3話:学校に襲来した宇宙人
「我はノノ・バンピーラじゃ! これからよろしく頼むぞ」
突然現れた転校生ノノに誠一郎のクラスの生徒達はざわめき始める。見た目は金髪幼女の女の子が突然高校に現れたのだから無理もない。クラスの男子達は彼女にするためにぜひお近づきになれるようにと、カワイイ物好きの女子達は、ぜひお友達になりたいと考える。
クラスの雰囲気を察した先生はノノに対しての質問タイムを設ける事を思いついた。
「皆さん、どうやらノノさんの事が気になるようですね。皆ノノさんに聞きたい事ありますか?」
先生のその言葉を聞いた生徒達は一斉にノノに対して質問を投げかける。
「どこからきたのー?」
「その綺麗な髪ってどうやって手入れしてるの?」
「今どこに住んでるの?」
「今付き合ってる人はいますか?」
「好きな食べ物は?」
次々とノノに対して質問を投げかける。クラスの男子も女子も聞きたい事が山盛りあるようだ。先生は思わず
「ストープ! そんなに一遍に聞いてもノノさんが答えられないでしょ」
「ふむ、まずは答えられるとこから答えるのじゃ」
「えっ!?」
「どこから来たかと言うとじゃな。地球から300万光年離れたアストラル星雲から来たのじゃ。次に髪の手入れは我が星で製造されたシャンプーとドライアーを仕様しておる。ブランドを言っても分からんじゃろうし詳しくは言わないのじゃ! 今どこに住んでるかじゃったな、今は誠一郎の家に住んでいるのじゃ」
ノノがその質問を答えた瞬間、クラス中の視線が誠一郎に向く。羨望、嫉妬などの視線を突然浴びた誠一郎の背中から滝のように汗が流れ落ち、恐ろしい未来が容易に想像できた。誠一郎は皆からの視線から逃れるために窓の外に視線を外し、俺は何も知らないと言う表情を浮かべているが、もはや手遅れである。そんなやり取りをしている間にもノノ自己紹介は続く。
「付き合っているとは、恐らく婚約の事をいっておると思うのじゃが、今の所はまだ居ないのじゃ。最後に好きな食べ物は、誠一郎が作ってくれたホワイトソースたっぷりのオムライスなのじゃ!」
ノノは誠一郎に向かって親指を立て、場を温めておきましたと言わんばかりに、やり切った顔をしている。あほかー! 俺のクラスでの居心地が悪くなったわ! と心の中で悪態をつく。さっきまで悪魔の様な表情を浮かべていたクラスの仲間達の表情はさっきまでとはうって変わって皆、爽やかな笑顔を浮かべている。
そしてつつがなく一時間目のホームルームは終わる。休み時間、誠一郎は余りの恐ろしさに今日だけはヒッソリと自分の机で誰とも離さず1日を過ごそうと決意した。しかしその目論見はすぐに崩れ去る。
「誠一郎なにをしているのじゃ。我が話しかけておるのじゃぞ」
「お、おぅ。それでどうした」
「次の時間は何をするのじゃ? 準備したいのじゃが」
「次は数学の授業だ。教科書は昨日準備しているからそれ出すだけでいいだろ」
「そうか、わかったのじゃ」
答えを聞いたノノはトコトコと自分の席に戻る。誠一郎がノノの様子を見ると席に戻ったノノは近くの女子達に質問攻めにされていた。人形の様に抱きつかれて、もがき苦しむノノ。
もみくちゃにされて、ノノ表情は徐々にブスッとしてくる。そして時折、ノノは誠一郎に助けを求める視線を送るが、誠一郎は虎の尾を踏まないよう関わってなるものか! と虚空を見つめて固まっている。
数学の授業中、それは起こった。
「ノノ君前に出て黒板に書いてある問題を解いてみてくれ」
「任せるのじゃ」
呼ばれたノノは言われた通りに、黒板へと近づく。黒板に書かれた連立方程式をノノはチラッと見て、瞬時に答えを書く。かなり複雑な連立方程式にも関わらず一瞬でノノが解いた姿をみた先生が唖然とした。
