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18:修復


Vatican VCSO headquarters


タナトスは珍しくタバコを吸いながらバチカンを歩いていた、落ち着きたい時にしか吸わないようにしている、コレは一般人だった時からの習慣で、特に仕事が終わった時に吸っていた、たまにしか吸わないのは一応健康に気をつけているため。

バチカンは未だにお祭り騒ぎが収まらない、各支部のホーリナーは珍しい物を見るような目でタナトスを見る、実際珍しいものなのでタナトスも特別気にはしない。


バチカンの裏の方まで行くと風斬り音が聴こえた、ゆっくり歩き、物陰から風斬り音の正体を見ると、大きな木刀を素振りしている緊那羅がいた。

タナトスはしばらく物陰から緊那羅の素振りを眺める、とても素振りが出来るような重さの木刀ではないだろう、しかし緊那羅は軽々とそれを振り回す。

木刀を地面に突き刺して汗を拭う緊那羅、タナトスが退散しようと思ったその瞬間。


「覗き見してそれで終わり?」


「覗き見とは人聞きが悪いぜ、見物と言ってほしいな」


「そんな所で気配を殺してずっと見てたら覗き見じゃない」


タナトスは歩きながら緊那羅に近寄った、緊那羅は汗を拭ったタオルを木刀にかけると、ニヤリと笑う。


「敵の偵察にでも来たの」


「景気の良い音を鳴らしてるから観察に来たんだよ」


タナトスはその場に座り緊那羅を見上げる、それにならうように緊那羅もその場に座った。


「この木刀に興味あるんでしょ?」


タナトスがひたすら緊那羅の後ろにある木刀を見ている事を気付かれていたらしい、風斬り音を聴く限り並みの重量ではないはず、その大きさだけでも常人にはまともには振れないであろう、しかし確実に重い木を使っているはず。


「どう、振ってみる?」


緊那羅は地面に刺さった木刀を引き抜き、軽々と回して持ち手の方をタナトスに向けて差し出す、そしてタナトスが握ると、なぜか持ち手は異様に無機質な冷たさを帯びていた。


「離すわよ」


「うわ!」


タナトスが情けない声を出すのも無理はない、力を込めていたタナトスでも支えきれなかった。

立ち上がり、しっかりと両手で握り持ち上げる、震えながらも何とか持ち上げたが、こんなものを振ったら体ごと持って行かれる、それ程重かった。


「ちなみにそれ、木製じゃないわよ、特注の一際重い鉄で作ってもらったもの、人を殴るわけじゃないから重けりゃ良いのよね」


「テメェ、こんなもんを振り回すなんて化け物か!?」


「別にククルカンみたいな馬鹿力な訳じゃないわよ?握り方と力の入れ具合、あとは姿勢次第で誰でも触れるようになるわよ」


タナトスから受け取り軽々と振るってみせる、しかしその度にタナトスでも分かるくらいの気迫が押し寄せる。


「そこまでなるのにどんだけ掛かるんだよ?」


半ば呆れながら聞いた。


「凡人なら20年もすりゃ出来るんじゃないの?」


当たり前のように言い放つ緊那羅、しかしタナトスは更に呆れながらため息を吐いた。


「テメェは赤ん坊の頃から振ってたのかよ?」


「そんなわけないじゃない、まぁ阿修羅に負けてから2年くらいじゃない?」


「2年だぁ!?凡人の10倍の早さかよ、天才ってのはいるもんだな」


剣術に関してはホーリナー最強という事が証明された緊那羅、元からの才能に加え努力により最強を手にした。


「そりゃあ凡人に同じ量を練習すればの話でしょ?才能は認めるわよ、ただ凡人の5倍は練習してるからね、この手を見れば分かるでしょ?」


緊那羅の手は普通じゃあり得ないくらい厚くなっていた、剣士としてもあり得ない、それが緊那羅の鍛錬の激しさを物語っている。

緊那羅は阿修羅に一度負けている、しかも本気の殺し合いで緊那羅を殺さずに、完全なる勝利をしている。

それだけならまだしも緊那羅は幼い頃から剣術の鍛錬を積んできた、しかし阿修羅は我流に加え鍛錬など積んでいない。

暗にいくら積み上げたものがあろうと天才には勝てない、そう言われたようなものだった、緊那羅のプライドも今までも全て否定されたような、そんな気分だった。

阿修羅の前ではいつも通り気丈に振る舞えど、裏では常人では出来ないような努力を積んでいた。

そして得たのはホーリナー最強の剣士という称号、しかし満たされなかった、むしろ怯えていた、目指すものがなくなり、追われるだけの立場になった事が、故にさらに自分を高めるために、未だにこうやって鍛錬を積んでいる。


「だけどテメェも女ならこんな手じゃ嫌だろ?」


タナトスは緊那羅の手を握り、手のひらを撫でるように触れた、それにより紅潮する顔を見られないように、タナトスから隠す緊那羅。


「怖いんだからしょうがないじゃない、負けるのが怖くてしょうがないのよ」


「ベスト8に進んだんだから自信を持て、恐らく相手次第じゃあ誰が最強でもおかしくない、俺様だってテメェに勝てるか分からないんだぜ?

