冒頭
――死ぬことは平等だ。
生きている者、それは生物や無機物にも死という概念を持っている。
心臓が止まってしまえば、脳に傷を追えば、握りつぶされたり、引き千切られたり、切り刻まれたり、許容以上の傷をおえば生物の生命活動は途絶える。
例えば、道端に落ちている石を粉々に砕いたことにしよう。これで石の生命活動は絶える。
例えば、有名な建築物があったとして、人為的、自然によって倒壊したとしよう。その時代の人は覚えているかもしれないが、誰もその建築物の事を知らない人が十人に質問して回答が十人になってしまえば、その建築物は死んだと同義だ。
つまり死とは忘却ということ。忘れるという事は、そのものの死と同じ事だ。
――生きることは不平等だ。
裕福な層に生まれれば、貧困な層に生まれれば、環境によって生き続けるという事は途端に簡単になったり難しくなったりする。
人はこの世に生まれ落ちた時から途端に完璧ではなくなる。
瑞々しかった肌は年齢を重ねれば乾燥し、皺が目立つようになる。老いていく最中にも病気にかかって生き続けることは難しくなる。
つまり、生きるという事は、生き続けるという事は永遠に苦しむことと同じだ。
だから、人は死ぬことで楽をしようとする。
私は、生まれた時から病弱で、激しい運動も禁止されていた。
健康的な子供たちとは違って、私は病院という監獄の中でずっと一生を送っていた。命の灯が消えるまでの二二年間、短い時間だったけれど、私は夢を持つことを教えてもらった。
――歌を届けたい。
歌手になってみたい、自分の書いた詩が曲と重なり、歌となって世界中に聞かせたい。突拍子もないそんな私の夢を、彼は笑顔で受け止めてくれた。
病弱である私の体を知っているから笑ったのか、それとも応援しようと笑顔を浮かべてくれたのかは分からなかったけれど、結局、私に残された寿命という貯金残高は零になってしまい、何もできずに死んでしまった。
――本当に死は平等で、夢は夢のままで叶えることも出来ずに死んでしまった。
ずっと泣いていた彼の隣で私は慰めるように囁き続ける。
――届いていますか?
――聞こえていますか?
――もう悲しまないで、もう泣かないで。
――前を歩いて、振り返らずに。
――私は貴方の心の中で生きているのだから。