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17/32

17:鈍感


Itary city area


ベスト16も終わり、明日からはベスト8、更に熾烈な戦いになるのは必至、そして全世界のホーリナーが期待する高次元な戦い、まさに神選10階のメンツ、そして個人の力試しの場でもある。



パーティー等もなく、帝釈天は暇を持て余してイタリアの街を歩いていた、美しい街並み。

あえて人通りが少ない道を通って一人を楽しむ、しかし今までは好んでいた一人、なぜか今は無性に落ち着かない、自分でも分かっている、神選10階に入り、本当の仲間というものに出会い、自分が変わりつつある事に。

今は守りたいものも出来た、妹である阿修羅は本当にかけがえのない存在、そして、阿修羅が大切にしていたものを自分が奪った、それに対して罪悪感も抱いている。


さらに歩く事数分、感慨を強制終了する携帯の着信、帝釈天は携帯をポケットから取り出し、通話ボタンを押して耳に当てた。


「GPS送って!」


その声は沙羯羅、この大会で何かと自分に付きまとっているので、声だけで分かるようになってしまった、しかしそれも不思議といやではない。


「いきなり何を言い出す?」


「あとそこから動いたら後でお仕置きするからね!」


そのまま電話を切られてしまった、強引、なぜ日本支部の女はこうデタラメなのかと思う。

お仕置きというのがそこまで怖くはない、だが昨日のパーティーで泣かしてるだけあって、渋々沙羯羅に自分の位置情報を送り、近くでコーヒーを調達して待つ。



そして待つこと10数分、沙羯羅が走って帝釈天に向かって来た、息を切らして止まり、膝に手を当てて帝釈天を見上げる、帝釈天はふと思った、沙羯羅は自分と同じ歳、これが年相応の女の子の表情なんだろう、そして、女性としての魅力はかなりのものと。

大きな目、若干小さい鼻だが、大きな口はつり上がっている、下手に大人っぽくなく、子供っぽくもない。


「どうしたんだ?いきなり」


「デートしようよ」


「デート!?」


柄にもなく叫んでしまった帝釈天、沙羯羅はお構いなしに笑顔を作る。


「まだ4時でしょ?早く終わっちゃったんだからデートの一つや二つ良いじゃん、イタリアには支援者がやってる高級レストランもあるんだって」


「しかし………」


「私とデートするのが嫌なの?」


若干寂しそうな顔をする沙羯羅、沙羯羅の前だとどうも狂わされてしまう帝釈天。


「そうじゃないんだ、経験がないから、どうも慣れなくてな」


「私も初めてだよ」


沙羯羅は笑顔で帝釈天に顔を近付ける、帝釈天は驚いていた、そっちの方は自分よりも経験豊富だと思っていたからだ。


「ずっと女子校で、一応これでもお嬢様だったからね、何か出会いがないわけよ」


「だが、なぜ俺なんだ?」


「帝釈天はホーリナーの世界知らないんでしょ?それならせっかくなんだから普通の18歳みたいな事しようよ」


「普通のデートって、どんななんだ?」


「ウィンドウショッピングしたり、遊園地行ったり、あとは映画とか?」


帝釈天は内心焦っていた、周りにまともな女と言ったら沙羯羅だけだった、その沙羯羅に誘われたなら、いくら帝釈天と言えど緊張の一つや二つは当たり前だ。


「そうと決まればレッツゴー!」


沙羯羅は帝釈天の手を掴んだで歩き出す。


「お、おい、考え中だ!」


沙羯羅は無視して帝釈天の手をグイグイ引っ張る、帝釈天は顔を赤くしながら何とか着いて行く、顔が赤い理由は手、帝釈天も一応男だったらしい。






イタリアの街を歩く沙羯羅と帝釈天、なぜか沙羯羅に手を繋がれたままで、離そうとすると怒られる、帝釈天からしたら落ち着かないが、沙羯羅曰わくどこにも行かないように、との事らしい。


「帝釈天ってオシャレもクソもあったもんじゃないよね?」


「ひ、酷い言われようだな」


帝釈天は苦笑いを浮かべた、単刀直入の物言いにはさすがにキツいものがあった。


「その服装は誰の趣味?」


白いロングコートの襟に刺繍が入り、中は紺色のシャツ、下はデニムという微妙な格好。


「ボスに適当に任した」


「だからダメなんだよ!ほら、オフくらいは団服以外の着ようよ」


「しかし、動き易いし服などどれでも良いような――――」


「それがダメ!阿修羅もそうだけど、何であなた達兄妹はオシャレに無頓着なの!?