しかも神選10階未経験者はテメェ一人だ、言っちまえば神選10階を抜けば最強だぜ?それでもテメェは満足出来ないのかよ?」


緊那羅はタナトスから手を離し、斜め下を向いて考える、確かに緊那羅は強くなった、それも自分が望んでいたもの以上に。


「アタシは剣士に負けなきゃそれで良いのよ、あんたに負けようが気にしない、ただ剣士と戦う事があったなら、アタシは絶対に負けない、ちなみにアタシに勝った奴が剣士に負けるのも嫌ね」


「じゃあ安心しろ、俺様は最強だぜ?誰にも負けない」


「あら、あんたに負ける気もないわよ」


二人はクスクスと笑う、それは戦いを楽しみにする戦士の笑みではない、一人の人間としての会話を楽しんでいる。


「そうと決まったら出掛けるぞ」


「はい?」


「女らしさのかけらもないテメェに、俺様が男として相手してやる」


「それはあんたなりのデートのお誘いって事?」


「まぁそんな感じだな、ほら、もたもたしてるな、行くぜ?」


タナトスは緊那羅の手を掴んで歩き出す、緊那羅は若干つんのめりながらも、タナトスの手を握って着いていく。










Itary city area


緊那羅の見たことがない街がそこに広がっていた、日本から出たのは今回が初めてで、海外など写真でしか見たことのない世界だった。

緊那羅の手をグイグイ引っ張りながら歩くタナトス、超が付く程の自己チューで、年齢は大して変わらないのにたまに見せる大人っぽい表情、そして思考回路は謎だらけ、緊那羅は気付いた、阿修羅が言っていた緊那羅にぴったりの人間は間違いなくタナトスだ。

恐らく極一握りの人間を除いては、タナトスに恐れの感情しか抱いていないであろう、言わずもがな緊那羅は一握りの人間だ。


「ねぇ、どこに向かってるのよ?」


「宛はねぇよ、ただ、テメェを連れ回したい気分なだけだ」


「ならドライブとかもっと気の効いた事しなさいよ」


「しょうがねぇ、わがままな奴だぜ」


タナトスは立ち止まり、周りをキョロキョロと見回すと、近くにある高級車に向かって歩き出した、緊那羅の手を離して、通行人の髪留めを奪い、オープンカーの運転席に飛び乗った。


「あんたこの車を盗むの?」


「別に良いだろ、レッカーされたとでも思うじゃねぇのか?」


「アタシは何も言わないけどね」


タナトスは鍵穴を髪留めで器用に外した、中から飛び出た配線を弄るとエンジンが掛かる、その間約10秒、まさに神業としか言えない。


「あんたどこでそんなの覚えたのよ?」


「これでも一般人の頃は要人警護が仕事だったからな、場合によっては国家権力を盾にこういう事もやってたんだよ」


「じゃあアタシもいざという時には守ってもらおうかしら?」


「今は死神だぜ?守るなんて元から性に合わねぇんだよ」


緊那羅はクスクスと笑う、タナトスは車を走らせた、交通規制云々を無視した走らせ方、しかし緊那羅は特に気にしていない、恐らく日本支部の連中も同じような、むしろもっと荒いからだ。



タナトスと緊那羅は他愛もない話をしながらドライブを続けていた、しかしタナトスは顔をしかめてギアを弄り始めた。


「クソが!コイツ調子が悪ぃ」


「ちょっと待って」


緊那羅は目を瞑る、そしてしばらくするとゆっくり目を開けた。


「エンジンが少し弱いみたいね」


「嘘付け、別に変な音も振動もねぇぞ」


「じゃあ開けてみなさいよ?このエンジン、ローギアはド、セカンドはファ、で今の5速はミ、のはずだけど今は全部シャープがかかってる、しかも2ヘルツ落ちてる」


タナトスは呆気に取られた、耳は一際良いはずのタナトス、しかしこれだけの雑音の中からエンジン音を探すだけでも至難の業、それなのに緊那羅はここまで正確に聞き分けている。


