夢で、逢えたなら……
きっと春樹さんのような人が似合う場所だと思った。歩いても歩いても、立ちはだかる赤い薔薇の壁。行き止まりで、また足止めをくらう。ここに用はないと向き直ろうとして、その一輪の花が心に留まった。赤の薔薇園に咲く白い花。春樹さんのようだ。誘われるように、そっと花に手を伸ばすと、隠れていた棘が僕の指先を切り付けた。痛みを感じる間もなく小さな傷口から鮮血が溢れだし、僕の血が重なり合った白の花被を染めていく。次第に霧が下りて、今触れた花の色も視界から消えてしまった。
『助けてぇぇぇぇ――』
薔薇が渦巻く迷宮の果てで、天高く女の悲鳴が轟いた≪とどろいた≫。女性が草木を掻き分けて逃げ廻っている。
『誰かああああ――』
急に声が近くなった。周囲は、夜か昼かも思い出せないほどの濃霧だというのに。まさか、彼女は光の速度で僕との距離を縮めているというのか。音が四方に割れて、女性のいる方角がつかめない。いったい、女は、どうやって迷うことなく、こちらに走ってこられるのだ。
彼女の息遣いを一番近くに感じたときだった。一際大きな悲鳴が薔薇園を一瞬にして包み込む。
『ぎぃああああああ!!!!』
――逃げろ。
本能が訴えている。それなのに、僕は、いつ腰を抜かしても可笑しくないくらい、立っているのがやっとだった。
その時、ぱちりと枝を踏み込む音がして緊張がいっきに喉元まで押し寄せてきた。背中に何かいる。額にじわりと汗が滲んだ。シャツの裾を掴まれ、全身の毛が逆立つ。
「ここに居ちゃだめよ」
はっとした。腰のあたりに子供の旋毛≪つむじ≫がある 。
「シャロンちゃん?どうして!」
慌てて舌がもつれそうになった。なにげなく辺りに目を配る。僕の瞳に映ったのは、煙のように揺らめく黒い人影だった。
「早く目を覚ますのよ」




