5話:宇宙人とザパニーズニンジャー
「誰なのじゃその女は! 我の晩御飯も作らずにどこおったのじゃ」
家に着いて誠一郎の姿を見たノノの第一声である。知らない女の方とべったり引っ付いて家に帰って来たのだから文句の一つもでるであろう。なにより自分の晩御飯が作られていない事に大層お怒りである。ノノの怒る姿を見た服部はニヤニヤしながら体を寄せてくる。その姿を見てノノのほっぺはぷーーーっと膨れ上がる。怒り心頭のノノは誠一郎に対してグルグルパンチをポコポコと繰り出す。
「ほらほら、怒るんやないで、こいつの足見てみーや」
ノノは血に染まった誠一郎のズボンを見て、鼻で笑う。
「フン、それぐらい対したケガでは無いのじゃ」
「痛たいんだよ! 家主にもう少し優しさを頂戴!」
「見ておれ、『パンピーラ式治癒術一式』」
そしてノノは、突然誠一郎の傷口目掛けて掌底を放つ。ノノの手の平が誠一郎の傷口に叩きつけられた瞬間!
「いてぇええええええ! ってあれ?痛くない」
「フン! これぞパンピーラ式治癒術なのじゃ。傷口をみてみよ。我の力を持ってすれば、それぐらいのなんぞ負傷の内に入らないのじゃ!」
「俺始めてノノがスゴイと思ったわ!」
「もっと褒めるのじゃ! 我はすごいのじゃぞ!」
そのセリフと共にフスン! と鼻息を荒げる。そして満面のドヤ顔を見せた後、ノノはへなへなと地面に崩れ落ちる。そしてノノは誠一郎に力なく語りかける。
「腹減ったのじゃ。はやく支度をするのじゃ!」
「おう。今日はノノの好きなオムライスだ!」
「やったのじゃ! それじゃあ我は風呂にでも入ってくるのじゃ」
「服部お前も食っていくか?」
「ウチもええのんか?」
「おうお前にも助けられたからな。俺の自慢の料理食ってってくれよ」
「そうかー。じゃあ遠慮なく食ってくわ」
「おう!じゃあリビングが待ってろ!」
誠一郎はコトコトと煮詰まる鍋を見つめながら、リビングの様子を伺う。リビングでは服部とノノが大きなTVの前で某人気レースゲームを楽しんでいる。さっきまであんなにいがみ合っていたのに、いつの間に仲が良くなったんだ? 渡辺以外に仲の良い友達が出来て良かった。その微笑ましい姿をみて思わずフッと笑みを浮かべる誠一郎。二人の声を聞きながら、誠一郎は料理の続きに取り掛かる。
「うわぁーー!」
「なんやこれは! 旨そうやないか?」
「デミグラスソースも時間を掛けて作ったんだぞ! 味わって食えよ!」
「「いただきまーす」」
二人がチキンライスの上に乗った玉子にスプーンを入れると、中からとろりと半熟の玉子が溶け出した。生クリームでほんのり甘く味付けされた玉子がチキンライスと絡まりあい、こうばしい香りが辺りを包み込む。
「おっと飲み物を忘れたから取ってくるわ」
そう言って誠一郎はお茶を取りにいく為に席を立つ。そして戻ってきた誠一郎は目を疑った! 台所へとお茶を取りに行く、その1分ほどの短い間でノノと服部の前に置かれていたオムライスの姿形が無くなっていた。そして二人の口の周りにはデミグラスソースがべとべとについていた。
「お前らぁ……ちょっとは女の子と言う事をだな……」
誠一郎が言葉を発すると、二人はナイフとフォークを握りしめ、「おかわりはよー」と要求してくる。
「俺何も食べてねえからちょっとは食わせろよ」
「おかわりはよー」
「お・か・わ・りはよー」
二人の要求する声は徐々に大きくなっていく。誠一郎がオムライスを食べている姿をみて、思わず涎をたらす二人。彼女らの眼光は徐々に鋭くなっていく。それに耐え切れなくなった誠一郎は、
「わーったよ。作ればいいんだろ! 作れば!」
満面の笑みを浮かべて頷く二人を見て観念した誠一郎は自分のオムライスを半分以上残し、台所へと向かう。その姿をみた二人はお互い、取り合うように誠一郎が置いていったオムライスにがっつく。顔中べとべとにした二人が後ろにいるかと思うと悲しくなってくるぜと思いながら台所へと帰っていく。そんなやり取りを3回ほど続けてようやく二人は満足したようだ。どうやら口の周りについたデミグラスソースはふき取ったようだが、そのぼっこりと出たお腹が女として一抹の不安を感じさせる。
二人は椅子から立ち上がり、のそのそとリビングへと歩いていく。ソファーへと飛び込み二人はすぐに眠ってしまった。
「太るぞお前ら……」
そう呟いた誠一郎は自分の部屋から布団を取ってきて二人にかけてやった。スヤスヤと眠る服部の姿をみて、誠一郎は一人思う。こいつ、明日学校どうするんだろう? と……
次の日の朝、誠一郎はいつものように朝早く起き、朝ごはんの準備をしている。目玉焼きを焼く音がリビングへと響き渡り、鼻をスンスンと動かすノノ。そしてノノは目を擦りながらゆっくりと起き上がる。ふとノノは横に視線を向ける。そこには昨日一緒にソファーで寝た服部の姿が……ない!?
