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21:護るためには


Vatican VCSO headquarters


準々決勝、第一回戦、ダグザ対帝釈天


二人はフィールドの内側、完全に囲まれた戦場に弾き出された、完全なる密室、逃げ場は泣く、死角も全くない。

しかしその強度は普通のコンクリートのそれと変わらず、ホーリナー程の力を持っていれば壊すのは容易な事。


二人は着地すると同時に腕輪に触れた、ダグザの得物はトンファー、名はサラスヴァティー、帝釈天の得物はクレイモア、名は髭切。

一瞬にして乱打戦となる、ダグザの両手にあるトンファーを使い、無駄のない動きで急所を狙う戦い、帝釈天のクレイモアとは思えない素早さで、一撃一撃、重い斬撃で相手を打ち崩す戦い、それが拮抗する。

二人は瞬時に意味のない乱打戦と思い、間合いを開くとダグザは目を瞑り、帝釈天は指を髭切に当てる。


「フォーサイト」


「コラプス」


ダグザの脳には様々な情報がなだれ込み、世界の動きが鈍る中で自分だけが普通に動ける。

髭切は縦に亀裂が入り、一瞬にして二振りになった。

お互い本気、長期戦などは最初から狙っていなかった、しかし様子見という面もある、戦いを見た事はあるが、実際に戦った事がないために、自分との相性やどの程度のものかは分からないからだ。


静かに走り出す二人、しかしダグザのスピードは人間のそれを遥かに越えている、帝釈天は予想していた範囲だが、実際襲われる立場になると動揺を隠しきれないのは明白だった。

ダグザは最後の一足で一気にスピードを上げると、迷わず急所を狙うが、帝釈天には軽々と止められてしまった、しかしその後からの連撃は凄まじいもの、一瞬でも気を抜けば殺されてしまう。

そして帝釈天は気付いていた、ダグザが本気を出していない事を。


「何故本気を出さない?」


「貴様に言われたくない」


「すまなかった、では行かしてもらおう」


お互い口角をグッと上げる。


「コラプス」


「なっ!?」


帝釈天が発動したのは破壊の神技、ダグザが期待していたのはプロテクティブ、そう、帝釈天のチートと思えるような絶対防御である、ダグザにはそれを打ち崩すための術があったからこそ、引き出させようとした。

ダグザの得物と帝釈天の得物はぶつかり合い、ダグザのサラスヴァティーが粒子状に崩壊する、帝釈天はすかさず反対側のサラスヴァティーを受け、何も持っていないダグザの腕を掴む。


「騙して悪かった」


帝釈天はダグザを蹴り上げ、浮き上がった瞬間に地面に叩き付けた。


「クハッ!」


肺の空気が逆流し、呼吸困難に陥る、帝釈天はダグザの要である思考が鈍るただ一瞬を狙っていた。

髭切の切っ先を心臓に向け、迷わず振り下ろした、本来ならばそこでゲームオーバーだが、ダグザは素手で髭切を掴んでいた。


「なかなかだな」


今度はダグザが帝釈天を蹴り上げる。


「フォーサイト」


再びダグザの動きが異常な速さになる、そして得物を顕現すると、帝釈天に今までとは比べ物にならないような連撃を浴びせる。


「プロテクティブ!」


帝釈天の体に薄い透明な膜が張られた、それは帝釈天が持つ絶対防御、一切の攻撃を受け付けず、全ての攻撃を無に帰す相手からしたら最悪の神技。


「それを待っていた」


ダグザは軋む体を抑えつけ、更に攻撃のスピードを速める、帝釈天も防御に割く手数を殆ど攻撃に回す、体に当たってもダメージがないのなら意味がない、たまに弾くくらいでダグザの攻撃は全く無視している。


「神技なしでそのスピードとはなかなかだな」


「貴様もよく体が耐えられているな、祝融と同じようにがたがきているだろう?」


「戦いに支障はないがな」


「俺が気付かないとでも思っているのか?」


帝釈天は二振りだった髭切を一振りにし、力の限り薙払う、いつものダグザなら難なく受けられるが、受けた瞬間体勢を崩してしまった、帝釈天はそのまま蹴り飛ばし、二人の間に間合いを作った。


「帝釈天、貴様を甘く見ていたみたいだ」


「俺もだ」


「次で貴様の防御を崩す」


「次に貴様に触れたら、それで終わりだ」
















バチカンのモニターの前にはいつの間にか祝融と沙羯羅が集まっていた、二人はダグザと帝釈天の戦いを見ながら思った、ここまであの二人がペースを掴めないのは珍しい、お互い布石の後に必殺という戦法だが、その布石が全く通用しない。


「やっぱり凄いよね」


「ダグザ様本気ネ、でも思い通りならない、やっぱり帝釈天凄いネ」


「そういえば祝融の前のボスって帝釈天だよね?やっぱり祝融でも勝てないの?」


「帝釈天の攻撃、重くて速いネ、それにいつも予想外な事ばっかりするヨ、だから戦いにくいネ」


「確かにそうだよね、生まれてからずっと戦ってたらしいから戦う術だけはあるんだろうね」


沙羯羅は帝釈天と戦った時の事を思い出した、いつもムチャクチャな戦い方ばかりする、しかしその全てが理にかなっている、故に先の先を読まなくては絶対に勝てない相手だ。


「でもダグザ様には秘策あるっぽいネ」


「それはお互いだね」













ダグザは走り出した、帝釈天はそれを構えて待ち構える、そして再び凄まじい連撃が始まる、ダグザはその瞬間、帝釈天の顔が若干歪んだのを見逃さなかった。

他人にはただの素早い攻防にしか見えない、しかし帝釈天とダグザの間には全く違った意味がある。

そう、これは完全なるダグザのペース、先ほどから帝釈天は攻撃らしい攻撃を一度も出来ていない、それに引き換えダグザは手数を防御に割かなくて良いので、帝釈天からしたら手数は圧倒的に増えている。


