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24:友情の刃


Vatican VCSO headquarters


準々決勝第4回戦、阿修羅対ククルカン



二人はキューブの外側に吐き出され、無機質な空間に置き去りにされた。

究極の柔の戦い方をする阿修羅、究極の剛の戦い方をするククルカン、正反対の二人、お互い最強の両極端、つまり、理論的には柔が剛を制す、しかし、ククルカンの力はまさに規格外、例外と言えよう。

二人は得物を取り出そうとはせず、ただ向かい合うのみ、まるで静寂を楽しむかのように笑うククルカン、コレから起こる激しい戦いを待ちわびるかのような阿修羅。


「ねぇねぇ、せっかくだから素手で戦ってみない?楽しそうだよね?」


「はぁ、ククルカンが明らかに有利じゃない」


得物があれば違うが、素手となってはごり押しされたら勝ち目はない、しかし阿修羅の顔は絶望的というより、ククルカンの提案に好戦的な表情を見せている。


「何か何か、阿修羅はどんなんでも強いんじゃないかな?って」


「武道なら粗方出来るから、やってみる?」


阿修羅は素手で構えた、得物を使わない素手での体術が苦手ではない阿修羅、むしろ、ホーリナーになる前はこちらが主流だった。


「じゃあじゃあ、いっきまーす!」


ククルカンは地面を蹴って阿修羅との距離を一気に詰めた、押し潰すように拳を振り下ろすが、軽々と避けられてしまう、阿修羅はすかさずククルカンを蹴り上げようとするが、阿修羅の全力の蹴りを軽々と片手で防がれてしまった。

ククルカンはニタリと嫌な笑みを浮かべると、阿修羅の足を掴んだまま投げ飛ばした、阿修羅は凄まじい勢いを何とか踏ん張って殺そうとするが、後少しのところでフィールドから落ちてしまう。


「まだまだだよね?」


そう、阿修羅はフィールドの角にぶら下がり、何とか深い、底の見えない闇に吸い込まれるのは免れた。

ククルカンは僅かな心に出来た油断を追い払い、阿修羅の反撃を待ち構えるべく構える。

案の定阿修羅は復帰した、弾け飛ぶように飛び上がると、着地と同時にトップスピードで走り、ククルカンとの間合いを一気に詰める。

まずは牽制程度に手のひらを突き出すが、ククルカンの腕に阻まれてしまう、触れた感触は女の子のか細い腕だが、全くビクともしない、という無駄な考えを思考の外に追い出し、阿修羅は地面を蹴って飛び上がる。

空中で回転しながら蹴りを2発放つが、いとも簡単にいなされてしまう、そして阿修羅の着地と共にククルカンは腕を振り上げていた。

今回は射抜くようなストレート、恐らく身体強化されているホーリナーと言えど、ククルカンの一発をくらったらまず命はないであろう。

阿修羅は冷静に身をかがめ、ククルカンが拳を突き出すのと同時に腕を掴み、ククルカンの勢いを使って投げ飛ばした。

ククルカンとは違い相手の力を利用したため、阿修羅の力では考えられない程飛んでいる、普通なら踏ん張る暇もなくフィールドの外に弾き出されるはずだが、


ドゴン!


ククルカンはフィールドに穴を空けてそこを掴み勢いを一気に殺した、まさにデタラメの代名詞であるククルカンだからこそ出来る芸等。


「コレじゃあ終わらないんじゃない?」


「うんうん、うちもそれ思った」


何故かククルカンは嫌な笑みを浮かべる、それは悦に浸った顔、勝利への布石は既に盤石と言わんばかり。


「でもでも、そしたらうちが勝っちゃうよ?」


「その自信がどこから来るのか分からないけど、終わってから泣かないでね」


二人は同時に腕輪に触れた、阿修羅の得物は長刀、名は夜叉丸、ククルカンの得物は刃以外がナックルガード、しかも刃のナックルガードで覆われた槍、名はルドラシス。


「バキューム!ツイスター!」


ククルカンの周りを大気の渦が覆う、阿修羅の目からはバキューム、つまり真空がどこにあるのかは分からないが、経験から恐らくククルカンが纏っているとふむ。

つまり最強の力により全てを拒絶する矛、体に纏うかまいたちのベールによる盾。


「それ凄い厄介ね、でも………」


阿修羅は夜叉丸を脇で構えた、そのまま体を沈ませる。


「ベロシティ」


一瞬でククルカンの懐に潜り込む、しかし阿修羅はククルカンの盾を甘く見ていた。

斬りかかろうとしたその瞬間、夜叉丸はククルカンの手前で凄まじい力で押し返されてしまった、それにより体勢を崩してしまう阿修羅、ククルカンは口角を上げたままルドラシスを振り下ろす。

