第7話 最強の2人です!
これで気を失ったのは何回目だろう。一生分は気を失った気がする。
今回2回目の天井。鷹斗はスクッと体を起こす。意識はしっかりしていて、記憶も 失ってない。故に落胆する。
「俺、負けたんだな…」
その呟きは虚空に消えると思われた。しかしその空間に別の言葉が放たれる。
「負けてないわよ。制限時間一杯で高折くんの逃げ勝ち」
ちょうど部屋に入ってきた千鶴は顔色を一切変えずにそう言った。
「…え?」
自分の記憶が正しければ、ダウンしホンフーの勝ちだったはずだ。体感で後5秒はあったように感じる。あくまで体感なので根拠はない。
「高折くんが倒れる瞬間かしら?師匠の結界が解けたの。あれは3分ぴったりで解ける結界なのよ。結界が解けた瞬間高折くんはまだ意識があったように見えたわ。だから逃げ勝ち。やったじゃない」
結果は勝ちだが勝った心地がしない。最後の一撃をホンフーからもらっていれば、ほぼ確実にその場でダウンして負けていた。あの一撃を避けたのは自分ではなく自身の中だ。
「あの声はなんだったんだろう?」
「声?」
自分の中で考えていただけだと思っていたが、声が漏れてしまっていたらしい。
「いやなんでもない」
自分の勘違いかもしれないと思い、話題にはしない。千鶴も「そう?」といい余計な介入はしてこなかった。
「お?もう復活しよったか」
部屋のドアを開け入ってきたのはホンフーだった。鷹斗はすぐに組み手の結果について言及する。
「納得いかないな、じーさん」
「わしも今そう思っておったところじゃ。なぜこのわしがこんな若僧に負けなきゃならん」
「俺もそう思うよ。最後の一撃だって俺自身が避けたわけじゃない」
「知っておる」
ホンフーは呆れたようにつぶやき、鷹斗を見据える。
「勝ちは勝ちだ。誇っていいぞ小僧。これからはわしはお前さんの師匠じゃ。言っておくがスパルタじゃぞ」
そう言ってホンフーはそそくさと部屋をでていく。
もう十分修行をした感じがするのだが、それは置いておこう。
鷹斗は周りを見渡す。そういえば体が痛くないことに気がつく。
「誰が治療してくれたんだ?」
「エリルよ。なんでも治癒魔法が得意らしいの」
治癒魔法。よく聞くRPGなどでは回復を専門とする魔法。一部ゲームでは応用で攻撃魔法にもできたりする。
「治癒魔法か…それって何属性なんだ?」
ふと疑問符が浮かぶ。この世界での魔法属性は分けて6つ。火、水、風、木、雷、地だ。治癒魔法なら癒しというイメージで水とか風かだろうか。
「エリルさんの魔法はユニークスキルです」
いつからそこにいたのかは分からないが、リンはドアのすぐそばに立っていた。千鶴は最初にリンに会った時のような表情をする。
「リン、あなたって影薄いの?」
「そ、そんなことはないです!多分…」
「自信ないのね…」
確かに影が薄いのかもしれない。クラスにもこういうやつは必ずいるからな。
「で、ユニークスキルってなんだ?」
「あ、はい。ユニークスキルとは、その人が保有する固有スキルのことです。スキルとはいわゆる能力のようなもので、ユニークスキルは持てる人が限定される能力のことを言います」
端的に且つ丁寧に説明するリン。
「ってことは凄いってことか」
「そう解釈すると勘違いも生まれてしまいそうですが…」
ふと外を見る。外はいつも通り暗く、朝なのか昼なのか、ましてや夜なのか区別がつかない。
「今って何時だ?」
「え?今ですか?えーと…」
リンはポケットの中を探る。そして懐中時計を取り出し、
「32時61分ですね」
「わからん!」
鷹斗がいるベッドに腰を掛けつつ、千鶴を同じ反応をする。
この世界での標準時間なのか。慣れるにはかなりの時間が必要そうだ。
「わかりやすく言いますと16時半ですね」
「さっきの時間を2で割っただけじゃないか」
「その通りです。これは前国王の見つけたもので、殿下の元いた世界の時間と同じらしいです」
そういう時間の変換が出来るのか。つまりこの世界は元いた世界の時間より秒数の刻みが早いということだ。
「ってことは今は4時半か…」
「そうなりますね」
「これからどうするか」
そう鷹斗がつぶやくと横で座っていた千鶴が今後の予定を話し始める。
