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4話:侵略者の日常、家主の非日常

ノノが学校に通い始めて一週間くらいがたっただろうか……


 もうノノのいるクラスに違和感を感じない。休み時間にクラスの女子にヌイグルミの如く抱きつかれてブスッとしている姿はもう見慣れた景色である。ブスッとした顔がカワイイと評判らしい。


 家では、「毎時間抱きつかれて暑苦しいのじゃ」とぶつくさ文句を言ってはいるが、どこか嬉しそうだった。


先生達の評判もすこぶる良い。初日で見せ付けた頭の良さ、そして意外にも真面目に授業を受ける姿、そんなノノを先生達は、最初は不信がっていたが今では高く買っている。


学校全体としての人気も高い。誰が言い出したのか知らないが密かにファンクラブが作られるくらいだ。


 ノノ非公認ファンクラブは会員数が50人所属しており、これは全校生徒の10分の1にあたる。誠一郎もこのいかがわしい会については認知しているが、闇に潜んだファンクラブだ。調べても調べても雲を掴むように尻尾を見せない。


 ただファンクラブがある! その事実のみしか調べ上げる事は出来なかった。


「ノノ様! 俺を踏んで下さい!」

「ノノ様! ぼ…僕を罵って下さい!」


さあ家に帰るぞ! とクラスの扉を開いたノノ。視線の先にはひ弱な少年達がノノに向かって懇願してくる姿。もはやウンザリだ! と言わんばかりに苦悶の表情を浮かべる。クラスの女子にぬいぐるみの様に抱きつかれるのは満更でも無いようだが、やはり変態の彼らを我慢することはノノには出来なったようだ。そりゃそうだ俺もこんな変態、勘弁だわと誠一郎は思う。


ノノはその変態共を、本人いわく鋭い眼光で睨みつけ、ポカリと殴る。


「ありがとうございましたぁぁぁ!」


その時の変態共が浮かべる笑顔はノノには忘れられないだろう……


 そしてしばらく経ったある日、ノノはいつも通り学校へと登校していた。もうすっかり桜の花びらが舞い散ってしまい、緑あふれる木々が道を覆いつくす。肌に心地良い風が優しくそよぎ、木々が美しいメロディを奏でる。そんな中、誠一郎とノノは楽しく雑談しながら、道を歩く。


学校の門をくぐり抜け、登校時に良くあるざわめきを聞きながら、二人は下駄箱へと歩みを進める。途中何度もノノが女の子達にもみくちゃにされている姿を見かけるが、これもまたいつもの風景である。


「なんじゃこれは?」


ノノが靴箱を開けた時、一通の手紙がペラリと地面に落ちる。よく分からない手紙ではあるが、もう先に誠一郎が教室に向かってしまって聞くことが出来ない。訳も分からずその手紙をカバンの中に入れて教室に向かう。


そして次の休み時間悲劇が起きる。そうアレは悲しい事件だった……


「誠一郎! 朝いきなり下駄箱にこんな物が入っておったのじゃ」


誠一郎がその手紙をチラッと見ると、手紙の裏にはハートマークのシールが貼り付けてあり、はがすと中から手紙が出てくる。それをすかさずノノは引き抜き……


「こんにちは、ノノさん。私は始めて会った時からあなたの事が好きでした。伝えたい事があるので校舎裏に一人で……」

「やめろぉぉぉぉぉぉ! もうやめたげてぇぇぇぇ!」


誠一郎は突然音読を始めたノノから手紙を取り上げて、その悪魔の所業を止めさせる。クラス中がざわめき立つ、特に女子から「キャー、何々!」と言う声が響き渡る。そしてぞくりと不穏な空気を感じ取った誠一郎は辺りを見回す、いや見回してしまった……誠一郎の親友である坂東の顔が真っ青になり、表情からは生気が抜けて落ちている。「ラブレター出したのお前かよ!」と心の中で突っ込みながら、優しい視線を送る。そしてクラスの何人かはその現状に気付き誠一郎は同じく優しい視線を送る。悲しみを背負った坂東に更なる追撃がくる。