阿修羅はとっさに防ごうとしたがあることを思い出した、見るも無惨なアルテミスの得物の姿を。

阿修羅はバックステップで何とか避けようとするが、それよりも早くルドラシスが夜叉丸を捉えた、その瞬間今までに感じた事のない力が一瞬だけ夜叉丸にかかる、阿修羅だけは何とかルドラシスを避ける事が出来た。

そして阿修羅は夜叉丸を見て固まる、それはククルカンも同じ事。


「や、夜叉丸の、刃が」


夜叉丸の刃は半分は健在、しかし、半分から先が綺麗に無くなっている、辺りを探しても破片一つ残っていない。


「夜叉丸の刃が、消えた?

ククルカン、貴女は何をしたの?」


「ただただ、ルドラシスに真空を纏わして、うちが高密度の竜巻を纏った、それだけだよ?」


「でも、夜叉丸が………」


阿修羅は完全にパニックに陥っていた、しかしそれはこの事象を発生させたククルカンも同じ。



















ダグザと帝釈天も今戦っている二人と同じ顔をしている、しかしダグザはすぐに分析に移る。

新たな神技とは思えない、夜叉丸を切断したのではなく、刃を“無くした”、そんな事が本当に可能なのか?と、否、現に起きているのだからその理由を。


「ダグザ、分かるか?」


「黙れ、今考えている」


「悪かった」


既に帝釈天の頭はコレに着いて行けるだけのキャパシティを持ち合わせていなかった、まずディアンギットの鉄を曲げる時点で説明不能だからだ。


「まさか………」


「分かったのか?」


「仮説だがな。

恐らくククルカンが斬ったのは夜叉丸ではなく、そこにある空間そのもの、ルドラシスに纏わせた真空、それがククルカンのディアンギットの鉄すらも曲げる力と合わさり、ルドラシスの周りだけブラックホールに近い状態を作り出した、つまり、ルドラシスの周りだけが不可侵領域と化し、夜叉丸を異次元へ、もしくは完全消滅させた、としか考えられん」


「それはあり得るのか?」


「仮説だ、まずあり得ないと言いたいところだが、現にそうとしか言えない事が起きている」


ダグザは内心馬鹿げた仮説というのは分かっている、しかし、それ以外説明がつかない、そして、ホーリナーの世界は神が干渉している、故にあり得ない事もあり得る世界。






















ククルカンは勝利を確信していた、威力を上げるために使ったバキューム、それが思わぬ結果を生んだからだ、そして刃をも受け付けない風、ククルカンに死角は無くなっていた。


「(刃は通らない、受け太刀も出来ない、相手に触れる事が出来ないなんてどうすれば良いの?

ただククルカンの防御は風、弾かれるっていうよりは押し返された、つまり、押し返される前に押し切ればいけるかも)」


阿修羅は僅かな望み、ほんの一筋の勝機にかけるしか道は残っていなかった。


「ほらほら、巫女の力を使おうよ?」


「それじゃあフェアじゃないじゃない、それに、まだ負けが決まったわけじゃないわよ?」


「良いよ良いよ、本気出す前に終わらせるもん」


ククルカンは膨れっ面のまま地面を蹴った、風を纏っているだけあり、身動きが軽くスピードもある。


「アブソルペーション」


夜叉丸が低く唸り始める、虎視眈々とその時を狙う獣のように。

ククルカンの振り下ろしを避けると、阿修羅は軽く間合いを取った、床まで振り下ろされているが、床は綺麗に消え失せている。

ククルカンは気にせずに、横薙にルドラシスを振るうが、それも避けられてしまい、更に背後を取られてしまった。

阿修羅は蹴りを入れるが、風により押し返されてしまう、ククルカンはその隙を見逃さず、左足を軸にして回転しながら斬りかかる、しかし、その時には阿修羅は間合いを取っていて空振りに終わった。


