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10:笑顔のために


Vatican VCSO headquarters


ベスト16第二試合、帯釈天対ズルワーン。


コンクリートで囲まれた部屋にいる帯釈天とズルワーン、20mの正方形の部屋、逃げ場も隠れる所も何もない、そう、勝敗だけを決めるタメだけの部屋、入る事も出る事も叶わない檻の中での殺し合い。

二人は同時に得物に触れた、帯釈天の得物はクレイモア、名は髭切、ズルワーンの得物は掻き爪、名はネイト。


「あぁ、怖いなぁ、痛いの嫌だなぁ」

「貴様」

「は、はい!」

「別に俺は驚かしたいわけじゃない、ただ戦う気はあるのか?と聞きたいだけだ」


ズルワーンはもじもじしてうつ向いてしまう。


「戦いが嫌なら棄権しろ、俺は無駄に死の苦痛を与えたくはない」

「僕だって出来るものならしたいですよ、でもオーストラリア支部の皆がオーストラリアで応援してくれてるんです、それにココまで来たんだからもうちょっと頑張りたいですし」

「貴様の様な強者に好かれたオーストラリア支部は幸せだ、しかし俺と当たった事を後悔するんだな」


帯釈天は髭切に人指し指を当てた。


「コラプス【崩壊】」


縦になぞると綺麗に二振りになる、そして構える帯釈天、ズルワーンも恐る恐る構えた。

帯釈天は走り出す、素早く突くがズルワーンは髭切の上に飛び乗る、帯釈天はその体勢を維持したままもう片方でズルワーンを横薙に斬りかかるが、ズルワーンは軽々とネイトで受け、反対側のネイトを振り上げた、帯釈天は慌てズルワーンを天井に弾き飛ばす。

ズルワーンは天井に足をつくと、逆さまになり天井を蹴った、弾丸のように帯釈天に向かって落下しながらネイトを振り上げる、帯釈天がバックステップで避けるのと同時に、ネイトはコンクリートの床を砕いた。

ズルワーンはそのまま床を蹴って低い姿勢のまま帯釈天に追撃をかける。


「エクスプローション【爆発】!」


床を砕いてズルワーンの視界を遮ろうとしたが。


「カット【切断】!」


飛んできた瓦礫をバラバラに斬り刻んだ、しかしズルワーンは足を止めて床に手をついた。


「コントラクション【構築】!」


その瞬間巨大な壁がズルワーンと帯釈天の間に現れた、それに加え帯釈天側には避けようがない程の棘がある。


ズルワーンが壁を蹴り飛ばすとゆっくりと倒れる、しかし帯釈天は慌てずに手を壁に向ける。


「コラプス【崩壊】」


帯釈天の手に当たった瞬間壁は粉々になった、しかしズルワーンが間髪入れずに斬りかかって来る。

帯釈天は軽く体をずらしてズルワーンの腕を掴み、ズルワーンを投げ飛ばした、空中で体勢を建て直し着地するズルワーン。


「さすがはココまで進んできただけはある」

「あぁ、やっぱり怖いなぁ」


全く聞いていないズルワーン、恐怖ばかりが先行して既にいっぱいいっぱいだった。


「おい貴様」

「は、はい!?」


ビクンと体を揺らして驚くズルワーン、帝釈天は頭を抱えてため息を吐く。


「貴様は何のタメに戦う?」

「僕は戦いたくなんかないですよ」


泣きそうになりながら何とか声を振り絞るズルワーン、とても化物の巣窟と言われるベスト16に進んだとは思えない程気弱。


「なら戦いを好まぬのに何故戦う?」

「まぁいつもは皆を守りたいじゃないですか?それに一人の命を守れれば皆が笑ってくれる、嫌だけど僕が戦って、勝てば誰かが喜んでくれます、だから僕は皆の笑顔を造りたいから戦ってるんですかね?」

「笑顔のタメか、貴様が創造神たる所以はそこか」

「じゃあ僕も聞いて良いですか?」


帝釈天が不思議な顔をする、今まで怯えていたズルワーンからの質問、それは思ってもいない事だった。


「帝釈天さんは、…………悪魔だったんですよね?」

「いかにも」

「なら何で戻って来たんですか?聞いた話だとヘリオスさんと阿修羅さんを助けたらしいじゃないですか?」


帝釈天は考えた、何故自があのような行動を取ったのか、今でも毘沙門天の事は心の奥底から恨んでいる、機会があるなら殺したいと願う程。


「償いだ」

「償い?」

「あぁ、阿修羅への、妹への償いだ。

俺はあいつの居場所、大切な者を私利私欲で奪おうとした、だから今度はあいつの大切なモノを俺が守る、…………それに、貴様の誰かの笑顔のタメ、それも悪くはないかもしれない」