「今の手紙は結局なんじゃったのじゃ?」

「あれはラブレターと言ってノノと付き合う為に送った手紙だ」

「付き合うとはなんじゃ? 婚約する事なのか?」

「まあそんな所だ」

「そうか、分かったのじゃ。それじゃあその手紙を貸して欲しいのじゃ」


ノノは手紙を受け取ると、ビリビリと破り始め小さくなった紙切れをゴミ箱に捨ててしまった。


「直接、我に言えない根性無しなんぞ相手にせんのじゃ」


そういって自分の席へと戻る。当の根性無し代表である坂東は瞳に涙を浮かべて何処かへと走り去っていく。その姿をみたクラスメート達は、坂東の机に自分の持っていた飴などのお菓子を置いていく。よく見ると一枚の紙切れが置かれ、振られてもめげずに頑張れよと書かれた紙が置かれている。あいつら容赦ねえなと思いながら誠一郎もそっと自分の持つ飴を机の上にのせていくのであった。


 そしてこの事件の後、ノノの下駄箱にラブレターが入ることは二度と無かった。坂東は人柱となり、ラブレターの使用は悲劇を呼ぶと言う事を学校中にしらしめたのだ。ノノに気がある人達は「危険を知らせてくれてありがとう!」彼の偉業を称えた。


しかしそれからが問題が怒った。3日に1度くらいのペースでノノに直接アタックする人達が増えてしまったのだ。告白した男性の全てはノノに「付き合う気は一切無い」と一刀両断されて帰っていく。そして誠一郎はこの惨状を見て思う。この学校ロリコン多いんだな、と……


 そんなモテモテなノノにも、学校の中で心を許せる友達が出来た。名前を渡辺香奈わたなべかなと言い、見た目は日本の三つ編みが特徴の文学少女である。大き目のメガネが彼女のチャームポイントで、はたから見たら、かなり真面目そうである。そして実はノノが来る前まではクラスの男子で密かに人気であった。なぜ人気かと言うと、彼女の持つ大きな胸が理由の全てである。どれだけ人気かと言うと、ノノが入学する前日に坂東が告白して、豪快に振られ学校中を騒がしたくらいである。坂東が振られた時「あなたに興味無いです」と返事した毒舌っぷりは見た目のギャップから周囲を驚かした。それにしても渡辺に振られてスグにノノに告白とは、我が親友ながら最低だなと渡辺を見て坂東の所業を振り返り誠一郎は思った。


ここ最近学校の授業が終わった後、ノノは渡辺と一緒に遊びに行くのが日課だ。


「かなー! 授業終わったから遊びに行くのじゃ」

「はいはい、今片付けるからちょっと待ってねノノちゃん」

「わかったのじゃー!」


ノノは初めて出来た友達と遊びに行くのを楽しみに待つ。毎日貰っている1000円の軍資金を元に今日は何処へ行こうか悩むノノである。渡辺が荷物を片付け終わりノノの席へと近づき、一言「いこっか」と声を掛けるパァとノノの顔にほほえみが浮かぶ。


ノノは自分の荷物を持ち、渡辺の手をギュッと掴み外へと引っ張っていく。渡辺はふぅとため息をついてうっすら笑顔を浮かべてノノに引かれるままに歩みを進める。授業が終わり放課後なにしようか? と学校が賑わっている中、二人は学生達をすり抜ける様に校舎外へと出て行った。


誠一郎はそんな友達と遊びに行くノノ姿を見て、「クラスになじんでいるな」と思いながらほっとする。渡辺に心の中ですこしばかり感謝しつつ、誠一郎は坂東をひきつれ帰路へつく。


