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勇者? スマンが他を当たってくれ  作者: 遠坂遥
この世界のためにできること(Side - Real Braves)
39/40

別れの果てに

実質的な最終話です。

 『やめて! あたしはそこには戻りたくないの! コウダイのいない世界なんて、あたしにはなんの価値もない! だから、あたしのことは放っておいて!』


 アイカは子供のように駄々をこねる。


 「お前、それ、本気で言っているのか……? お前は、自分にとって価値のないものは、存在する意味がないとでも言うのか……?」


 そんなのとんでもない傲慢だ。本気でそれを言っているなら、見過ごせることじゃない……。


 『っ!? ……そ、そうよ! あたしにとって価値がない世界なんて、滅んでしまえばいいのよ! コウダイがいない世界なんて、存在する意味がないわ! だから、あたしは絶対に、』


 「黙れ……」


 励ましてやろうと思っていた。優しい言葉をかけて、あいつの凍りついた心を溶かしてやろうと思っていた。

 だが、もうそんなことはどうでもよくなった。


 彼女は、自分にとって価値のない世界など滅んでもいいと言った。

 それは、自分以外の人間などみんな死んでもいいと言ったのと同義だ。


 こんなの、駄々っ子で済まされる次元の話じゃない!

 許してはいけない!


 こいつの間違った考えを、絶対に許してはいけない!!



 俺は彼女の腕を握る力を思い切り強める。


 『痛いッ! やめて! そんなに強く握ったら……』


 「うるせえ! てめえの腕の痛みなんて知ったことか! お前、この一月でどれだけの人間が死んだのか知ってんのか!?」


 『そ、そんなの、あたしのせいじゃ……』


 「お前のせいに決まってんだろ! お前が世界を書き換えたりしなければ、あんなに沢山の人が死ぬことはなかった! 死んだ人は、どれだけ辛かったかわかるか!? こんな痛みじゃ済まされねえんだぞ!!」


 説教臭くたっていい。

 結果的にアイカの心を破壊するようなことになっても構わない。

 こいつの考えは間違っている!

 それをこいつに思い知らせるまで、俺はやめない!

 コウダイの想いを理解できないやつは、俺が絶対に許さない!


 『そんなの、そんなの、あたしのせいじゃない! そんなの、コウダイを殺した、この世界が悪いのよ!』


 「良い加減にしなさい!」


 怒鳴ったのは俺じゃない。


 「アスカ?」


 目を血走らせたアスカがこちらに走り寄り、俺と同じくアイカの腕を掴んだ!


 「私もね、前にあなたと同じように大切な人を失った……。苦しさから逃れるために、世界を拒絶することを選んだ……。自分は間違ってないって言い聞かせてきたわ……。でも、この世界に来て、私はそれが間違ってたって、ようやく分かったの。だから……」


 アスカは一度言葉を切り、大きく息を吸う。そして、


 「世界を拒絶して生きるなんて間違ってる! 同じ経験をした私なら分かるの! 今自分の殻に篭ってしまったら、あなたはいつか絶対後悔する! この、私みたいにね……」

 「アスカ……」


 アスカの横顔を見る。するとアスカは、ニッと俺に笑いかけた。



 『後悔なんて、わからないよ……。辛くて、毎日胸が張り裂けそうなの。それに、外に出ても、あたしには行く場所がない……。コウダイがいないなら、あたしに居場所なんてないの!』


 「居場所なんて、自分で作るものだと思いますよ……」


 気付くと、俺の隣にはミナトの姿が。

 初めて出会った時とは別人のような凛々しい表情で、同じくアイカの腕を掴んでいた。


 「自分で一歩を踏み出さない人間には、永遠に居場所なんて与えられない。でも、一歩を踏み出す意思さえあれば、世界はあなたを優しく迎えてくれる。勇者様がわたしにきっかけを与えてくださったように、あなたにも、必ずきっかけは訪れます。大切な場所は、必ず見つかるはずです!」


 「ね? お兄ちゃん?」と、ミナトは付け足し、俺に笑いかけた。



 『ホントに、そうかな……? あたしは、コウダイよりもあたしを理解してくれる人なんて、いるとは思えない……。やっぱり、彼を忘れて生きるなんて……』


 「ねえお姉ちゃん。コウダイさんは、お姉ちゃんがそうやって自分のことで悩んでるのを見て、なんて思うかな?」


 そして最後に、イズミが俺たちの手の上に、自身の掌を重ねる。


 「コウダイさん、今のお姉ちゃんを見たらきっと悲しむよ……。自分が支えてあげられないことを、きっと心の底から後悔してるよ……。私は思うの。生き残った人間は、亡くなった人に悔いを残させるような生き方は、しちゃいけないんじゃないかってね」


