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07:紳士


Vatican VCSO headquarters


塔の頂上に弾き出された男と女、塔の下は奈落、つまり落ちれば死、まさに逃げ場の無いデスマッチ、柵は無く一瞬のミスが命取りとなる極限の戦い。


男の名前は護法神・帝釈天、女の名前は沙羯羅、この戦いに勝った方がベスト16、最強を戴冠しようとする者がうごめくトーナメントの出場券を得られる。

帝釈天の得物は大剣クレイモア、名は髭切、沙羯羅の得物は弓幹が刃の弓、名は菊理姫。


「棄権しろ、沙羯羅、貴様に勝目はない」

「そんな事したら緊那羅に怒られちゃうでしょ?それに私だって怖いけど同じ人間、勝つ事があり得ないなんてあり得ない!」


帝釈天は軽く笑う、帝釈天が笑う事など皆無に等しい。


「愚かだ、しかし面白い」

「そうそう、コレでもタメなんだから劣ってるなんてこれっぽちも思ってないからね!」

「俺も遠慮なく出来る、感謝する」


帝釈天が先に走り出した、沙羯羅は威嚇代わりに一発放つが案の定弾かれてしまう。

あっという間に間隔を詰めた帝釈天は上段から振り下ろす、沙羯羅はそれを受け太刀すると、握っていた矢で帝釈天を突き刺そうとする。

帝釈天は焦り後ろに避けるが、沙羯羅は握っている矢をそのまま菊理姫に装鎮し、矢を放った。

帝釈天は髭切で弾くが、今度は沙羯羅が上段から菊理姫を振り下ろす、帝釈天は難なく受け太刀するが、既に沙羯羅は菊理姫を引いていた。

矢は帝釈天の肩を貫通し、帝釈天は後ろに下がって牽制する。


「面白い、しかしこれならどうだ?」


帝釈天は髭切を投げた、沙羯羅は驚きながらも矢を放った。


「エクスペンション【拡大】」


巨木のようになった矢は髭切に当たる。


「エクスプローション【爆発】」


凄まじい爆音、そして風圧、塔がビリビリと揺れているのが分かる程、お互いの凄まじい力が相殺された結果だ。


「何故今のが分かった?」

「分かるわけ無いじゃん!危ないなぁ」

「なら何故だ?何故受けようとしなかった?」

「怖いからだって、普通得物なんて投げないでしょ?何があるか分からないから全力で体に当てないようにする、それで当たり前でしょ?」

「実に面白い考えだ、そして頭が良い」


帝釈天が笑顔になった、格下相手だが互角、もしかしたら帝釈天が圧されているかもしれない、その差は力ではなく頭、回転の早さと自分の力を理解しきっている、それが少ない力を十二分に発揮する形で現れた。


「な、何笑ってるの?不気味だよ?」

「いや、コレで俺も本気で戦える」


帝釈天は髭切を顕現した。


「プロテクティブ【防護】」


沙羯羅は再び警戒する、何も起こっていない、神技発動をしたのに外に現れないのは能力増強か、まだ沙羯羅が知らない未知の力。

沙羯羅は再び矢を放つ。


「エクスペンション【拡大】!」


帝釈天は大きくなった矢を髭切で受けるが、矢の勢いは止まらず髭切を折って帝釈天に当たった、かなり押し戻されるが、何とか踏ん張り塔から落ちずに済んだ、しかし帝釈天はプロテクティブ【防護】の効果でダメージはゼロ。


「そういう事か、それってダメージを受けないってやつ?」

「それより今のはなんだ?」

「あぁ今の?今のは矢をヤスリみたいに超ギザギザにして貫通性を無くした分、一回の威力を強くしただけ、いつもなら貫通性重視なんだけど、どうせ受けられるんなら壊しちゃえ!って発想かな?」

