第2話 初異世界です!
「…くん!高折くん!」
あれからどれくらい経っただろう。誰かに呼ばれた声で目がさめる。この声はよく聞く声だ。そう千鶴の声だ。必死に自分の名前を叫んでいる。こうも耳元で叫ばれると死んだ人まで生き返りそうだ。
「そんな大声出さなくても聞こえてるよ」
「よかった!死んだ訳ではなかったのね。もう!心配したんだから!」
大袈裟だ。と言いたいが、どれだけ気を失っていたかも自分では分からない。もしかしたら1日以上気を失っていたかもしれない。
なぜそう思うのかというと、窓の外が暗いからである。放課後になって20分程度しか経っていなかったはずなのに、外は暗いということはかなりの時間気を失っていたことになる。なぜずっとここで放置されていたのかがとても不思議だ。ましてや廊下というみんなが使う場所で。とりあえず千鶴が居てくれて助かった。このままだったら夜の学校を一人で探索することになっていた。それだけはごめんだ。てかなんで千鶴はこんな時間まで学校にいるんだ?いやまだ夜と決まった訳ではない。生徒会の仕事が長引いたら7時くらいまで居残るのもあり得るはず。
「千鶴、今何時だ?」
早く帰らないと8時から始まるテレビが見れない。
「それが…携帯の時計が壊れてるみたいなの…今は夕方の4時半よ」
「え?」
予想外すぎる回答だ。夜中の4時ならまだわかる。昼間の4時半でこの暗さはありえない。
そうだ自分の携帯で見ればいいじゃないか!
そう思い制服の胸ポケットから携帯を取り出す。携帯の電源ボタンをおし現在時刻を確認する。がやはり自分の携帯も4時半を示していた。それどころか一向に時計が動こうとしない。携帯の時計は一般的に衛星時計だから、狂うはずがないのである。ふと思い出す。ゲームの設定を終えたのがちょうどそのくらいの時間だった。
「何かがおかしい…」
小さい声でつぶやく。その言葉が千鶴の耳に届いてしまったのか、
「ねぇ?大丈夫?」
不安そうに聞いてくる。こんな気難しい顔をしてたら心配するのは当たり前だろう。
「あぁ、大丈夫。別に怪我とかもしてないし」
千鶴を不安にさせまいと大丈夫なことを伝える。普段は強気な千鶴だがこういった非日常的なものはダメなのだろう。
「で、ここどこなのよ」
分かりきった質問をしてくる。
「どこって、学校だろ?」
どう見たって俺たちが通っている学校にしか見えない。勉強するためのの教室があり、やたら長い廊下があり、その途中にトイレがある。ごく一般的な学校だ。...正直言うとホラーゲームは全くといって良いほど耐性がない。夜の学校というありがちな設定。一人で探索する羽目になったら間違いなく俺は脱出を断念するだろう。
「そういうことじゃないの。学校のいろいろな場所を見てきた私だからわかるわ。ここは私たちがいつも通ってる学校じゃない。それだけじゃない。街並みが全く違うのよ。さっき教室の窓から街を見た景色だと、ヨーロッパ風の建物が多い気がするの」
すでにそんなことも確かめていたのかと感心しつつ、急いで教室に入り窓の外を確認する。驚きの光景だった。日本特有の家が全くなく、アンティークな家がずらりと並んでいた。見る限りきちんと区画整理がされている。
ふと気づく。遠くの方は森になっていた。森がここら辺一帯を囲むように生い茂っている。
「どこなんだよ。ここは」
ポロリと言葉が漏れる。幻影?夢?誘拐?あらゆる可能性が頭をよぎる。これに似た光景を見たことがあった。スマホにあるストラテジーゲームだ。スマホのゲーム容量には限度がある。そのため出来る機能が自然と限られてしまう。その限られた機能の中には元々区画整理がされていてそこに施設を作るといったシステムがある。今いる空間はそれに類似していた。そして俺はある結論に至っていた。夢でもなく、幻影でもない。ゲームの中にいるのではないかと。突拍子もない話だ。
まだ完全な確証はないし、夢だとも言い切れない。しかし聞いたことがある。あるアメリカのゲーム会社が実験段階ではあるがゲームの中に直接介入できるシステムを完成させたという話を。AEの親会社はアメリカにある。もしその話が本当だったら…
最悪の事態を想像する。
まず今の状況がどうなっているのかを確認しないと。
「とりあえず、外に出てみよう」
千鶴に提案する。こちらから行動をしなければ恐らく何も分からないままだろう。
「そうね。誰かいるかもしれないものね」
意見は一致し、外に出てみることにした。教室をでてすぐの階段を下りる。やはりどこから見てもいつもの学校にしか見えない。多少の違和感はあるが。3階分の階段を下り、昇降口へ向かう。そこで気づいた。俺はなぜか靴を履いていたのだ。学校の中にいたというのにすでに靴を履いていた。千鶴は気づかないまま自分の下駄箱へ向かう。下駄箱を開けるがもちろん中に靴はない。それどころか上履きもなかった。意外と気づかないものでやっと千鶴も気づいたようだった。驚きの表情が見てとれた。