「はぁ、やっぱりデタラメな防御力と攻撃力ね」


その時ククルカンの耳に不吉な音が聞こえた、夜叉丸が霊体をすする音。


「(まさかまさか、阿修羅は霊体を集めてるの?ならなら、斬っちゃえば良いんだよね?)」


そう、ククルカンは気付いてしまった、阿修羅のしようとしている事に、コレは阿修羅にとっては最悪の結果のみが待ち受けている、僅かな希望すらもぎ取られた事を意味する。


「余裕余裕、阿修羅このままだと負けちゃうよ?」


「そんな事はないから安心して良いわよ」


阿修羅は再び走り出した、時間を稼ぐような戦いでククルカンからこまめに間合いを取る、そして悟られないように出来るだけ得物は使わない、それが全てバレているとも知らずに。

阿修羅は回転しながらククルカンの左側に回り込むと、拳を振り上げた、しかし、阿修羅より早く凄まじい風が吹き荒れる。


「コレで終わり!」


ククルカンはそのまま阿修羅に向かって突きを放つ、その時、阿修羅はとっさに夜叉丸で防いでしまった、恐らくこの力なら刀身は消えないが、確実に夜叉丸を握っている事は不可能であろう、夜叉丸を手放したら溜めてきた霊体は無駄になる。

時、既に遅し、夜叉丸に凄まじい威力の突きが放たれる、はずだったが、阿修羅の手には凄まじい力というよりは、触れただけに近い衝撃しか来ない。


「「あれ?」」


二人同時に同じ顔をする、それは再び理解に苦しむ事態が起きた、しかし、いち早く理解したのは阿修羅だった。

今度は阿修羅が嫌な笑みを浮かべる、そして、技名破棄のベロシティでククルカンとの間合いを詰める、ククルカンは何が何だか分からず防御の体勢に入る事しか出来なかった。


「チェンジ!エミッション!」


阿修羅が夜叉丸を横薙に払うと、そこから透明の刃が放たれた、それは空気を切り裂くようにククルカンに襲いかかる。

ククルカンは何とか横に避けるが、阿修羅は既に目の前にいた、今の刃が伏線だったのは理解出来る、しかし、ククルカンにはそのほかの事は何一つ理解出来なかった。


「チェンジ、アブソルペーション」


阿修羅は不気味に唸る夜叉丸でククルカンを突く、本来なら押し返されて終わりだが、ククルカンは夜叉丸が風の盾に触れた瞬間、風が一気に止んだのを感じた。

そして阿修羅は夜叉丸を真っ直ぐククルカンの喉元に突き付けるだけ、ククルカンは苦笑いを浮かべながら両手を上げる。


「ねぇねぇ、終わる前に教えて、阿修羅は何をしたの?」


「簡単な事よ、ククルカンの神技を吸い取り、それを刃として放っただけ」


「なになに!それってルール違反じゃん!」


「はぁ、貴女の全てを消す斬撃よりは糸口が見えると思うけど?」


ククルカンは怒っているように見えて、優しい笑みで阿修羅の事を見ている、そして。


「棄権します!」






















バチカンに吐き出された二人は戦闘の緊張感から解放され、表情を緩ませた。


『勝者は戦闘神の阿修羅だぁ!あのククルカンの無敵とも思えた全てを断ち切る最強の矛、全てを押し返す最強の盾!それすらも取り込んでしまう阿修羅の神技!

どんな優れたハンターだろうが腹を空かした獣の前では得物すら食われちまうらしい!』


阿修羅は一息ついた瞬間、ククルカンが横から飛び付いて来た。


「凄い凄い!阿修羅、楽しかったよ!ありがとう」


満面の笑みのククルカン、その何よりも明るく柔らかい笑顔につられ、阿修羅も自然と笑みになってしまう。


「私も楽しめたわよ、ありがとう」


二人は何も言わずとも、お互いがてを出して握手を交わした、しかしそんな微笑ましい一幕を気にしない輩が一人。


『さぁ!ココからはベスト4だぁ!このまま決勝までぶっ続けて行くぜ!

準決勝第1回戦は“死神のタナトス”対“殺壁の帝釈天”だぁ!』











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