「まずは能力検査をするそうよ。検査はすぐに終わるらしいわ。それが終わったらちょうど夕飯の時間になるみたいだからご飯を食べて、夜早速修行だそうよ」
いきなりかーと嫌そうに声を出し、軽く背伸びをする。そしてベッドから足を下ろすとスクッと立ち上がり。
「まぁ検査しますか!」
「ちょっ、ちょっと⁉︎身体は平気なの?」
身体の調子はエリルの治療?によりもうすっかり良くなっていた。
「大丈夫だよ。元々体は強いほうだ!」
「そういう問題じゃなくて!」
鷹斗と千鶴からしたらよく見る光景だが、リンはまだ慣れていないのだろう。苦笑いを浮かべながら、ホンフーの元へと案内し始めた。
古い旅館のような建物内はフローリングのように木のようなものがコーティングされて敷き詰められている。そこを3人は歩いていく。場所はそう遠くはなく、3分ほどで着いた。
リンは木の引き戸をトントンと叩き、
「師匠、殿下をお連れしました」
と礼儀正しく言う。すると扉が開き中からエリルが顔を出す。その後ろには座っているホンフーがいた。
「お、もうそんな時間か…よしでは始めるとするかのお」
ホンフーはよいしょと立ち上がり鷹斗と千鶴を手招きのジェスチャーで呼ぶ。
「じーさん、能力検査って具体的に何をするんだ?」
鷹斗はホンフーに近づきながらそんな質問を投げかける。
「わしは体の中の精霊を診ることが出来るんじゃ。それによって、精霊の数やその強さを知ることが出来る。便利じゃろ?」
確かに便利な能力だ。しかし端末に能力が記載されているんだなこれが。
「あ、そういえば俺のスマホどこだ?」
「スマホと言うと、端末のことでしょうか?それなら充電中ですが」
リンは部屋の一角を差しそう告げる。パッと見るとそこには見慣れたスマホが置いてあった。どうやら充電はちゃんとされているらしく、充電中を示す青い光が点滅していた。
(まぁ、別に結果は変わんないだろうからいいか)
そう思い素直に検査を受けることにした。
「そろそろ始めようかじーさん」
「そうね、私も早く能力が知りたいわ」
リンは千鶴の能力がどれほどなのかを知っていたが、ここでは口に出さなかった。まだ信じられずにいたからだ。
「わかった、わかった。では始めよう。まずは千鶴ちゃんから始めようかのお」
ち、ちづるちゃん…と千鶴はその呼び方に異議を申し立てをしたそうだが、エリルをエリルちゃんと呼ぶくらいだ。異議は認められないだろう。
千鶴は諦めてホンフーと対面でイスに座る。
「では、右手を出してくれるかのお?」
「こ、こう?」
千鶴は警戒しながらも右手をホンフーの前に出す。するとホンフーは右手の脈のあたりを人差し指と中指で押さえる。
こうして見ているとただの診察にしか見えない。
「ふうむ。どうして異世界からの住人はこうも規格外ばかりなのじゃ…」
「ん?どうかしたのか?」
聞いたはいいものの、見当はついている。端末でちらりと見た千鶴の能力は初めて目にする俺たちでも異常な数値だとわかるほどだ。
「千鶴ちゃん、自分の能力値は知っているね?」
「え、ええ」
「なら話は早いか。まぁワシが計ったところによると魔力値は6,317,953、抵抗値が4,259,375じゃな」
そんな細かい数値まで分かるのかと心から関心する。てか端数ってやだな、きっかりしている方がいいと思ってしまう。
「まぁ、重要なのは能力値よりも能力そのものだったりするのじゃが」
その能力もちらっと端末で見えたのだが。それはこの際黙っておこう。リンやエリルは知らないはずだからな。素人が見ても凄いと分かるような能力だ。きっとリンやエリルは驚くに違いない。
「千鶴ちゃんの能力は、ヘキサエレメンタリストじゃ」
よくゲームでは、ヘキサは6重を意味する。つまり6重精霊使いと言うことだ。素人でも6種の魔法を操れるとなれば凄いと思う。リン達はそれがよくわかっているはず。そう思いリン達に目を向ける。しかしリンは驚く様子を見せない。エリルも同様だ。
「おいおい、なんで驚かないんだ?ちょっと楽しみにしてたのに…残念だ」
「なんで勝手に残念がられてるんですかね私たち…」
「いや、だって聞くからに凄い能力じゃん?ヘキサゴンエレメントリスタートだぞ?」
