紙飛行機にのせて
「ねえ、桃李。今度の休み海に連れてって」
「え!? 海? もう冬だぞ」
「泳ぎに行くんじゃなくて見たいの。そうだなあ。こう崖の上から眺められるようなとこ」
「……いいけど。なんかあったのか?」
心配そうに私を覗き込む桃李。
「何にもただ見たくなったの。ここ、本当に気持ちいいねえ」
お昼のいつもの場所。思い出の場所。桃李との思い出が増えていく。そう、学校いっぱいに増やすんだ。桃李が卒業しても桃李と続けて行くために。思い出の場所をいっぱいにしておくんだ。桜の花が舞い散っても平気なように。
電車に乗り継いでやって来た海!! 私の希望通り一面下に海が見渡せる。
「気持ちいいねえ!!」
「ああ! 寒いけどな」
場所が場所なので風が吹きまくってて寒い。私はカバンからスケッチブックを取り出しページをめくる。あった。ずっと見てなかった。読み返す必要なんてもうない。もう涼の言葉は私には必要ない。だから、ここに来た。そのページを破る。そして、紙飛行機を折る。折り紙や普通の紙と違って分厚いから慎重に折る。出来た!
「アリス、お前それ」
「飛ばすの! えい!」
紙飛行機は海の風を受けて思っていた以上に飛んだ。バイバイ涼。
「これの為かよ」
桃李はしゃがんでスケッチブックを見てる。そこにはたくさんの涼がいる。
「スケッチはいいのか?」
「うん。スケッチはいいの。それは私の作品だもの。でも、さっきのは違う。もう必要ないから」
「今までは必要だった?」
桃李が上目遣いに聞いてくる。
「必要じゃなかったけど、見れなかった。今は見ても心が震えないで、紙飛行機を折れた。飛ばしたかったの海の向こうにいるあいつに。返したかったの。まあ、気分だけどね」
「ふーん」
桃李はスケッチブックを持って立ち上がりパンパンはたいてスケッチブックの砂を落とす。
「ほい」
と、私に渡す。私はそれを受け取り桃李に抱きつく。
「な、なんだよ」
「連れきてくれてありがとう」
「ああ、いいよ。ってか寒い。気がすんだなら店かどっか入ろう」
「ねえ。妬いた?」
桃李の顔を覗き込む。
「妬いてない。なんで妬くんだよ」
「じゃあ、いいよ。少しは妬いてもいいのにな」
「妬いて欲しいのかよ」
「欲しい。少しは」
桃李から離れ腕に抱きつく。
「ああ、もう。妬きました。今頃佐伯の手紙って、なんだよ。その為にわざわざここまで来たのかよって思いました」
「うん。ごめん。ありがとう。じゃあ、今からは桃李との時間だから!」
「あのなアリスここは冬の海だぞ。遊べるとこなんかない!」
「えー!」
「えー! じゃない」
とか何とかいって冬の海辺で少し遊び、近くの店であったまったり。意外に楽しかったけどな。桃李といるからかな。
アリスへ
突然こんな風に別れも言わずにいなくなってごめん。
俺はもっと強くなりたかったんだ。両親に話をして母さんと留学することに決めた。
あの日負けて、自分自身を知って、もっともっと強くなる為の場所を探したんだ。
アリスに何も言わずにいたのは、アリスが悲しむ姿を見たくなくていつものようにこのまま別れたかったんだ。
アリスのことは佐々木先輩にまかせたよ。
じゃあ、アリス元気で。あの日のアリスを忘れないよ。アリスと過ごした日々も。
涼より
最終話です。読んでくださった方ありがとうございました。
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