「それにしても、もう立ち直ったのかよ。あれからまだちょっとしかたってねえぞ」

「へっ! 俺は新しい恋を探すのさ。人は俺の事を愛の狩人と呼ぶのさ」

「残念だったな。お前は今クラスで恋の落ち武者と語られているぜ」

「何とでも言え! お前はカワイイ彼女をつれた俺の姿を見てひれ伏す事になるのさ」

「時々お前のそのポジティブ差をすごいと感じる俺がいる……」


他愛の無い会話を坂東としながら、二人はゲームセンターへと向かう。最近はコインゲームが二人のお気に入りである。二人は自動ドアの前に足を踏み出し騒々しいBGMが耳に入る。ジャラジャラと言うコインの音を聞きながら、二人は分かれてゲームに興じる。坂東はスロットゲームが好きで良い台を探す為に最初はウロウロしている。誠一郎はシンプルなコイン落としが好みであり適当な台を見つけ早速席につく。手持ちのカップには500枚ほどコインが入っており、いつもの様に手馴れた手付きでコインをドンドン投入していく。そして2時間くらい経過した頃だろうか? ついに大当たりを引き当て手持ちカップが一杯になり、新たなカップを何個も持ってこなければならないほどの量が手に入った。誠一郎は坂東の方をチラリと見ると彼の顔つきから戦況はよろしくないようである。コインを少し分けてやろうと席を立とうとすると、ゲーム機を挟んだ反対側から大きな声が聞こえてくる。


「あかん! 全然あたらへんやんけ、どうなっとるや!」


誠一郎はそっと大声を上げている女性客を見てみると、よく知った制服を着ていた……と言うか誠一郎の学校の生徒だった。視線をゆっくり上に上げると、同じクラスの服部彩香はっとりさやかがそこに居た。誠一郎はさっと視線を服部から視線を逸らし、このDQNとは関係ありませんよ、と回りに周知するかの如く、ゆっくりと坂東の方へと逃げ出そうとする。


「何みとるんや! みせもんやないで! って清水やないか。ぎょうさんコインもっとるやないか、ちょっとウチにわけてんか?」


誠一郎の体は一瞬ビクッとなった。気付かれない様にゆっくりと動いていたが無駄な努力。そして何気にコインせびってきてるし……


「おぉ、はっ……服部じゃないか。仕方ないな俺のコイン少し分けて……」


 その言葉と同時に服部の居た所から光が放たれ、誠一郎は思わず目を閉じてしまう。再び目を開いた時には服部が居た所には、デフォルメされた服部の人形が置かれていた。何を言ってるのか分からないだろう? 俺も分からないそういった表情を浮かべる誠一郎の横には、さっきまで誠一郎の手にしっかりと持たれていたコインカップを強奪した服部がニヤニヤとした表情を浮かべなが立っていた。


「ニヒヒ、ありがとな。じゃあ増やしてくるで!」


満面の笑みを浮かべた服部は誠一郎から奪ったコインを抱えて、ゲーム機の向こうへと消えていく。謎の多い奴だと思いながら誠一郎は、坂東の様子を見に行く。


「調子はどうだ坂東」

「良い訳ないだろ! 見てみろよこのコインカップ空っからだぜ。ちょっと分けてくれよ」

「さっき大当たりしたんだけどな。偶然向かいにいた服部に知らない間にコインを強奪された」

「なんだそりゃ? 詳しく教えろ」

「お前に言ってもわからねーよ。俺もわかんねえんだから」

「まあいいや。俺もコイン無くなったし帰ろうぜ」


二人はその後ゲームセンターを後にした。建物から出るともう日が沈み周りは暗くなり、丁度一つ、また一つと外灯に明かりが灯る所を誠一郎は眺めながら帰路につく。人気ひとけの無い道を誠一郎が通り過ぎようとした時、ビルの隙間から無精髭を生やし、焦点の合わない男性が飛び出してくる。とっさに避ける事も出来ず激突してしまい、男性が持っていたアタッシュケースは宙を舞い地面へと落下し、その衝撃で蓋が開く。中から白い粉の入ったビニール袋が零れ落ちる。俺がその白い粉に目をやっているいる事に気付いた男性は、口を開く。


「みたな……」

「えっ?」

「もしかして、お前は組からの差し金か? そうだ! そうに違いない。俺の顔とブツを見られたからには生かしておく訳にはいかない」


男性はおもむろにスーツの内ポケットに手を突っ込みだした。スーツから引き出された彼の手には拳銃が握られていた。ガタガタと震える手で誠一郎に向かい銃を構える。相変わらず焦点の合わない目で誠一郎を見続ける。


