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うたいびと  作者: 元帥
第一章~うたいびと~
10/25

 ニューヨークシティ、元四つ星を取っていたとされるホテルにロウ達はアレクの指示に従ってやってきた。

 都市部だというのにも関わらず人は少ない。倒壊こそしていないものの、天を目指しているようなビル群は今からでも崩れ落ちてしまいそうだ。

 ホテルの中に入っても出迎えてくれる従業員は居ない。そこに居たのはロウにとってあまり会いたくない面持ちの男だ。

 マイクが前に躍り出てアレクに握手を求めるとそれにアレクは応じた。

「初めましてアレク殿。私の名前はマイク。ワシントン州の支部隊隊長を務めております」

「ああ、よろしく。俺はアレク。組織の二番手を務めていた者だ」

「務めていた?」

 務めていたという言葉にマイクは怪訝な表情を浮かべる。

「ああ、本国から地方に派遣されるようになる人員は個人でもそれなりに動けるのでね、要は群れなくても強いという訳だ」

 マイクはロウを一瞬思い浮かべる。一人でも強いという説明に納得してしまったのが少しだけ悔しかった。という事は目の前にいるこの男もロウと同じくらいに強いのだろうかと、興味が湧いた。握手したときの力の返し具合からすると自分よりも力は無さそうだというのが第一印象であり、体格もそれほど筋肉質には見えない。

 だが、全身黒で統一された服装は死神を連想して気味が悪い。

「では話がしたいのでこちらに」

 そう言って広間まで全員を集めさせるとアレクは今まで起きたことを全て簡潔にまとめて説明した。ニューヨーク支部はアレク以外が死亡し、うたいびとはワシントンに留まっている事。武器はある程度あることを伝え終わり作戦を組み立てる会議を通して行う。

 まず、初めにワシントンを囲む柵があり、その柵の周りにはおちびとが群がっている。自分たちは川を渡って内部へと入り込むことが出来たが、次があるとは思えない。ならば考えられるのは殆ど強行突破の形でワシントンに侵入しなければならないのが現状だ。

 ワシントンの地図を卓上に広げ、ケネディセンターに赤ペンで丸を付ける。

「ここに彼女が居た」

「ここは、コンサートホールですな。なぜこのような所に?」

「理由は分からん。ただ、ピアノを弾いていたのは確かだ」

「ピアノ……ですか?」

 マイクはピアノという単語に眉根を寄せる。ここ数年で音楽と言うジャンルは世界から廃止され、楽器という存在も抹消されていたと思い込んでいたのだが、まだあったのかという気持ちになる。マイク自身も政府から取り決めで楽器を壊せという命令が飛んできた時は喜んで壊した身でもあったからだ。

「という事は、ニューヨーク支部の隊員達はうたいびとの攻撃によっておちびと化したという事ですかな?」

 アレクは静かに頷くと、やはりマイクは何処か納得の行かないような表情でアレクを睨んでいると、間にバーツが割り込んで入ってきた。

「なあ、質問だけどいいか?」

「なんだ貴様! 誰が入って来て良いと言った!」

「いや、構わない。続けてくれ」

 一瞬で空気を熱くさせたマイクの怒号を物静かに鎮火させるアレクの力量にロウは軽く気に食わないような表情で見ていた。

「なんであんたはうたいびとの攻撃を受けたのにおちびとになっていないの?」

 的を突いた質問にアレクは目を見開くが、物怖じもせず、冷静にバーツの質問を返した。

「ふむ、国からの予防法は知っているか?」

 バーツに投げた質問は割り込んで入ってきたロウに遮られてしまう。

「いいや、こいつはその事を知らないよ。馬鹿だから」

「……俺は、彼に聞いているのだが?」

「話が脱線するよりはいいだろう?」

「それもそうだな、すまないがその質問は後で答えるとしよう」

 バーツの茶々入れに脱線しかけた話は元に戻って続きを開始する。

 うたいびとの一人がコンサートホールに居た事、そして今も尚そこに居るとは限らないものの、ワシントンからは絶対に出ないという確証。それはアレクの勘だったが、攻め込むのなら近日がいいという内容にマイクはため息を吐いて頭を掻く。

「こんなの計画でも作戦でも無い。ただの自殺と同じだ。態々死地に赴いて、死んで来いと言っているようなものだ。もう少し何とかならないのか?」

「何とかとは?」

 マイクの発言にアレクは目を細める。彼は死にたくないと今、断言したのだ。マイク自身がそのつもりで発言していないのだとしても、少なくともこの二人にはそう読み取ったのだ。マイクへ続けて質問をしようと口を開いた時、既に一人の男がマイクへと掴みかかっていた。

「マイク、あまりふざけたことを抜かすなよ? 既に俺達は死の世界に体ごと浸かっているんだぜ? 何を今更死にたくないとか言ってやがるんだ?」

「なんだと!? 俺は別に死にたくないとは」

「悪いが、今の発言は俺にもそう聞こえた。マイクだったか? 人類は数年の間に絶滅へと進んでいるんだ。こいつの言う通り、言っていることが甘すぎる」

 二人から言い寄られたことでマイクはたじろぐ。彼らの言っていることは尤もだということもマイクは理解している。だが、心の奥底では常に恐怖と戦っていた。いつ自分が死んでしまうという恐怖。どうしてこの二人は怖くないのだろうか? 死ぬ事が怖くないのだろうかと考えた。

 ほんの数秒でマイクはその答えに辿り着いた。

――ああ、そうか、この二人は壊れているのだ、と。


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