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「みなさんおかえりなさい。無事でよかったです」
トラックに入り込み全員が指定の席に座ると初めから作っていたのか、いつもの珈琲が白煙を上げて全員の手前に置かれる。
「なんか最近、これが癖になってきたわ」
バーツはそう言って少しずつ珈琲を啜りながらも、やはり軽く眉根を寄せてしかめ面を顔に出す。
「本国ってことはベルリンに帰るのか?」
「そうだ、それしかあるまい」
また遠い旅になると思いながらロウも珈琲を飲む。
自動操縦でトラックはニューヨークまでの道を走り、空港まで直線状を走る。本国にはこの組織を統括する人間がいる。人物的にはカリスマがあるのだろうが、何かとあの人も抱えている身ではあるのは知っている。
「今度は何をされるのかねぇ」
「会ってからの楽しみだろうな」
「うへぇ、考えたくねえ」
二人は頭首の事を知っているからだろう、二人の表情からは心底会いたくないような気配が漂っているのを感じたバーツは、隣に居たエイブに頭首の事を聞いた。
「なあ、二人が話している人間って一体どんな奴なんだよ?」
「あ~、僕は知らないよ。一度しかあったこと無いから分からない」
「なんで? お前も本国の人間だったんだろ?」
「言っただろ? この二人は五段階を突破した人間なんだ。見込みがあった人は頭首の右腕になれるんだよ。だから、僕は余り知らないけれど、多分怖い人だと思う」
その根拠は何処から来るのだろうかとバーツは首を傾げると、エイブは組織に入った時、本国に徴収されたときに初めて見た時の事を語った。
「面と向かって話をされた訳じゃないけれど、あの人は怖いっていうのが僕の本能がそう言っていたからね、それぐらいだよ」
「ふ~ん、意外とそういう勘は馬鹿にできないからな。俺も気を引き締めておくか」
飲み終わった珈琲を片付けているブライドを他所に四人は空港までの暇つぶしにテーブルの上でトランプゲームを始める。
「親は?」
「適当でいいだろ、ジャンケンするか」
「じゃあ、ロックシーザーペーパーワンツースリー」
エイブの掛け声に全員がその場で手を差し出す。負けが親となるので、自動的にカードを配るのはエイブとなった。
一枚ずつ配り終え、同じカードを中心に集め終わり全員が顔を見合わせる。
「ジョーカーが残ったら負けな?」
「了解」
始まりはロウから左回りでアレク、エイブ、バーツという順番だ。アレクの札から一枚引いてペアが揃い投げ捨てるようにロウは中心にカードを置く。
次いでアレクはエイブの札から抜き取り、ペアが揃ったのでゆっくりと山に置き去る。
「うっ!」
エイブの顔色が変わり、対してバーツは札の影に隠れて失笑していた。残った二人はその反応だけで察して警戒を始めた。
最終的に負けたのはエイブであり三人は余裕綽々といった表情でご満悦だった。
「軽い暇つぶしにはなったな」
「そうだな、さてと、それじゃあ、暇つぶしついでにうたいびとの情報を言っておく」
口火を切ったのはロウだ。ケネディセンターのホールに居たのは二人のうたいびとであり、楽器を使ってこちらの五感を乱れさせてくるなど、今回対峙して分かったことを全てあげた。
「楽器だけでなく、声そのものも武器であり、その体は再生する……か」
アレクは眉間を抑えながら考えている中でエイブは関係なさそうに何年か前の雑誌を読み始める。
「人類勝てなくね?」
「ああ、直面して思った事は、勝てないという事実だけだ」
これを本国へ持ち帰ったとしても大した情報ではない。人類はうたいびとに勝てないという事実を顔面に重いパンチをくらった時と同じような感覚だ。ノックアウト寸前の事実に人類は今回の遠征で直面してしまったのだ。
「なあ、バーツ変なことを言っていいか?」
「ん? ああ、いいぜ。ていうかなんで俺なんだ?」
その問いかけにロウが言い放った出来事に呆けることしか出来なかった。自分の娘に似た奴がうたいびとだった。だが、バーツはそれを否定する。無論ロウもその事には肯定するしか出来ない。
バーツの娘は星屑の塔から発信される音波によって数年前に死んでいる。ロウもそれを踏まえ、ロケットの中身を取り出して机の上で見る。
「ああ、やはりこいつだ。この服も全部同じだった」
「生きていた? いや、まさか。嫁も、セシリアも俺がこの手で殺したんだぜ?」
「は?」
初めて聞いた事実にロウはつい聞き返してしまう。自分の手で嫁と娘を殺した? これでは本当に自分と同じ境遇ではないか。
「前にも言ったけどな? 俺は自分の価値観があるんだ。あんたとは違う」
「あ、ああ、すまん」
椅子に凭れ掛かるようにバーツはため息を吐き出す。
「参ったな、俺はどうすればいいんだ? いや、出来れば俺自身では殺したくはないな。殺せるような状況になればの話だが」
バーツはそう言って立ち上がって奥へと消えてしまう。外に行ける扉があり、勝手口の外はベランダのような造りになっている。おおよそ、そこで一服でもしにいったのだろう。
「そう言えばお前らの所にももう一人現れたんだったよな?」
「そうだ、まさか一瞬にしておちびと化されるとは思わなかったが」
アレクは先にケネディセンターに入ったロウよりも後に入る所だった。遅れてやってくるマイクたちと合流し、センター内へと入ろうとした時にその少女は現れたのだと言う。
その時もバイオリンを使ってマイクたちをおちびとへと変貌させたのだが、アレクとエイブには特にその兆しは見当たらない。その点だとやはりおちびとにならないためのくんれんは無駄ではなかったという事になる。
おちびとにならないよりはマシなのだろうと考えてはみるものの、やはり倒せないという事には変わりない。
おちびとになった連中を中に入れないために交戦している間、アレルヤには追いつかれたのだろう。だが、彼女の目的はキリエの救出だと言った。最初から救出が目的だったのかと思うと、色々と勘ぐる部分が多い。
初めからという点で助けに来たのだとしたら、キリエがロウ達の手によって危険な目に合う事を予知していたことになる。
「移動手段とか、分かったか?」
ロウの問いかけにアレクは頭を振る。出てきた瞬間も、ロウがセンターから出てきた時にも、二人が逃亡した跡は追えなかったようだ。
全てが謎に包まれている。自分たちはこれからも生きていくことが出来るのか。仇を取ることが出来るのか、不安だけがロウの中を渦巻いていた。