「攻撃しないのか?」


「黙っていろ」


「あの帝釈天が平静を乱すとはな」


帝釈天は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「何故分かった?」


「何の事だ?」


ダグザは妖しい笑みを浮かべて聞き返す、帝釈天はまだ気付いていない、完全にダグザのペースに巻き込まれている事に。


「茶番は終わりにしろ」


「コレの事か?」


ダグザは帝釈天の防御に力を込めて叩き込む、若干の動揺により手元がぶれた帝釈天の肘を殴った、帝釈天の歪んだ顔は痛みからではない。


「全ての神技には限界があり、弱点がある、当然貴様のプロテクティブにも、だ」


「先ほどまでの攻撃は全て弱点を探すための布石だと?」


「そのとおりだ、恐らくその神技は薄い鎧着ているのと変わらないんだろ?なら鎧もそうだが関節部分は薄くしなければ動きに支障が出る、つまり貴様は装甲が弱い関節部分は防ぎ、他は防がずに攻撃、逆を言えば全て関節に攻撃されては防御に回すしかない、間違っているか?」


帝釈天は諦めにも似た笑みをこぼす、構えずに立つ二人、そう、ダグザは既に勝機を見出していた、しかし何故かダグザからは死というものに追われている悪寒が走る、帝釈天の顔からは未だに絶望というものが感じ取れない。

ダグザはコンピューターのような頭脳で帝釈天の活路を探すが、データが少ないのに加え、戦い慣れした帝釈天の戦いに一貫性はない、つまり、次の一手をはじき出すだけのデータがないという事。


「ダグザにしては珍しい、臆病風にでも吹かれたか?」


「違うな、最速での勝利を考えていただけだ」


「それは残念な算段だ、貴様に勝利は残されていない」


「面白い仮説だ」


帝釈天が構えたのにつられ、ダグザも構える、そして珍しく帝釈天から走り出した、フォーサイトが持続しているダグザはただ待ち構えるのみ。

再び凄まじい攻防が繰り広げられる、今回は帝釈天は防戦ではなく、関節部分に攻撃されても気にせずにダグザに向かって攻撃を繰り出す。


「遂に諦めたか?」


「それもまた一興だ」


ダグザは苦笑いを浮かべる、それは帝釈天の嫌な余裕と、優勢にも関わらず、ダグザ自身に余裕がない事、冷静になろうとすればするほど、動きに無駄が出来てしまい、自分の体に傷を作ってしまう。


「貴様が言っていたのはこういう事か?」


ダグザは舌打ちをすると、最後と言わんばかりに帝釈天の左肘を殴る、その瞬間、帝釈天の表面にヒビが入る、ダグザはそのまま体を斬られるのを気にせずに左肘を殴った。


バリン!!!


ガラスが割れるような音と共に、帝釈天の表面にあった薄い膜が砕け散った。

ダグザにしては珍しく、口角を思いっきり上げて、右腕を引いた。


「エクスプローション!」


「やはりな」


帝釈天は心臓に向かって来るサラスヴァティーの前に、右腕を防ぐようなかたちで持って来た。


ドカン!!!


「―――――クッ!コラ、プス」


帝釈天の腕は激しい爆発と共に千切れ飛んだ、しかしその瞬間に帝釈天はダグザの腕を掴んでいた、触れられた程度だが、一瞬で帝釈天から間合いを取る。


「危なかった、さぁ、貴様の負けだ、諦めろ」


「笑わせ、るな、貴様の、心臓は、もう、止まる」


帝釈天は千切れた腕を押さえながら、軽く口角を上げた、その瞬間、ダグザは心臓を押さえて片膝を着く。


「き、貴様、な、にを、………した?」


「循、環器、系を、破壊、した」


「だ、………か、ら………か――――」


ダグザの体からふらりと力が抜けた。



















二人はバチカンにはじき出されても未だに息切れしている、それ程までに極限の戦いだったという事、歓声などは全く耳に入らない。


『こいつはぶったまげたぜぇ!まさかここまで熾烈な戦いが見れるとは思ってなかったぜ!戦いというよりは死闘!生きるか死ぬかじゃない、殺るか殺られるかの死闘だぁ!

そしてその殺し合いを征したのは帝釈天だぁ!毎回毎回奇想天外な戦い方で勝ちやがる、護法神なんて生温いぜ!鬼神のごときその戦い!次が楽しみだなぁ!』


帝釈天はダグザに手を差し出す、ダグザは薄く笑って帝釈天の手を握った。


「本当に貴様には驚かされた、何故得物で防がなかった?」


「一瞬しかなかった、故に感触が必要だ、だから腕をな」


「実際の戦いならどうしていた?」


「護るためなら腕の一つや二つ、安いものだろ?」


ダグザからは嘲笑うような笑いがこぼれた。


「本当に、馬鹿な奴だ」


「誉め言葉と受け取っておく」


あり得ない戦い、それは誰かを護るための戦い、帝釈天が護法神たる所以である。

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