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勇者? スマンが他を当たってくれ  作者: 遠坂遥
2人の勇者 - The Girls on the Rewrited World - (Side - Setsuna)
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私の嘘と本当

この世界の真実。

そして、アスカの嘘。

 この世界は、5年前のある日、「フジノ」という人間によってその存在が明らかとなった。そしてその後、多くの人間が現世を捨て、パソコンの中にあるというその世界を目指した。

 だからこそ、人々は、「アルカディア」とはパソコン内にある、いわゆる電脳世界であると考えた。それは決して実在はしない、紛い物の世界。そこにあるのは、偽りの命。決してあるはずのない幸福。アルカディアを信奉しない人間はこぞってそう考えた。


 でも、それは誤りだった。アルカディアはあの日、「フジノ」によって創り出された訳ではなかったのだ。「フジノ」はあくまで、あの世界を「発見した」だけだ。発見した世界を、なんらかの手法でインターネットに接続したんだ。それはつまり、彼女は創造者ではなく、開拓者であったということだ。元々どこか別の次元にあった世界の門戸を開き、現世とのコミュニケーションを可能とした。それが彼女の功績だ。


 言うなれば、アルカディアとは、私たちの地球の裏側にある、もう一つの地球。異世界と呼べる存在。生きとし生ける者は、私たちと何ら変わらない。

 世界は実在し、命は紛れもない本物。そして幸福は、確かに形として存在する。

 アルカディアは真実だ。真実の幸福を私たちに示したんだ。現世で生きる事と、アルカディアで暮らすことに差異などない。どちらで生きるかは、その人が選択することだ。だから私はこちらを選んだ。ここにこそ、真実の幸福があると信じたからこそ、私はアルカディアを選んだ。そしてそれは、本当に正しい選択だった。


 でも、その幸福は長くは続かなかった。

 フジノが創り出した世界を繋ぐ橋には、1つだけ、しかし致命的な欠陥があったのだ。


 インターネットの接続により行き来が自由になったということは、どんな悪意を持った人間でもアルカディアに干渉できるということだ。


 悪意を持つ人間はどこにでもいる。コンピュータウイルスを作る人間など、悪意に満ち溢れた様な者ばかりだ。その中にアルカディアを憎む者がいたとしても、なんらおかしいことではない。門戸が解放された今、アルカディアは裸同然だ。通常パソコンを守ってくれるセキュリティソフトなど存在しない。フジノのプログラマーとしての技量は定かではないが、彼女は少なくとも、開拓者としての責任を果たすべきだった。


 やつらがやったこと、それは、コンピュータウイルスを、インターネットという回線を使い守りが脆弱なアルカディアに送り込むことだったのだ。


 5年前、アルカディアが賑わいを見せ始めた時、最初の一体が確認された。アルカディアにも、魔物と呼ばれる人間に危害を加える生物はそれ以前にも存在していた。だが、それは明らかに単純な魔物とは一線を画していた。


 普通の魔物とほとんど変わらない様な姿形をしているのに、突如としてその形態を変容させたのだ。

 最初の一体は、大型の猫の様な姿をしていたが、次の瞬間には獰猛なサーベルタイガーに変化していた。たかだか猫一匹と甘く見ていた騎士団員が、17名死傷するという大惨事となった。


 それから、時間が経つに連れ、ウイルスと思われる魔物の出現頻度は高まっていった。

 だけど、アルカディアの人々はインターネットに関する知識などなかった。異世界からやってくる人間がどこをどう通って来るのかも分かっていなかった。

 ただ、凶悪な魔物と戦う術を身に付けるため、騎士団の役割が急速に大きくなっていったのは間違いない。彼らはこぞってウイルスである魔物を研究し、対抗策を編み出していった。そして、やつらと戦える精鋭部隊を作りだした。


 そのお陰で、近年まではギリギリながらもうまくいっていた。その均衡が崩れたのが、地球との接続から5年目を迎えた頃のことだった……。



 「アスカ! 何やってるの!? 敵が来てるよ!!」


 彼の言葉で我に帰る。火の海に、死体の山。そして、変化したコンピュータウイルスども。やつらは各々が戦士の様に装備をし、私たちを切り殺そうとしている。

 見た目は完全に白骨化した人間の死体。だが、それでもやつらは地面に立ち、あまつさえ走ることができる。常識も、論理もやつらには通用しない。やつらは理由もなく現れ、存在し、殺す。それだけだ。


 ――ガキッ!


