子、通信機器が常備されていた。
「まずは任務お疲れさま。大変だったでしょ?」
「そうですね、アメリカ合衆国は壊滅したと言っても良いでしょう。あれ以上に人が生き残っているとは思えません」
「うん、やっぱり星屑の塔が出現してから真っ先に攻撃を開始した国だからね、後は英国だったな。まあ、しょうがないっちゃあしょうがないけど。人がまだいたことに驚きだけどね」
アレクの報告にクラウスはうんうんと頷いてエイブに視線を向ける。
「エイブラハム? 前より絶対に太ったよね。習慣病で死なないように気を付けるんだよ?」
「あ、は、はい。以後気を付けます」
次に目を向けたのはバーツの方だった。バーツとは初見であったためまじまじとクラウスは観察を始め数分で成程と解決していた。
「君は初見だね。名前を聞こうか」
「俺はバーツ。アメリカ人。生まれはニューヨークだ」
「うん、分かりやすくて好意が持てるよ。さてと、バーツ君。一つ質問をしていいかな?」
「何でしょう?」
「君は今、何がしたいか目的を見失っているね? 良かったらこのまま本国で鍛えないか?」
本国、つまりロウ達が訓練を受けた場所であり、非人道的な事をする様な連中の集まりの中に来ないかと言っているのだ。
バーツはこの誘いに二つ返事で乗った。
「良いのかい?」
「ああ、あんたの言う通り、俺は目的が無い。やりたいことが分からなくなったからな。丁度いい」
クラウスはバーツの手を取って握手をする。また仲間が増えて嬉しいといった表情で席に座り、最後にロウを見つめた。
空気が静まり返るように、機内のエアコンだけが音として成り立っているぐらいで居心地が悪くなる。
「さてと、ロウ聞かせてもらうよ? うたいびとの実態を」
そう、クラウスが口火を切ると、空港に向かうまでの車内と同じようにロウはこの場に居る人間たちにうたいびとの事を全て話した。
うたいびとは再生をする、死なない。そして、何故かバーツの娘にも似ているという事を。
今の所、組織が掴んでいる情報は、うたいびとは個人でおちびとへと変えることが出来る能力を持っている事、そして、地球全土の中で三人見つかっているという事。
そのうち、今回出会ったうたいびとは組織が掴んでいた情報と重なった。名前の情報まで手に入れた事にクラウスは笑みを浮かべて頷きながら話が終わるまでニコニコと笑みを浮かべているだけだった。
アレルヤとキリエ、三人の内二人までの存在と姿がはっきりとなったことは人類側にとっては大きな功績に変わりない。
「都市部までは半日かかるからね、今のうちに休憩を取っておいた方が良い」
クラウスはそれだけを言うと自室に閉じこもってしまった。
残された四人も今までの疲れが押し寄せてきたのか、それとも少しだけの対談だったがクラウスが持つ独特の雰囲気に当てられた四人は、椅子に腰深く凭れ掛かる。
「……なあロウ、あいつは何者だ? 本当に人間かよ?」
「一応人間だろ。だが、あの人と会話をするのは疲れる。なんか疲れる」
ため息を吐いて天井を見上げる。強制的に脳が眠りを取ろうと瞼を閉じさせようとしている。このまま眠ってしまえば楽になれる。少しだけの休憩を取ることに、ロウは抗えること無く意識の底に沈んだ。