よし!私がコーディネートしてあげるからオフくらいは違う服を着る!」


「わ、分かった」


帝釈天は再びグイグイと引っ張られる、そして思った、阿修羅はともかく何で自分の心配ばかりするのかと、服装に関しては神選10階のメンツは殆ど無頓着、気にしているのは女性陣と、タナトスくらいなもの。

しかも沙羯羅も女性なら、阿修羅の方を変えるのが先じゃないのかと思う、あの服装はさすがの帝釈天もおかしいと思う程だからだ。


「ここなんて良さそうじゃない?」


「いまいち俺には分からない」


「帝釈天に聞いた私が馬鹿だった、とりあえず入ろう!」


沙羯羅は帝釈天の手を離すと、ベロシティでも使ってるんじゃないかと思う程のスピードで服を集める、それには帝釈天も開いた口が塞がらない。

しばらくすると大量の服を持った沙羯羅が戻って来た。


「よし!更衣室に入る!」


手が塞がっている沙羯羅は足で帝釈天を更衣室に押し込んだ、完全に成すがままの帝釈天、そして服を一式投げ込まれてカーテンを閉じられた。


「それ着てみて」


帝釈天はとりあえず着てみる事にした。


「お、おい、このデニムキツいぞ?」


「大丈夫!それはそんなもんだから」


「そうなのか?」


「そうなの!」


帝釈天は渋々服を着ると、カーテンを開いた、そこには丈が長く不揃いなカーディガン、中はタンクトップで、下はスキニーデニムに編み上げのブーツ。


「うん!こんなのもありかな?」


帝釈天の首にストールを巻いた。


「ありあり!そっちの方が格好良さ倍増だよ!」


「そ、そうか?」


格好良さ、という言葉に反応してしまった、そんな言葉を言われた事がなかったので、免疫はゼロだった。


「よし!次はこれ!」


「つ、次?」


「まだまだあるよ!」


沙羯羅の後ろには気が遠くなる程の服やアクセサリーがあった、帝釈天は気付く、恐らく着せ替え人形になって帰るはめになるのだろうと。



あれから数時間、案の定着せ替え人形になった帝釈天、ホストのような格好、真面目な大学生のような格好、パンキッシュな格好等、後半あたりはもうどうでもよくなっていた。


「よし、じゃあコレだけ貰って帰ろう!」


それは大きな紙袋3つ分、帝釈天はため息を吐いて袋を持った。


「さすが帝釈天、紳士だねぇ」


「どうせ持てとか言うのだろ?」


「まぁ女の子に持たせる男ってのもどうかと思うしね」


「とりあえずコレを持って歩くのは面倒だな、少しここで待ってろ」


帝釈天は走ってどこかへ行ってしまった、沙羯羅は行き交う人々を見る、全員が沙羯羅の事はないもののように素通りする、沙羯羅にとってそれは問題ではなかった。

カップルも何人か通り過ぎる、それに沙羯羅も珍しくため息を吐いた。


「分かってたけど、帝釈天って鈍感だなぁ」


沙羯羅は手を繋いでいた手を見て顔を赤らめる、沙羯羅も男性に対する免疫などない、まさかホーリナーになってからこれほどまでに頑張るとは思っていなかった。


物思いに耽っていると、黒いビックスクーターが目の前に停まった。


「ほら、行くぞ」


「さすが帝釈天!気が利くねぇ」


帝釈天はメットインを開けて服を詰め込む、入らなかったのは足元へ。

帝釈天がバイクに跨ると、沙羯羅も後ろに座った。


「バイクなんて運転出来るの?」


「日本支部にいたから大体の乗り物は運転出来るな」


「飛行機とかも!?」


「小型なら余裕だ、ジャンボとなると分からないがな」


「私は軽自動車だったからなぁ、でもエンジンはV8積んであるからかなり速いよ」


「改造とは沙羯羅らしい」


帝釈天はアクセルをひねってバイクを走らせた、あっという間にゆっくり走っている車を追い抜いて行く、沙羯羅がメーターを見ると120kmも出ていた。


「で、レストランはどこにあるんだ?」


「3つ目の十字路を右折だよ、ククルカンがすぐに分かるって」


「分かった」


帝釈天はスイスイと車を避けて行く、沙羯羅は振り落とされそうになり、帝釈天に抱き付くように掴まる、帝釈天はポーカーフェイスを装っているが、内心焦っていた、しかし沙羯羅も意を決した行動。

