19:墓地
Itary city area
阿修羅は花屋を探して歩いていた、イタリアの街はまともに歩いた事がないので、右も左も分からないとはまさにこの事だ、阿修羅にあるであろう“女の勘”とやらを信じて歩き回る。
しかし色々な店に目移りしてしまう、いくら服に興味がないとはいえ、女性の性は忘れられないらしい、ついついショーウィンドウの前で立ち止まってしまう。
そんな阿修羅の前から満面の笑みで手を振るヘリオスが走って来た、ヘリオスの手には美しい色とりどりの花がある、それは阿修羅が、正確には阿修羅とヘリオスが探していたもの。
「阿修羅ちゃんと探してるんスか?」
「はぁ、道が分からないんだからしょうがないじゃない」
「確かにそうッスね」
ヘリオスは両手に持った花束をちらつかせながら、阿修羅に笑顔を見せた。
「2つで良いんスよね?」
「そうね」
阿修羅は暗い顔を見せる、常に笑顔とまではいかないが、いつも落ち着いた表情の阿修羅が、暗い表情をするのは滅多にない。
ヘリオスはそれに気付き、最大級の笑顔を作って、阿修羅の視界いっぱいに自分の顔を映した。
「阿修羅のせいじゃないッスよ、それに阿修羅は何も出来なかったじゃないッスか?」
「なんかその言い方も感に触るわね」
「そういう意味じゃないッスよ!ただ阿修羅は悪くないんスよ?」
ヘリオスはおろおろしながら何とか阿修羅のご機嫌をとろうとする、阿修羅にはそれが可愛く見えてしまい、思わず吹き出してしまった。
「何で笑うんスか?」
ヘリオスは頬を膨らまして不機嫌を作り出すが、世の女性がそれを見たら間違いなく母性本能をくすぐられる程の表情、阿修羅も例外ではなく、ヘリオスの喜怒哀楽が愛おしくて仕方ない。
「まぁ良いわよ、それじゃあ行こう?」
阿修羅はヘリオスの返答を待たず、先に歩き出した、ヘリオスは花束を二つ抱きながら、視界が悪いながらも阿修羅に着いていく。
しばらく歩くと、市街地からも外れ、落ち着いた雰囲気で手の加えられていない自然が残る場所に出た。
そこには様々な名前が彫られた板状の石、そしてその隣には剣や槍、様々な獲物が刺さっている。
そして阿修羅とヘリオスの前には三叉の矛、石には“ユピテル”と書いてある、その隣には剣と盾、そこには“アストライア”と書いてある。
阿修羅はその横並びの二つを見て目に涙を溜める、ヘリオスの表情にもいつもの元気はなく、暗い影を落としている。
「ここにユピテルとアストライアがいるのよね?」
「そうッスよ、コレは神選10階の墓地ッスからね」
ここには神選10階として死んで行った者達の墓が並んでいる、良く見ると名前の下には年月日、第何階か、後は詳細等が書かれている。
阿修羅はユピテル達の横を見ると、第10階の墓が連続しているのが目に入り、悲しみに横槍を刺された。
ユピテルとアストライアは第二次ホーリナーラグナロクにて戦死した神選10階、18年前とは違えど、今回のも神と悪魔の戦いに変わりはない。
その発端となったのも、阿修羅が悪魔側に加担したから、故に阿修羅は今回の被害が自分のせいだと思っている。
しかし実際、阿修羅は何もできなかったに等しい。
「ククルカンも恨んでるよね?」
「それはないんじゃないッスか?」
ヘリオスの顔からは偽りも何も感じられない、阿修羅もそれが本心からの言葉だと分かった。
「何で分かるの?」
「だってククルカンは阿修羅の事を大切な友達だと思ってるんスよ?それにアルテミスと戦った後、ククルカンと何か話してたじゃないッスか?悪い会話じゃなかったんスよね?」
阿修羅はあの時の事を思い出す、ククルカンがアルテミスと戦った後、阿修羅と二人だけになって話がしたいと言って来た事を。
阿修羅は責められるものだと覚悟していたが、ククルカンの口からは思わぬ言葉が出てきた。
『ねぇねぇ、阿修羅はやっぱり罪悪感とか感じちゃってるよね?』
『ごめんなさい』
阿修羅は覚悟していた、ホーリナーラグナロクで被害を出した原因は自分にあると思っていたから、故に誰からどんな罵声を浴びようと受け止める覚悟は出来ていた、それが阿修羅自身に架せられた罪だと思っていたから。
『じゃあじゃあ、今日でそれは終わりにしよう?』
思わぬ言葉に驚きの表情を隠せないようだ、ククルカンは言いづらそうに明後日の方向を見て言う。
『うちが言うのもなんだけどさ、何か何か、阿修羅が苦しそうにしてるの見たくないんだ。
だってさだってさ、ユピテルが死んだのは阿修羅のせいじゃないでしょ?元からユピテルとメルポメネは衝突してたみたいだし。
それにそれに、阿修羅のおかげでルシファーだった帝釈天は仲間になったんだよ?