 『あたし、コウダイを悲しませちゃってるの……? あたしはこんなに彼を想っているのに、それじゃ駄目なの……?』


 「忘れないことは大切なことだよ。でも、コウダイさんがお姉ちゃんにとって足枷になっているのなら、コウダイさんはそんなの絶対望まない……。あの人は必ず、お姉ちゃんに前に進んで欲しいって、思ってるはずだよ!」


 俺はイズミの頭に手を置く。

 イズミにとって、アイカは本当の姉ではない。だが、彼女にとって確かに2人は大切な家族だった。

 同じ食卓を囲い、仲の良い2人を温かい目で見守った。そんな2人が、あんなにも悲しい別れを迎えてしまった。

 心が張り裂ける想いをしたのは、アイカだけじゃなかった。イズミだって、本当に辛かったんだ……。


 「お姉ちゃんが幸せでいることが、コウダイさんの、1番の望みだって、私は、そう思います……」


 『イズミ……』


 イズミだけでなく、ミナトも、アスカも、そして俺も心の底からそう思っている。

 あいつの想いを、どうか分かって欲しかった……。

 あいつは最後まで、彼女を案じていたのだから。


 「アイカ、お前は今のこの世界を、どう思う……? 真っ赤な空から、血のような雨が降り注ぎ、生命を奪って行く。なのに、誰もその変化に気付けない。そんな、破滅しか見えない絶望の世界……。お前は、こんな世界を望むのか? コウダイが必死で守ろうとした世界を、お前はこのまま破滅へと導くつもりなのか……?」


 『………………』


 アイカは答えない。いや、答えられない。自分がしてしまったことの罪の大きさ。そしてそれが、コウダイの想いを破壊することであったという事実、それをそんな簡単に受け入れられる訳がないのだから……。


 『……あたし、どうしたらいいの? こんなことをして、もう誰も、コウダイだって、許してくれるわけない……』


 緩まっていたはずの防御結界が一段と強まる。

 このままでは、アイカを出してやることができない……!


 何かを言わなければ! アイカの心を解放してやれるような言葉を伝えなければ! だが、俺の言葉では、またアイカを傷付けてしまうかもしれない……。


 だが、そんな時だった。


 「間違ってしまったのなら、正せばいい! 誰かの命を奪ってしまったのなら、その人の魂を背負って生きて!」


 「人は誰でも選択を誤る。でも、それでも人は生きなくてはならない! それこそが、思いを遂げられなかった人に報いる唯一の方法だから……」


 「あんなに辛い目に遭ったんだから、間違うのは当たり前だよぉ……! お姉ちゃんだけが悪いんじゃない! お姉ちゃんを遺して死んじゃったコウダイさんだって悪いんだよぉ! ……だからこんなのおあいこだよ! コウダイさんが許さないなんて言ったら、今度はわたしがコウダイさんを許さない! だから、お姉ちゃんは、そこから出てきて! わたしたちと一緒に、もう一度頑張ってぇ!!」


 「みんな……」


 何も飾らない、心からの3人の想い。

 もう俺の言葉はいらない。

 こんな言葉を前にして、俺がこれ以上説教するのは、野暮ってもんだからな……。


 『みんな……ありがとう。あたしなんかのために……』


 防御結界が緩む。


 『こんなにも励ましてくれて、温かい言葉をかけてくて、本当に、ありがとう……』


 結界がひび割れを起こす。


 『そして…………コウダイの想いを、気付かせてくれて、本当に、ありがとう』


 ひびが結界全体に達し、そしてついに、アイカの手が視認できるようになった!


 『まだ不安で一杯だけど、あたし、頑張るから……。立ち直ってみせるから……。コウダイの遂げたかった想いを、あたしが必ず実現させてみせるから!』


 その言葉を、1番待っていたのは、他でもない、あいつだったはずだ。


 聞いてるかコウダイ?

 お前のフィアンセはきっとやってくれるはずだ。

 だから見ていろよ。お前ができなかった分、俺たちが必ずやり遂げてやるから。


 俺は3人を見渡す。みんな、笑っている。希望に満ちた笑みを俺に向けてくれている。

 大丈夫だ。俺たちなら、必ずやり直せる。

 俺はそう、確信した。


 そして、俺たちは、


 「「「「せーの!!」」」」


 同時にその手を、引いたのだった!


エピローグに続きます。

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