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6話:クラスメイトの非日常

 漫画を見ていると時々感じる事は無いだろうか? 何故、主人公がモテまくるのか?  何故主人公は絶対に勝利するのだろう? それは主人公だからである。物語の主軸となる人物なのだから当然だろう。時に苦戦する事はあるだろう、だが最後には必ず勝利を掴む。それが恋愛だろうと戦いだろうと……


 誠一郎はクラスをボーッと眺めながらそんな事を考えていた。何故か? それは目の前にそんな光景が広がっていたからだ。


そう一人の男を取り合うように、美少女達が3人ほど集まっているからだ。その光景を見続けていると何か違和感を感じ始めるのでは無いだろうか? ノノが誠一郎の家に住んでいると分かっただけで妬みを全身に受けるこのクラスの中で、この様なハッピー野郎が平和に暮らしていると言う事に……


 その光景は女を侍らして欲望に塗れているようにしか見えない。しかし、どこか清いお付き合いをしている風に見えてしまうのだ。そう、これこそが主人公が持つ独特の雰囲気なのだ。一度形成された雰囲気に最早誰も声を上げる事は出来なくなってしまっているのだろう……


 そんな事を考えているとノノが誠一郎の隣へとトコトコと歩いてきていたのであった。


 誠一郎がノノの視線を送るとまるでゴミを見る様な目をしていたのだ。ファンクラブ会員の時でもこんな表情を見た事がない。まだ見慣れていないノノにとって違和感を感じるのは不思議ではない。


「誠一郎、あれは何じゃ。あの男にまるで吸い寄せられるように女達が集まっておるのじゃが……」

「あぁ、あいつは山田太郎。何故かモテる普通の中学生さ。小学生の頃はあんな事はなかったらしいんだがな」

「ほぅ……」


 誠一郎のその言葉を聞いて、成程と言った表情を浮かべている。まるでゲーム中盤でお得な情報を教えてくれるモブのようである。これは期待しても良いのでは無いかと考え誠一郎はノノに言葉を投げかける。


「あいつのモテる理由に何か心あたりでもあるのか?」

「フッ」


 不敵な笑みを浮かべて口を開くノノの姿に期待は膨らんでいく。ノノは本当は馬鹿なのでは無いのか内心侮っていたが、これは評価は変えなければならないと誠一郎は一人思う。そんな内心を他所にノノは口を開いた。


「さっぱりわからんのじゃ!」

「お……おぅ」


 あまりに思わせぶりな態度から、このアホな発言を引き出してくるところがノノであると言わざる得ない。その姿を見て誠一郎ほほんの少し安心していたのである。


「さっぱり分からんのじゃが……あれが普通では無い事は分かるのじゃ。教室内で堂々とイチャイチャしおって。あやつ先程、あの金髪の女子おなごと接吻をしておったぞ」

「ぶふぅ!」


 その言葉を聞いて誠一郎は不意に口に含んだ牛乳を噴き出してしまった。ノノの顔面にぶっかけられた牛乳。その光景にノノはジト目で誠一郎を見つめている。


「これは謝罪を要求するのじゃ! よって今夜はオムライスなのじゃ」

「わかった、わかった俺が悪かった。だからそんな顔をするな」

「分かればよろしいのじゃ。それでは今日の晩御飯は期待しておるぞ」


 むすんと鼻息を荒げる。結局そのまま食べ物の話になってしまい山田太郎教室の中でキス問題は迷宮入りとなってしまったのであった。


 そんな事を言いあっている内に休み時間は終わってしまったのであった。誠一郎はもやもやとした気持ちのまま、そのまま授業に突入してしまう。授業中ノノへと視線を向けると鼻提灯を作っているその姿を見ると何処か馬鹿らしくなってきた。あの山田太郎がどれだけモテようと誠一郎には関係の無い事、そう思えてくるようになってきた。