俺は驚いてあたふしている千鶴を横目に昇降口をでる。昇降口をでると左に体育館、右に校庭、中央に道路があり、道路を進むと正門がある。
第一目的地はあそこだ。
ふと上を見上げる。ぼんやりと月のようなものが見えた。しかし雲のようなものがかかっていてぼやけて見える。
待てよ。雲がかかっている状態で月は見えないはずだ。ってことはあれは太陽なのではないか?何故そう思ったのか、自分でも分からない。ただ直感がそう告げていたのかもしれない。
「あれって、太陽よね?」
同じく上を見上げていた千鶴も同じことを思ったようだ。あれは太陽で間違いないらしい。何故太陽が出ているのに暗いのか?そんなことは今考えても仕方のないことだ。今は人を探すことに専念しよう。正門に向かい真っ直ぐ歩きだす。千鶴も後を追いかけてきた。街頭があるとはいえやはり暗い。足元が見えるだけましだが。
数分歩いていると正門の前まできた。道中変わったことはなかった。体育館も校庭もいつも通りに思える。
俺は正門に近づき手をかけ、横にスライドさせた。その時千鶴はというと空の太陽が気になって仕方ないらしい。一向に手伝おうとしない。正門はギシギシと音を立てて開いていく。人が一人通れるくらいまで来たところで動かすのを止める。
「おいでいただきありがたく存じます。新たなるクイーン、そしてキング」
突然かけられた声に驚きつつも声には出さない。ずっと空を見上げていた千鶴は「な、何⁉︎」と声に出して驚いている。
声の主は背丈が中学生くらいの女の子だった。
「す、すみません」
千鶴が少し大きな声を出したからか謝ってきた。どうやら驚かせたことに関して謝っているようだ。女の子はあたふたしながらも続ける。鷹斗たちは何も言えずただ聞くことしかできない。
「私はあなた方国王のサポートをさせていただく、リン=バニラと申します」
リンと名乗った女の子は可愛いフリルのついた白いワンピースをきている。背中の真ん中くらいまでありそうな赤みがかった髪の毛は艶やかで白いワンピースととてもマッチしていた。
「お二方はまだ何も理解されていないと思います。そこで私から説明をさせていただきます」
なんの説明だろうか。自分がここにいる理由を教えてくれたらありがたいんだが…そう都合よく話してくれないだろう。第一彼女が知っているとは思えない。サポート役と言ってもどこまで知っているのか?
「まずこの世界ですが、ここはお二方の世界とは別の次元にあります。詳しくは立体並行交差世界論というもので説明できます、立体交差…」
そのまま話を続けようとするリン。難しい話はごめんだ。立体なんちゃらについてはよく分からないが、異世界であることは分かった。
「異世界であることは理解した」
リンは説明を続けていたが話を切る。
「それでなんで納得できちゃうのよ?ここが異世界なんてありえないじゃない。科学的には証明されていないのよ?」
納得してるわけではない。ただここが異世界じゃないと色々と説明できないことが出てくるからだ。しかし千鶴の言うことも最もだ。異世界いわばパラレルワールドは科学に未だ解明されていない。
「いや、だってリンが説明してくれたじゃないか。立体なんちゃらの世界だって。信じるほかないだろ」
「どうしてこう順応性が高いのかしら…」
「順応性はないよりあった方がいいだろう?それに順応性がないとストラテジーゲームはできないからな」
ストラテジーゲームはあらゆる場面が想定されている。そのため臨機応変な対応ができないといけない。
「高すぎるのも問題なのよ」
呆れたような声で千鶴がつぶやく。他に説明がつけられないんだから仕方ないじゃないか。
「あのー…話を進めても?」
小さな言い合いをしているとリンが横から困った様子で入ってくる。そういえば話の途中だった。俺は頷き合図を送る。それを受け取りリンは話を続ける。
「今この国は長年王が居なかったため衰退しています。貿易は滞り、農産物は不作。国民は飢えと貧困に悩まされています」
ここまではよくあるような話だ。一つの国として成立するには、その国の代表を決めなければならない。しかしよく王が不在の中で反乱とかが起きなかったものだ。
「長年ってどのくらい居なかったんだ?」
「約500年でしょうか?」
「「500年⁉︎」」
千鶴とハモる。いやいや500年はまずいだろ。よく他の国が戦争を仕掛けて来なかったな。よく国民はここまで耐えてこれたな…普通滅びるだろ。
「王ってどうやって決まるんだ?500年も選挙とかしてたわけではないだろうし、普通だったら王の子孫とかが引き継ぐものだろう。500年っていうのはさすがにおかしい気がするぞ。王の一族滅びたりでもしたのか?」
「その通りですね」
おいまじかよ。王の一族が滅びるということは、政権交代と同じ意味合いなのではないのか?他の貴族とかが相続争ったりするものだと思うが。なぜこの国ではそれが起きない?