「ヘキサエレメンタリストです。どうしたらそう言う風に聞こえるんですか?逆に凄いですよ」
ボケで言ったのにリンはその意図を汲めなかったらしい。鷹斗は苦笑いで返す。
「で実際どうなんだ?千鶴のは凄い能力なのか?」
「凄すぎて何も言えないですよ。私も今の立場上他国の要人と面会をいたしますが、最高でもクアエレメンタリストでしたし。師匠が規格外と言った通り世界でもあまり類を見ないです」
そうなのかと鷹斗は感心する。当の本人は気恥ずかしそうにしていた。
「驚くのはまだ早いぞ。千鶴ちゃんは
全属性最上級精霊保持者
通称オールレイティブじゃ」
長い言葉に少々狼狽える。
「でそれはなんだ?」
長い名前を言われただけでは何も分からない。その問いにホンフーの代わりとしてリンが答える。
「オールスーパーレイティブデグリーエレメンタリスト、通称オールレイティブは全属性最上級精霊保持者を指します。全属性精霊保持者だけでも規格外と言いましたが、そこに最上級がついたらもはや化け物ですね」
「え、化け物なの…私?」
千鶴はかなりショックのようだ。あたり前の反応だろう。
「でもオールなんちゃらって名前がつくくらいなんだから過去もしくは今現在に保有してるやつが一応いたんだろ?」
「もちろん存在はしていました。500年前の話ですが…」
リンはばつが悪そうに答える。
「500年前…まさかとは思うけど」
「ご明察です。前国王がオールスーパーレイティブディグリーエレンタリストでした」
まさかとは思ったがこんな事があるとはな。てかこの世界はそう広くないのか?
そんなことを思って聞いてみたが、この世界は100もの国と50の地帯で成り立っているらしい。地帯というのはどこの国にも属さない場所のことだそうだ。
砂漠地帯や寒冷地帯、無法地帯なんかもあるらしい。基本的にその地帯ではあらゆる種族がその地帯の主権を争っているらしい。
まぁ地帯に手を出すことはあまりないとは思うが。
「…くん。高折くん?」
「…お、ごめん。何か言った?」
「次は高折くんの番よ」
「あ、そうか」
考え事をしていたせいで周りの音がはいっていなかったらしい。単純な作業なら平行してできるのだが、難しいことになるとどうも周りが見えなくなる。
「ふん。少々癪だが、そういう約束じゃからな。ほれこっちに来い」
言われるがままにホンフーの前の椅子に座る。
手を出すと、ホンフーが脈を図るように手をつけてくる。
「…っ⁉︎」
瞬間ホンフーの顔が歪む。
その場に膝をつくようにして倒れそうになる。
「だ、大丈夫か?」
突然倒れられて心配しない人はいない。
「大丈夫な訳があるか!多少は魔力の制限ができておると思っておったが、身体の中では動き回っているではないか!わしを殺す気か!」
いきなり怒鳴られても何のことなのか分からない。突然のことに千鶴たちも困惑している。
「お前さんは今から修行じゃな」
ホンフーは息が上がった状態で喋る。って今から⁉︎何故そんなにいきなり…
ただでさえ腹が減っているというのに、今から修行したらそれこそ本当の意味で倒れてしまう。
「いやいや、今からっていきなりすぎだろ。第一ご飯の後じゃなかったのか?」
「それはそれ。これはこれじゃ」
どれだよというツッコミは心の中でする。
「まぁ、陛下いいんではないでしょうか?修行と言っても長くはかからないでしょうし」
「そうじゃな、長くはかからないと思うぞ。お前さん次第じゃけどな」
リンの言葉に肯定するホンフーの目は笑っていなかった。
絶対早く終わらないパターンだよ!
まぁ、自分次第で早く終わるならと軽い考えで修行をすることにした。
腹は減っているが大丈夫だろう。
そんな甘い考えはすぐに否定されることになる。
どうもこんにちは!エイカです!
リアルに忙しく間があいてしまいました。
まだまだストラテジーの要素がないです。すみません。まぁ一章ではでてこないんですけど。
この前有名 RTSをやっていたのですが、対人戦になると滅法強い友人に勝ちまして、とても嬉しかったです。
それだけです。
次話は早めに投稿出来るように頑張ります。
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