「さすが音楽神様だ、その耳信じるぜ」


「ありがとう」


タナトスは車を停めてボンネットを開けた。


「こりゃひでぇな、メンテナンスの欠片も見えない車だ、外面ばっかり気にしてたみてぇだぜ」


緊那羅は座ってタナトスを見ていた、髪を結って色々な所から工具や材料を調達してくる。

腕を捲って腕を突っ込みながら作業をするタナトス、慣れた手つきでエンジン周りを弄っている。

普段のタナトスからは絶対に見れない姿、一つ一つ確認するように、緊那羅には分からない部品を取り出す。


「見つけた、こりゃあ削り出さなきゃ長くは持たねぇな」


タナトス再びどこかへ歩いて行ってしまった、すぐに戻って来ると手には大きな鉄板を持っている。

タナトスは腕輪に触れた、得物である大鎌、名はスケイル。


「カット」


黒く染まるスケイル、そして鉄板を斬り始めた、エンジンと鉄板を交互に見ながら細かいところまで精密に斬る、最終的にスケイルではなく、鉄板を動かしながら微調整を行っている。


「要人警護ってそこまでやらなきゃいけないの?」


「いやこれは趣味の範疇だ、昔から車を弄るのは好きだったからな」


タナトスは口を動かしつつも、手を動かしている、それは趣味というよりは仕事に出来るんじゃないか、という程の手際の良さ。

削りだしが終わると組み立て始める、タナトスの顔は戦いとは違った笑みに包まれている、むしろ本当に生き生きしているのはこちらと思わんばかり。


「あんた本当に戦い好きなの?」


「なんだいきなり?」


「いや、今のタナトスは良い顔してるな、って思ってね」


タナトスの顔から笑みが消えた、そして動きも若干鈍る、それが示すのは動揺。


「殺すのは楽しい、ってよりは憂さ晴らしみたいなところはあるな」


タナトスが死神になったのは恋人をダークロードに殺されてから、あれ以来後悔と共にダークロードを殺す事により快感を得ていた、しかしそれも一過性のもの、任務が終わればただ虚しさが残るのみ。


「過去を引きずる悲劇の主人公きどり?」


「別にそんなんじゃねぇよ」


「謎多き妖しい色男さん、過去を忘れられず、八つ当たりを受ける可哀想なダークロード」


タナトスが過去を引きずっている事も、それがタナトスにとって人生を変える事と知りながらも弄る緊那羅、緊那羅もただの無頓着という訳ではない。


「テメェには言いたくねぇんだよ」


その言葉の裏に、緊那羅と特定した事に何があるのかはまだお互い気付いていない、ただタナトスは感覚的に、この事を緊那羅に言ってはいけない、馬鹿にされる云々ではなく、自分が理解できないから言ってはいけないような気がした。


「別に人の過去を笑おうなんて思っちゃいないわよ、ただ過去を引きずれば引きずる程、あんたは今を傷付けるわよ、もしかしたらそれで身を滅ぼすかもね」


タナトスは何も言い返せなかった、それは第二次ホーリナーラグナロクの前、ヘリオスと一度ぶつかり合っている、それは緊那羅が言っている事が的を射ていた。

あの時は自分の力のなさを過去と重ね合わせ、それを見ないようにしていた、しかし今を必死に変えようとしたヘリオスにはかなわなかった。


「あとは先輩からの一言」


「先輩だ?」


「そう、アタシもあんたと同じ口の人間だったからね」


それは緊那羅と阿修羅が殺し合った事、その時の緊那羅は過去を引きずり、今いる大切な人達を殺しかけた。


「後悔したらあんたの全てを否定する事になるんだからね?」


タナトスは無言で運転席に座り、配線の中に指を突っ込んだ。


「後悔だけはしねぇ、俺様は俺様の信念で動いてる、だから、どんな結果であれ、それは覚悟の上で出た結果だからな」


そしてエンジンがかかった、先ほどよりもエンジン音が軽いようにも思える。

タナトスはボンネットを閉め、工具をそこら辺な蹴り飛ばして処理をすると、軍手を外して投げ捨てた。

運転席に座ると、何故か緊那羅が車を撫でている、タナトスは見てみぬふりをして、ハンドルてギアに手をやる。


「あんた(車)も幸せ者ねぇ、こんな良い男に拾ってもらった上に、綺麗に直してもらえたんだから、その体を大事にしなさいよ?」


タナトスは白い目で緊那羅を見る、いつもの鋭い殺気を込めたような目ではなく、痛々しいものを見る目。


「車に話し掛けるなんて、大丈夫か?」


「あんたかなりの鈍感でしょ?」


タナトスが黙る、それは明らかな図星、優勢だったその立場を忘れさせるような一言。


「別に車に対して言ってる訳じゃないわよ、あんたに言ってるの、良い男のあんたにね」


緊那羅のその勝ち誇ったような笑み、気付いていた、タナトスが誉め言葉などに弱いという事に、案の定タナトスは赤らめた顔を緊那羅に見せないように、緊那羅とは反対側を向いている。

気にしないように、いや、気にしているからこそやりづらくなり、苦し紛れに車を走らせた。

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