「お前が、お前が俺の人生をめちゃくちゃにしたんだ!」

「な……なにいってるんだ? お前とは初対面じゃねえか」

「う、うるさい! 俺は何でも出来るんだ。お前だって簡単に殺せるんだ」

「これはやばいな」


誠一郎は男性に背を向けて一目散に走り出す。「誰かー! 助けてくれ!」と大声で叫んでも誰も来ない。おかしい! 日が暮れたとは言え、まだ夜は浅いにも関わらず幾ら叫んでも反応すらないのは明らかに不自然だ。しかしそんな事を深く考えている余裕は誠一郎には無かった。銃声が響き渡る中、走り続けているのだから当然である。そして逃走劇は誠一郎の足に弾丸が掠める事により終わりを告げた。


「アヒィヒィヒィ。もう逃げる事は出来ないぞ! お、お、俺をバカにするとこうなるんだヒーヒッヒヒ」


男性は誠一郎の眉間を狙い銃を構える。ガタガタ震える指の音が誠一郎には聞こえてくる。


「なんだよそれ…誰か! 助けて」


誠一郎がそう叫んだ時、真上から女性の声が聞こえる。


「清水! 横に転がるんや!」


その言葉が聞こえた瞬間、男性の視線は真上へと反れる。今がチャンスだ! と言わんばかりに誠一郎は聞こえた通りに足の痛みに耐えながらゴロゴロ横へと転がった。そして真上を見た誠一郎はキラリと輝く何かを目撃し、その後地面と何かが接触する音が辺り一面に響き渡る。


「痛い!痛いよー! 俺が何をしたって言うんだ! 腕から血が出てる!あぁぁぁぁ」


男の腕の手に握られていた拳銃がポトリと落ち、そして手の甲から血がポタポタと垂れ落ちる。更に男の頭にボールの様な物が落下し直撃すると、ボールは破裂し中から煙のようなものが噴きだす。瞬く間に男の顔を包み込むと、男は膝をつきバタリと音を立てながら地面へと倒れた。


「ほんま間一髪やったな! にひひ、これでゲームセンターの借りは返したで」


その声を聞いた誠一郎は上へと視線を向ける。視線の先には、まるで地面の様に壁を歩いている服部がいた。服部が誠一郎の横に立つと、そっと倒れている誠一郎に手を差し伸べる。服部は見た目に反して力強く誠一郎をひっぱり上げる拍子にワザとかは分からないが力加減を誤って、服部の胸に誠一郎の顔をうずめる。


「にひひ、大サービスになってもうたな。それじゃあ帰るでー」


名残惜しいが、誠一郎は胸から顔を離し地面に倒れ伏した男を指差し


「あそこでぶっ倒れてるおっさんはあどうするんだよ! あれもしかして死んでるんじゃないのか?」


服部はその言葉を聞いて、豪快に笑い出す。


「はーはっはっ! 何言うとるんや! さっき舞い散った粉みたやろ。あれを吸って寝とるやだけやで」

「ってこれ寝てるだけか? それなら良いが……」


なんでこんなに笑われたんだ? と腑に落ちない誠一郎だが、弾丸を掠めた足も痛いので服部の言う通り家に帰る事にした誠一郎はズボンに血が滲んだ片足を引きずりながら歩き始めた。ズキリと足が痛み苦悶の表情を浮かべる誠一郎を見た服部は、そっと誠一郎の隣に立ち


「ほんま自分辛いんやったら言いーや! ほれ肩貸したるさかい」

「すまねえな服部」


そして襲撃してきた男をその場に置き去りにして、二人は誠一郎の家へと向かってゆっくりと歩き出した。一夜の怖い体験だったな……と今日の出来事について誠一郎は考える。しかし、こんな事件など、これから巻き込まれる騒動の始まりに過ぎないという事を、この時の誠一郎には知る由もなかった……


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