「ノノ君途中式も書いて欲しいのだが……」
「途中式じゃと、我をバカにしておるのかこれぐらいの問題、式など書くまでもないのじゃ」
「………」
そこで黙るなよ先生! 誠一郎はその姿をみてつい心の中で突っ込んでしまう。そして先生の雰囲気も無視してノノは自分の席へと戻る。教卓に残された先生はこの何とも言えない雰囲気を払拭する為に、授業を再開した。席に戻ったノノは意外にも真面目に授業を受けている。知ってるからやる必要は無いと慢心する事など無かった。勤勉なノノの姿を誠一郎は見て、少し関心する。
そんな感じで一日の授業が終了した。そして放課後、運命の時が来た。授業が終了した瞬間、誠一郎は荷物を急いで片付ける。クラスの皆が動き始める前に教室から出れるように誠一郎の動きは今までも見たことも無いほど早い。荷物を全て詰め込んだ誠一郎は機敏な動きで教室の外へと走り出す。
後もう少しで外に出られる! 誠一郎がそう思った瞬間、目の前にある扉がぴしゃりと閉まる。そう、ドアの近くにいる生徒に勝てる訳無いのだ。教室にあるもう片方のドアから2、3人の女子がノノを優しく部屋の外にエスコートしていく。終わった……その言葉が誠一郎の脳裏に浮かぶ。
「さて……詳しく聞かせて貰おうか」
今までも見たこと無い表情を浮かべる誠一郎の小学校からの友人、坂東が俺に向かってそう呟く。その言葉に続くように、クラスの生徒達が誠一郎に向かって少しずつ近づいて行く。それから何が起こったかは誠一郎の記憶からぽっかりと失われていた。ただ思い出したく無いと言う記憶だけが残る。
「どうしたのじゃその顔は」
「気にするな。お前のせいだけど、まぁ気にするな」
「そうなのか?」
ノノは全然納得できないが追及するのは止めておいた方がいいとそう考えた。そして暮れ始める夕日を見ながら、家路に二人は着く。
家に着くとノノは誠一郎の顔を見て、心配そうに声を掛ける
「誠一郎!こっちに来るのじゃ見てるこっちが痛くなってくるのじゃ」
「なんだよ、じゃあ見なきゃいいだろ」
「フッ我に任せるのじゃ」
そう言うとノノは俺の顔に手のひらを向けて近づけてくる。
「パンビーラ流治癒術 ヒーリングオーラ!!」
その言葉同時に手の平から緑色の光がゆっくりと放出される。その光は誠一郎の怪我だらけの顔を覆い尽くす。
「な、なんだこれは? 離れろ、離れろ!」
誠一郎は突然起こった不思議な事態に慌てふためき緑色の光を取り除くように両手を顔の前で右へ左へ振り回す。物質は無いので無駄な努力ではあるが……しばらくして誠一郎は気付く緑色の光に包まれて徐いる所にある傷の痛みが徐々に引いて行く事に。部屋の中に置かれている鏡をみると放課後に負った傷が少し減っている。そして更に他の傷口を凝視すると徐々にではあるが傷が癒えていく姿を確認した。
「ノノこれって……」
「そうじゃ我が直しておるのじゃ! 感謝するのじゃ」
えっへんと言わんばかりの表情を浮かべ、ノノ背はそっている。鼻からはフスンと大きな鼻息が漏れる。今日ばかりは素直にノノこう伝える。
「あ、ありがとう」
「ふむ、ではお腹空いたので我の為に最高のご飯をつくるがよい」
「そうだな、じゃあノノの好物を作ってやるぜ。もちろんホワイトソースをたっぷりかけてな」
フッとノノは小さく照れ隠しをしながら笑い、リビングのソファーに寝ころぶ。そしてボリボリとお菓子を貪り始める。ってメシ作るっていっただろうが! そう思った誠一郎はグッと堪えて最高のオムライスをノノの前に出してやることにした。