なんて言うかヘリオスのためにしても少しやりすぎ感はあるけど、それだけじゃないでしょ?正直うちだってユピテルが生き返るって言うなら全てを捨てるよ、だからだから、阿修羅のやった事は分かる。
後は後は、今回の戦いはヘリオスと阿修羅がいたから帝釈天は仲間になったんだし、タナトスがボロ負けして、阿修羅とヘリオスが二人掛かりでも負けた帝釈天があのままだったら多分被害は大きかったと思うよ?
だからだから、阿修羅のやった事は±0!どう?』
阿修羅は涙が出そうになるのをぐっと堪え、何とかククルカンに笑顔を作る、しかしそれは不器用な笑顔になってしまい、更に心配されるという結果になってしまった。
『ダメダメ!?』
『ううん、ありがとう、私なんかの事をかばってくれるなんて』
『違う違う!かばったわけじゃなくて本心だから、それに――――』
ククルカンは阿修羅に近寄り、阿修羅の頬を引っ張った、阿修羅は驚きのあまり鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべる。
『私なんか、とか言う口はこの口か!?うちの大切な友達を馬鹿にするのはこの口か!?』
『ほふぇんなはい(ごめんなさい)!』
『もうそんな事言わないって言うまで辞めないからね!』
阿修羅はククルカンの腕を引き離そうとするが、ビクともしない、引っ張っている力は強くないものの、ここまで怪力だとは想像していなかった。
『ほうひいまひぇん(もう言いません)!』
ククルカンは離して満面の笑みになる、阿修羅は頬をさすりながら小さな笑みをこぼした。
阿修羅は思い出しながら物思いに更ける、そんな阿修羅を見ながらにやけてしまうヘリオス、阿修羅はそれにすぐ気付くが、何か気まずいので見てみぬふりをする。
そしてそのまま歩き出す、墓石を確認しながら歩く後ろを着いていくヘリオス。
「誰のお墓を探してるんスか?」
「阿修羅の墓なんだけど…………」
「ホーリナーラグナロクならここら辺じゃないッスか?」
ヘリオスが指を指した先には同じ戦いで死んだ神選10階の墓石が並んでいる、その年からして明らかに第一次ホーリナーラグナロクの時期。
阿修羅とヘリオスは並んで歩きながら阿修羅の墓石を探すが、徐々に徐々に顔が曇っていく。
「ない?」
「ホーリナーラグナロクの時の墓石は6つしかないッスね?生き残ったのは元帥と毘沙門天とランギだから7人死んだはずなんスけどね」
それは明らかな矛盾点、まだそこに阿修羅がいるなら納得出来る、しかし阿修羅の墓石のみがそこにはない、神選10階だったという記録、ホーリナーラグナロクにて戦死したという記録が残っている。
「まぁ天竜に行けばあるんじゃないの?」
「そんな事ってあるんスか?」
「毘沙門天が権力があるみたいな事言ってたじゃない?あの非常識な一族ならやりかねないわね――――!?」
ヘリオスと阿修羅は強烈な殺気を感じて得物を取り出した、しかし気配のようなものは全くしなくなった。
二人はアイコンタクトで合図を送り、一瞬で技名破棄のベロシティで左右に散り、辺りを見回す、しかし二人の顔が曇るだけ。
「誰もいないと思うッスよ?」
「はぁ、こっちもいないわね」
二人は再び近寄ると、疑問が消えない表情で歩き出す、そう、殺気は確かなものだった、しかしその前から気配など感じなかった、気を抜いていたとはいえ、二人が感じ取れなかったという事は神選10階レベル、もしかしたらそれ以上もあり得る。
そこまでとなると元帥、元老レベル、ヘリオスは全く気にしてないが、阿修羅は僅かな猜疑心が生まれた。
墓地から遠く離れた公園、男は女を抱えてここまであっという間に逃げて来た、そう、殺気の正体はこの女が出したもの、逃げたという事はあの二人にバレてはいけない理由があるから。
女は顔を真っ赤にして申し訳なさそうな顔をする、気品に溢れ、しかし幼さが残るその顔を歪める。
「痛恨の極みです、私とした事があのような事で感情の制御を忘れてしまうなんて」
男は真剣な眼差しで女の目を見る、阿修羅やヘリオスと同じ年に見えるが、少年と男の間のような不思議な青年。
「姉ちゃんは悪くねぇよ、それよりもあいつらがいけねぇんだ」