 そんな考え事をしていると授業時間などアッと言う間に終わってしまう。授業終了のベルが鳴り、生徒達は口々に「あー終わった!」と今日一日の疲れを労っている。普段なら誠一郎は荷物をすぐに片付けて、一番に教室から飛び出していたのだが今日は違う。


 山田太郎の話を思い出したからだ。誠一郎が視線を山田太郎の元へ向けると、既に4人の女性に囲まれていた。小学生かと思えるようなロリ少女から、金髪のグラマラスお姉さんと黒髪の小悪魔系お姉さん眼鏡を掛けた隣のクラスの委員長まで、美少女揃いだ。


 その様子を見ていると誠一郎は驚愕する! 金髪お姉さんが山田太郎の背中に胸を押し当てている。何ともうらやま……けしからん! と思いながら誠一郎は凝視している。その様子を見て隣のクラスの委員長は「何をやっているのよ!」と怒っているが、よく見ると山田太郎の手をこっそりと握っている。


 クラスの中で堂々と繰り広げられているラブコメ空間にいたたまれず、誠一郎はノノへと視線を向けると、ムスっとした顔をしている。何に不満があるのだろうと誠一郎は首を傾げ、ノノの様子を伺っている。そして徐に服部と渡辺の手を取り、誠一郎の方へと進んでくる。二人を誠一郎の左右に配置して、自分は誠一郎の後ろに待機している。何となくやりたい事が分かった誠一郎は口を開く。


「諦めろ……今お前がやろうとしている事をするときっと後悔する事になるぞ」


 ぎくりとノノは全身を震わせる。ノノは目の前で繰り広げられている状況に対抗しようとしている。だがしかし、ノノには足りない物がある。それは押し付ける物が無いのである。そんな悲しい状況にならないように誠一郎は牽制をする。


 その様子を見ていた金髪お姉さんは何処か誇らしげな表情である。何なんだこのやり取りは? と誠一郎は深いため息をつく。ノノはワザとらしくハンカチを取り出し口に咥えて悔しそうにしている。まるで昔の漫画を見ているようであった。


 そんな下らないやり取りを見ている間に山田太郎と囲っていた女性達は教室から出て行ってしまった。こうして教室からラブコメ空間が去っていったのだ。


 いつまでもハンカチを咥えてるノノの肩を渡辺がそっと叩く。彼女の顔が少し微笑むとノノの口元にお菓子が近づけられる。いつでもどこでも10円で買える麩菓子だ。ベトベトのハンカチを誠一郎に手渡し既にお菓子に夢中である。


 誠一郎は手渡されたハンカチに視線を向けると、酷く嫌そうな表情を浮かべる。それも当然であろう。このベトベトのハンカチをどこに入れて持って帰るのかと言う事だ。仕方ないと言った表情を浮かべて誠一郎はカバンの中から弁当袋を取り出した。閉められた紐を解き濡れている部分を触らないよう慎重に中へとねじ込んだのである。


「誠一郎!」

「なんだよ」

「放課後は三人でお出かけなのじゃ! ケーキ屋なる所に行ってくるのじゃ」

「ったく。ノノ、お前は金持ってないだろ?」


 誠一郎は自分の財布から2000円を取り出し、ノノへと手渡した。ノノにはお小遣いを毎月渡しているが、折角の友達同士楽しんでいけるようになる軍資金の追加投入である。誠一郎自身その甘い性格をどうにかしたいと考えているが、どうにもならないようだ。


「ありがとうなのじゃ!」


 ノノはお金を受け取るとニヘラと笑顔を浮かべて服部、渡辺の所へトコトコ歩いていく。カバンを持って扉まで行くと、こちらを振り向いて手を振っている。クラスの一部男子からは天使の笑顔と呼ばれるほどのスマイルを浮かべてノノは教室を後にしたのである。


「さて……俺も晩の買い出しにでも行ってくるか……」


誠一郎も夕飯の事を思い出し、一人呟く。身支度を済ませた誠一郎はそのまま教室を後にしたのであった。

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