帝釈天は車体の底を若干擦りながら右折した、そこには一つのレストランがある、看板にはVCSOと書いてある。


「確かに分かりやすいな」


「一般人には分からないだろうしね」


二人は苦笑しながらバイクを停めた、そしてなぜか得物を顕現してバイクに乗せる、一見するとクレイモアがバイクに乗っているなど有り得ない光景だ。


「何してるの?」


「バイク屋から貰ってきたやつだからバレたら面倒だ、コレなら誰にも気付かれないだろ?」


「さすが帝釈天!」


二人はレストランの扉を開けた、薄暗くシックに纏まっている、そして入ってすぐの所には燕尾服を来た白髪の男性がいる、男性は帝釈天を見ると笑顔で一礼した。


「神選10階、第9階の帝釈天様と、…………そちらのお嬢様は?」


「日本支部の沙羯羅でぇす」


「バチカンでは大会が行われていますからそれで、存じ上げず大変失礼致しました」


「全然大丈夫ですよ」


「ではこちらへ」


恐らく彼は神選10階とイタリア支部の関係者の名前と顔はすぐに一致するのだろう、現に帝釈天が分かっても沙羯羅は分からなかった。

沙羯羅達は個室に通されるとメニューが出てきた、それは英語で書かれていて、ホーリナーにちゃんと読めるようになっている。


「こちらの方が本日のオススメとなっております」


「じゃあそれを二つ頼む」


「かしこまりました」


男性はメニューを片付け、一礼して出て行った、この個室からは美しいイタリアの通りは見えず、代わりに美しい庭が広がっている。

落ち着いた雰囲気で、外界からは完全に遮断されていた。


「なんか高そうなお店だね」


「支援者がやってる店というのは基本的にタダだ、物質調達の代わりにVCSOが多大な援助をしてるらしいからな」


こういう店から食料の調達などを行うVCSO、お互いがお互いが支え合う相互関係によりこの世界は成り立っている。


二人は料理が来るまで他愛もない話で盛り上がっていたその時、先程の男性が若干息を切らしながらゆっくりと入って来た、その手には電話が握られている。


「帝釈天様、カミュウマーン様からお電話です」


「カミュウマーンってあのへらへらした元帥だよね?」


「嫌な予感がする」


帝釈天は電話を受け取り耳に当てた。


「何だ?」


「デート中ごめんねぇ」


「監視か、薄々感づいていたがな」


そう、帝釈天は悪魔だった事もあり監視の一つや二つ覚悟していた、ずっと隠すつもりがないような視線にも。


「帝釈天だけじゃないよ、タナトスとかヘリオスも今はデート中かな?」


「いらない情報はいらん、からかうために電話をよこした訳ではないだろ?」


「じゃあ本題に入るよ、すぐそこにある丘にバジリスクが現れたんだって、帝釈天達が一番近いからお願い、沙羯羅ちゃんもいるんなら大丈夫だよね?」


「しょうがない」


「じゃあ携帯に位置情報を送っとくね」


電話が切れて携帯が鳴り始めた、帝釈天は画面を見てダークロードの位置を確認した。


「悪い、20分程で戻るから料理を残しておいてくれないか?」


「かしこまりました、ご武運をお祈りしております」


「恩に着る」


帝釈天は沙羯羅を見た、もう殆ど感づいているらしく、笑顔を作った。


「すまない、コレから俺と沙羯羅で任務だ、大丈夫か?」


「余裕!相手は誰?」


「バジリスク、馬鹿でかいトカゲだ」


「楽しそうだね、なら早く行ってちゃっちゃと終わらせちゃおう?」


「あぁ」


帝釈天と沙羯羅は走って店を出る、バイクに置いてあった髭切をしまうとエンジンをかける、二人で跨ると沙羯羅は帝釈天の腰に腕を回した、帝釈天は任務か慣れかは分からないが、照れというものは見受けられない、そのまま一気にアクセルを捻った。