 やつの剣と、私の剣・フェロニカの間で火花が巻き起こる。あんなに細い腕のどこにこれだけの腕力があるのかと思えるほど押される。単純に打ち合うだけでは私の体力がもたない。ここは、他の部分で差を見せつける必要がある。


 私はスピードを上げる。やつらの間をスルスルと抜ける。やつらは反応するも、すぐに対応することはできない。私のスピードには追い付けていない。

 一匹の背後にわざと立つ。やつが遅れて反応を見せる。周りには数体の魔物。その全てが同時に剣を振り下ろす。


 「遅い!」


 私は素早く跳躍する。大振りし過ぎて一体がよろけ、私はその頭を踏み台にさらなる跳躍を見せる。私に足蹴にされた一体は転倒し、振り下ろされたそれぞれの剣が、その転倒した骸骨に炸裂した。

 カチャカチャと、得体の知れない音を発しながら、一体が死滅する。剣と盾を持っていようとも、やつらに大した知恵はない。これなら、戦うことは、決して不可能では……



 「……が、がはっ……!」



 何が起こったのか分からなかった。突然、背中に衝撃が走ったと同時に、今まで感じたこともないような痛みが私を襲っていた。


 手を出すこともできず、私は無様に転倒する。私は、動かない身体に鞭打ち、必死に後方を確認する。


 「う、ウソ……」


 ニヤリと、笑った様な気がした。感情も、それどころか知性もないはずの骸骨が、私に対し、勝利を確信した笑みを浮かべていたような気がした。

 やつの手には、盾しかない。あったはずの剣は、


 「アスカあああああ! この野郎おおおおお!」


 私の背中に突き刺さっていた。


 「剣を、投げ、たの……」


 油断した。やつらに何かが出来る訳がない。そう思っていた。数が多いから、最悪撤退することになるかもしれない。だけど絶対に逃げられる。そう過信していた。やつらに知性がないと、勝手に思い込んでいた。

 なんてことだ。私が彼にどうこう言える様な立場ではなかった。まさか、こんなところで、終わってしまうの……?


 「嫌だ、こんなところで、終わる、なんて……」


 セツナが必死に私を目指そうとしている。彼を悲しませたくなんてないのに、彼を助けなければならないのに、身体が動かない。剣を握れない。声すらも掛けられない。

 眼前にはおびただしいほどの骸骨。もう終わりなの? 私は、この世界のために何も出来ずに死ぬの? 勇者としての責任を一つも果たせぬまま、永遠の闇に堕ちるの?


 「嫌、だ、まだ、戦う……。私は、この世界を助けなきゃ、いけない、のに……!」


 やつらが私を殺しにやって来る。見えているのに、何もできない。


 「アスカああああああああああああああ!!」


 ごめんセツナ。どうやら君を、また一人にしてしまうことになりそうです。こんな終わり迎えたくなかった。

 また君に、抱きしめてもらいたかった。


 頬を涙が伝う。

 私は嘘付きだけど、君への想いだけは本物だから。でも、やっぱり最後に、本当のことを伝えてあげるべきだったとも思う。でも、もう遅い。ごめんね、セツナ。


 やつが剣を振りかぶり、


 そして、


 「ありがとう。私のこと、愛してくれて……」


 そう、今生の別れを告げた。




 「なに勝手に終わらせようとしているんですか?」


 聞き覚えのある声。でも、それはあまり聞きたくなかった声。


 「あなた、このまま自分の嘘を胸に秘めたまま死ぬ気ですか? そんなこと、わたしは許しません。あなたは、わたしを騙した。その理由を聞くまで、わたしはあなたを死なせはしない!」


 ああ、彼女はとても怒っている。それも当然か。だって、私は知っていたんだから。彼女が誰を探していたのか。知っていながら、白を切り続けていたのだから。


 「ゆ……いや、そこのあなた! 早くこちらに来なさい! ここから逃げて、この人の治療を行います! 早くこの魔法陣まで来てください!」


 「き、君は、一体……?」


 「詮索は後です! この人が死んでしまってもいいのですか!?」


 「い、嫌だ! わ、悪かった。よろしく頼む!」


 「言われるまでもなく!」


 白いローブをたなびかせ、彼女は彼の手を取る。そして私の身体にも手を触れた。


 「しっかりつかまっていて下さい! ローゼンロート!」


 彼女が叫び、私たちの身体が光に包まれる。朦朧とした意識の中でも、彼女が何をしているのか分かる。そして、ついに、


 私たちの意識は次元の壁を越えた。


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