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終章 引きこもり少女と新任教師

金メッキのノブを回すと、一番に目に飛び込んでくる窓際の特等席。そこに彼女の姿はなかった。ダイニングテーブルのノートパソコンは閉じられ、そばに赤い花弁はなびらがいくらか転がっている。

薔薇?

僕は、葵くんから預かった紙袋を投げ出し、テーブルに駆け寄った。袋から本が音を立てて飛び上がり、次々と、床に広がっていく。


「有栖川!」


そのとき。


「人の部屋を散らかさないでもらえるかしら」


振り返ると、入り口にふて腐れた顔で有栖川シャロンが立っていた。水玉模様のワンピースを上品に着こなしている。


「脅かすなよ」


「誰が驚いてほしいと頼んだのかしら」


そう言って、シャロンは、長い髪をかき上げた。さらさらと効果音を出しそうな艶やかな髪だ。彼女は、落ちている本に一瞥をくれてから、“ああ、あの子と会っていたのね”と言って、テーブルに移動した。


「それで?私が薔薇の花にでもなったと思ったの?」


窓際の椅子に膝を抱え込み、慣れた手つきでパソコンを立ち上げる。


「庭の薔薇を送ったのよ。まだ掃除が済んでないのね」


彼女は、花弁を一片ひとひら取り上げると、ふうと息を吹きかけた。


どこへ送ったのかは、聞かなくても分かる。春樹さんだ。彼は、今、異国の地で静かな眠りについている。


「ところで玲聞、今度、豆大福を忘れたら、あなたのアパートに体育教師の霊を送り込むわよ」


「やめてくれ。毎晩、枕元でラジオ体操されちゃかなわん。……悪かった。お前、眠たいのを我慢して待ってたんだものな」


彼女は、欠伸をかみ殺そうと、モニター画面を睨んでいる。小鼻がひくひく動いた。


「俺は、もう帰るよ。今日は、ソファじゃなくてベッドで寝るんだぞ」


有栖川が全力で止めようとしていることが気配で分かった。もうすぐ、盆か。夏は彼女の鬼門だ。シャロンは、毎年、この時期になると、決まって調子を崩し出す。それを、春樹さんは付きって切りで介抱していたのだ。


「ああ。わか った。降参だ。安心して、眠ってこい。俺は、お前が起きてくるまで、床に転がってる本でも読んでるよ」


「ラジオ体操に誓ってもらうわ」


シャロンは、ぷいと回れ右して部屋を出た。耳を澄ませれば、上階の寝室へ向かうローファーの音が聞こえてくる。



『あの娘は、私なしに生きられるはずないのだから』



床に落ちた一片の花が、僕の脳裏にあの男の最期を甦らせた。



深窓の白薔薇は、決して自分を守るために棘をこしらえたわけじゃない。誰とも触れ合うことのできない、この棘のほんとうの痛みを僕は知っている。シャロンは、春樹さんの腕の中で赤い花になった。どれだけ痛かったろう。彼女は大切な人が傷つく姿を幼い目に焼き付けたのだ。




それでも僕は、考えずにいられない。


せめて、この子の背負った運命を、どうにか軽くすることはできないものか。


太陽光に目を細める彼女の未来を夢見ながら。

アクセスありがとうごさいますm(__)m

もし、全話通して読んでくださった方がいらっしゃいましたら、超高速で何度も床に顔を打ち付けたい想いです。スミマセン。スミマセン。スミマセン。


えー。当初、童話要素を盛り込んだ話にしたいと頭をコネクリました。

霊感青年。ひきこもり少女。幽霊ズ。

うわ。設定がまず違う。


焦りましたね。


焦って焦って、数ヵ月。


この短い話に、これだけのスパンをかけてしまうことになりました。


そして、なんとか、最後に二人の掛け合いが見られてよかったです。


山田とシャロンの出会いの話だと思っていたのに、山田くん、自分のことに精一杯で寡黙度MAXの幼女シャロンちゃんが目に入ってないのだもの。コラコラ



はあ。とまあ、色々、ありましたが、諦めずに、完結することができて何よりです。



お付きあい、ありがとうごさいました。

また、別の作品でお会いできれば素敵ですね\(^^)/でわ。

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