「王になるためには、何か条件が必要なのか?」
「はい。条件と申しましても非常に簡単で、異世界の住人であることだけです」
ちょっとまて。その条件が前からあったとしたら、前国王も異世界の住人なのではないのか。そうなれば帰れる糸口が見つかるかもしれない。
「その条件に前国王も当てはまってたのか?」
「はい。そのように聞いてます」
ってことはやはり異世界の住人なのか…しかし前国王の在位は500年前。もしAEが関与しているのであれば明らかにおかしい。AEの親会社ができたのが約30年前だと聞く。到底500年前には届かない。前国王は一体何者だったんだ?リンに聞くしか今は伝がないか…
「他に前国王について何か知らないか?」
「そうですね…前国王は枝豆というものが好きだったと聞いています。よくお酒と一緒に食べていたとか」
枝豆を酒の肴にして食べていたってことは…
「恐らく、日本人ね…」
今まで大人しく俺とリンの会話を聞いていた千鶴が入ってくる。
「その可能性が高いな」
素直に同意する。
「そういえば、千鶴はここに来る前に何をしてたんだ?」
恐らくここにきた原因を作ったのは俺だ。しかしなぜ千鶴までここに飛ばされたのか?
「そうね…確か生徒会室で書類の整理をしてたわね」
「ということは俺の教室の上か…」
偶然上にいたから飛ばされたのか?いや偶然で片付けるのは何かが違う。それだったら教室の中にいた人たちの方が近いはずだ。
「ここに飛ばされた理由について心あたりがあるの?」
「ああ、多分俺のせいだ」
正直に言ってしまう。言った後で後悔する。
「やっぱり、そんな事だろうと思ったわ」
意外とさっぱりしていた。もっとこう「あなたのせいで!」みたいな感じになるかと思っていた。
「なんかさっぱりしてるなお前」
「順応性よ、順応性」
便利な言葉である。確かに高すぎるのもダメだな。
「で、どんな心当たりがあるのかな?」
凄い笑顔で問いかけてくる千鶴。逆に恐い。やっぱり怒ってらっしゃった。説教は受けまいとリンに話をふる。
「それで、なんで俺たちは飛ばされたんだ?何か理由があって飛ばされたようにしか思えないんだが」
テキトーに流した質問だったが、なかなか的を捉えているようなきがする。
「はい。理由はちゃんとあります。お二方にこの国の王と女王になっていただくためです」
最初にそう呼ばれてもしかしてとは思っていたが、やはり王と女王とは自分たちのことだったのか。まだここにきて時間が経ってないのに王になれというのはいきなりな気がする。それに理由になっていない。家でストラテジーゲームをするためにβテストに応募しただけだし、なるとしても情報が少なすぎる。何より元の世界に戻りたい。家で気軽にストラテジーゲームをするのとは勝手が違うのだ。
「俺は元々居た世界に帰りたい。この国の王になる理由がない」
「理由ならちゃんとありますから!」
必死に訴えてくるリン。
「前国王が残した文献に、16の駒に適する人材を揃えこの世界の終わりを目にしたとき、帰れる道は開かれるだろう。と記されています」
そんな文献があったならもっと早く言って欲しかった。
「16の駒っていうのはチェスのことかしら?」
早くも文献の謎を解き明かそうとする千鶴。自分も思考を働かせる。
「ああ、多分そうだろうな。16の駒を揃えってことは、キング、クイーン、ルーク、ビショップ、ナイト、ボーンに似た役職を揃えればいいんだろうな」
役職を揃えると言っても駒には色々な意味が存在していると聞く。
「キングとクイーンは当然王と女王よね。ビショップは僧正、ナイトは騎士、ボーンは歩兵として。ルークはなんなのかしら?」
「ルークは城とか戦車だな」
「そういうことじゃなくて、人材を揃えろって前国王の文献には書いてあったのだから、城や戦車だと人材にならないんじゃない?」
言われてみればそうだ。僧正にしてもそれに合う役職とは一体なんなのか。この国に宗教があれば別だが…
「リン」
「はい?」
「この国…いやこの世界に魔法って存在するか?」
「はい。もちろんありますよ」
「もうなんでもありね…」
千鶴が再び呆れる。対象は違うけど。
ここで考えていても仕方ない。もっと情報が欲しい。千鶴も意図が分かったらしく頷く。リンはなんの話かさっぱりのようで、頭にハテナマークを浮かべている。そこで気づく。リンはこの世界のことについて多くのことを知っているようだ。サポート役が色んな情報を持っているのはいいことだ。しかし違和感がある。AIと喋っている気分だ。ここまで知っているってことは帰る方法とかも知っている可能性がある。そう思いリンに問いかける。