開けた小高い丘、山というには低すぎ、坂の上というには高すぎる、なんとも微妙なその場所。

帝釈天はバイクを停めて得物を顕現した、得物はクレイモア、名は髭切、沙羯羅の手にも得物、弓幹が刃の弓、名は菊理姫。

しかしそこにはバジリスクはおろか、帝釈天と沙羯羅以外何もいない。


「元帥のイタズラかな?」


「それはないだろう、あれでも一応VCSOの長だからな」


「じゃあ逃げたのかな?」


「まずは捜してからだ」


「了解!」


沙羯羅は敬礼して構えた、帝釈天は髭切に指を当てる。


「コラプス」


髭切は縦に筋が入ると、真っ二つになり二振りになる。


「気をつけろ、バジリスクの目に睨まれると石化したり、猛毒があるらしい」


「じゃあ強いんだ?」


「いや、脅威はそれだけだ、戦闘に関してはエビルユニオンレベルだ」


「じゃあ現れてからの初撃だね」


「あぁ」


帝釈天は髭切を持って歩き始める、沙羯羅は構えながら様々な方向への警戒を怠らない。

気配は全くない、誤報で神選10階が動く事は皆無に等しい、あるとするなら、それは悪魔達がやったような囮、神選10階を呼び出すための。

帝釈天が思考を巡らせた事により一瞬警戒が薄れた、その隙に背後に悪寒のようなものを感じる、帝釈天が振り向くと、いつの間にかバジリスクが沙羯羅の後ろにいた。


「沙羯羅避けろぉ!!」


沙羯羅は訳が分からず、とりあえず前に避けるが、バジリスクの牙で肩を浅く斬りさかれてしまった。


「クソ」


帝釈天はバジリスクの背後を取る、バジリスクはトカゲを巨大にしたような雰囲気で、口には牙、特に脅威はないが、その目と口は危険そのもの。

帝釈天はバジリスクが振り向く前に背中に飛び乗り、二振りになった髭切を一度合わせ、背中に突き刺す。


「――――――!!」


奇声を上げて悶え苦しむバジリスク、帝釈天はそのまま引き裂くように髭切を左右に、バジリスクを引き裂くように振り払った。

完全に胴から真っ二つになり、息絶えると同時に粒子化されて砂の山と化した。

帝釈天は沙羯羅に目を移すと、顔を青白くして悶えている沙羯羅がいる、帝釈天は走って近寄り、頭に手を当てる。


「動かないでくれ」


苦しみで暴れまわっているために集中出来ない、帝釈天は沙羯羅を抱き起こすと、そのまま抱きしめ毒の気配を探す、試した事はないが、出来るはずと集中した。


「コラプス」


沙羯羅の体は力なくうなだれ、帝釈天に身を預けるような状態になった、沙羯羅の血中に流れる毒素を破壊し、沙羯羅は体が耐えきれずに気絶したのだ。

それによりハッと我に帰る、今の状態は誰がどのような見方をしても、抱き合ってるだけにしか見えない、しかし今の状態で沙羯羅を投げ出すわけにはいかない。


「どうしたもんか」


帝釈天が沙羯羅を抱きしめながら考えていると、沙羯羅の腕に力が入った、慌てて引き離そうとしたが、なぜか離れない沙羯羅。


「このままが良いの、離れたら怒るよ?」


「だが―――」


「男なら黙って女を幸せにする」


「分かった」


実のところ帝釈天は何も分かっていなかった、沙羯羅の幸せとは何か、自分なんかとこのような状態になって嫌じゃないのか。

つまるところ帝釈天は鈍感だ、むしろ他人のそういう感情には疎い、故に沙羯羅の気持ちなど気づくよしもない。


「早く戻らないと料理が冷めてしまうぞ?」


「じゃああと少しだけ、帝釈天はイヤ?」


「沙羯羅が望むならイヤではない」


「ややこしい男だなぁ」


実際のところイヤ云々の前にパンク寸前だった、なぜか落ち着かないこの状況、帝釈天自身が撒いた種だが、ここまで一人歩きするとは思わなかったからだ。


「(ここまでやっても鈍感な帝釈天にはダメか)」





コラプス

崩壊

全てのものを壊す神技







ここからあとがきです。

もうそろそろクライマックス突入です、次の次くらいで新キャラなども登場させる予定なので、楽しみにしていて下さい。

最終回に向けてペースアップをしていきますので、どうぞご意見などがあるなら早めにお願いします。

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