衝撃の真実……?
「王狼斬撃ぃ!」
黒い刃が乱れ飛び、イズミを捕らえる触手を狙い撃つ。
だが、
「かわされた!?」
触手の一本一本が俺の攻撃を見切り、斬撃が全く通らない!
その間にも、更なる触手がイズミへと絡みつき、溶解液で彼女のローブを溶かしていく。
「い、いやぁぁぁ!」
「い、イズミ!」
どうして服を溶かす必要があるのかとか、どうしてピンポイントにローブだけ溶けるのかとか、とにかくツッコミ所が多過ぎるが、今はそんなことを考えている場合じゃない!
俺の攻撃が届かない内に、イズミのローブはすっかり溶け切り、もう完全に下着姿になってしまっていた。
今や、彼女のイメージと違わない、可愛らしいピンク色の布だけが彼女の肌を覆っていた。
「酷い……こんな、こんなの、酷いです……」
さすがのイズミも恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にさせ、両目から涙を溢れさせていた。
「てめぇ……」
その涙が俺に火をつけた。
こんな気色の悪いやつにこれ以上イズミを蹂躙されるのは我慢ならなかった。
これ以上あの子の尊厳を穢されてなるものか!
俺は、キッとやつを睨みつけ、
「良い加減にしろ! この発情触手が!」
そう、らしくもなく怒鳴りつけていた。
俺は剣と自身の脚に闇魔術を込めた。
力が漲るのが分かる。今の俺に、できないことはない!
俺は魔物とは別の木を蹴り、イズミがいる高さまで飛び上がった。
「ユーリさまぁ!」
イズミが必死に固定されている手を伸ばそうとする。
「イズミ!」
俺は数多の触手を弾き落とし、イズミの身体を抱きしめ、そして、
「朽ち果てやがれ! この変態野郎!」
大木を、テオドゥルフで切り裂いた。
苔に覆われた木の上半分が両断され、やつはドス黒いクレバスの様な穴から奇声を漏らしながら地面に落下する。
落下した魔物は地面に激突し、粉々になり、もう動くことはなかった。
俺はイズミを抱えたまま、無事地面に着地した。
「イズミ! 大丈夫か!?」
息も絶え絶えになってしまっているイズミに俺は必死に呼びかける。
イズミは弱々しい焦点の定まらない瞳を俺に向けた。しかし彼女はまだ状況が分からないのか、恐怖で身体を震わせるばかりだった。
ふと、俺の目にピンク色で、花柄が刺繍された下着が映った。必死だったから忘れていたが、手の中の彼女はあられもない姿をしていたのだった。俺は思わず彼女から目をそらした。
「ゆーり、様……?」
ようやくイズミは落ち着いたのか、抱きかかえている俺の名前を呼んだ。
「しっかりしろイズミ。もう大丈夫だからな」
俺は頬を熱くし、ソッポを向いたまま、なんとか彼女にそう言った。
すると、
「……! ユーリ様!」
「うわ!?」
イズミが俺に抱きついてきたのだ。
小さな胸の膨らみが俺の胸に押し付けられる。
下着以外何も纏っていない彼女から、大きくはないが、確かに、はっきりと女性の感触を俺は感じたのだった。
「い、イズミ?」
「怖かった、怖かったよぉ……」
イズミはいつもの様に強がったりせず、本当に子供の様に俺の胸にしがみつき、泣きじゃくった。
だが、すぐに我に帰ったように言った。
「……す、すみません! わたしとしたことが、つい、取り乱してしまって……」
「こ、こういう時は、別にいいだろ……。だが、スマンがちょっと離れていてくれるか? 俺はまだミナトを助けないといけないからな」
俺は立ち上がると、赤茶色のコートを脱ぎ、イズミに羽織らせた。
「すぐ戻るから、少し待ってろ」
「はい。ユーリ様、頑張って……」
イズミは心配そうに俺を見つめていた。俺の頬は余計に熱くなった気がしたが、気にせずその場から駆け出した。
「ミナト!」
俺は触手に捕まり、身動きが取れないでいる少女に向かって叫ぶ。
「……ゆう、しゃ、さま……」
ミナトはきつく縛られているせいで意識が朦朧としている様だった。
頬や腕からは出血もしている。
俺はすぐさま腰から鞘を引き抜くと、テオドゥルフと連結させる。
「目覚めろ! アルフレート!」
掛け声と共に、俺の剣が弓へとその姿を変える。
俺は魔力で結わえた矢を構え、触手に狙いを定めた。
触手は俺の殺気に気付き、俺を攻撃しようと試みる。
「切り裂け狼! リグルティー・ヴォルフ!」
そこに、俺は渾身の一撃を放った!