「一つ聞きたいんだが、何故そこまでの情報を知っている?」
「な、何故って言われても…」
明らかに何かを知っている反応だ。さらに追及する。
「何を隠している?」
「そ、それは…」
さっと何かを隠すように見えた。それが何かは分からない。本のようなものだったが。
リンは目をキョロキョロさせながら、後ずさりをする。しかしすでに後ろに回っていた千鶴が隠していたものを奪った。咄嗟の連携。
「よくやった!」
「当然よ」
自然と息が合う。隠していたものを奪われたリンは、口をパクパクさせて千鶴から取り返そうとするが、いささか背が足りない。やはり本のようだ。
千鶴は手を上にあげたままその本を開く。
「それにしても大きな本ね。何が書かれてるのかしら?えーと、題名は…王様接待マニュアル…?」
マニュアル?なるほど、そういうことか。さっきの違和感はそのマニュアルを台本にして読んでいたからか。その題名を聞いた途端リンの動きが止まる。そして諦めたのか地面に座ってしまった。
「そうですよぉ…マニュアル通りに読んでいただけなんですよぉ。だって博識な天才美少女って思われたいじゃないですかぁ…」
泣きそうになりながら語るリン。
この光景を何も知らない人が見たらイジメの現場と勘違いするだろう。しかも相手は中学生くらいの女の子である。逮捕待った無しだ。
リンが持っていた本は別に重要なものではないらしい。リンにとっては重要なんだろうが。幅が10センチはありそうな本をどこに隠していたのやら。
「それを全部暗記していたのか?」
「はい。全てと言うと嘘になりますが…」
未だに泣きそうになっている。なぜそこまで気を落とすのか。
「全部覚えてるのか…記憶力は天才かもな…」
おもったことをつぶやく。リンはその言葉に真っ先に反応する。
「そうですよね⁉︎やっぱり私天才だったのかも…あっそうだ私計算も得意なんですよ!」
聞いてもいないことを言い始めるリン。計算が得意なのか…ちょっと試してみるか。
「675の2乗は?」
さりげなく、さっと浮かんだ数字をいう。かなり大きな数字になるであろう計算だ。出した俺でも分からない。いくら計算が得意と言ってもこれは無理だろう。
「455625です!」
ほぼノータイムで答える。自信満々の顔だ。まじでリンの計算能力は天才的みたいだ。まぁ答えが分からない以上断定はできないがな。後でちゃんと計算しておくか…
「すごいわね…合ってるわ!」
ここにも天才がいた。普通じゃありえない計算能力だ。そんなに同意を求められても鷹斗には答えがわかってない。故に何もできない。
「それで話は戻るが、俺たちが帰るにはその条件をクリアしないといけないんだよな?」
「そうなりますね」
さっきまで優越感に浸っていたリンがすぐ正気に戻って応答する。
「仕方ないか」
「それしか今のところ方法がないのよね」
鷹斗たちは覚悟を決める。
「じゃあ!」
リンは目をキラキラさせている。
「ああ、王になってこの世界の終わりとやらを見てやるよ」
その言葉と同時に反応しなかった携帯が鳴る。何事かと思い携帯の電源を入れる。そこに表示されていたのは、この世界に来る前に設定していた初期の場面 「ここを拠点としますか?」という文字だった。一瞬戸惑う。ここでイイエを選択したらら元の世界に戻れるのではないのかと。しかしもし戻ったとしても千鶴が戻る確証はない。指は「ハイ」の文字を押していた。
皆さんどうもエイカです。
王の誕生ということでこれから話が展開していくのですが私の場合超展開が売りなのでそこを楽しんでみてください(笑
さて話は変わって私はバス通勤なのでバスに乗っていたのですが、隣になかなかふっくらしている方が座ってきたんですね。別に座る分には問題ないんです。ですがその後に居眠りを始めたんです。しかもこっちに倒れながら。窓とその方に潰されそうになりながら乗っていたのです。しかもバスの終点まで…そのバスの終点がまた地獄で、ターミナルみたいになっている終点のバス停をグルグル回るもんですから遠心力でさらに倍加。死にもの狂いでなんとかバスを降りることが出来ました。生きてるって幸せですね。
まぁそんな中でも小説を書くのはやめないんですけどね…
話が長くなりましたが、次の話は来月の始めを予定しています。また読んで下さるとありがたいです。
ではその時にバイバイ(つД`)ノ
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