「沙羯羅はどれだけの頭脳を持っているんだ?」

「一応IQ180でぇす!」


帝釈天は納得の笑みを溢す、ホーリナーの中でもトップクラスの知能、ちなみにダグザのIQは測定不能。

沙羯羅の強さは得物の力を最大限活用した戦い方、そして自分と相手の力の解析力、一長一短を的確に捉え、尚且超ポジティブシンキングにより‘不可能’を補っている。


「だが俺の方が強い」

「やってみなきゃ分からない!勝率がゼロじゃない限りは勝てるんだから」

「気に入ったぞ」


帝釈天は走り出す、沙羯羅は近寄らせないために再び矢を大きくして押し返そうとする。

今の状況では勝目がない、しかし沙羯羅も知っている、神技は無限に続くわけではない事を。

それは帝釈天も同じ、それをホーリナーラグナロクで痛感したからこそ手をかざす。


「コラプス【崩壊】」


帝釈天の手に巨大な矢が当たった瞬間、矢は粉々に砕け散り、それを掻き分けて帝釈天は走り続ける。

そこで驚いても冷静さを失わないのも沙羯羅の強み、振り上げた髭切を見て素直に終わらないとの判断力。


「エクスプローション【爆発】」


菊理姫で受け太刀する前に矢を放った、矢は髭切に当たると髭切は爆発する。

エクスプローション【爆発】とは衝撃により爆発する、その特性を逆手に取り受け太刀時の衝撃を通常の振り下ろしと同じにし、菊理姫で受けた。


「流石だ、しかし―――」


帝釈天は空いている左手で沙羯羅の首を掴み、沙羯羅を持ち上げた。


「コレで終りだ」

「ニヒヒヒ」


沙羯羅は歯を見せて笑うとそこには小さな矢が噛まれている、そのまま吹き矢のように右肘の関節部分に突き刺した。

沙羯羅は蛇のように帝釈天の左手に巻き付き骨を折ろうとするが、瞬時に帝釈天は沙羯羅を突き飛ばした。

沙羯羅は着地と同時に矢を3本同時に放つ。


「エクスプローション【爆発】!」


帝釈天は慌てて床を爆発させて塔の頂上部分を壊す、二人は1フロア落ちた。


「チェンジ【転化】!リデューション【縮小】!」


粉塵を突き破り突っ込んで来たのは沙羯羅だった、右手には矢の刃が異常に長い、さながら片手剣のような矢が握られている。


「それも矢の範囲内か」


そのまま斬りかかった、帝釈天は髭切で受けるが、左手には手の平サイズになった菊理姫がある、沙羯羅は針のような矢を指先だけの動きで放つ。

帝釈天はギリギリで気付くが、左腕で防ぐの精一杯だった。

沙羯羅は髭切を足で蹴り飛ばそうとするが、それよりも早く帝釈天は髭切を手放して沙羯羅の足を掴み、外に投げ飛ばした。

沙羯羅は壁を突き破って塔の外に放り出される。


「コレで終りだ」


しかしいくら時間が過ぎてもバチカンに戻されない、つまり沙羯羅はまだ死んでいないという事。

そして帝釈天がいる塔が揺れる、そして地鳴りのような轟音。


「プロテクティブ【防護】!」


その瞬間床から飛び出して来た巨大な矢が帝釈天を上空に押し上げる、そして筒抜けになった塔の見える限りでの最深部には沙羯羅がいた、塔の壁には矢が突き刺さっていてそこを足場にし、塔内に入り上層部に矢を放った。

沙羯羅は矢に手を向けている。


「乱れ散れ!」


矢はバラバラになると軌道を変え、今度は帝釈天の上から大量の矢が降り注ぐ。

帝釈天は叩き付けられるように下降し、沙羯羅がいるフロアに叩き付けられた。


「案外勝てちゃったりとかするのかな?何か私良い感じだしぃ」


帝釈天は起き上がり、埃を払いながら沙羯羅を見る、何故か殺気を込めた目で沙羯羅の事は見れない。


「それが本気なの?もしかして私って強かったりする?」

「ただ一振りの得物の使い方を思い出せ―――」


帝釈天は何かを悟ったかのように不気味に笑う。


「そうか、慣れていないのなら、慣れた形にすれば良いだけの話、沙羯羅、感謝する」

「あれ?何か私今お礼言われちゃった?でもあんまり良いことじゃなさそうだなぁ」


帝釈天は髭切を顕現した。


「コラプス【崩壊】」


髭切は縦に割れ、綺麗に二振りの刀のようになった、そう、帝釈天は二振りでの戦いに慣れていた、しかもそれは悪魔の力を借りて、それならば神の力を持って二振りにすれば良い、ただそれだけの事である。