ズルワーンの顔がパァッと明るくなる、今まで本当に怖い存在だと思っていた帝釈天、しかしそれは雰囲気のみで、今は悪魔のルシファーではなく護法神の帝釈天。


「日本の人達は本当に優しいですね」

「他にも関わりがあるのか?」

摩和羅女まわらにょさんなんて良い人でしたよ、‘いただきます’を教えてもらいました」

「奴は人なつっこいからな」


帝釈天はそのまま構えた、ズルワーンも怯えが消えてしっかりと帝釈天を見据えて構える。


「少々話が過ぎたな、始めるとしよう」

「はい!」


ズルワーンが走り出す、そして帝釈天の手前で弾丸のように飛び上がり、帝釈天に突っ込んだ。

帝釈天は踏ん張り、それを受けると反対の髭切で斬りかかった、ズルワーンも難なくそれを受け反撃に出る。

帝釈天の連撃を足場にしながら、まるで帝釈天の上で戦っているようなズルワーン、しかし帝釈天もズルワーンの体勢を崩しながら戦っているため反撃を許さない。


ズルワーンは一度着地すると、今度は低い姿勢から帝釈天の懐に潜り込む、上からの攻撃の後は下からの攻撃、その小柄な肉体をフルに生かした戦い方。

しかし帝釈天も神選10階を脅かした存在、それだけでは倒せはしない。

ズルワーンが低い姿勢から目線を上げた瞬間、ズルワーンの腹を蹴り上げる、宙に浮くズルワーンを斬ろうとするが何とかギリギリのところで受けられた。


「エクスプローション【爆発】」


帝釈天は受けられている方を引くと同時に反対の髭切で斬りかかる、ズルワーンは成す術がなく受けると同時に髭切が爆発した。

ズルワーンはボールの様に転がり、派手に壁に体を打ち付けた。


「こ、コンストラクション【構築】」


ズルワーンはとっさに自分の周りを壁で覆い、帝釈天との間を隔離した。


「逃げ場を無くしてどうする?」


帝釈天は髭切を振り上げた。


「エクスプ――――ック!」


帝釈天が神技を放とうとしたその瞬間、背中に鋭く熱い衝撃が走り前のめりに倒れた、何かが当たった瞬間体を前にずらしたために致命傷は免れたが、動きをにぶらせるには充分だった。

帝釈天が後ろを見ると壁の向こうにいるハズのズルワーン、そしてズルワーンの後ろには穴がある。


「穴か、盲点だった」

「コンストラクション【構築】」


今度は帝釈天を閉じ込める、帝釈天は体が動かず、壁を壊してもすぐに殺されるのがオチ、僅かな時間で考える。


「カット【切断】!」


ズルワーンの神技発動の声、そして最終手段に出る、この狭い空間、逃げ場はない、そしてズルワーンに神技発動範囲内という事で中の状況が分かってしまう、なら。


ズルワーンが壁を突き破り帝釈天を突こうとしたその瞬間、ネイトを手に突き刺し、ズルワーンの手を捉えた。


「え?」


掴んだ左手は当然使い物にはならない、しかし残った右手でズルワーンの腕、右腕を掴んだ、ズルワーンは慌てて左手で刺そうとするが帝釈天の方が早かった。


「すまない」


ズルワーンの身動きの出来ない右腕を思いっきり下に突き落とす。


ゴキッ


あり得ない方向に曲がるズルワーンの腕。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ズルワーン無理矢理引き抜くと、叫び、痛みを堪えながら折れた骨を戻した。


「コラプス【崩壊】」


帝釈天はコートの袖を切りながら出てきた、そして腕に縛り髭切を顕現する。


「すまない、しかし俺もココでは負けていられない」

「大丈夫、です」

「もう棄権しろ、これ以上やっても辛いだけだ」

「まだ、終わって、ませんよ?どちらかが、死ぬまで、それがルール、です」

「無駄に律義だ、なら、一瞬で殺してやる」


帝釈天は走り出す、ズルワーンも何とか構えると帝釈天の上段からの振り下ろしを防いだ、しかし帝釈天は前と同じように蹴り上げようとしたが、ズルワーンはその足に乗って跳び上がる、そして天井に足を着いて逆になる、天井を蹴ると流星の如く帝釈天に向かう、しかし帝釈天は髭切を捨てて手を上げた、そしてネイトが帝釈天に触れるその瞬間。


「コラプス【崩壊】」


ネイトが壊れてしまった、そして帝釈天はそのままズルワーンの腕を掴み、地面に叩き付けた。


「カハッ!」


肺の空気が一気に出る、そして帝釈天は腕輪に触れず髭切を顕現し、そのままズルワーンの心臓を突いた。
















バチカンに弾き出された二人、二人とも肩で息をしている。


『終了だぁ!勝者は帝釈天!かなり痛々しい戦いになっちまったな!でもお互いあり得ないくらいの精神力にビックリするぜ!これが本当の死線!看板を背負ったズルワーン、そして最強を意地でも戴冠しようとする帝釈天、本当にお前ら泥臭くてカッコイイぜ!』


帝釈天はズルワーンに向き直った、そして手を差し出す。


「すまなかった、勝つためとは言え酷い事をしたな」

「いえ、僕も沢山傷付けましたから、お互い様です」


ズルワーンは帝釈天と笑顔で握手した、お互い全身全霊をかけて勝ちに行った結果、お互いを傷付けあう戦いとなってしまった。

しかしこれが戦い、殺らなきゃ殺られる、少しでも傷を付けるためなら手段を選ばない、それが戦いというものだ。

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