その表情は怒りに歪み、殺気を抑えているのは分かるが、抑えきれない怒りがひしひしと伝わって来る。
「いえ、私の修行不足です」
「あいつら絶対に許さねぇ!」
「兄上、姉上、落ち着いて下さい」
誰もいなかった男と女の前に片膝を着いた男か女か分からない人が現れる、その理由は黒中心の服装に、キャップを被っているからである。
「相変わらず急に現れるの止めてくれよ、ビックリするだろ?それに―――」
男は片膝を着いている人の帽子を外した、そこからは長い髪の毛が乱れ落ちる、覗いたのはまだあどけなさが残る、がしかし凛とした顔立ちの少女、少女は頬を赤らめて二人を見る。
「うぅ、兄上、被り物を返して下さい」
「何でいつも隠すんですか?」
「そうだ、お前がそうやって顔を隠す理由が分からねぇ」
「拙はくのいち故、顔を見られては万死に値します」
「んなもん拙者達の前では関係ねぇだろ?」
「しかし、……………兄上、御免」
少女は一瞬で帽子を取り返すと、髪の毛を纏めて被った。
「またそうやって被りやがって!悪い癖だぞ!」
男の体に梵字が浮き上がる、その瞬間、地面が砕けて少女のもとまで一瞬で駆け寄る、その速さはベロシティにも匹敵する速さ、しかし技名破棄のベロシティにしては速すぎる。
「度重なるご無礼、誠に御免」
しかし少女は苦無を男の首もとに当てていた、少女は素早い動きをしたために帽子が取れてしまった、少女の髪の毛にも何故か梵字が浮き上がっている。
「二人共お止め下さい!お父様がおられるんですよ?」
「親父が!?」
「うぅ、父上の前で、醜態を晒してしまった」
「天照、素戔嗚、月夜見、戯れは終わりだ」
女の名は天照、男の名は素戔嗚、少女の名前は月夜見、そう、紛れもなく3人はホーリナーである、3人は膝を着くが父親と思われる存在はどこにいるか分からない、天照が最初に動き出し、それを月夜見が見て瞬時に動く、分かっていない素戔嗚だけ二人の後に続く形となった。
「天照、お前の前では隠れていても意味がないようだな」
「恐れ多くも、見えてしまいますもので」
天照の瞳にも梵字がある、不思議な力を持った3姉弟、神技とは全く違った力を持った3人。
「明日だ」
「やっと暴れられるのか!?」
「兄上、暴れるのでは、ありません」
「分かっているな、天照?」
「生殺与奪です」
「逆らえば―――」
「あの雑魚ホーリナー共をぶっ殺して良いんだよな!?婆ちゃんがいつもうるせぇから暴れらんねぇけど、親父!良いよな!?」
「そう熱くなるな、素戔嗚、あくまで目的は奪還にある、それを阻むなら―――」
ズドン!!!
何かが爆発したような、一気に地下から突き上げるような揺れが辺り一帯を覆う、それは素戔嗚の手元、深く埋まった腕が物語っている。
そう、ただ素戔嗚が地面を殴っただけ、しかしそれは肘まで突き刺さっている。
「蹴散らすのみ!」
「素戔嗚、生殺与奪ですよ?生かせるなら生かしましょう?」
「兄上、下手に、暴れないで下さい、隠密故、派手な行動は―――」
「燃えてきたぁ!シンクロ使える2人一気に相手してやるよ!」
「素戔嗚、一人は―――」
「親父!今から修行だ!拙者と殺り合おうじゃねぇか!」
「馬鹿もん!!」
地が揺れるような怒鳴り声、素戔嗚は肩をすくめて一瞬でその場に正座する、そして公園の隅から長い髪を総結いにした男性が現れた、厳つい表情に、傷だらけの体、まさに修羅を体現したような男性。
「そんなに戦いたいなら兄者にしごいてもらえ!」
「叔父ちゃんはダメだって!本当に殺されるんじゃねぇの!?」
「なら大人しくしろ!」
ドン!!
男性の拳が素戔嗚を垂直に地面に叩き付けた、ゴンではなくドン、素戔嗚は頭を抱えて地面を転げ回る、天照は本気で心配しているが、月夜見は呆れて何も言えないでいる。
「天照、月夜見、あの阿呆は放っておいて行くぞ」
「「はい!」」
ついに新キャラ登場です!
まだまだ謎が多いキャラですが、今後の物語を大きく左右する存在になります。
そして、今まであまり語らなかったホーリナーラグナロク、むしろまともに触れたのは霊鬼編のプロローグのみかもしれません、でも、徐々に徐々に謎が解け、謎が深まっています。