「ありゃ?もしかして強くなっちゃった?」

「沙羯羅の事は認めてやろう、しかしただ攻撃回数が倍になっただけではない」

「1+1=∞ってやつ?」

「逆だ、=1、多くの力を発揮出来るのではなく、力を十二分に発揮出来る、出来損ないの1が本物の1になれただけの事、その身を持って体感しろ」


帝釈天は走り出した、沙羯羅は例の如く巨大な矢を放つ。


「同じのは通用しない」


帝釈天は巨大な矢に向かって手をかざす。


「コラプ――――!」


帝釈天の寸前でバラバラになり、四方八方へと散らばる、そしてそれは帝釈天の逃げ場が無くなる程だ。

しかし帝釈天は焦る事なく二振りの髭切を構える。


「プロテクティブ【防護】」


その瞬間一斉に帝釈天に襲いかかる、大半は髭切で打ち落とすが、コレだけの量を全て打ち落とすのは不可能、それ故のプロテクティブ【防護】。

しかし受ける衝撃が少ないタメにすぐに攻撃に移った、沙羯羅は焦り、直ぐ様矢を握った。

帝釈天は右の髭切を振り下ろすが沙羯羅はそつなく受ける、左も然り、そこからが早い、一度両方を引くと髭切を合わせて元の形に戻し、突きを放つ、沙羯羅は菊理姫でそれも難なく受けるが、帝釈天は再び二振りにし、左の髭切で菊理姫を絡め、沙羯羅の体勢を崩した。


「ありゃ?絶体絶命?」


沙羯羅はバックステップで避けようとするが、それよりも早く帝釈天は右の髭切を振り下ろした。















「あれ?」


帝釈天は沙羯羅の体を掴み、髭切は首元に当てたまま、そう沙羯羅を殺してはいない。


「沙羯羅を斬りたくはない、棄権しろ、沙羯羅の負けは確実だ」

「なぁんだ、優しいところもあるじゃん」


と、言いながらも沙羯羅は赤くなった顔を隠そうとしている。

そして沙羯羅は得物を捨てて手を挙げた。


「負けましたぁ!棄権します!」










バチカンに弾き出された2人、その瞬間大歓声でバチカンが揺れる、それは沙羯羅の健闘、そして帝釈天の紳士的行動に対するものだ。


『すんっばらしい試合だったぜ!あの帝釈天に神徳無しの沙羯羅がココまで喰らい付くとはな!そんで帝釈天どうした!?頭でも打ったか!?少なくとも今までの帝釈天からは考えられない行動だな!

とりあえずベスト16出場は帝釈天だぁ!』


二人に集まる阿修羅、緊那羅、ダグザ、ヘリオス、タナトス。


「帝釈天、貴様にしては珍しい行動だな」

「女が殺せねぇで何が最強だ」

「あら、紳士的で良いじゃない、あんたの事少しは見直したわよ」

「俺も阿修羅の事は殺さないッスよ!」

「はぁ、勝ち残ったら当たるのに何言ってるの?」

「そうなんスか!?嫌ッスよ、阿修羅と戦いたくないッス」


帝釈天はそれらをスルーして帰ろうとしたが、沙羯羅が後ろに着いて行った。


「何だ?」

「ありがとう」

「何がだ?」

「だってあれ案外痛いじゃん?だから負けるよりも痛い方が嫌だったんだよね」

「済まない」

「私もいっぱい痛い事したから紳士帝釈天の勝ち」


沙羯羅は帝釈天の顔を覗き込み満面の笑顔を見せる、帝釈天は顔を赤くして沙羯羅の頭をおさえた。


「何だテメェ?何顔赤くしてるんだよ?」

「もしかして沙羯羅に惚れたんスか!?あしゅ…………らぁ?」


ヘリオスの冷や汗、その理由は帝釈天の只ならぬ殺気、そして帝釈天は髭切を取り出した。


「コラプス【崩壊】」


二振りにしてタナトスとヘリオスを睨む、さすがにその殺気、尋常ではないもの。


「ほ、ほら、あれッスよ?冗談んスよ、冗談!ね?タナトス?」

「そ、そうだぜ、ほら、あんまりかっかするな?」

「………………殺す」


逃げ出す二人を帝釈天はあり得ないスピードで追う、それを遠くからふけるように見る沙羯羅、そこにあるのは先程までのホーリナーの顔ではなく、女の顔。

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