ノノは周りをキョロキョロすると、キリッとした顔で服部が朝ごはんはまだかと視線を送る姿がそこにあった。服部はどんどんと作られていく朝食に目を輝かせていく。
「「いただきまーす!」」
誠一郎によってベーコン、目玉焼き、サラダ机の上に並べられた。昨日の夜に食べ過ぎたのか、二人はこの軽い食事で満足したようだ。食事も終わり服部が爪楊枝で食べかすを取っている。その姿をみて、誠一郎は、ふと疑問に思った事を服部に問う。
「服部、お前今日の学校の準備はどうするんだ?」
その言葉に服部の体はびくりと反応する。そしてプルプルと震えながら彼女は口を開く。
「も……勿論考えとるで、ええもん見せたるさかい」
その言葉と共に服部は自らのポケットを弄り始める。お目当ての物が中々見つからないのだろう「アレ? あれ何処いったんや」とブツブツと呟いている。
「おっ! あったで! これやこれ」
彼女のその小さな手には、何処か高級感を感じさせる巻物が存在した。服部はそのまま縛られた紐を解くと地面に巻物を大きく広げる。中には墨で書かれた文字がびっしりと詰まっており、彼女はその巻物をジッと眺めながら指を動かし始めた。まるで忍者マンガで見た様な印を結んでいる。
印を結び終わった彼女の口角が上がり、巻物の中心に掌を勢いより叩きつけたのであった。
「口寄せの術や!」
その言葉と同時に巻物から煙が巻きあがり、彼女の手元が見えなくなってしまう。そして暫くすると煙がはれ、彼女の手には学校の教科書が握られているのであった。
「どうや! すごいやろ! 一般人には見せんのやけど、あんたらは特別やで」
得意げにそう語る彼女の姿を見てノノは瞳を光らせている。テレビでしか見た事がない忍者を目の前で見れたのだから仕方の無い事だ。誠一郎もまた同様に感心している。だが誠一郎はふとある事に気付いてしまう。
「おい服部……」
「なんや? どないしたんや」
「その教科書、俺の名前が書いてあるんだがどういう事だ」
「………」
その言葉を聞いた服部は動揺したのか、驚愕の表情を浮かべ手にした教科書をぽろりと落としてしまう。パサリと開いた教科書には誠一郎にとって見覚えのある落書きが書き込まれていた。そう戦後の日本に襲来したあの軍人の哀れな姿だ。彼の髭はもっさりとしており、頭からは巨大な二本の角がそびえ立っている。そして軍服は真っ赤に染め上げられている。何故そんな事になっているかって? それはマッカーサーの服は真っ赤さと得意げに友人に語るつもりだったのだ。
そんな下らない事は差し置いて、彼女の手には誠一郎の教科書がある事だ。
「おい……」
「冗談や、冗談。これを見てみ」
反対側の手には服部と書かれた教科書を持っていたのだ。まるで手品のようである。
「すごいのじゃ! どうやったのじゃ!」
「企業秘密やで」
ノノはその姿を見て興奮醒めやまないようである。鼻からフスンと強い鼻息が飛び出している。服部は何処から出したのか分からないが学校に持っていくカバンまでも手にしていた。その様子を見て、彼女は本当に忍術なるものを使っているのだろうと言う事を誠一郎は実感したのである。
「さて、そろそろ学校に行くで」
「そうだな」
「我は準備万端なのじゃ。早く準備するのじゃ」
この一連の話の何処で登校の準備をしていたのか、甚だ謎ではあるがノノは制服に着替えて誠一郎に向けて指を向けて声を掛けている。そんな姿を見た誠一郎は先程までの忍術など、忘れてしまったと言わんばかりの表情を浮かべ、返事をする。
「そうだな……おい服部行くぞ!」
「せやな」
いそいそと身支度を整えて、誠一郎達は学校へ向かっていったのだ。スリルとサスペンスな一夜はもう終わりだ! と言わんばかりの日常が帰ってくる。誠一郎はそんな事を考えながら歩みを進めるのであった。
そう、女の子二人に挟まれて学校に登校している姿が同級生に見つかり激しい妬みに巻き込まれるとはこの時は知る由も無かったのだ……