矢は触手目掛けて飛んでいく。
ミナトを捉えていない触手が矢をはたき落としにくる。しかし、そうはさせない!
「つあッッ!」
俺が力を込めると、矢の軌道が変わった! 矢は蔦をかわし、ミナトへと一直線に向かう。
矢が自在に動くと分かった触手は、今度は徒党を組み、自身を守るために陣形を形作ろうとする。
だが、そんな脆弱な守りなど、俺のアルフレートの前では無意味だ。
「はああああッッ!!」
矢が闇の輝きを纏い、そのスピードをさらに加速させる。
暴れ回る触手共を振り切り、その矢は、
--グオオオオオッ!
ミナトを縛る触手を次々に破壊する!叫びを上げる魔物。そしてついに、俺の狼は最後の一本を引き裂くことに成功した!
目や口から無様に泡のようなものを吐き出し、魔物の大木は急激に腐り落ちていく。
それにより、ミナトを縛るものは完全になくなったのだった。
触手の束縛から解かれたミナトの身体が落下する。
俺は素早く落下点へと移動し、彼女の身体をキャッチした。
「あ、眼鏡が……」
どうやら眼鏡だけは助けられなかったようだ……。だがこの際そんなことは気にしていられない。今は彼女を助けられただけよしとしよう。
俺は地面からレンズの割れた眼鏡を拾い上げ、ポケットにしまった。
「ミナト、大丈夫か?」
「勇者、様……?」
俺が尋ねると、僅かに朦朧としてはいるが、比較的しっかりとミナトは答えた。
「良かった。怪我は少し酷いが、命に別条はなさそうだな」
「ユーリ様!」
すると、向こうの方からイズミの声が聞こえてきた。恐らく、俺が心配で見にきたのだろう。まだ万全じゃないくせに無理しやがる。
「…………」
一方、ミナトは俺の問いかけに何も答えないでいた。
「どうした? もしかして、かなり痛むのか?」
俺がそう尋ねた、その瞬間だった。
ミナトが、ガッチリ俺の身体を固定したのは。
「み、ミナト!?」
「ミナトさん!?」
「……」
俺とイズミの驚愕の声が辺りに満ちる。
「お、おい、これは、どういうことだ……?」
「……」
それでも、ミナトは答えない。
「あの……」
「……」
「聞いてます……? ミナトさぁーん……?」
「離したくない……」
「はひ?」
思わず妙な声を上げてしまう俺。
「あなたを、離したくない……」
「ど、どうして……?」
「あなたが、わたしには必要だから、離したくない」
「な……!? 俺が必要、だって……? 一体、どうして?」
ミナトは頬を赤らめ、なにやらモジモジしたあと、
「…………あなたのことを、愛して、いるから……」
と、ハッキリそう言った。
「なるほど、俺を愛しているねぇ………………」
間。それは世界が止まったかのような、永遠ともつかない間。
タタタタと小さな歩幅で駆け寄って来る足音。そして、
「「えええええ!?」」
俺と走り寄ってきたイズミが、同時に絶叫をあげたのだった。