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勇者? スマンが他を当たってくれ  作者: 遠坂遥
2人の勇者 - The Girls on the Rewrited World - (Side - Setsuna)
25/40

進化する恐怖

2人の勇者の戦い

 目を覆いたくなるような光景が眼前に広がる。息をしているものは誰もいない。あるのは、ただただおぞましい死霊の気配のみ。

 

 恐らく、中年の男性と思われる人間だったものにむしゃぶりつく、崩れかけた人型の化け物。口の周りを真っ赤に汚し、グチャグチャと不快な音を立て続けている。


 横のアスカを見る。彼女は、怒りに打ち震えている。奥歯をギリッと噛みしめ、凄惨な光景を見つめている。気持ちは僕も同じだった。こんな光景、まともな心境で見ていられるはずがない。


 僕たちは、この世界を救うことができるたった2人の勇者だ。そんな僕らの前で繰り広げられる殺戮の風景。ただ赴くままに人を殺し、食としている。小さいながらもそこには村があった。それがほんの一瞬、つい数分前まで息をしていたものが、今はもう人の形をしていない。


 建物には火の手が上がっている。数時間もすれば、ここに村があったことすら誰も感知できなくなる。人間の営みも、思い出すらも無に帰する。


 そんなこと、絶対にあってはならない……。


 「……セツナ、準備は、できている……?」


 必死に感情を抑え込んで、アスカは僕に問いかける。今すぐにでも駆けだしたい気持ちを堪えて、冷静さを失わないようにしている。


 「僕は大丈夫。でもアスカ、無理だけはしないでね……」

 「分かっているわ……。私たちは、勇者としての使命を果たすのみよ……」


 2人同時に腰の剣に手を掛ける。そして、


 「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 目の前の敵を射殺さんばかりに、猛烈な咆哮を上げた。


 アスカが獲物を狙う猛禽類の様に敵に接近し、剣を振り抜く。決して大振りではなく、確実に敵の急所を狙うシャープな剣撃。ドロドロに溶けた土人形の様な敵、ワールシュタット。アスカはやつらの首を鋭利な殺意で跳ね飛ばしていく。


 敵の数はおよそ千。だがアスカはその内の50を一瞬にして葬り去っていく。僕も負けてはいられない。テオドゥルフを手に入れてからというもの、既に戦いは20を超えた。敵数が多かろうが、自分を軽々凌駕する大きさであろうと関係ない。


 勇者に敗北は許されない。僕らが死ねば、世界が終わる。そんな状況で、僕らは死ねない。


 戦場を駆ける。振るう。敵の上半身と下半身が真っ二つになる。切れ目から、おぞましい液体が溢れ出る。

 目の前には5体の敵。僕はそれらを一振りで沈めていく。剣を振るった後には、首のない5つの死体。

 弱い。無防備な人間を殺すことはできても、剣を持つ僕たちを殺すことなど不可能だ。

 だがそれも、やつらがこのままであることが大前提なのだが。


 「セツナ後ろ!」


 アスカの言葉を受け、一瞬の内に振り返る。距離は2メートル。

 僕は素早く魔力を込め、


 「シュタルク・ヴォルフ!」


 黒く輝く刀身を全力でやつにブチ込み、後方のワールシュタットの大群目がけて蹴り飛ばした。よろけながらやつは大群の真ん中に突っ込んでいく。自我も仲間意識もないやつらは、飛ばされてきた一匹を邪魔物のように扱い、八つ裂きにしようとする。

 だが、それこそが僕の狙いだ。やつの体細胞は既に、あらゆるものを破壊する爆弾と化している。僕がやつらに手を下すまでもない。一体を引き裂いた時、それは、


 やつらが死滅する時なのだから。


 耳をつんざくような爆発音。今ので100体は消し飛んだはずだ。やつらが変化する前に勝負をつけなくては。


 「油断しないで! 今のは少し危なかった!」


 アスカの叱咤。


 「ご、ごめん……」


 確かに、声をかけてもらえなかったら一撃を食らっていたかもしれない。僕は素直に反省する。

 敵の数は既に半減している。それでも尚、恐怖という感情のないやつらは僕らを捕食しようと襲いかかって来る。

 だが、その時だった。


 「また、だ……」


 ワールシュタットの身体が、突如としてぼやけていく。まるでシルエットのように、やつらの細部を視認できなくなる。


 アスカが僕の身体に近づき、耳打ちする。


 「手に負えないようなら退いて。この数では圧倒的に不利よ。今は、生き抜くことを最優先にして」

 「分かった……」


 長い黒髪を風になびかせ、アスカは僕から離れていく。彼女からは苦悶の表情が見て取れた。彼女も不本意なんだ。その命に代えてでも殺戮の根源を取り除きたいのに、それが出来ないことがもどかしい。しかし、これはゲームじゃない。コンテニューができないのならば、逃げることも恥ではないと思わなければならない。仇を討てなくても、世界を救うきっかけを作れなくても、今は死んではいけない。世界を書き換えた根源を見つけるまで僕らは走り続けなくてはならないのだ。


 およそ500の敵の姿が変わっていく。朽ち果てた様にボロボロだった皮膚はなくなり、灰色の骨格が露わになる。しかしその体躯はワールシュタットの2倍近くになり、僕らを悠々見下ろせる大きさになっている。そして更に厄介なのは、その骨の手には、禍々しい剣が握られているということだ。しかも左手には丸い盾の様なものまでついているのだ。


 「剣士気取りね……」


 向こうでアスカが毒づく。魔物が剣と盾を持つなど僕には覚えがない。それほどまで、やつらは進化しているということなのか?


 変化が完全に終わり、やつらの真っ黒な目が僕らの姿を捕える。いや、果たしてそのくぼみだけで目玉もないような目で僕らが見えているのか疑問ではあるけど、少なくともやつらは確実に僕らの存在を認知していることは間違いないようだった。


 全ての敵が一斉に剣を構える。そして、僕ら目がけて突撃をかけたのだった。


進化する悪魔!

2人は勝つことができるのだろうか……?

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